学位論文要旨



No 123821
著者(漢字) 倉持,哲義
著者(英字)
著者(カナ) クラモチ,アキヨシ
標題(和) 重要生物活性物質の全合成研究 : ガルスベリンAの全合成および抗インフルエンザ薬リレンザの効率的合成法の開発
標題(洋)
報告番号 123821
報告番号 甲23821
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1248号
研究科 薬学系研究科
専攻 分子薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 柴崎,正勝
 東京大学 教授 福山,透
 東京大学 教授 井上,将行
 東京大学 教授 小林,修
 東京大学 准教授 金井,求
内容要旨 要旨を表示する

1.ガルスベリンAの全合成((1))

ガルスベリンA(1)は、1997年福山らによりGarcinia Subellipticaから単離され、アルツハイマー病治療薬への展開が期待されている。ビシクロ[3.3.1滑格にテトラヒドロフラン環が縮環した構造は高い酸化状態を持ち、従来にない構造から、その全合成には困難が予想された。

既に我々は、8位にプレニル基を欠いたモデル化合物8-deprenylgarsubellinAの合成を達成しており[2】、そこでの知見をもとに、この化合物の世界初の全合成を目指し、研究に着手した。

(1)逆合成解析(Schemel)

本全合成の最大の鍵は「3の中心に位置するビシクロ[3.3.1]骨格をいかにして構築するか」であった。というのも、当初計画していた"炭素6位での分子内アルドール反応[2]"が、実際の系においてまったく機能しなかったからである。

そこで、より信頼性の高い方法論の確立を目標に、6位四級炭素をClaisen転位反応で構築することとした。すなわち、3のビシクロ骨格は閉環メタセシス反応(RCM)およびアリル位酸化反応を組み合わせることで4から構築することとし、4がもつ二つの四級炭素を、それぞれアルドール反応・Claisen転位反応で構築する計画を立案し、重要中間体5を設定した。

5の4位側鎖はアルキル化反応で、また6位側鎖は6に対するマイケルアルドール反応で位置選択的に構築できると考えられる。6の前駆体である7の8位不斉炭素は、古賀アルキル化反応を用いることで構築できると期待し、市販の8からの全合成研究を開始した。

(2)重要中間体5の合成(Scheme2)

古賀アルキル化反応は、テトラミンリガンドを用いることで良好に進行し、95%eeで6を得ることに成功した[3]が、合成ルートの確立にあたり、ラセミ体での検討をおこなった。

市販の9をもとにStork-Danheiser法を適用することで、精製の必要なく、6が定量的に得られた。続くマイケルアルドール反応による6位側鎖の導入は、望みの立体選択性で反応が進行し、TIPS保護体10を得た。向山水和反応を経て8位プレニル基をMOMエーテル体で保護して11へ、最後に4位プレニル基を導入して、重要中間体5の合成に成功した。

(3)ガルスベリンAの全合成(Scheme3)

4位ビニル基の導入による四級炭素の構築は、立体選択的なアルドール反応と、続く脱水により行い、13を得た。この段階でプレニル基選択的なジヒドロキシル化が進行することがわかり保護体14を得、さらに定法を用いて15へと変換し、6位四級炭素の構築に取りかかった。

酸素アリル化反応では、15に含まれるカーボネートの脱離が観察されたが、ダミー基質(ethylene carbonate)を添加することが問題克服の鍵となった。続くClaisen転位反応は200℃にて完全な立体選択性で進行し、2工程87%収率で4を得ることに成功した。RCM反応・アリル位酸化反応も進行し、最大の山場であるビシクロ[33.1]骨格の構築を果たすことができた。

最後のテトラヒドロフラン環の構築は、分子内Wacker型酸化反応が良好に進行し17を得た。炭素2位にヨウ素を導入した後、8位プレニル基を再生させ、Stilleカップリングを行うことで、ガルスベリンAの世界初の全合成に成功した((1))。

2.抗インフルエンザ薬リレンザの効率的合成法の開発

インフルエンザに対する特効薬タミフルは、当研究室を含め、これまでに様々な合成ルートが報告されているが、この背景にはトリインフルエンザウィルスに対する危機感がある。

それに伴い、もう一つの抗インフルエンザ薬リレンザ(17)にも焦点が集まってきている。タンパク質の結晶構造から合理的に設計([4a])されたリレンザの構造は、おのずとシアル酸(18)に酷似しており、その合成経路も高度に官能基化されたシアル酸に頼るのが一般的である([4b])。

