学位論文要旨



No 123919
著者(漢字) 小林,正朋
著者(英字)
著者(カナ) コバヤシ,マサトモ
標題(和) 日常的なグラフィカルユーザインタフェース操作の改善
標題(洋) Improving Everyday Graphical User Interface Operations
報告番号 123919
報告番号 甲23919
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(情報理工学)
学位記番号 博情第164号
研究科 情報理工学系研究科
専攻 コンピュータ科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 辻井,潤一
 東京大学 教授 萩谷,昌己
 東京大学 教授 宮野,悟
 東京大学 教授 暦本,純一
 京都大学 教授 西田,豊明
内容要旨 要旨を表示する

Graphical User Interfaces (GUI) based on Windows, Icons, Menus, and Pointers (WIMP) are now a global standard and we use them literally all day, everyday. They are widely considered to be superior to command-based interactions. However, many Fitts' law-related usability issues remain unsolved such as the difficulty in pointing distant object on a large screen. Dozens of attempts have been made to address these problems, including introduction of novel devices, novel GUI widgets, and intelligent algorithms to automate frequent operations. In contrast to these attempts to introduce completely new methods, we focus on partial modifications of existing GUI interactions. This is because small improvements can bring significant benefit to many people while minimizing developers' overhead to redesign a new system and users' overhead to learn it. In this thesis, we propose to exploit extra spatial information such as the location and movement of the mouse cursor to enrich standard GUI operations. By exploiting these previously not-intensively-used resources, we can enrich interactions with minimum modification to the familiar operations. Specifically, we propose the following four interaction techniques. 1) considering the direction of cursor movement to improve cascading menu traversal, 2) introducing throw-and-catch interaction to make drag-and-drop suspendable, 3) considering the position of the cursor to enhance wheel-based scrolling, and 4) introducing multiple distributed cursors to cover wide screens. We describe the design, implementation, and evaluation study of these techniques. We also present design implications based on our study. We hope our experience will lead to further improvements of standard GUI operations and provide valuable information for designing new interaction paradigms.

本論文は、「どのようなインターフェースをつくるのか」という最初の着想をどのようにして得るかという、これまでの研究では系統的に取り上げられてこなかったUI研究の、もっとも重要な段階に焦点を当てたものである。着想を得たのちは、その着想を実装し、実装結果による着想の良さの評価を行うことになる。

論文の第1章では、UI研究における本研究の立場、すなわち、すでにコンピュータ文化の基盤として定着しているWIMPの枠組みをできるだけ守ること、そのうえでより自然で操作性の高いインターフェースを開発する、という立場が明確に述べられる。そして、この立場の中で、最初の着想をえるためにはぐ「これまで有効に使われていなかった空間的、時間的な情報を積極的に取り込むごζで、従来の枠組みの自然な延長としてのインターフェースの着想を得る」という設計の指針を設定すると同時に、論文の全体構成が簡潔にまとめられている。

第2章では、カスケードされた階層型メニュの選択をより自然に効率よく行うためのシステム(D-Menu)の設計思想、実装、評価が述べられている。D-Menuは、ユーザによるマウス操作の方向性とマウスの位置の情報を使うことで、部分メニュを効果的に表示するもので、従来方式に比べて、メニュ選択の誤りを格段に減少させることに成功している。提案された方式は、メニュをサークルで表示するなどの、従来の方式を破壊的に変革していく方法とは対極に位置し、これまでの方式からの変化を最小し、かつ、望ましい効果を得る方式となっている点で、1章で述べられた設計思想を体現したものになっている。

第3章は、従来のDrag-and-dropの操作をThrow-and-Catchの操作に拡張することで、2つの操作(ThrowとCatch)の間により複雑な操作(Windowの切り替え、フォルダーの開閉、カーソルの長距離移動など)を許すもので、既存のDrag-and-Dropの操作性を格段に向上させている。2章のD・Menuに比べると従来方式からの逸脱があるが、基本の着想は、2つの操作(DragとDrop)でアイコン稼動を行うという従来の枠組みを踏襲し、最初の操作をThrow操作に変更するだけで、ユーザ棚に大きな負担をかけることなく操作性を上げることができることを示しており、ユーザにとって認知的な負担の少ない自然な拡張となっている。

第4章では、従来のスクロール操作の概念を変えることなく、スクロール時のマウスの位置という、あらたな情報を追加するだけで、水平・垂直スクロールの切り替え、ページ単位・行単位の切り替えを行うもので、ユーザによる余分な操作の追加がなく、これまで有効に使われてなかった情報(このシステムでは、マウスの位置情報)を活用することで、インターフェースの機能を豊富化するという、本論文の主張を具体化する良い例となっている。

第5章では、カーソルの移動をできるだけ少なくするために、画面上に複数のカーソルを表示し、単一操作でこれらすべてのカーソルを移動させることで、ターゲットの指定を簡単化するというNinjaCursorのシステムについて詳述している。ここでは、ユーザによるカーソルの小さな移動でユーザが意図するターゲット選択をする技術を開発し、その有効性を種々の条件下で検証している。手法の有効性が、カーソルの数、ターゲットの分布など、さまざまタスク要因によって変化すことが実験によって示される。

