学位論文要旨



No 123783
著者(漢字) 端本,昌夫
著者(英字)
著者(カナ) ハシモト,マサオ
標題(和) 成人生体肝移植におけるMRSAの保菌と感染症
標題(洋)
報告番号 123783
報告番号 甲23783
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3122号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 黒川,峰夫
 東京大学 准教授 武内,巧
 東京大学 准教授 石川,晃
 東京大学 講師 北山,丈二
 東京大学 講師 別宮,好文
内容要旨 要旨を表示する

要旨

はじめに: 脳死移植後にはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus, MRSA)感染症がしばしば問題になることが知られている。一方で、生体肝移植後のMRSAの保菌と感染症はまだ検討されていない。今回、成人生体肝移植後のMRSAに関してよくわかっていない以下の3つの問題を検討した: 1) 成人生体肝移植後のMRSA感染症の発生率とその危険因子; 2) 成人生体肝移植後のMRSA保菌の発生率とその危険因子; 3)術前MRSA非保菌者における成人生体肝移植後のMRSA感染症の発生率とその危険因子。

対象と方法: 東京大学人工臓器移植外科で施行した成人生体肝移植症例に関する3つの後ろ向き研究;1)成人成体肝移植後のMRSA感染症、2)成人成体肝移植後のMRSA保菌、3)移植前MRSA非保菌者における成人生体肝移植後のMRSA感染症、を行った。それぞれの研究で、移植後のMRSA感染症の発生率とその危険因子、移植後のMRSA保菌の発生率とその危険因子、移植前MRSA非保菌者における移植後MRSA感染症の発生率とその危険因子、を検討した。移植前の入院から移植後3か月までの細菌学的検査と診療記録に基づいて、成人生体肝移植後のMRSA感染症と保菌の発生率、臨床的な意義、危険因子を分析した。入院中は定期的(入院後から移植後1か月まで週2回、移植後1か月以後は週1回)に監視培養(鼻腔、咽頭、喀痰、尿、便、胆汁、創部浸出液、腹腔内からの排液)を細菌学的検査に提出した。感染症が疑われる場合は血管内カテーテル、血液も細菌学的検査に提出した。入院中に黄色ブドウ球菌が検出された場合は、どの部位、どの時期に検出された場合でも黄色ブドウ球菌の保菌と定義した。院内感染を米国疾病対策センターの基準により定義し、その感染の原因がMRSAによると判断された場合をMRSA感染症と定義した。

結果: 成人生体肝移植後のMRSA感染症; 成人生体肝移植において移植後のMRSA感染症は242例中25例(10%)の患者に発生し、発生時期は中間値で移植後23日目であった。移植前のMRSA保菌、移植前の抗菌剤の使用、長い手術時間(16時間以上)、移植後の透析および血漿交換が、その独立した危険因子であった。成人成体肝移植後の保菌; 移植後の新規MRSA保菌は158例のうち35例(22%)の患者に認められ、MRSA保菌の獲得時期は中間値で移植後18日目であった。高齢(60歳以上)、移植前・後の透析および血漿交換がその独立した危険因子であった。移植前MRSA非保菌者における成人成体肝移植後のMRSA感染症; 移植後のMRSA感染症は219例のうち18例(8%)の患者に発生し、発生時期は中間値で移植後26日目であった。移植後の新規MRSA保菌と長い手術時間(16時間以上)がその独立した危険因子であった。

結論: 成人生体肝移植後のMRSA感染症と保菌は脳死肝移植における場合と同等に高率に発生する。監視培養は移植前から移植後にわたり定期的に続けるべきであり、それによりMRSAの保菌や感染症の高危険群を把握できるとともに感染症を発症した場合も迅速に適切な抗菌剤を投与できる。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は成人生体肝移植において重要な細菌感染症の原因と考えられるMRSAについて、まだよくわかっていない3つの問題:1) 成人生体肝移植後のMRSA感染症の発生率とその危険因子; 2) 成人生体肝移植後のMRSA保菌の発生率とその危険因子; 3)術前MRSA非保菌者における成人生体肝移植後のMRSA感染症の発生率とその危険因子、を後ろ向きに検討したものであり、下記の結果を得ている。

1. 成人生体肝移植後のMRSA感染症

成人生体肝移植において移植後のMRSA感染症は242例中25例(10%)の患者に発生し、発生時期は中間値で移植後23日目であった。移植前のMRSA保菌、移植前の抗菌剤の使用、長い手術時間(16時間以上)、移植後の透析および血漿交換が、その独立した危険因子であった。

2. 成人成体肝移植後の保菌

移植後の新規MRSA保菌は158例のうち35例(22%)の患者に認められ、MRSA保菌の獲得時期は中間値で移植後18日目であった。高齢(60歳以上)、移植前・後の透析および血漿交換がその独立した危険因子であった。

3. 移植前MRSA非保菌者における成人成体肝移植後のMRSA感染症

移植後のMRSA感染症は219例のうち18例(8%)の患者に発生し、発生時期は中間値で移植後26日目であった。移植後の新規MRSA保菌と長い手術時間(16時間以上)がその独立した危険因子であった。

以上、本論文は成人生体肝移植におけるMRSAの保菌と感染症の発生率、危険因子を明らかにした。本研究は、これまで明らかでなかった成人生体肝移植におけるMRSAの保菌と感染症の高危険群を把握に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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