学位論文要旨



No 124128
著者(漢字) 金,長吉
著者(英字)
著者(カナ) キム,ジャンギル
標題(和) 非平面上のマイクロパターン製作のためのソフトリソグラフィ技術に関する研究
標題(洋) A Study on Development of Softlithographic Technology for Micro Patterning on Non-planar Surfaces
報告番号 124128
報告番号 甲24128
学位授与日 2008.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6897号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 金,範
 東京大学 教授 須賀,唯知
 東京大学 教授 下山,勲
 東京大学 教授 川勝,英樹
 東京大学 教授 藤井,輝夫
内容要旨 要旨を表示する

1960年代、フォトリソグラフィ技術が半導体生産工程に導入されて以来、微細パターニング技術は現代産業を支える基盤技術の一つとしてある。実際に小さいパターンの製作は微細電極及びエッチング用マスク、微細構造物の製作など、高集積化過程の基礎技術であり、製品の小型化・軽量化を追求する現在の産業分野に必須である。このような趨勢につれて、大量生産に適している安価で高スループットの高解像度パターニング技術の開発は現在最も関心が持たれているトピックスの一つである。しかし、現時点のパターニング技術が適えなければならない条件はこのような生産性だけではない。現在の微細加工技術は工学分野全般に渡り使われている状況である。このような応用範囲の拡張は、結局それほど様々な環境の製作工程を求まなければならないことを示す。曲面基板又はフレキシブルな基板などの微細パターニング工程は、現在マイクロエレクトロニクス、超小型駆動装置、マイクロセンシングデバイス、フレキシブルディスプレーなど、その応用性が高くなっている。しかしながら、主に半導体工程を中心として発展して来た従来の技術はそのような要求を満たさせない場合が多い。例えば、現在微細加工技術のコア技術と呼ばれるフォトリソグラフィは硬いフラットのフォトマスクを使用しており、非平面上には基板との完全な接触が出来なく、微細パターニングが困難である。現在、3次元基板上へのマイクロパターニング技術としてビームライティング、インクジェット液滴パターニング法、薄膜輪郭除去法、レーザープリント法、凸版シリンダーを用いた高精細印刷法などの手法が提案されているが、まだ10μm以下の微細パターンを安価でかつ容易にできるパターニング技術に関する研究事例は少ない。

本研究の目的はソフトリソグラフィ技術を用いて非平面基板上に適している新規マイクロパターニング方法を開発することである。柔らかいポリマー基板の材料を用いるソフトリソグラフィ技術は非平面上にもより柔軟な対応ができると言われる。なお、従来の光学リソグラフィ技術と比べ、比較的簡単で環境の制約が少ない、かつ低コストという長所があり、最近次世代リソグラフィ技術の一つとして関心を引いている。代表的なソフトリソグラフィ技術には、マイクロコンタクトプリンティング(μCP)、ナノインプリンティング等があり、色々な非平面上でサブミクロンスケールのパターニングまで成功した事例がある。しかし、実際的な産業工程に適用することにはまだいくつかの問題が残っている。それから、非平面上、例え3次元的な曲面上へのマイクロパターニングを実現した研究事例は少ない。

本研究では、このような問題点を着目し、自己組織化単分子膜(SAM)を用いたソフトリソグラフィ技術として主に図1に示す三つの研究を行い非平面上のマイクロパターニングのための新しいソフトリソグラフィ手法を考案した(図1)。

まず、μCP技術を応用した液中ローラープリンティング法を用いて曲面上にマイクロパターンを転写する(図1の1))。体表的なソフトリソグラフィ技術と呼ばれるμCP技術は、高分子ポリマースタンプを用いて微細パターンを直接基板上に写す手法であり、低コストで解像度の高いパターニングを大量で均一に製作できる。さらに、柔らかいポリマースタンプは非平面基板上にも密着されパターンを転写することが可能で曲面基板にも適している技術だと言える。しかし、現在のμCP技術は産業工程に実用化および商用化するのにまだ以下の問題点らがあげられる。スタンプのチップの変形、スタンプの曲り、SAM分子の拡散など、幾つかの弱点による再現性高いナノパターニングの実現での問題である。近年、このような弱点を改善するために基本的なμCP法を拡張した技術として、例えばSAMの拡散を減らす方法、複合スタンプを用いる方法等が開発されている。

本研究では、今まで報告された改善策らに基づいて"液中プリンティング技術"の開発に取り組んだ。まず、この技術の効用性を検証するため、ピラミッド型のスタンプを製作し、その先端部を用いて平面上に様々な条件でμCP実験工程を行う。その結果、スタンピング中接触時間に対するSAM分子の拡散現象とスタンピング力に対するスタンプチップの変形に因るパターンの変化を定量的に分析し、液中プリンティング技術が上記の問題点の改善に効果があることを証明した。

