学位論文要旨



No 124042
著者(漢字) 鈴木,利宙
著者(英字)
著者(カナ) スズキ,トシヒロ
標題(和) Homeostatic Proliferationに伴う抗腫瘍効果誘導におけるCD28シグナルの役割
標題(洋)
報告番号 124042
報告番号 甲24042
学位授与日 2008.07.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3165号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岩倉,洋一郎
 東京大学 教授 清野,宏
 東京大学 准教授 高橋,聡
 東京大学 准教授 中島,淳
 東京大学 講師 別宮,好文
内容要旨 要旨を表示する

担がん患者の腫瘍内浸潤リンパ球(TIL)から誘導した腫瘍特異的CTLを用いた養子免疫療法に、抗現在によるリンパ球減少状態の誘導を組み合わせることにより、抗腫瘍効果が顕著に増強されることが知られている。近年では、エフェクター細胞の移入による抗腫瘍効果の増強のみならず、リンパ球減少状態の誘導により、通常では反応できないような抗原性の弱い腫瘍関連抗原(TAA)に対してナイーブT細胞のin vivoにおけるエフェクター細胞への分化が惹起される可能性が報告された。通常、外来性の抗原に対するT細胞の活性化には、TCRを介した抗原特異的な強いシグナル(第一のシグナル)と同時にCD28シグナルに代表される補助シグナル(第二のシグナル)が必要とされる。しかしながら、リンパ球減少状態において誘導されるT細胞の恒常性維持増殖(Homeostatic Proliferation: HP)に伴うナイーブT細胞の増殖、分化においては補助刺激シグナルの必要性が報告されていない。

本研究で、私はリンパ球減少状態に伴う抗腫瘍効果誘導に、ナイーブCD8+ T細胞が必要であること、また外来性抗原に対する免疫応答と同じく、HPに伴うナイーブT細胞からの機能的なエフェクター細胞への分化においてもCD28シグナルが必須であることを示した。CD28シグナルが欠損した場合、IL-2の全身投与を行っても、HPに伴う抗腫瘍効果誘導は見られなかったが、CD28シグナル存在下では、全身性のIL-2投与によりHPに伴う抗腫瘍効果の顕著な増強が観察された。以上の結果から、リンパ球減少状態においては、IL-7およびIL-15といった生体内のT細胞の総数および生存維持を調節する恒常性維持サイトカインにより、ナイーブCD8+T細胞の増殖が維持され、TCRとCD28シグナルによりエフェクター細胞としての機能的分化が誘導される可能性が示される。また、誘導された腫瘍特異的CTLの生存、増殖または細胞障害活性はIL-2により、顕著に増強されうる可能性を示した。

HPに伴いナイーブT細胞は、CD44highのメモリー様細胞へ分化することが報告されている。また、細胞表面マーカーのみでなく、in vitroでの抗原刺激に対しナイーブT細胞に比較して素早いサイトカイン産生能を示し、機能的にもメモリー様細胞に分化することが報告されている。そこで、私はCD28存在下または非存在下でのドナーCD8+ T細胞のリンパ球減少状態における分化について、細胞表面マーカーCD62L、CD44、CD25を指標とした解析を行った。その結果、HPに伴いドナーCD8+ T細胞は、CD44high CD62Lhigh CD25-のセントラルメモリー様(TCMP)細胞を経て、CD44high CD62Llow CD25-のエフェクターメモリー様(TEMP)細胞へ分化する可能性が示唆された。CD28シグナル非存在下では、このTEMP細胞分画の顕著な減少が見られ、またin vitroでの抗原ペプチド刺激に対しIFN-γを産生する細胞分画はTEMPであることから、HPに伴いCD28シグナル依存的にTEMPに分化することが、ナイーブT細胞の機能的なエフェクター細胞への分化、ならびに分化に伴い抗腫瘍活性を発揮するのに必要であると考えられる。

これまでの報告では、養子免疫療法において移入したエフェクター細胞が抗腫瘍効果を十分に発揮するためには、in vivoにおける抗原提示細胞との接触が必要であり、そのためにはCD62Lの発現に依存する所属リンパ節への浸潤が必要である。本研究により、担がんホスト体内においてHPに伴いナイーブCD8+ T細胞はCD62Lの発現を維持したまま、TCMP細胞を経てエフェクター細胞へ分化する可能性が示されたことから、これらの報告を踏まえ、HPに伴うナイーブCD8+ T細胞のCTLへの分化経路、ならびにCD62Lの発現が維持されることと抗腫瘍効果の関係について解析を続ける。