一方、炭素9個の母核を持つシアル酸は、生合成的に六単糖の皿アセチルマンノサミン(19)と、C3ユニットのピルビン酸(20)に分けられる。そこで糖由来のC6ユニットにC3ユニットを効率的に導入できれば、シアル酸18を経由せず、直接的にリレンザを合成することが可能となる。汎用性の高い基礎反応の開発も視野に入れ、C3ユニットの導入に[2+3]一環化反応を選択して、以下の合成経路を立案した(Scheme4)。

市販の亙アセチルマンノサミン19がもつアノマー位以外の水酸基を、定法にしたがい保護をして22を得た。続いて22をBnNHOHと反応させることで、アノマー位にヒドロキシルアミノ基が入った23が得られた。これは加熱条件下、開環することでニトロンとなる。

一方のC3ユニットとしては、セリンから一工程で合成される24を選択した。23と24の間で[2+3]一環化反応を行ったところ、無溶媒で150℃に加熱することで速やかに反応は完結し、立体異性体の混合物ながら、ほぼ定量的に成績体25を得ることに成功した。現在、さまざまなC3ユニットを用いて立体選択性の向上を検討するとともに、幽リレンザへの変換を行っている。

【参考文献】1)Kuramochi,A.;Usuda,H.;Yamatsugu,K.;Kanai,M.;Shibasaki,M. J. Am. Chem. Soc. 2005,127,14200.2)Usuda,H.;Kanai,M.;Shibasaki,M.αg.Lett.2002,4,859,Tetrahedron Lett.2002,43,3621.3)倉持哲義、平成16年度修士論文発表要旨集、東京大学大学院薬学系研究科4)(a)Itzstein,M.;Wu,W.-Y.et al.Nature1993,363,418.(b)Chandler,M.et al.J.Chem.Soc.Perkin Trans.1 1995,ll73.
審査要旨 要旨を表示する

倉持は「重要生物活性物質の全合成研究~ガルスベリンAの全合成および抗インフルエンザ薬リレンザの効率的合成法の開発~」と題し、主匠以下の_2点の成集を挙げた。

1.ガルスベリンAの全合成

アルツがイマい病治療薬への展開が期待されているガルスベリンA(1)の、世界初の全合成を達成した。

市販の2からStork-Danheiser法を適硝することで、3を定量的に合成した。続くマイケルアルドール反応による6位側鎖の導入は、望みの立体選択性で反応が進行し、TIPS保護体4を得た。向山水和斥応を経て8位プレニル基をMOMエーテル体で保護して5へ、最後に4位プレニル基を導入して、重要中間体6の合成に成功した。

続いて4位に、立体選択的なアルドール反応と続く脱水により、ビニル基を導入して7を得た。この段階でプレニル基選択的なジヒドロキシル化をおこない保護体8を得、さらに定法を用いて9へと変換した。6位4級炭素は、Claisen転位により構築した。すなわち、ethylene carbonateの添加下に酸素アリル化をおこない、続くClaisen転位反応を200℃にておこなうことで完全な立体選択性で、2工程87%収率で11を得るこどに成功した。RCM反応・アリル位酸化反応により、ビシグロ[3.3.1]骨格12を構築した。テトラヒドロフラン環の構築は、分子内wacker型酸化反応にておこない13を得た。最後に炭素2位にヨウ素を導入レた後、8位プレごル基を再生させ、Stilleカップリングを行うことで、ガルスベリンみの全合成に成功した。また、本合成は古賀アルキル化反応を用いることで、不斉触媒化できることも明らかとした。

2.抗インフルエンザ薬リレンザの効率的合成法の開発、

基礎反応の開発も視野に入れ、シアル酸誘導体17に対するC3ユニットの導入に[2+3]一環化反応を選択して、抗インフルエンザ薬リレンザ(21)の合成経路を立案した。市販の淋アセチルマンノサミン14がもつアノマー位以外の水酸基を、定法にしたがい保護をして16を得た。続いて16をBnNHOHと反応させることで、アノマー位にヒドロキシルアミノ基が入った17が得られた。これは加熱条件下、欄環することでニトロンとなる。一方のC3ユニットとしては、セリンから一工程で合成される18を選択した。17と18の間で[2+3]一環化反応を行ったところ、無溶媒で150℃に加熱することで速やかに反応は完結し、立体異性体の混合物ながら、ほぼ定量的に成績体19を得ることに成功した。現在、19からリレンザへの変換を行っている。

以上の業績は、医薬および天然物の合成の分野において顕著な貢献をするものと考えられることから、博士(薬学)の授与に値するものと結論した。

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