最終的にローラスタンプを用いた液中μCP 技術を試して曲率半径2mm以上の曲面基板上にマイクロパターンを製作し、液中μCPを通じて曲面パターニング法の可能性を検証した(図2)。今後、この技術はSAM以外に金属インク、バイオ物質などの多様な物質を用いて曲面マイクロデバイスの製作に応用し、その拡張性を広げると期待される。なお、roll-to-roll手法を通じてフレキシブルな基板上のマイクロパターニングにも適用が出来ると考えられる。

一方、フレキシブルなポリマー基板上へのマイクロパターンの製作に関して、SAMの表面エネルギー差を用いたマイクロ金属パターン転写技術を考案した(図1の2))。様々な機能性を持つSAMを用いた表面処理法は、比較的簡単な操作で基板表面に親水性、疎水性等の表面特性を与える。我々はこのような手法を用いて、先に製作されたマイクロス金属パターン上に親水性SAMを処理して、疎水性の固いSi基板上からフレキシブルなポリマー表面上に転写する (図3)。工程中に金属パターン上にしわが発生する問題が発生したが、それはPDMSフィルムの分離方法改善及び硬化条件調整を通じて解決した。なお、分離力テストとAFMフォースカーブを通じて各物質の表面エネルギーを測り、材料の応用適合性を検証した。

この技術は最近のMEMS技術分野に関心を引いているポリマーエレクトロニクス装置及びフレキシブルディスプレーなど、その応用価値が高い。従来のパターニング技術、例えフォトリソグラフィ等の手法は柔軟性基板に対して取り扱いが難しい問題があり、形成された金属パターンの安定性を持つことの問題に反して、パターン転写技術は硬い基板上に簡単に微細パターンを作り、ポリマー表面に挿入される形態に金属パターンを製作するので、電機的な安定性がもっと高くなる。さらに、3次元のポリマー構造物にもパターンの製作が可能になる長所がある。追ってこの転写技術は、バイオセンシング用のポリマーデバイス及び生体細胞のインピーダンスを3次元的に測定するデバイスの製作に応用する計画である。

さらに、新規ソフトリソグラフィ技術として、曲面上の光学ソフトリソグラフィ法を提示する(図1の3))。本技術は非平面上のマイクロパターニングのため考案した新概念技術であり、従来のフォトリソグラフィとソフトリソグラフィの長所を纏めたハイブリッド型パターニング技術である。工程の基本的な原理はフレキシブルなフィルム型フォトマスクを従来のフォトリソグラフィに導入することである。フレキシブルなフォトマスクは上記に提案された金属パターン転写技術を用いて製作する。このような方法で作られたフィルム型マスクは非平面上にも完全に密着することが可能になり、従来のフォトリソグラフィにあった基板制約の問題点を解決する。

その結果、様々なマイクロ金属パターンが曲率半径2mm以上の曲面上に転写された(図4)。フレキシブルなフィルム型マスクの製作中に金属パターンにしわが発生したが、最後の本工程のパターニング結果には殆ど影響がなく、微細パターンの製作ができた。さらに、この技術を用いて曲面上に高A/Rのポリマー構造物の製作が出来るようになり、追って応用光学デバイスの製作可能性も見せた。なお、製作されたフィルム型マスクは繰返し実験を通じてその再使用性を検証した。

光学ソフトリソグラフィ技術は安価で高スループットの製作ができるソフトリソグラフィに現在半導体工程のコア技術としているフォトリソグラフィ技術を応用して非平面状のマイクロパターニング技術を実現してあり、次世代リソグラフィ技術の新規手法の一つとして今後の応用と実用化が期待される。追って我々はこの技術を用いて超小型機械装置の製作に取り組んでいる。

以上の三つのソフトリソグラフィ法を通じて、非平面基板上へのマイクロパターニング技術の開発に関して本研究を行った。この技術は従来のリソグラフィ技術では困難であった曲面基板及びフレキシブルな基板上に10μm以下のマイクロパターンをより簡単に製作することのみならず、安価でかつ高スループットの工程を通じて大量生産への応用可能性も示した。追って、この技術をもちいて超小型電子デバイス、機械駆動装置、ポリマーエレクトロニクス、薄膜型電子装置の製作など、現在の微細加工技術の応用拡張性を広くすると期待される。

図1. 研究概要

図2.ローラースタンプを用いた液中プリンティング技術による曲面パターニング (HDT/Au pattern)

図3. PDMS基板上へ転写されたマイクロ金属パターン(金及び銅パターン)

