No | 124091 | |
著者(漢字) | 小林,優介 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | コバヤシ,ユウスケ | |
標題(和) | 都市域における外部経済効果に基づく樹林地配置の評価 | |
標題(洋) | Evaluation of Forest Configuration by Externality in Urban Area | |
報告番号 | 124091 | |
報告番号 | 甲24091 | |
学位授与日 | 2008.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6860号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 都市域の樹林地は、周辺住民へやすらぎやうるおいを与える効果をはじめ、ヒートアイランドの低減、レクリエーションの場、生態系保全、大気の浄化や騒音の低減等、さまざまな環境効果をもたらしている。しかし、樹林地のもつ環境効果の多くは過小評価され、その結果樹林地の保全や創出を難しくさせていることが多い。これは、樹林地の価値を適切に評価されてこなかったためと考えられる。そこで、樹林地の環境保全機能等公益的機能によってもたらされる外部経済効果を評価する必要があると考えられる。これまでにも、公園緑地や樹林地の外部経済効果の評価の研究が多く行われてきた。ただ、その集塊や孤立、ネットワークといった配置の違いによる外部経済効果の評価についての研究は見られない。樹林地は総量が同じであってもその配置の違いにより全体の外部経済効果が変わってくると考えられる。そのため、外部経済効果の観点から樹林地の効果的な配置を評価することは今後の都市計画、緑地計画における樹林地配置の検討の際に重要であると考えられる。また、樹林地配置をラスターGISの個々のセルを単位とした絶対値による詳細な評価により、他の地域との比較評価や他の時点との比較評価が可能となる。そこで本研究では、樹林地配置をラスターGISの個々のセルを単位とした絶対値による詳細な評価手法の提案を行うこと、外部経済効果の観点から望ましい樹林地配置を検討すること、最適な樹林地の保全箇所や創出箇所とその政策について考察を行い外部経済効果に基づく樹林地配置評価手法の有効性を検討することを目的とする。 樹林地をはじめとした非市場財の外部経済効果の評価の手法として、これまでヘドニック・アプローチのほか、代替法、トラベル・コスト法(TCM)、仮想評価法(CVM)等が挙げられ、非市場財の外部経済効果の評価が試みられている。本研究では、これらの手法のうちヘドニック・アプローチを用いた。この理由として、ヘドニック・アプローチは地点別に評価が可能であり、樹林地の配置評価といった空間解析が容易であること、情報入手コストが少なくて済むため公示地価等のデータがあれば他の地域等への適用が容易に行えること等が挙げられる。そして、このヘドニック・アプローチを用いて樹林地の配置の違いによる樹林地の効果の評価を行い、外部経済効果の観点から樹林地の望ましい配置について考察を行った。 本研究では東京都23区を対象として分析を行った。まず、各区の緑の基本計画の収集を行い、そこから行政が進めている緑地の配置方針についてのキーワードの抽出とその記載状況の整理を行った。その結果、1.緑の不足地域の解消、緑のネットワークとして、2.緑の拠点、3.緑の軸、4. 緑と水のネットワーク、の4項目が重視されていることがわかった。 次に、緑の基本計画から抽出された4項目について、本研究においてラスターGISによる樹林地配置の評価手法を提案し、それに基づきヘドニック・アプローチによる外部経済効果の評価を行った。GISを用いた樹林地分布の分析においては多くがベクターGISを用いられてきた。しかしこの場合、樹林地の拠点や軸等の配置についての評価が難しい。そこで、ラスターGISの個々のセルを単位とした絶対値による樹林地配置の定量化手法の提案を行った。ここで個々のラスターセルを絶対値により評価することにより、他の場所や他の時点との比較評価が可能となる。そして、提案したこの手法をもとに、樹林地配置の違いによる外部経済効果について分析を行った。 その結果、住宅地から200mから400mまでの樹林地の効果が高く、特に300m以内の樹林地に対して効果が高いことがわかった。つまり概ね200mから400m以内に樹林地の少ない箇所に樹林地を創出することが外部経済効果を高めるといえる。これに基づき、樹林地の創出効果図の作成を行った。その結果、23区全体において水面と樹林地以外の箇所に樹林地を創出した場合の効果は、最大305千円/m2、平均129千円/m2となった。これらの結果図より、樹林地を創出すると外部経済効果の高い地域がセルを単位として、評価することが可能であることがわかった。