学位論文要旨



No 123819
著者(漢字) 北,陽一
著者(英字)
著者(カナ) キタ,ヨウイチ
標題(和) (+)-Manzamine A の合成研究
標題(洋)
報告番号 123819
報告番号 甲23819
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1246号
研究科 薬学系研究科
専攻 分子薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 福山,透
 東京大学 教授 長野,哲雄
 東京大学 教授 井上,将行
 東京大学 准教授 金井,求
 東京大学 准教授 浦野,泰照
内容要旨 要旨を表示する

ManzamineA(1)は沖縄産海綿より単離され、X線結晶構造解析により構造決定が為されたβ一カルボリンアルカロイドである。本天然物は抗腫瘍活性を始めとして、抗HIV、抗菌、抗マラリア活性など多様な生理活性を有していることから薬理学的に高い関心が持たれている。また、5つの不斉中心を有するその複雑な五環性の主骨格は合成化学的にも興味深く、数多くの合成研究が為されている。

逆合成解析を示す(Scheme 1)。Manzamine A はIrcinal A(2)より二段階にて導かれることが知られている。この化合物の特徴的な構造であるD環部13員環は合成の終盤で構築し、上部の一炭素導入はビニロガスエステル3への求核付加反応を利用する。また、下部のC、E環部は4に示すアセトニド基で保護されたアミノアルコールを足がかりとして構築し、A環部はエノンからの変換により構築する。このcis一デカリン骨格はブタジエン誘導体とキノン5との分子間不斉Diels-Alder反応により得ることとした。

市販のo-vanillin(6)をMOM基で保護し、Horner-Wadswoth-Emmons反応を行い7とした(Scheme 2)。7に対し、キラルなロジウム触媒を用い水素添加を行うことで8へと導いた。続いて、エステル部位をアルコールへと還元し、酸によるMOM基の除去、アセトニド基による保護を経てフェノール9とし、これをFremy塩により酸化することによりキノン5を得た。5に対し不斉補助基を有するアミノシロキシジエン10を作用させたところ、94%収率、単一の異性体として付加体11を得ることに成功した。

得られたDiels-Alder反応成績体11のケトン部位を立体選択的に還元した後、TBS基を除去するとオキサゾリジノン環の脱離が進行し、エノン4が得られた(Scheme3)。エノン4をジアゼン転位によりオレフィン12へと変換した後、二重結合の切断を含む4段階を経て13とした。次にラクトン部位をアンモニアを用いて開環し、生じた水酸基を保護することで14を得た。最後に、超原子価ヨウ素試薬を用いたHofmann転位と続くAlloc基の除去を行うことでManzamine AのA環部の構築を行うことができた。しかしながら、この後にE環部の構築を行うことは困難であった。従ってこの経路は断念することとし、E環部を合成の序盤で構築することとした。

すなわちキノン18に対する分子間不斉Diels-Alder反応を行った後に、A、C環部の構築を行い、最後にD環部の構築を行う(Scheme 4)。E環部8員環の形成にはNsを利用した中員環構築法を用いることとした。

まず、o-vanillinより、先と同様の手法を用いて20を得た(Scheme5)。このエステル部位をアルデヒドへと還元した後、Wittig反応を行うことでZ体のオレフィンを構築し、酸によるBoc、TBS基の除去、生じたアミノアルコールのアミノ基選択的なスルポニル化を行うことでノシルアミド21へと変換した。21に対するNs基を利用した中員環構築は94%と高い収率で進行し、E環部8員環を構築することができた。Ms基の除去は比較的困難であり検討を要したが、LHMDSを用いると良好な収率で進行することが分かった。得られたフェノールをFremy塩により酸化することで得られるキノン18に対し、先のアミノシロキシジエン10を作用させたところ、92%の収率で付加体22を単一の異性体として得ることに成功した。次に、22のケトン部位をconvex面より立体選択的に還元し、TBAFを用いてエノン17へと導いた。

エノン17に対し、エポキシ化と続くEschenmoser-Tanabe解裂を行い23とした(Scheme6)。得られたアルキン23に対し、ヨウ化銅を用いた末端アルキンのアミド化反応を試みたところ、N-トシルアミド24を得ることに成功した。得られた24はメチル化を行った後アンモニアを作用させることで一級アミド25へと変換した。続いてTES基を除去し、生じた1水酸基をMs化することで26とした後、Hofmann転位反応により一炭素の減炭反応を行い、更に得られたカーバメートに対し炭酸カリウムを作用させることでA環部を構築した。最後にNs基を除去したのち、四塩化炭素とボスフィンを用いた脱水反応を行うことでC環部の構築に成功した。今後、上部の一炭素導入とD環部13員環を構築することでManzamineAへと導く予定である。

Scheme 1

Scheme 2

ReagentsandConditions:(a)MOMCI,K2CO3,acetone,95%;(b)MeO2CCH(NHCbz)P(O)(OMe)2,TMG,CH2Cl2,99%(Zonly);(c)[((COD)一(R,R)-Et-Du-PHOS)Rh]OTf(O.13mol%),H2(1000psi),MeOH,97%,>99%ee;(d)LiBH4,THF;aq.HCI,95%;(e)2,2-dimethoxypropane,BF3・OEt2,acetone,93%;(f)Fremy'ssalt,CH3CN-phosphatebuffer,88%(g)CH2C12,94%.

Scheme 3

Reagents and Conditions:(a)NaBH4,MeOH,0。C;(b)TBAF,THF,98%(2steps);(c)TsNHNH2,MeOH,50°C;NaBH3CN,AcOH,reflux,810/o;(d)OsO4,NMO,acetone-H20,60%;(e)NalO4,THF-H20;(f)Joneslrgt,acetone,87%(2steps);(g)i-PrOTs,K2CO3,DMF,40°C,85%;(h)NH3,MeOH;(i)TESCI,lm,DMF,70%(2steps);G)PIFA,Py,toluene,100°C:allylalcohol,reflux,70%;(k)Pd(PPh3)4,pyrrolidine,toluene,60°C,80%.

