学位論文要旨



No 123855
著者(漢字) 渡邉,友子
著者(英字)
著者(カナ) ワタナベ,トモコ
標題(和) トランスポーターによる医薬品肝腎排泄振り分けのin vitro予測法の開発
標題(洋)
報告番号 123855
報告番号 甲23855
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1282号
研究科 薬学系研究科
専攻 生命薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 杉山,雄一
 東京大学 教授 入村,達郎
 東京大学 教授 佐藤,能雅
 東京大学 准教授 大谷,壽一
 東京大学 准教授 伊藤,晃成
内容要旨 要旨を表示する

【背景・目的】

医薬品の薬理効果や有害作用の発現を決定する要因として、標的タンパク質への親和性など薬理学的要因と並び、薬効標的やその発現部位への薬物の暴露を支配する薬物動態学的要因も考慮する必要がある。そのため近年では、医薬品開発の初期段階で肝代謝や消化管吸収の評価が行われ、適切な体内動態特性を持つ化合物が早期に選別されるようになってきている。投与後循環血中に到達した薬物は、主に肝臓、腎臓から代謝・排泄される。肝臓や腎臓には異物解毒に関わる種々の代謝酵素や薬物トランスポーターが発現しており、肝臓では代謝による物質変換および胆汁中への排泄、腎臓では尿中への排泄が、これらタンパク質によって効率的に行なわれている。代謝酵素やトランスポーターの機能は、加齢や疾病、併用薬との薬物間相互作用や遺伝子多型等様々な要因によって変動することが知られており、その影響を受けにくくするためには、複数の代謝・排泄経路を確保することが必要である。代謝酵素についてはin vitro試験法が確立されているが、排泄経路を推定するための予測法は未だ確立されていない。薬物の排泄過程は、(1)血中から臓器への取り込み、(2)臓器から血中へのbackflux、(3)代謝及び臓器内から胆汁中あるいは尿中への排泄、の各素過程から構成されている。本研究では、医薬品の排泄経路の肝腎振り分けを決定する要因を速度論的に解析することで、inv vitro実験系の結果に基づくin vivoにおける排泄能力の予測精度について検証した。詳細なin vivo薬物動態の検討を可能とするためにラットを用いて、4つの薬効群(HMG-CoA還元酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、ローラクタム系抗生物質)から代謝を受けにくい12化合物を対象として検討を行った。さらにヒトにおいても同様の検討を行い、最終的に目標とするヒト肝・腎クリアランスのin vitro実験データからの予測が、どの程度良好に可能であるかについて検討を進めた。

【方法・結果】

1.ラットにおける肝および腎臓器クリアランスの予測性の検討

臓器クリアランスと取り込みクリアランスの比較

臓器クリアランス(代謝・排泄により薬物を消失させる能力)の決定要因に占める取り込みクリアランスの重要性を明らかにするため、取り込みクリアランスとの比較を行った。in vivoにおける実測のクリアランスを求めるため、12化合物をそれぞれSDラットに投与後、経時的に血漿、胆汁、尿を採取、にLC/MSで測定し、胆汁及び尿中排泄クリアランス、胆汁及び尿中排泄率を求めた。また、12化合物をそれぞれSDラットに瞬時投与し、極めて短い時間における血中濃度、肝臓及び腎臓中濃度をLC/MSで測定し、臓器への取り込みクリアランスを求めた(lntegration plot法)。図1には、in vivoにおける各臓器における取り込みクリアランスと臓器クリアランスの比較を示した。肝臓では、ほぼ1:1の関係が観察されており、取り込み過程が肝消失全体を決定づけていることが明らかになった。一方腎臓では、再吸収などの機構の関与が推察される腎クリアランスが非常に小さい化合物(図1中2,4,5)を除くと、ほぼ1:1の関係が観察されており、腎臓における消失についても、大部分の化合物で、肝臓同様に取り込み過程が重要であることが示唆された。

