学位論文要旨



No 123793
著者(漢字) 中出,麻紀子
著者(英字)
著者(カナ) ナカデ,マキコ
標題(和) 生活習慣改善プログラム期間中およびその後における食品摂取パターンの変化と体重変化との関連
標題(洋)
報告番号 123793
報告番号 甲23793
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(保健学)
学位記番号 博医第3132号
研究科 医学系研究科
専攻 健康科学・看護学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 数間,恵子
 東京大学 教授 小林,廉毅
 東京大学 准教授 梅崎,昌裕
 東京大学 講師 春名,めぐみ
 東京大学 講師 塚本,和久
内容要旨 要旨を表示する

I. 背景ならびに目的

肥満者の世界的な増加は公衆衛生上重要な健康問題の1つである。食事の改善は肥満者の減量に不可欠であるためこれまで食品群や栄養素等の摂取変化と減量との関連が検討されてきたが、従来の単独の食品群および栄養素の摂取変化による減量効果の評価では、評価対象以外の摂取食品群、栄養素の変化が減量に影響を与える可能性がある。そこで近年、複数の摂取食品群の組み合わせを1つの単位(食品摂取パターン)とし、食品摂取パターンの変化と減量との関連が検討されるようになってきた。しかし未だ研究数は少なく、加えて海外と食習慣の異なる日本において行われた研究はない。本研究では、生活習慣改善プログラムの参加者において減量に有効な食品摂取パターンの変化を明らかにすることを目的とした。

II. 方法

対象者は山形県で行われた12週間の生活習慣改善プログラム参加者506名(男性125名、女性382名)とした。参加者の食事、体重、運動習慣、喫煙習慣はプログラム参加前、終了時とプログラム終了から9ヶ月後(追跡時)に調査した。

解析方法としては、まず食物摂取頻度調査票を用いて調査したプログラム参加前の摂取食品群を19食品群に分類した。ここで、各食品群の摂取量はエネルギー摂取量による影響を除くため1000kcalあたりの重量に換算し、さらに食品群によっては1回当たりの標準的な摂取量が大きく異なるため、摂取量のZ-scoreを計算した。次に、摂取している人が半数以下であった2つの食品群を除く各17食品群の摂取量のZ-scoreを用いてクラスター分析を行った結果、最終的に2つの食品摂取パターンを選択した。

終了時および追跡時では、プログラム参加前の2つの食品摂取パターン(クラスター重心)と各対象者の食品群摂取量のZ-scoreとのユークリッド距離を計算し、それぞれの重心からの距離が短い方の食品摂取パターンに対象者を分類した。

その後、プログラム参加前と終了時、および終了時と追跡時の2期間において、パターンを維持した群(2群)ともう一方のパターンへ変化した群(2群)の4群に分類した。プログラム参加前と終了時および終了時と追跡時における4群の体重変化量の比較には、年齢、性別、プログラム参加前の値(終了時と追跡時における分析の場合は終了時の値)、エネルギー摂取変化量を調整した共分散分析を行った。

III. 結果

対象者の平均年齢は59.9±6.9歳であった。対象者全員におけるプログラム参加前の体重の平均値はプログラム終了時に有意に減少し、追跡時にもさらに減少していた。

プログラム参加前における食品群摂取量のZ-scoreを用いたクラスター分析の結果、主に大豆類、緑黄色野菜、淡色野菜・きのこ、いも類、砂糖・甘味料類、海草類、魚介類の摂取量が多く、菓子類、肉類、乳類、酒類の摂取量が少ない「植物性食品・魚介類型」パターンと、それとは逆の特徴をもつ「菓子・肉・乳・酒類型」パターンが得られた。女性では「植物性食品・魚介類型」に属する対象者は「菓子・肉・乳・酒類型」に属する対象者と比較してプログラム参加前の平均BMIが小さい傾向がみられた。また、「植物性食品・魚介類型」の人では、「菓子・肉・乳・酒類型」の人と比較してエネルギー摂取量、脂質摂取量、脂質エネルギー比が有意に少なく、たんぱく質エネルギー比、食物繊維摂取量、1000kcal当たりの食物繊維摂取量が有意に多かった。男性では、女性と同様「植物性食品・魚介類型」に属する対象者のプログラム参加前の平均BMIが「菓子・肉・乳・酒類型」に属する対象者と比較して小さい傾向がみられた。栄養素等摂取量も女性と同様の傾向が認められたが、食品摂取パターン間で有意差がみられたのは食物繊維摂取量(g)と食物繊維摂取量(g/1000kcal)のみであった。男女ともに2つの食品摂取パターン間での運動習慣者、喫煙習慣者の割合に有意差は見られなかった。

