学位論文要旨



No 123886
著者(漢字) 細井,一弘
著者(英字)
著者(カナ) ホソイ,カズヒロ
標題(和) モバイルディスプレイを用いた直感的なヒューマンロボットインタラクションに関する研究
標題(洋) Mobile Display Based Manipulation for Human-Robot Interaction
報告番号 123886
報告番号 甲23886
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(科学)
学位記番号 博創域第352号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 基盤情報学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 杉本,雅則
 東京大学 教授 近山,隆
 東京大学 教授 相田,仁
 東京大学 教授 相澤,清晴
 東京大学 教授 伊庭,斉志
 東京大学 准教授 苗村,健
内容要旨 要旨を表示する

本論文では人間と単機能ロボットとの直感的なインタラクションについて着目し,人間が直感的かつ簡単に操作できる操作手法"Mobile Display Based Manipulation"を提案する.ここで単機能ロボットとは,掃除ロボットのように人間との自然なコミュニケーションを実現するための機能を持たないものを指す.Mobile Display Based Manipulationは,シースルー型のディスプレイを用いてディスプレイ自体を動かすことでこのような単機能ロボットを操作する手法である.提案手法は,モバイルディスプレイによりロボットの状態を視覚的な情報で提示し,それ自体を動かすことでユーザ視点の直感的な操作を実現することができる.

本論文ではモバイルディスプレイとして,ハンドヘルドディスプレイとプロジェクションディスプレイをとりあげ,それぞれの実装例を説明する.ハンドヘルドディスプレイを用いたシステムでは,モバイルデバイス上の液晶ディスプレイを振ることで,ユーザ視点で直感的にロボットを操作することを実現している.また,プロジェクションディスプレイを用いた実装例では,小型ハンドヘルドプロジェクタの投影画面をモバイルディスプレイとして用い,ロボットに向けて投影することでロボットを操作する手法を提案している.

Mobile Display based Manipulationは,ユビキタス社会を想定したネットワークロボットシステムの可能性を広げることが期待できる.ネットワークロボットではロボットのセンサやアクチュエータを環境中に分散配置し,ロボット単体では実現できなかった高度なサービスを実現することである.本研究の目的はこの分散配置されたアクチュエータ(単機能ロボット)を知能化された環境外でも,誰もが直感的かつ簡単に利用できるようにすることである.

従来の遠隔操作インターフェースのようにグラフィカルユーザインターフェースやジョイスティックにより操作するのではなく,ロボットの操作になれていない人でも簡単にロボットを操作できるインターフェースを構築することを目的とする.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「モバイルディスプレイを用いた直感的なヒューマンロボットインタラクションに関する研究」と題され、8章からなる。本論文は、多様なロボットと共存する近未来の社会でのヒューマンロボットインタラクション技術について述べられている。携帯端末や携帯型プロジェクタによって実現されるモバイルディスプレイをロボット操作のインタフェイスと捉え、そのディスプレイを空間的に移動、回転させることで、ロボットに対する直感的な操作を実現する、というフレームワークを提案している。さらに、そのフレームワークに基づくシステムを実装するとともに、評価と応用についても議論している。

第1章では、「序論」として、本論文の研究背景と動機付けについて述べている。まず始めに、種々のセンサを搭載し、知的な情報処理を行う高価、高機能なロボットだけでなく、掃除ロボットに見られるような比較的安価で単機能なロボットが各家庭に入り込んでくるという近未来の人間社会のシナリオを描いている。そして、それらのロボットに対する直感的なインタラクションが、重要になることを示している。

第2章では、「ヒューマンロボットインタラクション」と呼ばれる新しい研究分野について概観し、関連研究を示すとともに、当該分野における本論文の位置づけを明確にしている。

第3章では、「Mobile Display based Manipulation」と呼ばれる新しいロボット操作手法についての提案を行っている。近年、社会への浸透が著しい携帯情報端末をロボットの操作インタフェイスとして利用するあたり、携帯情報端末のディスプレイ中にロボットを表示させ、ディスプレイを移動させることで、ロボットを操作するという考え方を示している。さらに、携帯端末のディスプレイをプロジェクタを介して実世界に投影することによって、ロボットを操作する、という考え方も提示している。

第4章では、「Mobile Display based Manipulation」のコンセプトに基づいて設計された1つ目の例として、Shepherdと呼ばれるシステムについて述べている。Shepherdでは、携帯端末に取り付けられたカメラでロボットを認識する。ユーザは、携帯端末を持って3次元空間でジェスチャを行うことで、ロボットを操作できる。本章では、Shepherdの実装の詳細と評価実験について示している。

第5章では、「Mobile Display based Manipulation」のコンセプトに基づいて設計された2つ目の例として、CoGAMEと呼ばれるシステムについて述べられている。CoGAMEでは、ハンドヘルドプロジェクタを介して投影画像をロボットに重ねることにより、拡張現実感環境を実現している。ロボットは、ハンドヘルドプロジェクタに取り付けられたカメラで認識される。プロジェクタを持ったユーザは、投影画像を回転させたり移動させたりすることで、ロボットを操作できる。本章では、CoGAMEの実装の詳細と評価実験について示している。

第6章では、「教育利用に向けたアプリケーション」として、ハンドヘルドプロジェクタによるロボット操作インタフェイスの教育への応用について述べている。例として挙げられているのは、ロボットプログラミング支援環境、およびストーリテリング支援環境の2つであり、Mobile Display based Manipulationと拡張現実感の特徴を生かしたシステムのデザインに関する検討が、具体的に示されている。

第7章では、前章までで示したシステムとその評価実験を通して得られたフィードバックに基づき、「Mobile Display based Manipulation」に基づくヒューマンロボットインタラクション技術の利点、欠点について議論している。

第8章では、本論文の結論と今後の展望について述べられている。

以上を要するに、本論文はロボットと共存する近未来社会において、直感的なロボット操作という観点から、ヒューマンロボットインタラクションの新しいフレームワークを提案し、その実現手法と効果に関する多面的な検討を行っている。さらに、そのフレームワークが応用可能な分野と具体的な設計指針を提示することで、ヒューマンロボットインタラクション分野の新たな可能性を展望している。したがって、本論文は情報学の基盤の発展に寄与するところが少なくない。

よって、博士(科学)の学位を授与できると認める。

UTokyo Repositoryリンク