次に、樹林地の拠点の外部経済効果の評価では、対数-線形型で距離減衰が0.5、樹林地ポテンシャルの範囲が50m、地価評価地点から樹林地の配置を評価する樹林地ポテンシャルの範囲が300mの場合に地価との相関が最も高くなった。そして、樹林地の半径が概ね50mから150mで周囲250mから300mの住宅地に対しての効果が高くなった。特に、半径が50mで周囲300mの住宅地に対しての効果が最も高くなった。つまり、樹林地の半径が概ね50mから150mで周囲250mから300mの住宅地への効果が高いため、このような関係にある樹林地が民有林の場合、積極的に保全していくことが望ましいといえる。これに基づき、住宅地における樹林地の外部経済効果の推定を行った。その結果、23区全体においては、最大250千円/m2、平均4,400円/m2となった。さらに、樹林地の住宅地への外部経済効果の推定を行った。その結果、最大388千円/m2、平均57千円/m2となった。このように拠点を考慮することで、樹林地の優先すべき保全箇所、またその外部経済効果および住宅地における外部経済効果の推定が可能であることがわかり、今後の都市計画・緑地計画に活用可能であることがわかった。次に、樹林地の拠点と拠点を結ぶ軸の外部経済効果の評価を行った。その結果、軸については有意な結果が得られなかった。続いて、樹林地の水面への近接性による樹林地の外部経済効果の評価を行った。その結果、水面から100mもしくは150m以内の樹林地はそれより遠い樹林地よりも外部経済効果が高くなり、統計上有意であることがわかった。 そして、樹林地の創出のための評価と、樹林地の拠点の評価について各区の評価結果と、各区における緑地政策との考察を行った。各区における緑地政策については、緑の基本計画の整理とともに、各区における緑地政策担当者へのヒアリングを行った。その結果、樹林地の割合からではわからない大きな樹林地の拠点や、小さな樹林地の拠点、もしくは孤立した樹林地の評価、また樹林地の外部経済効果の評価、樹林地を創出した場合の外部経済効果の評価を行うことができることがわかった。このことより、本研究が対象とした東京都23区だけでなく、他の地域や他の時点における外部経済効果に基づく樹林地の配置評価への本手法の適用が有効であると考えられる。 ただ、本研究における評価では、樹林地を創出した場合の外部経済効果の図について、住宅地を樹林地に変える場合にはその住宅地への効果が含まれているため過大評価になってしまうこと、住宅地内の微小な緑被が抽出できておらず過大評価になっていることが課題として挙げられる。しかし、樹林地の創出効果図は相対的に創出が効果的な場所を把握する上で有効であることがわかった。 ヒアリング結果から、民有の樹林地が相対的に多く存在する区においてはその樹林地の規模に応じた保全策をとっていることがわかった。公園緑地の創出については、検討していても創出できない区も見られた。一方で、公園緑地の少ない地域に積極的に創出を進めていこうとする区も見られた。また外部経済効果の図について、図示は現況を捉える行政にとって有効な研究とのご意見をいただいた。また、外部経済効果による樹林地の保全・創出は考えていないという区も見られた一方で、これらの図が今後の緑地政策に有効との回答をいただいた区もあった。これらのことから、外部経済効果に基づく樹林地の評価は有効であることがわかった。しかし、その評価によって樹林地の保全や創出の政策を行うのは現状では難しい区もあることがわかった。 今後の課題として、本研究で用いたヘドニック・アプローチには精度の問題点が指摘されており、他の手法との比較検討を行う必要があると考えられる。また、微小な緑被の評価を行う必要があると考えられる。そして、樹林地における植生の違い、当該樹林地への一般市民がアクセスできるかどうかの違い等について評価を行う必要があると考えられる。さらに、今後の都市計画や緑地計画で樹林地配置の検討を行う際には、本研究による地価に基づく外部経済効果だけでなく、生物多様性保全、水源涵養、気候緩和等の効果の評価を含めて総合的に検討を行う必要があると考えられる。 以上、本研究において樹林地の分布の定量化の手法の提案とそれによる樹林地の配置方針に基づく外部経済効果の評価を行った。本研究で提案した手法を用いることで、今後の都市計画、緑地計画において、外部経済効果の観点による樹林地の望ましい保全箇所や創出箇所といった配置への活用が可能と考えられる。 | |