プログラム参加前と終了時における対象者の食品摂取パターンの変化に関して、「菓子・肉・乳・酒類型」から「植物性食品・魚介類型」へパターンが変化した「植物性食品・魚介類型への変化群」、「植物性食品・魚介類型」から「菓子・肉・乳・酒類型」へパターンが変化した「菓子・肉・乳・酒類型への変化群」、各食品摂取パターンを維持した「植物性食品・魚介類型維持群」と「菓子・肉・乳・酒類型維持群」の4群に分類し体重変化量を比較したところ、「植物性食品・魚介類型への変化群」における体重減少量が、年齢、性別、プログラム参加前の値、エネルギー摂取変化量で調整後でも他の3群と比較して有意に大きかった(プログラム参加前と終了時における体重変化量:「植物性食品・魚介類型への変化群」-1.9kg、「植物性食品・魚介類型維持群」-0.9kg、「菓子・肉・乳・酒類型への変化群」-0.5kg、「菓子・肉・乳・酒類型維持群」-0.9kg)。

また、終了時と追跡時における食品摂取パターンの変化によって4群に分類し体重変化量を比較したところ、「植物性食品・魚介類型への変化群」での体重減少量が年齢、性別、プログラム終了時の値、エネルギー摂取変化量で調整後に他の3群と比較して有意に大きかった(「植物性食品・魚介類型への変化群」-1.1kg、「植物性食品・魚介類型維持群」-0.1kg、「菓子・肉・乳・酒類型への変化群」0.0kg、「菓子・肉・乳・酒類型維持群」-0.4kg)。

IV. 考察

生活習慣改善プログラム参加者におけるプログラム参加前の食品摂取状況より、「植物性食品・魚介類型」と「菓子・肉・乳・酒類型」の2つの食品摂取パターンが得られ、プログラム参加前と終了時および終了時と追跡時のどちらの期間においても「植物性食品・魚介類型への変化群」では体重減少量が最も多かった。さらに、この群における体重減少量は、エネルギー摂取変化量で調整後にも他の3群と比較して有意に大きく、食品摂取パターンの変化は減量に影響を与える要因であることが示唆された。

プログラム参加前と終了時における食品摂取パターン変化の4群のうち、「植物性食品・魚介類型への変化群」では、大豆類、緑黄色野菜、淡色野菜・きのこの摂取量が増加し、菓子類の摂取量が減少した。したがって食品摂取パターンの変化によってパターンの特徴となる主な食品群の摂取量が変化後のパターンに近づいた。また、このような食品群摂取量の変化により、「植物性食品・魚介類型への変化群」ではエネルギー摂取量、脂質摂取量、脂質エネルギー比が減少し、たんぱく質エネルギー比、食物繊維摂取量、1000kcal当たりの食物繊維摂取量が増加していた。これらの栄養素等摂取量の変化が減量に有効であることは先行研究において報告されており、「植物性食品・魚介類型への変化群」では、栄養素等の摂取も減量に有効な方向へ変化したことで大きな体重減少が得られたと考えられる。

「菓子・肉・乳・酒類型への変化群」では、菓子類の減少量や大豆類の増加量は少なく、緑黄色野菜や淡色野菜・きのこの摂取量は減少していた。また、この群ではエネルギーおよび脂質摂取量の減少量は少なく、食物繊維摂取量、1000kcal当たりの食物繊維摂取量は減少しており、「植物性食品・魚介類型への変化群」とは逆の食品群、栄養素等の摂取変化を示した。そのためこの群では体重減少量が最も少なかったと考えられる。

一方、食品摂取パターンを維持した群でも体重が減少しており、これら2群では食品摂取パターンを維持しながらエネルギー摂取量を減少させることで減量したと考えられる。

プログラム終了時から追跡時では、プログラムが終了したこともあり体重変化量は比較的少なかったものの、プログラム参加前と終了時での結果と同様、「植物性食品・魚介類型への変化群」で体重減少量が最も多かった。摂取食品および栄養素等の摂取変化もプログラム参加前と終了時での「植物性食品・魚介類型への変化群」と同様の特徴を示し、食品摂取パターンを「菓子・肉・乳・酒類型」から「植物性食品・魚介類型」へ変化させることが減量には最も有効であることがプログラム終了時と追跡時においても確認された。

「植物性食品・魚介類型維持群」では「植物性食品・魚介類型への変化群」と同様、緑黄色野菜、淡色野菜・きのこの摂取量や食物繊維摂取量が増加しエネルギー摂取量もやや増加したが、体重はプログラム終了時と追跡時との間で比較的維持されていた。