本研究において、HPに伴うナイーブT細胞によって誘導される抗腫瘍効果では、腫瘍の縮小は見られるが完全な拒絶に至らない場合も多く見られた。また、他の論文では、血管新生を伴い増大した腫瘍塊に対しては、抗腫瘍効果が非常に弱いことが報告されている。今後、HPに伴うナイーブT細胞による抗腫瘍効果誘導メカニズムを解析していくことは、IL-2など共通γ鎖サイトカインファミリーを応用した、さらなる抗腫瘍効果増強を目指すためにも重要であると考える。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、in vivoにおいて腫瘍関連抗原に対し特異的CTLを簡便かつ効率的に誘導することを目的とし、そのための手段としてT細胞のHomeostatic Proliferation(HP)を利用した抗腫瘍効果誘導について検討を行い、その結果について報告している。また、抗腫瘍効果誘導メカニズムの解析の一端として、T細胞活性化に重要な補助刺激分子であるCD28に注目し解析を行い、下記の結果を得ている。

1.放射線照射を行ったホストマウスに、同種同系のCD44low/ナイーブCD8+ T細胞を移入することで抗腫瘍効果が誘導可能であることがわかった。以上の結果から、リンパ球減少状態においてナイーブCD8+T細胞から腫瘍抗原特異的CTLが効率よく誘導されうることが示された。

2.これまでに、HPにおけるCD28シグナルの関与は報告されていない。そこで、HPに伴う抗腫瘍効果誘導にCD28シグナルが関与しているか、CD28KO マウスを用いるまたは抗体投与によりCD28シグナルを阻害することにより検討を行った。その結果、ドナーCD8+T細胞におけるCD28シグナルは、HPに伴う抗腫瘍効果誘導に必須であることが示された。

3.CD28シグナル非存在下でのHPに伴うドナーT細胞の分裂、ならびに細胞表面分子の発現について検討を行った。その結果、CD28シグナルが欠損した場合、分裂の早いCD62L-CD44highCD25- TEMP細胞分画が顕著に減少した。また、CD28シグナル非存在下では、抗原特異的なIFN-γ産生細胞の欠損が見られた。以上の結果から、HPに伴うTEMP細胞分画の誘導は、CD28シグナルにより調節されていることが示された。

4.CD28シグナルは、T細胞のIL-2転写活性の上昇を誘導する。そこで、CD28シグナル欠損による抗腫瘍効果の消失がIL-2産生の低下によるものか検討を行う目的で、HPの誘導初期ならびに後期においてIL-2投与を行った。その結果、CD28シグナル非存在下では、IL-2投与による抗腫瘍効果誘導は見られなかった。また、ドナーCD8+T細胞の分裂、細胞表面分子ならびにIFN-γ産生について検討を行ったところ、CD28シグナル非存在下で見られたTEMP細胞分画の減少ならびにIFN-γ産生細胞の消失は、IL-2投与により回復しなかった。以上の結果から、HPに伴う抗腫瘍効果誘導におけるCD28シグナルの役割は、IL-2産生誘導のみではないことが示された。

5.これまでに、エフェクター細胞を用いた養子免疫療法において、IL-2投与により抗腫瘍効果が増強することがわかっている。一方、HPはIL-2非依存的であることが報告されている。そこで、HPに伴いナイーブT細胞により誘導される抗腫瘍効果は、IL-2投与により増強されうるか検討を行った。その結果、低容量のIL-2投与によりHPに伴う抗腫瘍効果誘導は顕著に増強された。

以上、本論文により、リンパ球減少状態に伴うHPを利用することで、ナイーブT細胞を用いた養子免疫療法により抗腫瘍効果を誘導することが可能であることがわかった。また、これまでにHPにおけるCD28シグナルの関与が報告されていなかった点について、HPに伴うエフェクター細胞への機能的な分化においてCD28シグナルが必須であることを新たに報告している。さらに、HPに伴う抗腫瘍効果がIL-2投与により顕著に増強されることを確認し、ナイーブT細胞を用いた養子免疫療法のさらなる抗腫瘍効果の増強につながる足がかりを示している。これらの知見は、学術的な新規性において、また、簡便かつ汎用性の高い抗腫瘍免疫療法の開発といった点で新たな可能性を示すものであり、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク