No | 123887 | |
著者(漢字) | 味八木,崇 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ミヤキ,タカシ | |
標題(和) | 広域センシングのための映像処理 | |
標題(洋) | Video processing for wide area sensing | |
報告番号 | 123887 | |
報告番号 | 甲23887 | |
学位授与日 | 2008.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(科学) | |
学位記番号 | 博創域第353号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | 基盤情報学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文では広域センシングのための映像処理手法について提案する.近年セキュリティへの関心の高まりから,環境に設置された多様なセンシングデバイスを利用するサーベイランスアプリケーションなど,広域の公共空間を対象とした映像処理技術の重要性が増している.このようなアプリケーションの実現には,システムが利用ユーザを区別するための柔軟な個人識別手法や,信頼度の高い人物位置検出・追跡手法の確立が必要不可欠である.本論文では画像の「見え」を利用した個人識別手法,また,映像と電波強度情報を統合したセンサーフュージョンによる人物追跡手法について述べる. [ 画像の「見え」を利用した個人識別手法 ] これまで,実世界で匿名性を保持しつつ何らかのサービスを受けるためには,一般にチケット(切符)などが用いられてきた.本研究では個人の持ち物や,手書きのストロークをチケットとして用いる新しい枠組みを提案する.何らかの物体を鍵として利用することで入力を容易にすることができ,同時に利用者受容性の高いシステムの構築が可能であると考えている.具体的には画像による,"見え"を利用する.このように画像に基づく同定を行うことで,RFID のようにユーザ側で特別なデバイスを用いる必要がない. 本研究で検討する ID は,博物館をはじめとする公共空間に配置されたデジタルコンテンツ展示物における利用を想定している.本手法により,生体情報などの個人情報に深く関わる特徴量を利用せずに匿名性を維持しながら簡易認証として不特定多数の体験者を一意に同定することを目的としている.IDの利用により,例えば複数回その場を訪れた体験者向けにはコンテンツを変化させる,または同時にその場にいる体験者同士のコミュニケーションを創発するといった仕組みを実現が期待できる. 本論文ではこの実体型匿名ID のコンセプトと実現可能性を示すため,試作システムの構築を行いと精度評価を進めた.さらに利便性を実証するためのユーザテストを行った.このシステムでは紙に描かれた利用者の手書き図形の画像特徴量をID として登録することで,動画像からの個人の識別を可能にした.また,個人が自ら自分のIDを作成することで,ID 自体に親近感や実体性を感じることができる点が大きな特徴である. 画像特徴量としてはスケール不変の特徴量として知られるスケールスペース解析を基にした手法である SIFT を用い ID 登録時と認識時の撮影環境の違いに対してロバストなシステム設計を行った.スケール不変特徴量はそのアルゴリズム上,多重解像度の画像に対して複数回のフィルタリング処理を行う必要があるため,処理コストが高く,対話システムに求められる処理速度を実現することが難しい.そこでグラフィックスハードウェアを利用した並列処理により,スケール不変特徴量抽出処理の高速化を行った.このシステムを利用して,子供を対象としたワークショップ展示におけるユーザテストを実施し,有用性を支持する意見を得ることができている. [ 映像と無線による位置推定を統合した広域人物追跡手法 ] 複数カメラを利用した人物追跡技術は,サーベイランス応用の需要の高まりから,近年その重要性が増してきている.このため動画像からの対象の追跡性能の向上は非常に重要な基礎技術である.しかし,実環境では対象が他物体に遮蔽されてしまう,複数カメラの撮影範囲から外れてしまう,などカメラからの情報だけでは信頼性の高い追跡性能を得られないことが多い.この問題にたいして,より精度の高い追跡性能を実現するために,カメラからの出力動画像と共に,他種類のセンサー出力から得られる情報を利用して人物追跡の精度を向上するセンサーフュージョン手法が取り組まれてきており,過去にGPSを用いた方法や圧力感知式のフロアセンサーとカメラ映像を併用した手法,レーザーレンジスキャナを用いた手法などが提案されている.しかし,これらの手法は利用するセンサーの特徴から利用範囲を制限される場合が多い.例えばGPSであれば衛星電波の届かない屋内では利用することは難しく,フロアセンサーを広域に渡って敷き詰めるにはコストが高く現実的ではない.このことから,広範囲を対象とすることができ,簡易に利用できる測位システムの実現は広域分散カメラ環境でのサーベイランス応用技術にとって非常に有用である.