図4.光学ソフトリソグラフィ技術を用いて製作した3次元曲面上のマイクロパターン及びマイクロポリマー構造物

審査要旨 要旨を表示する

本論文は,ソフトリソグラフィ技術を用いて非平面基板上に適している新規マイクロパターニング方法を開発するものである。

現在微細加工技術のコア技術と呼ばれるフォトリソグラフィは硬いフラットのフォトマスクを使用しており、非平面上には基板との完全な接触が出来なく、微細パターニングが困難である。現在、3次元基板上へのマイクロパターニング技術としてビームライティング、インクジェット液滴パターニング法、薄膜輪郭除去法、レーザープリント法、凸版シリンダーを用いた高精細印刷法などの手法が提案されているが、まだ10μm以下の微細パターンを安価でかつ容易にできるパターニング技術に関する研究事例は少ない。そこで、柔らかいポリマー基板の材料を用いるソフトリソグラフィ技術は非平面上にもより柔軟な対応ができると言われる。なお、従来の光学リソグラフィ技術と比べ、比較的簡単で環境の制約が少ない、かつ低コストという長所があり、最近次世代リソグラフィ技術の一つとして関心を引いている。代表的なソフトリソグラフィ技術には、マイクロコンタクトプリンティング(μCP)、ナノインプリンティング等があり、色々な非平面上でサブミクロンスケールのパターニングまで成功した事例がある。しかし、実際的な産業工程に適用することにはまだいくつかの問題が残っている。それから、非平面上、例え3次元的な曲面上へのマイクロパターニングを実現した研究事例は少ない。

本論文では、このような問題点を着目し、自己組織化単分子膜(SAM)を用いたソフトリソグラフィ技術として主に三つの研究を行い非平面上のマイクロパターニングのための新しいソフトリソグラフィ手法を考案した。

まず、μCP技術を応用した液中ローラープリンティング法を用いて曲面上にマイクロパターンを転写する技術を開発した。代表的なソフトリソグラフィ技術と呼ばれるμCP技術は、高分子ポリマースタンプを用いて微細パターンを直接基板上に写す手法であり、低コストで解像度の高いパターニングを大量で均一に製作できる。しかし、現在のμCP技術は産業工程に実用化および商用化するのにまだ以下の問題点らがあげられる。スタンプのチップの変形、スタンプの曲り、SAM分子の拡散など、幾つかの弱点による再現性高いナノパターニングの実現での問題である。近年、このような弱点を改善するために基本的なμCP法を拡張した技術として、例えばSAMの拡散を減らす方法、複合スタンプを用いる方法等が開発されている。本論文では、今まで報告された改善策らに基づいて"液中プリンティング技術"の開発に取り組んだ。まず、この技術の効用性を検証するため、ピラミッド型のスタンプを製作し、その先端部を用いて平面上に様々な条件でμCP実験工程を行った。その結果、スタンピング中接触時間に対するSAM分子の拡散現象とスタンピング力に対するスタンプチップの変形に因るパターンの変化を定量的に分析し、液中プリンティング技術が上記の問題点の改善に効果があることを証明した。最終的にローラスタンプを用いた液中μCP 技術を試して曲率半径2mm以上の曲面基板上にマイクロパターンを製作し、液中μCPを通じて曲面パターニング法の可能性を検証した。今後、この技術はSAM以外に金属インク、バイオ物質などの多様な物質を用いて曲面マイクロデバイスの製作に応用し、その拡張性を広げると期待される。

一方、フレキシブルなポリマー基板上へのマイクロパターンの製作に関して、SAMの表面エネルギー差を用いたマイクロ金属パターン転写技術を考案した。この技術は最近のMEMS技術分野に関心を引いているポリマーエレクトロニクス装置及びフレキシブルディスプレーなど、その応用価値が高い。

さらに、新規ソフトリソグラフィ技術として、曲面上の光学ソフトリソグラフィ法を提示した。本技術は非平面上のマイクロパターニングのため考案した新概念技術であり、従来のフォトリソグラフィとソフトリソグラフィの長所を纏めたハイブリッド型パターニング技術である。工程の基本的な原理はフレキシブルなフィルム型フォトマスクを従来のフォトリソグラフィに導入することである。フレキシブルなフォトマスクは上記に提案された金属パターン転写技術を用いて製作した。このような方法で作られたフィルム型マスクは非平面上にも完全に密着することが可能になり、従来のフォトリソグラフィにあった基板制約の問題点を解決する。その結果、様々なマイクロ金属パターンが曲率半径2mm以上の曲面上に転写された。

以上の三つのソフトリソグラフィ法を通じて、非平面基板上へのマイクロパターニング技術の開発に関して本研究を行った。この技術は従来のリソグラフィ技術では困難であった曲面基板及びフレキシブルな基板上に10μm以下のマイクロパターンをより簡単に製作することのみならず、安価でかつ高スループットの工程を通じて大量生産への応用可能性も示した。追って、この技術をもちいて超小型電子デバイス、機械駆動装置、ポリマーエレクトロニクス、薄膜型電子装置の製作など、現在の微細加工技術の応用拡張性を広くすると期待される。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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