第6章では、背景技術、関連研究の関係を整理して述べ、論文の中核の主張である「基盤的なインターフェースの枠を大きく変えることなく、より豊かな情報を活用することで、インターフェースの操作性を上げる」という設計指針が4つの個別システムでどのように実現されたかを説得的に論述している。

以上をまとめると、本論文はユーザインターフェース研究の成果が実世界で使われるための条件をWIMPの枠組みとして簡潔に整理し、その枠の中で独創的なインターフェース機能を実現していくという設計方針のもとで、4つの具体的なシステムを設計、開発した独創的な研究となっている。文化として定着したWIMPの基本枠組みの自然な拡張という制限の中でも、非常に独創的なインターフェース設計が可能なことを示した点で、今後のユーザインターフェース研究の一つの方向を示すものとなっている。また、実際に実現された4つのシステムの完成度も高く、ユーザによる評価も丹念に行われている。

よって、本論文は博士(情報理工学)の学位論文として合格と認められる。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「どのようなインターフェースをつくるのか」という最初の着想をどのようにして得るかという、これまでの研究では系統的に取り上げられてこなかったUI研究の、もっとも重要な段階に焦点を当てたものである。着想を得たのちは、その着想を実装し、実装結果による着想の良さの評価を行うことになる。

論文の第1章では、UI研究における本研究の立場、すなわち、すでにコンピュータ文化の基盤として定着しているWIMPの枠組みをできるだけ守ること、そのうえでより自然で操作性の高いインターフェースを開発する、という立場が明確に述べられる。そして、この立場の中で、最初の着想をえるためには、冨これまで有効に使われていなかった空間的、時間的な情報を積極的に取り込むことで、従来の枠組みの自然な延長としてのインターフェースの着想を得る」という設計の指針を設定すると同時に、論文の全体構成が簡潔にまとめられている。

第2章では、カスケードされた階層型メニュの選択をより自然に効率よく行うためのシステム(D-Menu)の設計思想、実装、評価が述べられている。D-Menuは、ユーザによるマウス操作の方向性とマウスの位置の情報を使うことで、部分メニュを効果的に表示するもので、従来方式に比べて、メニュ選択の誤りを格段に減少させることに成功している。提案された方式は、メニュをサークルで表示するなどの、従来の方式を破壊的に変革していく方法とは対極に位置し、これまでの方式からの変化を最小し、かっ、望ましい効果を得る方式となっている点で、1章で述べられた設計思想を体現したものになっている。

第3章は、従来のDrag-and-dropの操作をThrow-and-Catchの操作に拡張することで、2つの操作(ThrowとCatch)の間により複雑な操作(Windowの切り替え、フォルダーの開閉、カーソルの長距離移動など)を許すもので、既存のDrag-and-Dropの操作性を格段に向上させている。2章のD・Menuに比べると従来方式からの逸脱があるが、基本の着想は、2つの操作(DragとDrop)でアイコン移動を行うという従来の枠組みを踏襲し、最初の操作をThrow操作に変更するだけで、ユーザ側に大きな負担をかけることなく操作性を上げることができることを示しており、ユーザにとって認知的な負担の少ない自然な拡張となっている。

第4章では、従来のスクロール操作の概念を変えることなく、スクロール時のマウスの位置という、あらたな情報を追加するだけで、水平・垂直スクロールの切り替え、ページ単位・行単位の切り替えを行うもので、ユーザによる余分な操作の追加がなく、これまで有効に使われてなかった情報(このシステムでは、マウスの位置情報)を活用することで、インターフェースの機能を豊富化するという、本論文の主張を具体化する良い例となっている。

第5章では、カーソルの移動をできるだけ少なくするために、画面上に複数のカーソルを表示し、単一操作でこれらすべてのカーソルを移動させることで、ターゲットの指定を簡単化するというNinjaCursorのシステムについて詳述している。ここでは、ユーザによるカーソルの小さな移動でユーザが意図するターゲット選択をする技術を開発し、その有効性を種々の条件下で検証している。手法の有効性が、カーソルの数、ターゲットの分布など、さまざまタスク要因によって変化すことが実験によって示される。

第6章では、背景技術、関連研究の関係を整理して述べ、論文の中核の主張である「基盤的なインターフェースの枠を大きく変えることなく、より豊かな情報を活用することで、インターフェースの操作性を上げる」という設計指針が4つの個別システムでどのように実現されたかを説得的に論述している。

以上をまとめると、本論文はユーザインターフェース研究の成果炉実世界で使われるための条件をWIMPの枠組みとして簡潔に整理し、その枠の中で独創的なインターフェース機能を実現していくという設計方針のもとで、4つの具体的なシステムを設計、開発した独創的な研究となっている。文化として定着したWIMPの基本枠組みの自然な拡張という制限の中でも、非常に独創的なインターフェース設計が可能なことを示した点で、今後のユーザインターフェース研究の一つの方向を示すものとなっている。また、実際に実現された4つのシステムの完成度も高く、ユーザによる評価も丹念に行われている。

よって、本論文は博士(情報理工学)の学位論文として合格と認められる。

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