In vitro実験から得られた取り込みクリアランスとin vivo取り込み有クリアランスの比較

さらにin vivtro実験の結果からの予測を行うために、遊離肝細胞、腎スライスを用いて取り込み実験を行い、取り込みクリアランス(P1HEPおよびP1KID)を求めた。本実験では定量的な比較を行うため、取り込みクリアランスが非常に高く、in vivoで血流による供給が律速となっており、定量的に取り込み能力をin vivoで測定することが困難な化合物は対象から除外した。図2に示すように、肝臓ではほぼ1:1の関係が見られ、遊離肝細胞を用いた輸送実験を基にした予測性が良好であることが示唆された。一方、腎臓では、In vivo実験から得られた値に対しin vivo実験から求めた値が10~100倍大きいこと、in vivoの腎クリアランスが大きいものは相関から乖離する傾向があることがわかった。乖離の原因として、腎スライスには厚みがあるため、スライス内部の細胞層にまで薬液が効率よく浸透できないため、単位重量あたりの取り込み能力を過小評価してしまうことや、薬液が腎スライス表面に到達する過程で非撹拌水層などに起因する拡散が律速段階となってしまい、真の取り込みを正確に評価できないことが考えられる。

In Vitro実験から得られた取り込みクリアランスを用いて、in vivoにおける臓器クリアランスをdispersion modelに基づき予測した。肝臓では予測値と実測値の差異は、ほぼ3倍の範囲内におさまっていたが、腎臓では、valsartan,olmesartan,candesartan,pitavastatinにおいて予測値が実測値より大きくなった。これらの結果は、in vivoにおける取り込みクリアランスと臓器クリアランスの比較における結果(図1)と一致するものであった。一方、腎臓でもin vivoにおける腎クリアランスが良好に予測できることが示唆された。

取り込み側、排泄側各過程の輸送能力の変動が予測に与える影響に関する検討

血中からの消失を規定する"みかけの"固有クリアランス(CLint,app)をさらに素過程に細分化して速度論的に考察すると、各過程の能力の大小関係により、CLint,appを支配する各要因の相対的な重要性が異なることがわかる。細胞内で大部分が代謝・排泄されてしまい循環血中への戻り(backflux)が小さい場合、代謝や排泄のパラメーターの変動はCLint,appには大きな影響を与えず、取り込み過程の変動のみで説明できることが予想される(図3(2)式)。そこで、この仮説を実験的に実証するために、取り込み、排泄及びその両方の輸送過程を、阻害剤や遺伝子欠損動物を利用して変動させ、素過程のクリアランスの変動がCLint,appに与える影響について検討を加えた。

-Eisai hyperbilirubinemic rat(EHBR)を用いた検討-

Mrp2を遺伝的に欠損しているラット(EHBR)を用いて、Mrp2の基質であるrosuvastatin valsartan, temocaprilat, PCG(benzylpenicillin)を用いて同様の検討を行った。invivo実験においてvalsartan, temocaprilat, PCGの胆汁排泄クリアランスはSDラットに比べて大幅に減少した。EHBRでin vivoにおける取り込みと胆汁排泄クリアランスを比較したところ、temocaprilat, PCGでは取り込みクリアランスが胆汁排泄クリアランスより大きく、排泄側の輸送活性が減少することにより、取り込み律速の仮定が破綻していることが示唆された。一方、rosuvastatinではin vivoにおける胆汁排泄クリアランスがEHBRでSDラットの半分程度にしか減少しなかった。このとき、取り込みクリアランスと胆汁排泄クリアランスはほぼ同程度であったことから、Mrp2の機能が消失した後も、取り込み過程が依然として律速段階となっているものと考えられる。