Scheme 4

Scheme 5

Reagents and Conditions:(a)MsCt,Et3N,CH2Cl2,0°C,95%;(b)BocHNCH(P(O)(OMe)2)CO2Me,TMG,CH2C12,99%;(c)[((COD)-(R,R)-Et-Du-PHOS)Rh】OTf(0.18mol%),H2(1000psi),MeOH,95%,>99%ee;(d)DIBAI-H,CH2Cl2,-78°C;(e)TBSO(CH2)5PPh31,KHMDS,THF;(f)HGI,MeOH;evaporation;NsCl,NaHCO3,CH2Cl2-H20,71%(3steps);(g)PPh3,DEAD,toluene,94%;(h)LHMDS,THF,90%;(i)Fremゾssalt,CH3CN-phosphatebuffer,82%;(j)10,CH2Cl2,92%(single isomer);(k)NaBH4,MeOH,0°C;(1)TBAF,THF,81%(2 steps).

Scheme6

Reagents and Conditions :(a)TBHP,TritonB,THF,-23°C,72%;(b)Ac2o,Py,88%;(c)NsNHNH2,AcOH-THF;evaporation;Reagents and ConditionsNaBH4,AcOH・THF,0°C,61%;(d)TESOTf,2,6-lutidine,CH2C12,60%(2 steps);(e)TsN3,Cul,Et3N,CHCI3-H20,69%;(f)Mel,K2CO3,DMF,60°C;(g)liq.NH3,69%(2 steps);(h)HCI,MeOH,0°C;evaporation;MsCl,Py,0°C;(i)Phl(OAc)2,allyl alcohol,60°C,71%(2 steps);(j)K2CO3,MeOH,40°C,70%;(K)HSCH2CO2H,LHMDS,DMF,60°C,80%;(I)Me2PhP,Et3N,CCI4,reflux,73%.

審査要旨 要旨を表示する

(+)-ManzamineA(1)は沖縄産海綿より単離、構造決定されたβ一カルボリンアルカロイドである(Figure 1)。本天然物は抗腫瘍、抗菌、抗マラリア活性など、多様な生理活性を有することが知られている。中でも、マラリアは耐性菌の出現と温暖化の進行による感染地域の拡大が近年大きな問題となっており、この天然物には新規リード化合物として大きな関心が寄せられている。一方で、この特徴的な多環性骨格は合成化学的にも興味深く、特にB環部に位置する4つの連続する不斉中心の構築には騰が予想される。北は分子間不斉Diels-Alder反応を用いた不斉四級炭素構築を基盤とした、効率的な合成経路の確立を目指し本研究を行った。

Figllre1 Man.zamineA(1)

市販のo-vanillin(2)をMs基で保護した後、Horner-Wadsworth-Emnons反応を行うことでデヒドロアミノ酸3とした(Scheme1)。3に対するキラルロジウム触媒を用いた不斉還元反応は円滑に進行し、アミノ酸誘導体4を単一の光学異性体として与えた。このエステル部位をアルデビドへと還元yた後、Wittig反応を行うことでZ体のオレフィンを構築し、酸によるBoc、TBS基の除去、生じたアミノアルコールのアミノ基選択的なスルホニル化を行うことでノシルアミド6へと変換した。6に対するNs基を利用した中員環構築は円滑に進行し、94%と高い収率でE環部8員環を構築ずることに成功した。

7のMs基を除去し、得られたフェノニル8をFremy塩により酸化することで得られるキノン9に対し、Rawa1らにより報告された不斉補助基を有するアミノシロキシジエンを作用させたところ、92%と高い収率で付加体10を単一の異性体として得ることに成功した(Scheme2)。次に、10のケトン部位をconvex面より立体選択的に還元し、TBAFを用いてTBS基の除去を行うとオキサゾリジノンの脱離反応が進行し、エノン11が得られた。エノン11からManzamineAのA環部となるピペリジン環を構築する為には、E環部8員環のオレフィンを保ったまま、エノンを有する環の炭素一炭素結合を解裂させ、更に一炭素の減炭反応を行うことが必要となる。結合の解裂はTBHPを用いたエノン部位のエポキシ化と、続くEschenmoser-Tanabe解裂により達成した。得られたアルキン13に対し、ヨウ化銅を用いた末端アルキンのアミド化反応を行い、N-トシルアミド14を得ることに成功した。

続いて、一炭素の減炭反応と窒素原子の導入を行った(Scheme3)。14のアミド部位は求核剤に対する反応性が乏しかったため、メチル化を行い脱離能を高めた後にアンモニアを作用させることで一級アミド15へと変換した。次に酸を用いてTES基を除去し、Ms化を行い16とした後、Hofmann転位による一炭素の減炭反応、炭酸カリウムを用いた環化を行い17を得た。最後に、C環部の構築に着手した。このNs基は比較的立体的に混んだ場所に位置しており、その脱保護には検討を要したが、チオグリコール酸とLHMDSを用いることで良好な収率でその除去を行うことが可能であった。続く環化反応も種々の検討を要したが、四塩化炭素中にてホスフィンを用いる脱水反応を行うと望む四環性化合物18が得られることを見出した。

以上のように北は分子間不斉Diels-Alder反応により形成したcis-デカリン骨格を利用し、(+)-ManzamineAの四環性骨格の立体選択的な構築に成功した。この成果は薬学研究に寄与するところ大であると考えられる。従って、博士(薬学)の学位を授与するに値するものと認めた。

UTokyo Repositoryリンク