No | 123804 | |
著者(漢字) | ||
著者(英字) | Tuan,AnhNguyen | |
著者(カナ) | トウアン,アングユエン | |
標題(和) | ホーチミン市における小児ウイルス性下痢症の疫学的および臨床的研究 | |
標題(洋) | Epidemiological and Clinical Studies of Viral Gastroenteritis in Children in Ho Chi Minh City | |
報告番号 | 123804 | |
報告番号 | 甲23804 | |
学位授与日 | 2008.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(保健学) | |
学位記番号 | 博医第3143号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 国際保健学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 胃腸炎は主に下痢をきたし、入類において最もよくみられる疾患のひとつであり、世界中で罹患率と死亡率の上位を依然占めている。同様の症状をきたすものとして、少なくとも25種類の細菌及び寄生虫が知られているが、原因の75%以上はウイルス性であり、ロタウイルス、ノロウイルス、サポウイルス、アデノウイルス、アストロウイルスが急性胃腸炎を引き起こす頻度の高いものと考えられている。 ベトナムは人口8400万人の発展途上国であり、ウイルス性疾患は依然罹患率の高いものである。ベトナムにおけるウイルス性胃腸炎に関する疫学研究はいくつか行われてきたが、一種類のウイルス、ロタウイルスに関する疫学的側面のみが記載されているものであった。2002年から2003年にかけてホー・チ・ミン市において多数の頻度高く検出されるウイルスも含めた研究が一つ行われ、それ以降は同様のサーベイランスは皆無であった。一方、ロタウイルス含めその他の一般的な下痢原性ウイルスの臨床症状に関するデータは限定的なものである。このため、私は、ホー・チ・ミン市の小児において急性胃腸炎の原因となる一般的なウイルスの疫学的特徴を調査する研究を行いたいと考えた。 本論文は章より構成されている。第一章では、ホー・チ・ミン市の第一子供病院における急性胃腸炎に罹患したベトナム人小児の分子疫学的研究について記述した。2005年12月から2006年11月まで、下痢症状を有する患者より、臨床症状と共に計『502個の便検体を収集し、8種の一般的な下痢原性ウイルスの検索を行った。対象とする8種類のうち5種類のウイルスが検出され、A群ロタウイルスが53.2%の検出率で最も頻度が高く、次いでアストロウイルス(13.9%)、ノロウイルスII群(6.4%)、アデノウイルス(2。4%)、サポウイルス(1.2%)が検出された。A群ロタウイルスとサポウイルスは主に乾季に検出され、ノロウイルス、アストロウイルス、アデノウイルスは主に雨季に検出された。各種ウイルスの臨床的特徴と下痢症の重症度を比較すると、対象となった患者群の中で、アストロウイルスが最も重症度が高かった。一年間の病院べーサーベイランスにおける様々なウイルス性感染症の重症度スコアが記述されるのは初のことであると考えられる。 本研究で検出されたウイルスは全て型別分類された。A群ロタウイルスのGタイブに関しては、G1が67.3%と最も高頻度であり、次いでG3(14.0%)、G2(2.7%)、G9(1.5%)であった。Pタイプに関してはP[8]が96.0%ときわめて高頻度で検出され、P[4]が0.8%でそれに次いだ。2002年から2003年の研究の間に2個の便検体から稀なPタイプであるP[19]が検出され、この地域に安定的にこのウイルスが存在していることが示された。同一の都市で二つの時点に動物由来のP[19]ロタウイルスがヒトの中に検出されることは初めてである。全てのノロウイルスとサポウイルスは遺伝子解析に成功し、2006年にヨーロッパで流行していた2006a及び2006bという新奇のノロウイルスGII.4バリアントの存在をベトナム人小児において発見した。更に、今回報告されたGII.6e NoV株は他の研究にはまだ掲載されていない。一方、本研究で検出されたノロウイルスとサポウイルスにおいて、数種類のリコンビナント株(NoVGII.6b/GII.6e,SaV GII.1/GII.4)が初めて認められた。