学位論文要旨



No 123928
著者(漢字) じぇんなわしん,たなごーん
著者(英字) Jennawasin,Tanagorn
著者(カナ) ジェンナワシン,タナゴーン
標題(和) ロバスト半正定値計画および非線形制御系設計のための領域分割型アプローチ
標題(洋) A Region-Dividing Approach to Robust Semidefinite Programs and Nonlinear Control Design
報告番号 123928
報告番号 甲23928
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(情報理工学)
学位記番号 博情第173号
研究科 情報理工学系研究科
専攻 数理情報学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 杉原,正顯
 東京大学 教授 室田,一雄
 東京大学 准教授 松尾,宇泰
 東京大学 講師 寒野,善博
 南山大学 准教授 大石,泰章
内容要旨 要旨を表示する

Robust semidefinite programs (robust SDPs in short), which cover a wide range of applications in control, are considered in this thesis. We first provide a novel approach to a certain class of robust SDPs, whose decision variable is a finite-dimensional vector. Construction of an approximate problem to a given robust SDP is based on the sum-of-squares (SOS) approach. Unlike the conventional use of the SOS approach, however, the quality of approximation is improved by dividing the parameter region into several subregions. We prove that the optimal value of the approximate problem converges to that of the original problem as the resolution of the division becomes higher. The convergence result is {em quantitative} in the sense that an {em a priori} upper bound on the approximation error is available in terms of the resolution of the division. This bound shows a trade-off between the approximation error and the resolution of the division. The current approach can be straightforwardly extended to robust SDPs with a decision variable dependent on an uncertain parameter.

We also provide a numerically tractable condition to verify when an approximate problem involves no conservatism. This condition is obtained by observation on some structure of a dual feasible solution of the approximate problem.

An application of robust SDPs to nonlinear optimal control is also considered. We solve Hamilton-Jacobi-Bellman inequalities in order to find an upper bound and a lower bound on the optimal performance. The key idea is to represent a given nonlinear system into a special representation called a linear-like form. Based on this representation, searching for polynomial solutions of the Hamilton-Jacobi-Bellman inequalities can be cast as robust SDPs, which can be solved by the SOS approach. Improvement on the bounds can be done by increasing the degrees of the polynomial solutions. Stabilizing controllers can also be obtained from the solutions of the resulting robust SDPs.

審査要旨 要旨を表示する

工学的対象の設計においては,理想化された環境ではなく現実の環境において所期の性能を示すというロバスト性の実現が重要である.この工学的対象のロバストな設計のために,1998年Ben-Tal―NemirovskiとEl Ghaoui―Oustry―Lebretによって独立にロバスト最適化問題が提唱された.このロバスト最適化問題の中でも,ロバスト半正定値計画問題は特に重要であり,ロバスト制御系,ゲインスケジュールド制御系の設計に応用できる上に,基本的であるが重要な多変数多項式の最適化問題も包摂している.ロバスト半正値計画問題は,不確かなパラメータに依存する制約条件のもとで線形の目的関数を最適化する問題として記述されるが,厳密に解くことはNP困難であるため,現在,種々の近似解法が提案されている.なかでもScherer―Holによる2乗和多項式を使った近似解法が有力とされている.この方法では,与えられたロバスト半正定値計画問題の近似問題を2乗和多項式の概念を使うことで構成し,その最適値をもってもとの問題の最適値の近似とする.2乗和多項式の次数を大きくすることで,最適値の近似誤差をいくらでも小さくできるという漸近的厳密性が証明されている.しかし,実用的な問題に適用すると,この解法が与える近似問題はサイズが非常に大きくなり,計算量や計算精度の面で困難になることが多い.このような事情から,Scherer―Holによる近似解法に代わる実用的な近似解法の開発が強く望まれている.一方,ロバスト半正定値計画問題とその近似解法の出現によって,これまで解くことが困難とされていた工学上の問題が,ロバスト半正定値計画問題として定式化することにより,近似的にではあるが解けるようになっており,様々な分野でブレイクスルーが起きている.

本論文は「A Region-Dividing Approach to Robust Semidefinite Programs and Nonlinear Control Design」と題し,新しいロバスト半正定値計画問題の近似解法を提案し,その理論的性質を解明するとともに,非線形制御に関する新しい応用を示している.本論文は,第1章「Introduction」,第2章「Preliminaries」,第6章「Conclusions」,および主要部の第3章~第5章からなる.

まず,本論文の主要部である第3章「A Region-Dividing Approach to Robust SDPs」では,ロバスト半正定値計画問題に対する新しい近似解法とその特長を述べている.すなわち,従来の近似解法では仮定する2乗和多項式の次数を高くすることで近似誤差を小さくしていたのに対し,本論文では不確かなパラメータが値を取りうる領域を複数の部分領域に分割し,それぞれに対して異なる低次の2乗和多項式を仮定するというアプローチをとる.この場合,分割を細かくすることで近似誤差をいくらでも小さくできるが,特に本論文では,近似誤差の上界を分割の細かさの関数として与え,漸近的厳密性を定量的に示した.従来の近似解法では特別な場合を除いてこのような定量的結果は得られておらず,近似解法のより深い理解を与えるという点で意義がある.この結果は半正定値行列の巧妙な変形によって導かれており,特に著者の独自性が光る部分である.また本論文では,上記の誤差評価を精密化することで,近似誤差もサイズも小さい効率的な近似問題を作る方法を得ている.これに対応する方法も従来の近似解法では得られていない.さらに本論文では,従来の近似解法に比べて,提案する近似解法が数値誤差に対して頑健であることを数値実験によって示している.こうした結果は実用的な近似解法の開発という点で意義がある.

続いて,第4章「Robust SDPs with Functional Variables」では,第3章の結果を一般化して,関数の設計変数を持つ(したがって無限次元の)ロバスト半正定値計画問題について論じている.制御の分野でパラメータ依存Lyapunov関数という技術を使って不確かな制御系の設計や性能評価を行なう場合,このような問題を解く必要があり,したがって本章の議論は工学的意義の大きいものである.具体的には,このような問題に対する領域分割型の近似解法を構成し,その近似誤差の上界を与えている.また実際に近似解法を適用すると,比較的粗い分割のもとでも厳密な値に近い値がしばしば得られることを踏まえて,得られた結果が厳密であるかどうかを判定する方法を与えている.

主要部最後の第5章「Nonlinear Optimal Control」では,ロバスト半正定値計画問題およびその近似解法の応用として非線形システムの最適制御を論じている.2次の目的関数を最小化するように非線形システムを制御する問題は,Hamilton―Jacobi―Bellman方程式という非線形の微分方程式を解くことに帰着される.この方程式を解くことは一般に難しいとされているが,本論文では,方程式を不等式に変形したものを解くことによって最適値の上界と下界が求められることを示し,さらにその不等式を解くことがロバスト半正定値計画問題に帰着できることを示した.ロバスト半正定値計画問題およびその近似解法という新しい技術に基づいて,非線形制御という古典的な問題に新しい方法を与えたという点で意義がある.

以上を総合するに,本論文は,ロバスト性の実現のために重要なロバスト半正定値計画問題に対して新しい近似解法を提案し,その理論的性質を解明するとともに,非線形制御における新しい応用を提案しており,数理情報学の分野の発展に大きく寄与するものである.

よって本論文は,博士 (情報理工学) の学位請求論文として合格と認められる.

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