-阻害剤を用いた検討-

肝胆系輸送に関わる主な分子が、肝取り込みはOatp、胆汁排泄はMrp2であることが知らとしては、種々の条件検討の結果、肝取り込みの阻害剤としてrifampicinを、また低濃度条件で胆汁排泄のみを、高濃度条件で取り込み・排泄両方のトランスポーターを阻害できる阻害剤としてglycyrrhizinを選択した。rifampicinでtemocaprilatの輸送を阻害した場合、取り込みの阻害によりin vivo実験から見積もられたCLiat,appは低下した。一方、glycyrrhizinで阻害した場合には、低濃度域では細胞内から胆汁中への排泄が大きく阻害され、CLint,appが低下した。これは取り込み過程がCLint,app全体の律速段階でなくなったためだと考えられる。一方、高濃度域では、取り込み、排泄の両方が阻害され、CLint,appが低下した。これら結果は、in vitro実験の結果と一致し、図3で示した理論的考察と合致している。れており、かつ図3(2)式の条件を満たすtemocaprilatをモデル基質として用いて、阻害剤共存下における遊離肝細胞を用いたin vitro取り込み実験およびin vivo実験を行った。阻害剤

2.ヒトにおける肝および腎クリアランスの予測性の検討

In vitro実験から得られた取り込みクリアランスに基づくin votro臓器クリアランスの予測

ヒト遊離肝細胞およびヒト腎スライスを用いた取り込み実験を行うことで、ラットと同様にヒトでもin vitro実験より得られた取り込みクリアランスからin vivo臓器クリアランスが予測できるかについて検討を行った。これまでの当研究室の他の報告の結果もあわせて、肝臓では8化合物、腎臓では11化合物で検討した。その結果、in vitro実験からの予測値とin vivoの実測値との間には比較的良好な相関が認められた。

【考察・結論】

本研究において、代謝をうけにくい医薬品の胆汁排泄や尿細管分泌では、取り込み過程が全体の消失を決定付ける重要な要因であることを明らかにした。しかし、腎クリアランスが小さい化合物では、取り込みクリアランスとの乖離も大きく、細胞内からの排出過程や尿中からの再吸収など他の要因も考慮する必要がある。また、取り込み過程が全体の消失の律速段階になっている場合、理論的考察どおり、取り込みの阻害は血中濃度の時間推移に影響を与えるものの、細胞内からの排出の阻害は律速段階が変わるほど強く阻害されたときにのみ血中濃度に影響を与えることも実証することができた。細胞内からの排泄過程における薬物問相互作用が臨床的に意味を持つかどうかは、こうした消失の律速段階の考察も必要であるといえる。

本研究により、循環血中からの薬物の消失における肝腎振り分けを支配する要因として、各臓器への取り込みの相対的な能力の重要性が明らかになった。また、取り込み過程を評価するin vitro実験系として、遊離肝細胞やヒト腎スライスの利用が有効であることが示唆された。ラット腎スライスでは、一部スライスへの拡散過程が律速となると思われる化合物も見出されin vitro実験結果に基づく予測精度が低くなったが、ヒト腎スライスではそのような化合物は見られなかった。

図1.In vivoにおける臓器取り込みクリアランスと臓器クリアランスの比較

図2.In vitroとin vivo取り込み固有クリアランスの比較

図3."みかけの"固有グリアランス

審査要旨 要旨を表示する

医薬品開発の問題点として、依然として臨床試験の段階に至って、ヒトにおける効果や副作用が原因でドロップアウトする薬物が少なくないことが挙げられる。また、その理由の中には、薬物動態特性の悪さが原因となっているものも数多い。臨床試験は莫大な費用と時間を要することから、創薬を効率的に進めるためには、開発の初期段階からヒトにおける薬理活性のみならず薬物動態特性の優れた化合物を選択するために、近年では、開発初期のスクリーニング段階から種々のin vitro実験系を用いて、合理的な医薬品の選択が進められてきている。

投与後循環血中に到達した薬物の多くは、主に肝臓と腎臓から代謝・排泄される。特に、肝臓や腎臓の機能が低下している患者に用いることがあらかじめ予想される医薬品や、薬効標的が肝臓や腎臓であるような医薬品においては、肝臓と腎臓から排泄される割合、すなわち「肝腎振り分け」の情報が、医薬品の薬効や副作用の予測をする上で重要な情報となる。肝代謝により主に消失する薬物については、これまでミクロソームを用いた検討などから代謝速度の予測が進められてきた。しかしながら、トランスポーター基質となる薬物を対象としたin vitro実験からの肝腎振り分けの予測法は未だ系統的な解析が進められていない。