審査要旨 | 都市域の樹林地は、さまざまな環境効果をもたらしている。しかし、その多くは過小評価され、その結果樹林地の保全や創出を難しくさせていることが多い。これは、樹林地の価値を適切に評価されてこなかったためと考えられる。そこで、樹林地の外部経済効果を評価する必要があると考えられる。その際、樹林地は総量が同じであってもその配置の違いにより全体の外部経済効果が変わってくると考えられるため、外部経済効果の観点から樹林地の効果的な配置を評価することは今後の緑地計画等における樹林地配置の検討の際に重要であると考えられる。そこで本研究では、樹林地配置の詳細な評価手法の提案を行うこと、外部経済効果の観点から望ましい樹林地配置を検討すること、外部経済効果に基づく樹林地配置評価手法の有効性を検討することを目的とする。 樹林地をはじめとした非市場財の外部経済効果の評価の手法として、本研究ではヘドニック・アプローチを用いた。この理由として、ヘドニック・アプローチは地点別に評価が可能であり、樹林地の配置評価といった空間解析が容易であること等が挙げられる。そして、樹林地の配置の違いによる樹林地の効果の評価を行い、外部経済効果の観点から樹林地の望ましい配置について考察を行った。 本研究では東京都23区を対象として行政が進めている緑地の配置方針についてのキーワードの抽出とその記載状況の整理を行った。次に、緑の基本計画から抽出された4項目について、本研究においてラスターGISによる樹林地配置の評価手法を提案し、それに基づきヘドニック・アプローチによる外部経済効果の評価を行った。そして、提案したこの手法をもとに、樹林地配置の違いによる外部経済効果について分析を行った。 その結果、住宅地から300m以内の樹林地に対して効果が高いことがわかった。これに基づき、樹林地の創出効果図の作成を行った。これらの結果図より、樹林地を創出すると外部経済効果の高い地域がセルを単位として評価することが可能であることがわかった。次に、樹林地の拠点の外部経済効果の評価では、対数-線形型で距離減衰が0.5、樹林地ポテンシャルの範囲が50m、地価評価地点から樹林地の配置を評価する樹林地ポテンシャルの範囲が300mの場合に地価との相関が最も高くなった。これに基づき、住宅地における樹林地の外部経済効果の推定及び樹林地の住宅地への外部経済効果の推定を行った。このように拠点を考慮することで、樹林地の優先すべき保全箇所、またその外部経済効果および住宅地における外部経済効果の推定が可能であることがわかった。次に、樹林地の拠点と拠点を結ぶ軸の外部経済効果の評価を行った。その結果、軸については有意な結果が得られなかった。続いて、樹林地の水面への近接性による樹林地の外部経済効果の評価を行った。その結果、水面から100mもしくは150m以内の樹林地はそれより遠い樹林地よりも外部経済効果が高くなり、統計上有意であることがわかった。 そして、樹林地の創出のための評価と、樹林地の拠点の評価について各区の評価結果と、各区における緑地政策との考察を行った。各区における緑地政策については、緑の基本計画の整理とともに、各区における緑地政策担当者へのヒアリングを行った。その結果、樹林地の割合からではわからない樹林地の拠点等の評価、また樹林地の外部経済効果の評価、樹林地を創出した場合の外部経済効果の評価を行うことができることがわかった。このことより、本研究が対象とした東京都23区だけでなく、他の地域や他の時点における外部経済効果に基づく樹林地の配置評価への本手法の適用が有効であると考えられる。 ただ、本研究における評価では、樹林地を創出した場合の外部経済効果の図について、住宅地内の微小な緑被が抽出できておらず過大評価になっていること等が課題として挙げられる。しかし、樹林地の創出効果図は相対的に創出が効果的な場所を把握する上で有効であることがわかった。 ヒアリング結果から、外部経済効果の図について、図示は現況を捉える行政にとって有効な研究とのご意見をいただいた。また、外部経済効果による樹林地の保全・創出は考えていないという区も見られた一方で、これらの図が今後の緑地政策に有効との回答をいただいた区もあった。これらのことから、外部経済効果に基づく樹林地の評価は有効であることがわかった。しかし、その評価によって樹林地の保全や創出の政策を行うのは現状では難しい区もあることがわかった。 今後の課題として、本研究で用いたヘドニック・アプローチには精度の問題点が指摘されており、他の手法との比較検討を行う必要があると考えられる。また、微小な緑被の評価を行う必要があると考えられる。さらに今後の緑地計画等では、地価に基づく外部経済効果だけでなく、生物多様性保全等の効果の評価を含めて総合的に検討を行う必要があると考えられる。 本論文の新規性は、人工衛星画像を利用して樹林地の配置の評価手法を提案し、ヘドニック・アプローチを用いて外部経済効果から樹林地配置の評価を行ったことにある。その結果、樹林地の保全に際しての望ましい規模とその価値、また樹林地の創出に際しての望ましい箇所を明らかにし、行政へのヒアリングからその有効性を確認することができた。この結果は、都市計画や緑地計画における樹林地保全・創出政策への貢献は大きい。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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