学位論文要旨



No 123800
著者(漢字) 江原,幸和
著者(英字)
著者(カナ) エハラ,ユキカズ
標題(和) 関節リウマチ患者滑膜に発現亢進するfollistatin-related protein (FRP/TSC-36/FSTL1)の機能の検討
標題(洋)
報告番号 123800
報告番号 甲23800
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(保健学)
学位記番号 博医第3139号
研究科 医学系研究科
専攻 国際保健学専攻
論文審査委員 主査: 発達医科学 教授 水口,雅
 医科研人癌病因遺伝子 教授 村上,善則
 生物医化学 准教授 渡邊,洋一
 人類生態学 准教授 梅崎,昌裕
 アレルギーリウマチ内科 講師 三崎,義堅
内容要旨 要旨を表示する

要旨

【背景・目的】 関節リウマチ (rheumatoid arthritis : RA) は主に可動関節における慢性炎症、滑膜の異常増殖、骨破壊によって特徴づけられる、有病率が約1%の"ありふれた疾患 (common desease)"である。RAの病態において、TNF-α (tumor necrosis factor-α)、IL-1 (interleukin-1)、IL-6などの炎症性サイトカインが重要な働きをし、骨破壊には破骨細胞が関与することが知られている。しかし、RA発症の機序は未だ明らかにされておらず、その分子レベルでの解明が急がれる。

当研究室における遺伝子発現プロファイリングにより、RA患者滑膜においてFRP (follistatin-related protein) 遺伝子の発現亢進が見出された。しかし、FRP遺伝子の発現亢進機序および病態的役割は十分には解明されていない。RAの病態におけるFRPの役割を見出すことが本研究の目的である。

【方法】 滑膜組織におけるFRP産生細胞を推定するために、5種の細胞株E11 (線維芽細胞様滑膜細胞)、U937 (単球)、Jurkat (T細胞)、Raji (B細胞) およびRamos (B細胞) におけるFRP mRNAレベルをRT-PCR法により解析した。FRPの機能を明らかにするために昆虫細胞発現系により、組換えFRP (recombinant FRP : rFRP) を作製し、線維芽細胞様滑膜細胞株E11の増殖およびアポトーシス誘導に及ぼす影響をそれぞれ、BrdUの取り込みおよびphosphatidylserineの表出により検討した。FRPが単球・マクロファージ系細胞に及ぼす影響を検討するため、U937-FRP安定発現株 (U937-FRP) を作製し、TNFA遺伝子、IL6遺伝子、NFATc1遺伝子およびc-fos遺伝子の発現量を定量的RT-PCR法により測定した。E11細胞株およびU937細胞株表面におけるFRP受容体の発現を検討するために、これらの細胞と蛍光標識したrFRPを用いて細胞結合アッセイを行った。

【結果】 RT-PCR法により、E11細胞株におけるFRP遺伝子の強い発現が見出され、Jurkat細胞株においても弱い発現が検出された。rFRPはE11細胞株の増殖抑制効果を示したが、アポトーシスは誘導されなかった。細胞結合アッセイにより、U937細胞株をPMAによって刺激することにより誘導されたマクロファージ様細胞におけるFRP受容体の強発現が、E11細胞株におけるFRP受容体の極めて弱い発現が示唆されたが、同定には至らなかった。定量的RT-PCR法により、U937-FRPにおいて、U937-mockまたはU937と比較して、TNFA遺伝子、IL6遺伝子、NFATc1遺伝子およびc-fos遺伝子の有意な発現上昇が見出された。

【結論】RA滑膜において線維芽細胞様滑膜細胞が産生したFRPは、その受容体を発現するマクロファージ様滑膜細胞に作用し、TNFA遺伝子およびIL6遺伝子発現を上昇させることにより炎症を増悪させる可能性が示唆された。またTNF-αおよびIL-6により、線維芽細胞様滑膜細胞において発現が促進されたRANKLは、単球・マクロファージ系前駆細胞の破骨細胞への分化の過程でNFATc1遺伝子およびc-fos遺伝子の発現を上昇させることが知られており、FRPによるこれらの遺伝子の発現上昇効果と相まって、破骨細胞分化が促進される可能性が示唆された。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は関節リウマチ (RA) 患者滑膜において発現亢進するfollistatin-related protein (FRP) の機能をを明らかにするため、昆虫細胞発現系による組換え型FRP (rFRP)の作製ならびに単球細胞株U937を用いたFRP安定発現株の作製し、解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1.滑膜組織を構成すると考えられる5種類の細胞株E11 (線維芽細胞様滑膜細胞)、U937 (単球)、Jurkat (T細胞)、Ramos (B細胞)、Raji (B細胞) を用い、RT-PCR法により滑膜組織におけるFRP産生細胞の推定を行った。E11細胞株において、強い発現が見出されたことから、滑膜組織における主なFRP産生細胞は線維芽細胞様滑膜細胞と考えられる。

2.昆虫細胞発現系により作製したrFRPを用い、E11細胞株の増殖能測定を行ったところ、rFRPはE11細胞株の増殖を抑制することが示された。しかし、細胞表面におけるphosphatidylserineの表出により、アポトーシス解析を行ったところ、rFRPはE11細胞株のアポトーシスは誘導しないことが示された。

3.単球細胞株U937を用いてFRP安定発現株 (U937-FRP) を作製し、FRPがU937細胞株のTNF-αをコードする遺伝子 (TNFA)、IL-6をコードする遺伝子 (IL6)、NFATc1をコードする遺伝子 (NFATc1)、c-Fosをコードする遺伝子 (c-fos) の発現量を定量的RT-PCR法により測定した。U937-FRPにおいて、mock-U937またはU937と比較して、TNFA、IL6、NFATc1、c-fosの有意な発現上昇が示された。

4.蛍光標識したrFRPを用い、E11細胞株およびPMAで刺激したU937細胞株との細胞結合アッセイを行ったところ、U937細胞株においては強い蛍光強度の上昇が、E11細胞株においては極めて弱い蛍光強度の上昇が見出されたことから、U937細胞株ではFRP受容体の強発現が、E11細胞株ではFRP受容体の極めて弱い発現が示唆された。

以上、本論文は、ヒトFRPがヒト線維芽細胞様滑膜細胞株E11の増殖を抑制することおよびヒトFRPがヒト単球細胞株U937において、破骨細胞分化に必須の転写因子NFATc1をコードする遺伝子 (NFATc1) およびc-Fosをコードする遺伝子 (c-fos) の発現を上昇させることを明らかにした。本研究はこれまで十分には解明されていなかった、RA滑膜において発現亢進するFRPが破骨細胞分化促進因子として働きうることを示し、RAの新規治療法の開発に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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