申請者は、本研究を通して、代謝を受けにくいトランスポーター基質となる医薬品の消失における血中から臓器への取り込み過程の重要性を明らかにし、検討に用いた多くの医薬品で、臓器クリアランスが取り込みクリアランスと類似した値になることを示した。また、肝臓・腎臓における取り込み過程を評価するin vitro実験系として、遊離肝細胞と腎スライスを用いた取り込み実験を用いることで、in vivoにおける取り込みクリアランスを一定の精度で予測できることを示した。さらに、in vitro取り込み実験の結果からin vivoの臓器クリアランス、さらには肝腎振り分け率が良好に予測可能であることを示した。

また、血中からの消失を規定する"みかけの"固有クリアランスをさらに素過程に細分化して速度論的に考察すると、細胞内から血中へのbackfluxと細胞内から胆汁ないしは尿中への排泄能力の大小関係により、各要因の相対的な重要性が異なる。細胞内から循環血中へのbackfluxが、代謝・排泄される能力より小さい場合については、代謝・排泄能力を表すパラメーターの変動は、"みかけの"固有クリアランスに影響しないが、逆のケースでは、影響することが予想される。申請者は、臓器クリアランスが取り込みクリアランスに近似できない場合について、理論的な考察に基づき、遺伝子変異動物や阻害剤を用いて、各素過程が"みかけの"固有クリアランスに与える影響にういて検討を行った。その結果、排泄の輸送能力が大きく阻害された場合のみ、取り込み律速の仮定が破綻し、臓器クリアランスが取り込みクリアランスに近似できなくなることを実験的に証明した。以下に、詳細を示す。

1.肝・腎臓器クリアランスを決定する要因における取り込み過程の重要性

申請者は、ラットにおいて、4つの薬効群(HMG-CoA還元酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、ローラクタム系抗生物質)から、代謝を受けにくく、比較的肝腎振り分けの割合が多様な12化合物をモデル化合物として選択し、肝臓と腎臓からの消失過程における取り込み過程の重要性について検討を行った。

まず、臓器クリアランスの決定要因に占める取り込みクリアランスの重要性を明らかにするため、integration plot法によりin vivoにおける取り込みクリアランスを測定し、臓器クリアランスとの比較を行った。その結果、腎クリアランスが非常に小さい化合物を除くと、肝臓及び腎臓において、臓器クリアランスは、取り込みクリアランスから3倍以内の精度で予測できることを確認した。腎クリアランスが小さい化合物が予測から大きく外れた原因として、申請者は、尿中からの再吸収や、腎細胞中から血管側へのbackfluxの関与があるためであると考察している。

次に、申請都は、遊離肝細胞と腎スライスを用いたin vitro取り込み実験の結果から、in vivo臓器クリアランスが予測可能であるか検討した。in vitro実験とin vivo実験から求められた取り込み固有クリアランスの比較を行ったところ、肝臓においては概ね3倍以内の差であったが、腎臓においては、in vivoの値がin vitro実験の予測値の約10~100倍大きくなった。そこで、申請者は、腎スライスの厚みに注目し、スライス内への薬液の浸透を考慮した簡易モデルを用いて理論式を導き、補正を行った。また、遊離肝細胞・腎スライスを用いた取り込み実験の結果を補正した値を用いて、in vivo臓器クリアランスを予測した。その結果、取り込み律速でないことが示された腎クリアランスの小さい一部の化合物を除けば、概ね3倍程度の範囲で肝及び腎クリアランスの予測が可能であることを示した。また、これらの比から求められる消失の肝腎振り分け率についても一定の精度で予測が可能であることを示し、循環血中からの薬物の消失における肝腎振り分けを支配する要因として、各臓器への取り込み能力の重要性を示した。

