No | 123908 | |
著者(漢字) | 千坂,光陽 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | チサカ,ミツハル | |
標題(和) | 固体高分子形燃料電池における触媒層構造に関する研究 | |
標題(洋) | Catalyst layer structure in polymer electrolyte membrane fuel cells | |
報告番号 | 123908 | |
報告番号 | 甲23908 | |
学位授与日 | 2008.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(環境学) | |
学位記番号 | 博創域第374号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | 人間環境学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文は全4章で構成される. 第1章は研究の背景/目的について説明した. 第2章は「実験:有機溶媒及びMEA製作工程が触媒層構造に与える影響」と題し,全2節から構成される.ここで述べた触媒層構造の定義は, 触媒層の三相界面 触媒層の細孔分布 触媒層の厚み である.第2.1節「実験方法」では次節で行った実験方法について記述した.第2.2節「実験結果及び考察」は全2項から構成される.第2.2.1項「グリセリンが触媒層のマイクロ/ナノ構造に与える影響」においては,触媒インクに使用する有機溶媒としてグリセリンに着目し,(1)グリセリンの添加量および除去処理が触媒層の細孔分布に与える影響,(2)通常の製作工程により触媒層に残存するグリセリンが触媒層内に占める質量分率,(3)結果として得られる単セル発電性能特性を実験により解明した.第2.2.1項で得られた結論は以下の3点である. 1.グリセリンは触媒インクにおいて構成材料を分散させる役割を担っている.触媒インクにおけるグリセリンの濃度が低下すると,細孔容積が増加し,プロトン伝導率が低下するとともに三相界面が減少し,結果としてセル電圧の低下をもたらした.しかしながらグリセリンの濃度が増加すると,触媒層内にグリセリンが残存し細孔をブロックしてセル電圧が低下した.残存したグリセリンはスチーム処理を行うことにより除去することが可能である. 2.スチーム処理を行わないMEAに関しては触媒インクにおけるカーボンに対するグリセリンの質量比rgcを5としたときに最高の性能が得られる. 3.rgc=5のMEAとスチーム処理を行ったrgc>5のMEAの細孔分布及び発電性能はほぼ同等である. 第2.2.2項「有機溶媒が触媒層構造に与える影響」においては触媒インク溶媒としてエチレングリコール及びプロピレングリコールが触媒層構造に与える影響を調べ考察した.具体的には,(1) MEA製作工程が触媒層の細孔分布に与える影響を含め,触媒インク溶媒が触媒層の細孔分布に与える影響を解明した.ここでは考察のため,触媒インク溶媒に上述の2種類に加え,イソプロピルアルコールも使用して3種類のMEAを用いた.(2) これら2種類の触媒インク溶媒が触媒層の厚みに与える影響を解明した. (3)二種類の触媒層における白金使用量が発電性能に与える影響を解明し,(1)及び(2)の結果を用いて考察した.発電結果に対しては既存の経験式を用いて解析し,触媒層内の三相界面及び物質移動に対して考察した.第2.2.2項で得られた結論は以下の4点である. 1.触媒層におけるカーボンのアグリゲート間隙に起因する細孔直径は,パーフルオロスルホネートイオノマー(PFSI) が混合されることにより約20 nm増加する. 2.触媒層の直径約107 nm以下の細孔容積は触媒インク溶媒により制御され、イソプロピルアルコールに比べ沸点が高いエチレングリコール,プロピレングリコールを用いることで増加させることが可能である. 3.触媒層と固体高分子膜をホットプレスすることにより,触媒層の細孔直径が約30 nm程度小さくなる.PFSIが直径約107 nm以下の細孔内に浸入したと推定される. 4.エチレングリコールを触媒インク溶媒に使用して製作した触媒層はプロピレングリコールを触媒インク溶媒に使用して製作した触媒層に比べ(1)細孔容積が小さく,三相界面が大きいため0.1 A/cm2以下の低電流密度域においてはいかなる白金使用量でも高い電圧が得られる.(2)しかしながら0.94 A/cm2以上の高電流密度域において白金使用量を0.3 mg/cm2とした場合には低い電圧を示した.前者は後者に比べその厚みが1/1.3であり,空隙率が小さいため,より小さい白金使用量において物質の移動が性能を決定したと推定される. 第3章は「計算:カソードにおける配列型触媒層の設計」と題し,既存のアグロメレートモデルを改良して,数値計算により配列型カソード触媒層の構造を設計した.