学位論文要旨



No 123811
著者(漢字)
著者(英字) MAI,HAINAM
著者(カナ) マイ,ハイナム
標題(和) アジア人における慢性気道感染症の疾患関連候補遺伝子であるCFTR遺伝子のスプライシングを制御する遺伝子多型の研究
標題(洋) A study on genetic polymorphisms regulating splicing of the CFTR gene in Asian populations, a candidate gene to determine a susceptibility to chronic airway infection
報告番号 123811
報告番号 甲23811
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(保健学)
学位記番号 博医第3150号
研究科 医学系研究科
専攻 国際保健学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 水口,雅
 東京大学 教授 渡辺,知保
 東京大学 講師 大石,展也
 東京大学 講師 永田,泰自
 東京大学 講師 寺本,信嗣
内容要旨 要旨を表示する

嚢胞性線維症 (cystic fibrosis; CF) は白色人種において頻度の高い重篤な遺伝病である。CFは全身の外分泌腺機能不全に基づく疾患であり、肺や膵臓に病変がみられるが、最も生命予後に関わるのは肺病変である。1989年にCFの原因遺伝子のcystic fibrosis transmembrane conductance regulator gene (CFTR)が単離されてから、CFの研究は加速した。現在までに1,000を超えるCFTRの変異がデータベース (CF Mutation Data Base) に登録されている。しかしながら、東洋人種におけるCFTRの遺伝的多型についてはよくわかっていない。最近、CFTRの変異が、先天性両側精管欠損症 (congenital bilateral absence of the vas deferens; CBAVD) ・特発性慢性膵炎 (idiopathic chronic pancreatitis; ICP) ・気管支拡張症 (bronchiectasis; BE) などのCFではない疾患の一因として見出された。

この論文において、我々は第一にCFTRの遺伝的多型をベトナム人において探索し、他の人種と比較した。第二に、CFTR mRNAのスプライス変異を引き起こすTGmTn多型とM470V多型が、日本人における難治慢性呼吸器感染症のひとつである肺MAC感染症に関連するかを検討し、第三に、TGmTn多型のTGリピート数とCFTR mRNAのエクソン9欠失の割合との関係を評価した。

その結果、第一に、我々はベトナム人におけるCFTRの遺伝子多型を初めて明らかにし、白色人種と比較してベトナム人ではTGリピート数の長いTG12とTG13の頻度が非常に高い (ベトナム人58% 対 白人8%) ことを示した。CFTR蛋白の機能低下をきたすとされるT5を有するハプロタイプ(T5-TG12-V470) は、ベトナム人においては非常に稀ではなかった。第二に、日本人肺MAC症患者においてT5 の頻度は健常者集団と比較して有意に高かった (p=0.023) ことから、おそらくは気道環境の変化や肺胞マクロファージの殺菌力の変化により、T5アリルは肺MACの易感染性に関わっているのではないかと推測された。第三に、TGリピートの機能解析により、TGリピート数がエクソン9欠失に有意に関連していることが示された。TG11のホモ接合体においては、エクソン9を欠失するmRNAの割合は平均16.6%であったのに対し、TG12のホモ接合体においては平均41.3%であった (p<0.0001)。 この研究はアジア人のヒト気道上皮細胞を用いた最初の研究であり、アジア人においてT5アリルに加えてTGリピート数が長いことが気道のCFTRの機能低下をきたすという我々の仮説を支持するものであった。

審査要旨 要旨を表示する

嚢胞性線維症 (cystic fibrosis; CF) は白色人種において頻度の高い重篤な遺伝病である。CFは全身の外分泌腺機能不全に基づく疾患であり、肺や膵臓に病変がみられるが、最も生命予後に関わるのは肺病変である。

しかしながら、東洋人種におけるCFTR(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator gene)の遺伝的多型についてはよくわかっていない。

本論文において、我々は3つの部分に分けて研究を行った。

1.CFTRの遺伝的多型をベトナム人において探索し、他の人種と比較した。

2.CFTR mRNAのスプライス変異を引き起こすTGmTn多型とM470V多型が、日本人における難治慢性呼吸器感染症のひとつである肺MAC感染症に関連するかを検討した。

3.TGmTn多型のTGリピート数とCFTR mRNAのエクソン9欠失の割合との関係を評価した。

研究の結果

1-1 ベトナム人におけるCFTRの遺伝子多型を初めて明らかにし、白色人種と比較してベトナム人ではTGリピート数の長いTG12とTG13の頻度が非常に高い (ベトナム人58% 対 白人8%) ことを示した。CFTR蛋白の機能低下をきたすとされるT5を有するハプロタイプ(T5-TG12-V470) は、ベトナム人においては非常に稀ではなかった。

1-2 日本人肺MAC症患者においてT5 の頻度は健常者集団と比較して有意に高かった (p=0.023) ことから、おそらくは気道環境の変化や肺胞マクロファージの殺菌力の変化により、T5アリルは肺MACの易感染性に関わっているのではないかと推測された。

1-3 TGリピートの機能解析により、TGリピート数がエクソン9欠失に有意に関連していることが示された。TG11のホモ接合体においては、エクソン9を欠失するmRNAの割合は平均16.6%であったのに対し、TG12のホモ接合体においては平均41.3%であった (p<0.0001)。

以上、この研究はアジア人のヒト気道上皮細胞を用いた最初の研究であり、アジア人においてT5アリルに加えてTGリピート数が長いことが気道のCFTRの機能低下をきたすという我々の仮説を支持するものであったと考えられ、学位の授与に値するものと考えられます。

UTokyo Repositoryリンク