「菓子・肉・乳・酒類型への変化群」や「菓子・肉・乳・酒類型維持群」では、エネルギー摂取量の増加量が多かったにも関わらず体重増加量は少なかった。これには本研究で把握しきれなかった他の因子、例えば運動以外の身体活動量増加の影響等が関連していた可能性が考えられた。

V. 結論

生活習慣改善プログラム参加者のプログラム参加前の食品摂取状況より、主に大豆類、緑黄色野菜、淡色野菜・きのこ、いも類、砂糖・甘味料類、海草類、魚介類の摂取量の摂取量が多く、菓子類、肉類、乳類、酒類摂取量が少ない「植物性食品・魚介類型」と、それとは逆の食品摂取の特徴を持つ「菓子・肉・乳・酒類型」の2つの食品摂取パターンが得られた。また、プログラム参加前と終了時および終了時と追跡時における2つの食品摂取パターンの変化は体重変化と関連しており、「菓子・肉・乳・酒類型」から「植物性食品・魚介類型」へ食品摂取パターンが変化した人では、プログラム参加前と終了時および終了時と追跡時のどちらの期間においても体重減少量が最も多かった。したがって、「菓子・肉・乳・酒類型」から「植物性食品・魚介類型」への食品摂取パターンの変化が減量には最も有効であることが明らかとなった。

審査要旨 要旨を表示する

世界的な肥満者の増加に伴い減量に有効な食事指導法が求められている中で、近年、食品摂取パターン(複数の摂取食品群の組み合わせを1つの単位としたもの)を用いた包括的な食事の評価が注目され始めている。しかし減量と関連する食品摂取パターンの変化に関する研究はいまだ少なく、さらに海外とは食習慣の異なる日本においてこれらの関連を検討したものはない。そこで本研究では、減量に有効な食品摂取パターンの変化を明らかにするため、生活習慣改善プログラム参加者のプログラム参加前の食品摂取状況をもとに食品摂取パターンを抽出・選択し、食品摂取パターンの変化と体重変化との関連をプログラム期間中およびプログラム終了後の追跡期間中において検討した。それにより以下の結果を得ている。

1. 生活習慣改善プログラム参加者におけるプログラム参加前の17食品群の摂取量のZ-scoreを用いてクラスター分析を行った結果、主に大豆類、緑黄色野菜、淡色野菜・きのこ、いも類、砂糖・甘味料類、海草類、魚介類の摂取量が多く、菓子類、肉類、乳類、酒類の摂取量が少ない「植物性食品・魚介類型」と、それとは逆の食品摂取の特徴を持つ「菓子・肉・乳・酒類型」の2つの食品摂取パターンが得られた。

「植物性食品・魚介類型」に分類された人は、「菓子・肉・乳・酒類型」に分類された人と比較してプログラム参加前の平均BMIが男女ともに小さい傾向がみられた。また、女性では、「植物性食品・魚介類型」の人が「菓子・肉・乳・酒類型」の人と比較してエネルギー摂取量、脂質摂取量、脂質エネルギー比が有意に少なく、たんぱく質エネルギー比、食物繊維摂取量、1000kcal当たりの食物繊維摂取量が有意に多かった。男性も女性と同様の傾向を示したものの、食品摂取パターン間で摂取量に有意差がみられたのは、食物繊維摂取量と1000kcal当たりの食物繊維摂取量のみであった。

男女共に2つの食品摂取パターン間での運動習慣者の割合に有意差は見られなかった。

2. プログラム参加前と終了時における体重変化量を食品摂取パターン変化の4群間で比較したところ、「植物性食品・魚介類型への変化群」における体重減少量が、年齢、性別、プログラム参加前の値、エネルギー摂取変化量で調整後でも他の3群と比較して有意に多いことが示された。

3. プログラム終了時と追跡時における食品摂取パターンの変化と体重変化量との関連を検討したところ、プログラム参加前と終了時における結果と同様、「植物性食品・魚介類型への変化群」における体重減少量が、年齢、性別、プログラム終了時の値、エネルギー摂取変化量で調整後でも他の3群と比較して有意に大きかった。このことから「菓子・肉・乳・酒類型」から「植物性食品・魚介類型」への食品摂取パターンの変化が減量には最も有効であることが示唆された。

以上、本研究によって減量に有効な食品摂取パターンの変化が明らかになり、食品摂取パターンの変化という新たな視点から食事の変化を評価することの有用性が示唆された。この事は今後、肥満者の減量のための食事指導法の開発において重要な役割をなすと考えられ、本研究は学位の授与に値するものと思われる。

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