学位論文要旨



No 124123
著者(漢字) 林,慈朗
著者(英字)
著者(カナ) ハヤシ,イツロウ
標題(和) 遠心式流体機械を含む配管系で発生する圧力脈動評価法
標題(洋)
報告番号 124123
報告番号 甲24123
学位授与日 2008.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6892号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 金子,成彦
 東京大学 教授 松本,洋一郎
 東京大学 教授 鎌田,実
 東京大学 教授 須田,義大
 東京大学 教授 加藤,千幸
内容要旨 要旨を表示する

1.序論

遠心式流体機械が生じる圧力脈動に関しては,これまでにも多くの研究が行われており,脈動発生特性と機器の設計因子の関係について有益な知見が得られている.また,近年ではCFDによって,式流体機械単体が発生する圧力脈動に関しては,定量的に予測できるようになってきた.しかしながら,遠心式流体機械による配管内の脈動応答に関しては,配管内共振時の特性について解明されていない点があり,実用的な評価手法が構築されていなかった.したがって,本研究では,プラント内の流体機械周りの配管および配管系に接続された容器の設計に適用可能な実用的な圧力脈動評価法を構築するために,配管内共振時の脈動特性を解明することを目的とした.特にこれまで適切に評価されていなかった遠心式流体機械内部の減衰特性を解明し,その評価手法を構築することを主眼とした.

2.計算モデル

遠心式流体機械によって励起される配管内の圧力脈動の計算手法に関して,遠心式流体機械内部でインペラの回転に伴い羽根通過周波数で発生する圧力脈動を励振源周辺の検査体積内の流体に作用する外力として評価し,1次元の波動モデルにより,励振部の運動方程式を構築した.本モデルにおける励振力の扱いは流体音響理論で圧力騒音と呼ばれる双極子音源と等価である.また,配管内共振時の脈動応答を評価するために,配管内の弁やオリフィスなどの集中抵抗,管摩擦損失および圧縮機内部の圧力損失による減衰をエネルギーの観点から評価した.配管系内で生じる速度二乗形の非線形減衰と等価なエネルギーを失うように圧縮機励振部に対して集中定数の形で等価抵抗係数を導入し,配管内共振時の脈動応答を算出する手法を構築した.本計算手法は1次元の配管内脈動応答のみならず,3次元容器内の脈動応答評価にも適用でき,且つ,脈動応答の計算では配管内の減衰を考慮する必要がない(無減衰で計算する)ことから,汎用の音響解析コードが利用できる.したがって,非線形減衰を扱う特殊な計算プログラムが不要であるため,工業上の利用価値は極めて高いものである.

3.実験装置および方法

本研究で構築した配管内圧力脈動の計算手法の妥当性を検証するために実験を実施した.実験では,遠心圧縮機と同様の脈動発生機構を有する遠心ポンプを励振源とし,作動流体には空気を用いた.本研究で評価対象とした配管内共振時の圧力脈動計測の不確かさに関しては,共振周波数に関して最大0.3%,脈動振幅に関しては最大3.3%であり,実験データとして十分な精度を有していることを示した.また,圧縮機の励振力の算出方法に関して,異なる配管レイアウトにおいて圧縮機運転中に吸入配管からスピーカによる音響加振を行い,圧縮機の伝達マトリックスを算出した上で,インペラがボリュート舌部を通過する際に生じる羽根通過周波数成分の励振力を求める手法を示した.

4.共振時の脈動特性

遠心圧縮機によって励起される配管内圧力脈動に関して,圧縮機を含む配管系システム全体の非線形減衰を表す等価抵抗係数を用いた1次元波動モデルによる検討結果を示した.計算結果と実験結果との比較検討により,第2章で述べた本計算モデルの妥当性を示し,共振時を含む配管内の脈動特性を明らかにした.特にこれまで明確な説明が与えられていなかった共振周波数における励振源設置位置と最大脈動振幅の関係が,本モデルによって評価できることを示し,圧縮機を含む配管系内の非線形減衰によって脈動振幅の大きさが支配されていることを明らかにした.また,本モデルによって配管内脈動応答を算出する上での評価手法の適用範囲,計算精度および配管内脈動応答の特徴に関して以下の知見を得た.

・本モデルにより,配管内の共振周波数を実用上十分な精度(誤差7%以内)で評価することができる.

・ヘルムホルツ数Heが少なくとも0.1程度までは,1次元波動として,圧縮機内の脈動を扱うことができる.