近年,都市部において屋内外で利用できる公共無線LANサービスが提供されはじめており,そのサービスエリアは年々拡大してきている.IEEE 802.11で定められた無線LAN規格(Wi-Fi)を利用することで,本来通信のためにWi-Fiチップを搭載した小型携帯端末(PDA)や携帯電話を位置測定クライアントとしても利用することができる可能性があり,さまざまなアプリケーションが期待されている. 筆者らは,市街地に密に張り巡らされた無線LANアクセスポイント(Wi-Fi AP)から受信した電波強度を利用して,Wi-Fi 端末の現在位置を推定する手法と動画像による人物の追跡手法を併用する手法を提案し,屋外広域サーベイランスシステム上でのカメラ間に渡る追跡処理の向上に関する検討を行ってきた.画像内人物追跡には,時系列フィルタリング手法として知られるパーティクルフィルタを用いる. 本稿ではこのパーティクルフィルタ処理内での仮説群の評価にWi-Fi位置推定による対象の位置情報を反映することによって,異種センサーによる複合トラッキングを可能にした.カメラ映像による追跡処理に加えて,Wi-Fi 電波強度を利用した位置認識情報をも利用することで,混雑状況下やカメラ撮影境界などの画像のみでは追跡が困難な状況でも被写体人物の継続した追跡を可能にする手法について提案する.提案手法の有用性を示すために屋外環境で行った人物追跡実験について報告する. | |
審査要旨 | 本論文は,「広域センシングのための映像処理」と題し,6章よりなる.サーベイランスに見られるような環境に配置したセンサを用いて,人を追跡する,あるいは,同定するといった高次の処理により人の活動をとらえ,広い公共空間の中での様々なアプリケーションに展開する技術が現実味を帯びてきている.本論文では,人の同定と追跡に関しての新しい提案を行い,その検証を行っている.人の同定に関しては,実体型匿名IDという映像処理を介した新しいIDを論じている.人の追跡に関しては,複数カメラを用いた映像による追跡手法に加えて,無線LANによる位置検出と映像に基づく追跡を統合する手法を論じている. 第1章は,「序論」と題し,本論文の目的と背景,構成について論じている. 第2章は,「広域センシング」と題し,関連した課題や研究動向についてまとめている.RFIDやバイオメトリクスなどの既存のIDシステムをまとめ,人の同定に関しての本研究の位置づけを述べ,さらに,広域の映像サーベイランスに関する技術の動向をまとめ,人の追跡に関する本研究の位置づけをまとめている. 第3章は,「画像の"見え"を利用したIDセンシングシステム」と題し,利用者の所有するオブジェクトを撮像し,IDとして利用するシステムを提案し,実体型匿名IDと称している.利用者が日常携帯する持ち物や自らのサインなど,利用者固有のオブジェクトの画像を利用することで,IDを簡易に生成ることが出来る.具体的には,SIFT(Scale- Invariant Feature Transform)特徴量を用いることで,アフィン変換に頑健な特徴量を抽出し,それを登録することでIDとしている.その処理のフレームワークを論じ,さらに,高速処理を行うための,GPU(Graphics Processor Unit)を利用した実装手法についても論じている.テストデータによる評価に加えて,ミュジアムでの展示における実運用を介した評価を行った. 第4章は,「複数カメラ統合処理による追跡システム」と題し,公道沿いに設置した36台のカメラからなる屋外分散カメラシステムの構築について述べ,その多数のカメラを用いた人物の追跡処理について論じている.トラッキングの関連研究にふれ,パーティクルフィルタを3次元空間で適用する手法を提案している.仮説を3次元空間内に生成することにより,隣接カメラへのハンドオーバーを実現している.公道沿いのカメラ映像にて人物追跡の評価実験を行っている. 第5章は,「異種センサ統合型処理による広域追跡システム」と題し,前章の映像処理による追跡に加えて,無線LANの電界強度を利用した位置検出を併用するセンサフュージョンによる広域追跡システムについて論じている.無線LANを利用することで,映像取得の困難な場面でも利用者の位置を検出することができる.さらに,無線LANからの情報を元に,映像システムの視野に侵入してきたときには,映像を手がかりにより高い精度で追跡することができる.映像に基づくパーティクルフィルタの追跡の枠組みを拡張し,無線LANの位置情報を含めた追跡手法を提案している.公道沿いのカメラ,及び,柏の葉キャンパス駅前に設置したカメラでの実験を行い,追跡対象が視野への出入りがあったとしても追跡が行えることを確認している. 第6章は,「結論」と題し,本論文の成果と今後の課題をまとめている. 以上これを要するに,映像技術を用いた広い公共空間における人物のセンシングに関して,新しい個人のIDを提案するとともに,パーティクルフィルタを用いて,映像に基づく追跡と無線LAN位置検出を融合した追跡の枠組みを提案,評価したものであり,情報学の基盤に貢献するところが少なくない. 従って、博士(科学)の学位を授与できると認める。 | |
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