ベトナムのヒトアストロウイルスとアデノウイルスの分子学的特徴が完全に明らかにされたのは初めてのことである。 第二章においては、2002年から2003年にかけて別に行われたサーベイランスで検出されたA群ロタウイルスのVP4遺伝子の遺伝子解析について記述した。P[8]ロタウイルスの大部分が稀なlineageであるP[8]-3、いわゆるOP3541ineageに属していることを明確に示した。また、稀なP[8]と一般的なP[8]で臨床的な重症度を比較すると、稀なP[8]のほうが重症化しやすいことが示された。稀なP[8]-3ロタウイルスの重症度スコアが評価され、他の一般的なlineageと比較されるのは初めてである。ベトナムのロタウイルスP[6】株を遺伝子解析すると、reassortant株か、動物由来の株であることが判明した。この稀なヒトロタウイルスP[6]はlineage Iに属し、その中でもブタロタウイルスと共にsub-lineage Icに属しており、ヒトロタウイルスのsub-lineage Iaとは異なったクラスターを形成していた。幾つかのP[19]ロタウイルスの遺伝子解析でもこれらが動物由来であることが示された。この章では、ベトナム人小児において、動物由来のウイルスがヒトの中に存在するということを確かめ、ベトナム及びアジアにおいて、動物とヒトの種を越えたウイルス伝播の重要性を示唆した。 結論として、本研究では、ベトナム人小児における急性胃腸炎の原因ウイルスの多様性を示し、こうした原因ウイルスの臨床的特徴及び分子学的特徴を記述した。本研究の結果は、下痢原性ウイルスの知識を深めるために有用であり、将来、ベトナム人小児においてワクチンを導入することの重要性を指摘するものである。 | |
審査要旨 | 本研究はベトナムホーチミン市の小児における急性下痢症の原因となる一般的なウイルスについて研究したものである。種々のウイルス感染の分子疫学的特徴と臨床症状の特徴について記述した。検出したすべてのウイルスの分子的特徴を決定することに成功しており、下記の結果を得た。 1.1年間にわたりベトナムホーチミン市の第一子ども病院でサーベイランスを行った。急性下痢症と診断された乳幼児から得た503の便検体から対象とした8種のウイルスのうち5種が検出された。この中でA群ロタウイルスの検出率が最も高く、53.2%を占めた。次いでヒトアストロウイルス(13.9%)、ノロウイルスgenotype II(6.4%)、アデノウイルス(2.4%)、サポウイルス(1.2%)の順であった。それらのウイルスによる下痢症状の臨床的特徴を記述した。一年間の病院ベースのサーベイで各種のウイルスに関する下痢の重症度スコアを評価し、比較したのは初めての報告である。その結果からこの研究ではヒトアストロウイルスによる下痢症の重症度が最も高かった。 この研究では動物由来のP[19]ロタウイルスがヒトから同一の都市で二つの別の時点で検出された。さらにいくつかの組換え株、ノロウイルスのGII.6b(polymerase領域)1GII.6e(capsid領域)、サポウイルスのGII.1(polymerase領域)/GII.4(capsid領域)が検出されたがこれらは今まで報告されていない株である。 2.ベトナムでのA群ロタウイルスのVP4遺伝子の分子遺伝子学的検索を行った。ベトナムで稀なlineageであるP[8]-3ロタウイルスの存在を報告し、そのウイルスによる下痢症状の重症度スコアを比較すると、一般的なlineageであるP[8]-2と比較して重症であった。この結果は一般的なP[8]ロタウイルスを成分として含むロタウイルスワクチンを使用後のサーベイランスにとって重要である。特に稀なP[8]-3ロタウイルスが流行している国にとっては重要と考えられる。 ベトナムの小児の検体から、動物由来株であるP[6]ロタウイルスを検出した。このことはベトナムおよびアジアにおいて動物とヒトとの種を越えたウイルスの伝播が起きていることの重要性を示唆する。 以上の結果から、本研究では小児急性下痢症を引き起こす一般的なウイルスに関して有意義な知見を得た。さらにウイルスの変動を知るとともに、ヒトと動物との間で種を越えた下痢症ウイルスの伝播についての知見を得ることができた。よってこの研究は学位授与に値すると考えられる。 | |
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