・圧縮機励振力に関しては,実験的に算出することができ,本実験条件においてはインペラ外周速度の2乗に比例するものとして評価できる.

・圧縮機励振力を,励振部に作用する外力としてモデル化することで,非共振周波数における圧力脈動振幅の不連続性が説明できる.なお,このモデルは双極子音源に対応している.

・圧縮機設置位置を変えても励振力の大きさは変化せず,最大脈動振幅は主に減衰の大きさに支配されている.

・非共振周波数においては,励振力は励振部前後の圧力差と釣合い,慣性項の寄与は小さい.

・慣性項は共振周波数に影響を与える.

5.運転条件が減衰特性に及ぼす影響

遠心圧縮機の運転点が配管内の脈動応答に及ぼす影響を明らかにするため,実験により,各運転点における脈動応答に関して検討を行った.特に圧縮機運転点と圧縮機の減衰特性の関係を把握するために,脈動流に対する圧縮機内部の抵抗係数(以下,圧縮機内部の抵抗係数とする)を実験的に算出する手法を構築した.その結果,低流量域では,圧縮機内部の抵抗係数は等価線形流速に支配されていることが明らかとなった.算出した圧縮機内部の抵抗係数を用いた1次元波動モデルによる検討から,平均流0を含む幅広い運転範囲に対して,圧縮機設置位置によらず本モデルにより配管内脈動応答が予測できることを示した.また,圧縮機内部の抵抗係数および配管内脈動応答に関し,以下の事項を明らかにした.

・定格運転点以上の流量域においては,圧縮機運転点が圧縮機内部の抵抗係数に与える影響は小さい.

・圧縮機内部の抵抗係数は,等価線形流速を用いたレイノルズ数Reによって整理され,低Re領域(Re<100)ではReに反比例する.また,低Re領域ではインペラの回転が圧縮機内部の抵抗係数に与える影響は小さい.

・オリフィスによる脈動低減効果は,圧縮機を含む系全体の減衰に対するオリフィスの減衰の割合と関係しており,平均流0の場合には,オリフィス設置による脈動低減効果は殆どない.

・高周波数帯域での圧縮機・配管系の動的安定性判別では,圧縮機内部のインピーダンス実数部の符号のみでなく,抵抗係数の符号を用いる必要がある.

6.3次元性の考慮を要する配管系内の圧力脈動特性

配管に3次元性の考慮を要するドラムが接続された系において,遠心圧縮機が生じる圧力脈動に対するドラム内の3次元脈動応答を評価するために,前章までに構築してきた1次元の配管内圧力脈動の評価モデルを3次元の音響要素モデルに拡張した.本3次元モデルでは配管内流速に依存した速度二乗形の非線形減衰を,圧縮機励振部の集中抵抗として扱うことにより,配管内脈動応答の算出においては,無減衰で計算を行うことが可能となるため,汎用の音響解析コードが適用できることを示した.構築した3次元モデルを用いた検討結果から,配管内と容器内の共振周波数が近接した場合に発生する音響動吸振効果に関しても,本モデルにより良好に評価できる.また,ドラム内減衰,ドラム内音響モードの影響で,ドラム内共振時に配管・ドラム接続部の圧力振幅が大きくなる場合には,配管内共振周波数とドラム内共振周波数が数%ずれた条件でドラム内脈動応答が最大となることを明らかにした.なお,ドラム内脈動応答の評価手法に関して,配管とドラムを分離した計算手法と一体型モデルとの比較検討により,分離型モデルではドラム内脈動応答が実際より大きく算出されるため,機器の防振の観点からは安全側の設計が可能となることを示した.

7.結論

これまでに示した研究結果から,遠心式流体機械によって励起される配管内および配管系に接続された容器内の圧力脈動に関して,流体機械を含む配管系内の速度二乗形の非線形減衰をエネルギーの観点から評価することで,配管内共振時の脈動応答特性が明らかになった.また,本研究結果に基づき,流体機械内部が1次元の波動モデルとして扱うことができる小型の圧縮機,送風機および大型のポンプに関して,プラント内の配管および容器設計に適用可能な実用的な脈動評価手法が構築された.

今後の課題としては,流体機械の励振部を1次元で扱うことができない高周波数領域において,共振時の応答特性を解明することで,配管内の脈動評価手法の適用範囲を拡大することが望まれる.

審査要旨 要旨を表示する

学位請求論文は,「遠心式流体機械を含む配管系で発生する圧力脈動評価法」と題し,全6章から構成されている.