具体的には構成材料の配置,構成比,サイズ及び触媒層厚みが発電性能に与える影響を明らかにし,最大出力密度を得る構造を示した.第3章で得られた結論は以下の3点である. 白金使用量が大きいとき,すなわち触媒層厚みが大きく流束は小さいときには 1.発電性能は白金使用量にほとんど依存せず,最大出力密度を得るには配列構造を最適化しなければならない.電子伝導性チューブの中心間距離dに最適値が存在し,チューブ半径reの約2.8倍である. 2.配列構造のサイズ(re及びd)を1/aに低減することと電子伝導体表面にしめる白金表面積A1をa倍に増加させることが発電性能に同等の効果を持つ. しかしながら白金使用量が小さいとき,すなわち触媒層の厚みが小さく流束が大きいときには 3.発電性能は白金使用量に感度よく応答し,最大出力密度を得るには配列構造のサイズを低減し,電子伝導性チューブを可能な限り蜜につめる必要がある. 第4章は「結論」と題し,本研究全体を通して得られた知見をまとめた. | |
審査要旨 | 本論文は4章からなり、第1章は序論、第2章は「有機溶媒及びMEA製作工程が触媒層構造に与える影響」という表題で実験的研究について述べられており、第3章は「カソードにおける配列型触媒層の設計」という表題で理論的研究について述べられている。第4章は結論であり、研究全体を総括している。 本論文においては、固体高分子形燃料電池における触媒層を研究の対象とし、触媒層構造と電池の性能(電流-電圧特性)の関係を実験的、理論的研究により明らかにしている。固体高分子形燃料電池は、環境負荷の少ない小型高効率エネルギー源として期待されているが、作動温度が低いことによりカソードの酸素還元反応に起因する過電圧が大きくなり、その結果、触媒層においては多量の白金触媒を担持した炭素粒子が必要となる。現在の触媒層開発においては、触媒活性を向上させること、及び触媒表面への反応物質の輸送効率を向上させることが主要な研究テーマとなっている。本論文においては主に後者の移動現象に着目し、従来の一般的な方法により製作された触媒層構造の問題点を指摘し、理想的な触媒層構造を提案することを目的としている。 第2章「有機溶媒及びMEA製作工程が触媒層構造に与える影響」においては、触媒層製法の一つであるデカル法について、製作条件と最終的につくられる触媒層構造の関係を詳細に分析している。デカル法においては、最初に触媒層の構成材料である白金触媒を担持した炭素粒子やポリマーを溶媒に分散させて「触媒インク」を作成するが、この触媒インクに添加する有機溶媒の種類や量によって最終的につくられる触媒層構造が変化することを明らかにした。その上で、以下の2つの研究をおこなった。1つ目は、これまでにデカル法において使用されてきたグリセリンについて、グリセリンの添加量および除去処理が触媒層構造に与える影響、通常の製作工程により触媒層に残存するグリセリンの量、結果として得られる電流-電圧特性を実験により明らかにした。2つ目は、触媒インク溶媒としてエチレングリコール、プロピレングリコールおよびイソプロピルアルコールを用い、触媒層構造に与える影響を調べた。具体的には、触媒層製作の一工程毎に触媒層の細孔分布を計測し、有機溶媒の種類のみならず、各工程が触媒層の細孔分布に与える影響を明らかにした。また、最終的につくられる触媒層の厚みを計測し細孔容積を明らかにした。さらに、触媒インクの量(白金使用量)と電流-電圧特性の関係を明らかにした。特に低電流密度域の結果に対しては既存の経験式を用いて解析し、活性化分極と抵抗分極の大きさを定量的に評価した。 第3章「カソードにおける配列型触媒層の設計」においては、物質移動の抵抗が小さくなるように規則的に配列した触媒層を提案し、数値計算によりモデル触媒層の最適化を行った。具体的には触媒層の構成材料の配置、成分比、寸法が電流-電圧特性に与える影響を明らかにした。計算のモデルにおいては、電極反応、プロトンの移動、燃料ガス(酸素)の移動を考慮し、条件により、3つのうちのいずれかが律速過程となる。計算結果によれば、触媒量(白金使用量)が多い場合、すなわち触媒層が厚く、物質流束が小さい場合、電流-電圧特性は白金使用量にあまり依存せず、最大出力密度を得る配列構造の最適化が重要となる。一方、触媒量(白金使用量)が少ない場合、すなわち触媒層が薄く、物質流束が大きい場合、電流-電圧特性は白金使用量に大きく依存し、配列構造については、小さな単位で蜜に詰めるほど性能が上がることを示した。 本論文においては、全体を通して、固体高分子形燃料電池における触媒層構造を移動現象の視点から考察し、設計製作の指針を示すことができた。従来の一般的な方法により製作された触媒層構造の問題点を実験的研究により明らかにした点、および、触媒層構造の設計指針を理論的研究により提案した点が特に重要な結論である。いずれの章も論文提出者が主体的に行った研究をまとめたものである。 したがって、博士(環境学)の学位を授与できると認める。 | |
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