2.肝臓における律速段階の変化が固有クリアランスに及ぼす影響に関する実験的考察

申請都は、肝臓でのクリアランスを決定付ける各素過程の能力の相対的な重要性について、理論的に導かれる結果を実験的に証明するために、排泄トランスポーターの遺伝子欠損動物および取り込み・排泄段階の阻害剤を利用することで考察を行った。

肝臓の胆管膜側に発現するMrp2を遺伝的に欠損するEisai Hyperbilirubinemic Rat(EHBIR)では、Mrp2基質薬物の肝臓から胆汁中への輸送能が大きく減少する。そこで申請者は、EHBRを用いて排泄輸送が阻害された場合の検討を行った。その結果、temocaprilatとbenzylpemcillin (PCG)において、EHBRで血中濃度基準の胆汁排泄クリアランスが大幅に減少した結果、胆汁排泄能力が血中へのbackfluxの能力より小さくなり、肝固有クリアランスは、取り込みクリアランスより小さい値になることを示した。これは、理論的に導かれた取り込み律速が破綻する条件と一致している。

さらに、SDラットに対して阻害剤を用いて、取り込み・排泄のトランスポーターをそれぞれ阻害した場合にういて検討した。取り込み過程の阻害剤としてrifampicin、排泄過程の阻害剤としてglycyrrhizin、基質は肝消失が取り込み律速であることがわかっているtemocaprilatを用いて、in vivo実験ならびに遊離肝細胞を用いたin vitro取り込み実験を行った。理論的考察どおり、rifampicinによって取り込み過程を阻害したときには、取り込み律速は成立しており、in vitro取り込み実験から予測されるクリアランスと実測の胆汁排泄クリアランスは近い値を示した。一方、glycyrrhizinによって排泄過程を強く阻害したときには、in vitro取り込み実験の結果から予測されるクリアランスは実測の胆汁排泄クリアランスより大きな値となり、取り込み律速が破綻することを示唆する結果を得た。

以上のように、申請者は、代謝を受けにくい医薬品では、多くの場合、臓器への取り込み過程の能力が、薬物の臓器からの消失を決定付ける要因であることを示した。一方、腎クリアランスが比較的小さい化合物では、臓器への取り込みクリアランスは、臓器クリアーランスと比較して非常に小さい値を示しており、細胞内から血管側へのbackfluxや尿中からの再吸収など、他の要因の関与が考えられる。また、取り込み過程を評価するin vitro実験系として、遊離肝細胞と腎スライスを用いた取り込み実験を用いた予測が比較的良好に成り立つことを示し、適切な補正係数を用いることで、in vitro実験の結果から臓器クリアランスを一定の精度で予測できることを示した。一方で、排泄過程が阻害されるなど、取り込み律速が破綻するようなケースでは、理論どおり取り込み能力だけから臓器クリアランスの予測はできなくなることを実験的に示した。

本研究は、代謝を受けにくい医薬品の臓器クリアランスが、取り込みクリアランスに良好に近似される傾向が見られ、固有クリアランスを決める要因として取り込み過程の能力が重要であることを示した。さらに遊離肝細胞や腎スライスを用いたin vitro取り込み実験を利用することで、適切な補正係数を用いることで、in vivoにおける取り込み能力を予測可能であることを示した。今回、一部の薬物で見出された、腎クリアランスが比較的小さい化合物については、backfluxや再吸収過程の関与について、今後、腎臓におけるそれらの分子メカニズムを解明することで、より正確な予測につながることが示唆されている。本研究の成果は、今後、医薬品開発の初期段階における肝細胞や腎スライスを用いた取り込み実験による肝腎クリアランスの予測法を提案するものである。また、複数の化合物を用いた横断的な解析を通じて、予測の程度や予測が成立する条件を実験的に示しており、薬物動態の理論を活用した応用研究として意義深いものである。よって、申請者を、博士(薬学)の学位を授与するに値するものと認めた。

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