遠心式流体機械が原因で生じる圧力脈動に関しては,これまでにも多くの研究が行われており,脈動発生特性と機器の設計因子の関係について有益な知見が得られている.また,近年ではCFDによって,遠心式流体機械単体が発生する圧力脈動に関して,定量的に予測できるようになってきた.しかしながら,遠心式流体機械による配管内の脈動応答に関しては,配管内共振時の特性について未解明の点が残されており,実用的な評価手法は構築されていない.

このような背景を踏まえて,本論文は,プラント内の流体機械周りの配管および配管系に接続された容器の設計に適用可能な実用的な圧力脈動評価法を構築するために,配管内共振時の脈動特性を解明することを目的とし,これまで適切に評価されていなかった遠心式流体機械内部の減衰特性を解明し,脈動評価手法の構築を行ったものである.

第1章は,「序論」と題し,従来の関連する研究についての概観と本論文中で展開されている研究の位置付けについて述べている.

第2章は,「計算モデル」と題し,遠心式流体機械内部でインペラの回転に伴い羽根通過周波数で発生する圧力脈動を,励振源周辺の検査体積内の流体に作用する外力として評価し,1次元の波動モデルにより,励振部の運動方程式を構築している.また,配管内共振時の脈動応答を評価するために,配管内の弁やオリフィスなどの集中抵抗,管摩擦損失および圧縮機内部の圧力損失による減衰をエネルギーの観点から評価した.本計算手法は,1次元の配管内脈動応答のみならず,3次元容器内の脈動応答評価にも適用でき,非線形減衰を扱う特殊な計算プログラムが不要であるため,汎用の音響解析コードが利用できるとの利点を持ったものである.

第3章は,「実験装置および方法」と題し,本研究で使用した実験装置について述べている.実験では,遠心圧縮機と同様の脈動発生機構を有する遠心ポンプを励振源とし,作動流体には空気を用いている.また,圧縮機の励振力の算出方法に関しては,異なる配管レイアウトにおいて圧縮機運転中に吸入配管からスピーカによる音響加振を行い,圧縮機の伝達マトリックスを算出した上で,インペラがボリュート舌部を通過する際に生じる羽根通過周波数成分の励振力を求める手法を用いている.

第4章は,「共振時の脈動特性」と題し,遠心圧縮機によって励起される配管内圧力脈動に関して1次元波動モデルによる検討結果を示している.計算結果と実験結果との比較検討により,第2章で述べた本計算モデルの妥当性を示し,共振時を含む配管内の脈動特性を明らかにした.特に,これまで明確な説明が与えられていなかった共振周波数における励振源設置位置と最大脈動振幅の関係が,本モデルによって評価できることを示し,圧縮機を含む配管系内の非線形減衰によって脈動振幅の大きさが支配されていることを明らかにしている.

第5章は,「運転条件が減衰特性に及ぼす影響」と題し,遠心圧縮機の運転点が配管内の脈動応答に及ぼす影響を明らかにするため,各運転点における脈動応答に関して検討を行った結果を纏めている.特に,圧縮機運転点と圧縮機の減衰特性の関係を把握するために,脈動流に対する圧縮機内部の抵抗係数を実験的に算出する手法を提案している.

第6章は,「3次元性の考慮を要する配管系内の圧力脈動特性」と題し,配管に3次元性の考慮を要するドラムが接続された系において,遠心圧縮機が生じる圧力脈動に対するドラム内の3次元脈動応答を評価するために,前章までに構築してきた1次元の配管内圧力脈動の評価モデルを,3次元の音響要素モデルに拡張している.構築した3次元モデルを用いた検討結果から,配管内と容器内の共振周波数が近接した場合に発生する音響動吸振効果に関しても,本モデルにより良好に評価できることを示している.

第7章は,結論と題し,本研究で得られた知見について纏めて述べている.

以上を要約すると,本論文は,遠心式流体機械によって励起される配管内および配管系に接続された容器内の圧力脈動に関して,流体機械を含む配管系内の速度二乗形の非線形減衰をエネルギーの観点から評価することで,配管内共振時の脈動応答特性を明らかにしたものである.研究の成果は,流体機械内部が1次元の波動モデルとして扱うことができる小型の圧縮機,送風機および大型のポンプを含む配管系および容器設計に適用可能な実用的な脈動評価手法を提案したことにあり,本研究は,機械工学,特に流体関連振動学の発展に貢献するところが大きい.

よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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