No | 124109 | |
著者(漢字) | バディ,モハメド マハメド ファラリィ | |
著者(英字) | Bady,Mohammed Mahmoud Farghaly | |
著者(カナ) | バディ,モハメド マハメド ファラリィ | |
標題(和) | 風洞実験とCFDによる都市域の汚染拡散と風力換気の有効性の研究 | |
標題(洋) | Study of Pollutants Dispersion and Wind Ventilation Effectiveness in Urban Areas through CFD Simulations and Wind Tunnel Experiments. | |
報告番号 | 124109 | |
報告番号 | 甲24109 | |
学位授与日 | 2008.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6878号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 建築学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1.はじめに 近年の大都市部における窒素酸化物(NOX)や粒子状物質(SPM)等による密集市街地の大気汚染は、排ガス規制など種々の施策にもかかわらず、むしろ悪化の傾向を示している。これは市街地の高層化や道路の複層化など、高密度な空間利用による風通しの悪さにより、都市域の換気効率が低下すると共に、汚染質が密集市街地内で滞留するためと考えられる。密集市街地の汚染拡散は風環境に依存するので、汚染拡散を制御するために、その風環境または通風換気効率を十分調べる必要がある。 本論文は、風洞実験とCFD (Computational Fluid Dynamics)を基本として、密集市街地において良好な空気環境を確保するため、汚染拡散と通風換気性能を総合的に検討することを目的としている。研究内容は密集市街地汚染質拡散予測手法の確認、風洞実験とCFDを用いた密集市街地における風環境評価、局所排出換気回数と平均運動エネルギーに関する超過確率に基づく風環境評価法を用いた密集市街地内の換気効率の評価及びCFD逆解析による汚染源の探知から構成される。 2.都市域汚染質拡散予測手法の確認 都市域の汚染質拡散予測のため、Gaussianモデルが用いられている。Gaussianモデルは計算コストが少ない一方、建物の考慮が難しく、解析精度に限界がある。コンピューターの進展により、CFDによる数値解析は都市建築分野で広く用いられてきた。CFDは複雑市街地に対応でき、高精度な3・次元風速、スカラー等の分布を提供できる。ここでは、実在複雑密集市街地において、GaussianモデルとCFDモデルを用いて、汚染質拡散を予測し、その精度を比較した。 比較した結果、建物の少ない領域では、Gaussianモデルの結果とCFDモデルの結果は概ね一致するが、建物が密集している領域では、Gaussianモデルの予測精度はかなり落ちている。結論として、Gaussianモデルの計算コストは少ないが4密集市街地での予測には不向きである。 よって、本研究では、汚染質拡散の数値予測はCFD手法を用いる。 3.風洞実験とCFDを用いた密集市街地における風環境評価 密集市街地の風環境を把握するため、風洞実験とCFDシミュレーションを行った。密集市街地モデルはミニ開発住宅地(いわゆる一反開発の集積された住宅地)をモデル化したものである。また、密集度の異なる三種類のモデルを用いた。16風向を変化させ、検査空間内の平均風速、平均濃度と壁面風圧分布を測定した。戸建て建物で構成された密集市街地モデル(モデル1)では、市街地の方位による換気機能の差異は小さく、戸建て建物間の間隙が有効に働くことを確認した。また、間隙めない一連の建物(モデル2)であっても、道路の一方の開口が有効に働いて、方位による差異はあるものの、換気機能はさほど低下しないことを確認した。周囲を一連の建物で囲われた戸建て建物群(モデル3)であっても、必ずしも換気機能は低下せず、周囲の一連の建物が換気能力を強くする場合もあることを示した。また、CFDモデルの精度を検証するため、CFDモデル計算と比較し、一致した結果が得られた。 4.超過確率に基づく風環境評価法を用いた密集市街地内の換気効率の評価 市街地の上空風は通風換気の源であるが、上空風の風向や風速が変化すると、市街地内の気流状況や換気性状が変化し、気流・換気性状が想定とは大きく異なってしまう場合がある。したがって、市街地風環境を評価する際には、特定の風向と風速だけを適用した予測結果をもって風環境を評価するのではなく、統計データに基づく年間の風向・風速の発生確率を使用して、総合的に市街地の風環境を予測・評価することが必要である。本研究では、密集市街地内の換気効率を評価するため、超過確率に基づく風環境評価法を用いた。指標として、統計データに基づく年間の風向・風速の発生確率を使用して、プロファイルを仮定した上空風の駆動によるその領域の局所排出換気回数に対する超過確率、および平均運動エネルギーに対する超過確率を定義した。局所排出換気回数が清浄化機能を代表する尺度、平均運動エネルギーが清涼化機能を代表する尺度と考えられる。 三種類の密集市街地モデルの局所排出換気回数と平均運動エネルギーに対する超過確率分布を日本の9都市について検討した。都市の風況特性により、主として卓越風向の存在が、各モデル間の超過確率分布の違いを広げることを示した。超過確率15%、85%に対応する都市・モデル別の局所排出換気回数値と平均運動エネルギーを算出し、都市の風による清浄化能力と清涼化能力の一つの評価方法を示した。 以上により、超過確率に基づく風環境評価は密集市街地の計画段階では有用であることを示した。 5. CFD逆解析による汚染源の探知 汚染質制御の第一段階として、センサーにより検知された濃度により、結果(現在)から原因 (過去)を推定する「逆解析」を流れ場に適用し、汚染質源を探知する手法の開発を試みた。時間逆転シミュレーションでは、「負の拡散」が生じ、計算が発散してしまう。ここでは、「負の拡散」に対する対策として、数値振動を抑えるフィルターを導入した。単棟建物を用いて、CFD逆解析を行い、その有効性を示した。 6.おわりに 密集市街地において良好な空気環境を確保するため、風洞実験とCFD (Computational Fluid Dynamics)を基本として、その汚染拡散と通風換気性能を総合的に検討した。局所排出換気回数と平均運動土ネルギーに関する超過確率に基づく風環境評価法を用い、密集市街地内の換気効率の評価し、その有用性を示した。また、汚染質制御の第一段階として、CFD・逆解析による汚染源の探知も試みた。 | |
審査要旨 | 本論文は、「Study of Pollutants Dispersion and Wind Ventilation Effectiveness in Urban Areas through CFD Simulations and Wind Tunnel Experiments(風洞実験とCFDによる都市域の汚染拡散と風力換気の有効性の研究)」と題して、風洞実験とCFD(Computational Fluid Dynamics)を基本として、密集市街地において良好な空気環境を確保するため、汚染拡散と通風換気性能を総合的に検討することを目的としている。研究内容は密集市街地汚染質拡散予測手法の確認、風洞実験とCFDを用いた密集市街地における風環境評価、局所排出換気回数と平均運動エネルギーに関する超過確率に基づく風環境評価法を用いた密集市街地内の換気効率の評価及びCFD逆解析による汚染源の探知である。 本論文は以下のように構成されている。 第1章では、「都市における汚染拡散と通風換気」の現状について概観し、密集市街地の汚染拡散は風環境に依存し、汚染拡散を制御するために、その風環境または通風換気効率を十分調べる必要があることを述べ、本研究の目的、並びに本論文の構成を示している。 第2章では、「都市における汚染拡散と通風換気」に関する既往の研究について概観している。汚染質拡散の特徴、換気効率評価指標、都市境界層の特性について述べている。 第3章では、本研究で用いられるCFD数値シミュレーション手法に関して概説している。 第4章では、「都市域汚染質拡散予測手法の確認」として、GaussianモデルとCFDモデルの精度確認を行っている。実在複雑密集市街地において、GaussianモデルとCFDモデルを用いて、汚染質拡散を予測し、その精度を比較している。比較した結果、建物の少ない領域では、Gaussianモデルの結果とCFDモデルの結果は概ね一致するが、建物が密集している領域では、Gaussianモデルの予測精度はかなり落ちている。結論として、Gaussianモデルの計算コストは少ないが、密集市街地での予測には不向きである。よって、本研究では、汚染質拡散の数値予測はCFD手法を用いる。 第5章では、本研究で密集市街地の風環境を評価するために用いられている局所排出換気回数と平均運動エネルギーについて概要を述べている。局所排出換気回数が清浄化機能を代表する尺度、平均運動エネルギーが清涼化機能を代表する尺度と考えられることを論じている。 第6章では、密集市街地の風環境を把握するため、風洞実験とCFDシミュレーションを行っている。密集市街地モデルはミニ開発住宅地(いわゆる一反開発の集積された住宅地)をモデル化したものである。また、密集度の異なる三種類のモデルを用いている。16風向を変化させ、検査空間内の平均風速、平均濃度と壁面風圧分布を測定している。CFDモデル計算と比較し、一致した結果が得られている。戸建て建物で構成された密集市街地モデル(モデル1)では、市街地の方位による換気機能の差異は小さく、戸建て建物間の間隙が有効に働くことを確認している。 第7章では、局所排出換気回数と平均運動エネルギーに関する超過確率基づく風環境評価法を述べた後、三種類の密集市街地モデルの局所排出換気回数と平均運動エネルギーに対する超過確率分布を日本の9都市について検討している。都市の風況特性により、主として卓越風向の存在が、各モデル間の超過確率分布の違いを広げることを示している。超過確率15%、85%に対応する都市・モデル別の局所排出換気回数値と平均運動エネルギーを算出し、都市の風による清浄化能力と清涼化能力の一つの評価方法を示している。超過確率に基づく風環境評価は密集市街地の計画段階では有用であることを示唆している。 第8章では本論文をまとめ、今後の更なる課題を示している。 最後に、今後の課題の一つ、汚染質制御の第一段階として、CFD逆解析による汚染源の探知を試みている。 以上を要約するに、本論文は風洞実験とCFD解析により、密集市街地において良好な空気環境を確保するため、風洞実験とCFD(Computational Fluid Dynamics)を基本として、その汚染拡散と通風換気性能を総合的に検討している。局所排出換気回数と平均運動エネルギーに関する超過確率に基づく風環境評価法を用い、密集市街地内の換気効率を評価し、その有用性を明らかにしている。また本研究における風洞模型実験における風速分布、濃度分布及び圧力分布測定の結果は、都市における汚染拡散の数値モデルの開発、評価に用いられる重要なデータベースとなるものであり、都市・建築の環境工学及び風工学に寄与するところは非常に大である。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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