No | 124131 | |
著者(漢字) | 中沢,俊彦 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ナカザワ,トシヒコ | |
標題(和) | 設計プロセスのモデリングと設計品質の可視化手法に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 124131 | |
報告番号 | 甲24131 | |
学位授与日 | 2008.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6900号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 環境海洋工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1. はじめに 製品開発活動の中核部分を構成する設計プロセスは,ほとんどの場合、設計者の暗黙知によって形成されており,一般的に,どのような内容がどのような手順で検討され,決定されるかを外からうかがい知ることは困難である.この為,設計活動の結果として生成される設計情報に内在する設計品質に関わる情報は,設計活動の最終的な成果物として図面やCADデータなどに明示的に記述され之情報より推定するか,設計情報を試作品や実際の製品,もしくはシミュレーションモデルによって具現化した後,テストを実施することによって確認しなければ,明らかにすることはできない.通常は,これらの方法を併用して設計情報の品質が検証されているが,図1に示すように設計品質の全てが検証されているわけではない. 近年の,製品の複雑化,短納期化などの環境変化なども手伝って,設計品質の不足を製品開発活動の中で全て潰しこむことがますます難しくなってきており,その結果としての欠陥要因を内包したまま製品が市場に出ることによって引き起こされる市場でのトラブル数は増加の一途を辿っている.本論中でも述べているように,その対策費用は膨大な規模となっており,製造業において,設計情報の品質を適切に管理することは差し迫った課題となっている. 2. 本研究の目的 設計情報の品質を管理する最も基本的かつ普遍的な手段は設計情報が具現化された実物に対するテスト検証である.しかしながら,実物の製作には,多くの時間とコストが必要となること,また実物の製作は,通常,製品開発プロセスの後半で行われることから,その時点で大きな問題が発覚すると,その修正によって製品の市場投入が遅れてしまうなど,設計情報の品質管理の全てを開発プロセス後半のテスト検証に頼ることには不都合が多い.そこで,現実には実物の製作前に設計情報の品質を向上させるための多くの設計情報の検証が行われている.最も典型的な方法としては,FMEAやFTA,チェックリスト,デザインレビューなどの方法による設計情報そのものの検証がある.また,近年ではコンピュータ技術の向上も手伝って,有限要素法などに代表される計算モデルを用いたシミュレーションによる検証も盛んに行われるようになっている(図2). 本研究では,これら既存の設計情報の品質管理方法を補完するために,図3に示すように設計情報を導出する設計プロセスそのものの質を管理し,向上させることを提案している.生産現場での標語ともなっている「品質はプロセスで作りこむ」というポリシーを設計現場においても実現する第一歩として,設計プロセスの質を可視化することによって,結果的に設計プロセスの質の向上と,そこから創出される設計情報の品質向上が達成されることを狙いとしている. 3. 設計プロセス品質を管理するためのアプローチ 設計プロセスの品質を管理するために,本研究では設計プロセスのモデル化と,モデル化された設計プロセスの質の測定という2段階のステップを踏んでその実現を目指している.第1段階では設計プロセス全体がどのような構成要素によって成り立っているかを把握し,第2段階でプロセスの個々の構成要素の品質を測定するという2段階の手順を踏むことによって網羅的な品質の把握を実現するのである(図4). このような2段階の手順を踏むことには大きな利点がある.それは設計プロセスの品質を測定するという複雑な作業を進めるに当たって,(1)プロセスの構成要素把握と,(2)プロセス品質の把握という異なる作業を同時並行で進めることによる分析作業上の混乱を回避できるという点である.このステップバイステップの作業手順によって,分析作業の困難さを分散することができ,作業全体が途中で頓挫してしまうリスクが大幅に低減されることができるのである. 4. 設計プロセスのモデル化に関する研究 設計プロセスをモデル化するにあたっては,上述の,設計者の頭の中にあるあやふやなプロセスの導出とプロセスの構成要素間の複雑な関係を明示化するための手段の実現が求められる. 本研究で採用している手法では,図5に示すように設計プロセスの構成要素を段階的に抽出し,抽出された要素を段階的に再統合することによって網羅的な設計プロセスモデルの獲得を達成している.このモデル化手法を,抽出するプロセス要素の頭文字をとって要求・定義・確認モデル(Requirement・Definition・Confirmationモデル:RDCモデル)と称する. また,設計プロセスの構成要素の抽出をより細密に行うために,上述のRDCモデルを発展させ,設計プロセスの構成要素を外部要求,概念定義,内部要求,詳細定義に分けてモデル化を行う体系的RDCモデルを開発し,その有効性を検証した.体系的RDCモデルが提供する論理的な繋がりを有する枠組み(図6)に沿って設計プロセスの分析を行うことにより,設計者が無意識下に行っている設計作業を発見し記述できるようになり,RDCモデルの分析で見落としていた多くの設計要素を抽出しモデル化することが可能となった.この結果,以下に述べる設計プロセス品質の可視化を実行するにあたって,より緻密な品質検証が可能となり,本手法の有効性を高めることができた. 5. 設計プロセス品質の可視化に関する研究 設計プロセス品質を管理するためにアプローチとして,本研究では以下の3つの設計プロセス品質の可視化手段を提案している. 1. 設計プロセス内の手戻りの可視化 2. 設計プロセスの確からしさの可視化 3. 設計プロセスと不具合情報の関連の可視化 まず,設計プロセス内の手戻りの可視化については,RDCモデルによって分解された定義間の反復(Iteration)をデザインストラクチャーマトリックス(DSM)を用いることによって可視化した.また要求の遅れや確認よりのフードバックによって発生する手戻りの可視化を設計要素のガントチャートを作成することによって実現した. 設計プロセスの確からしさの可視化は,RDCモデルによって分解された設計要素の確からしさを,独自に設定した確からしさ指標に従って評価,点数化することによって行っている.さらに,個々の設計要素の評価結果を,設計要素間の関連に従ってプロセス全体に渡って再計算することにより,設計プロセス中の確からしさの相対的な大小が評価できるようになった. 設計プロセスの構成要素と不具合情報の関連は交差欠陥分類(Orthogonal Defect Classification: ODC)手法の分類属性をRDCモデルの設計要素のいずれかの問題として類別できるように工夫することによって実現した.すなわち,設計上の不具合は要求認識の不備,定義の不備,確認の不備のいずれかであると仮定し不具合情報を類別することによって設計プロセスと不具合情報を結びつけることを行っている 6. 結論と考察 以下に,本研究の結論をまとめる. 1. RDCモデルの考案および支援ソフトウェアの開発と複数の製品設計プロセスへの適用研究を実施し,RDCモデルによって設計プロセスのモデル化が可能であることを示した. 2. 体系的RDCモデルの考案および支援ソフトウェアの開発と複数の製品設計プロセスへの適用研究を実施し,体系的RDCモデルによって設計プロセスのモデル化が可能であることを示した. 3. RDCモデルの定義間関係図を利用し,設計プロセスに内在する内部手戻りの可視化と内部手戻りを低減するプロセスの改善手順を示した.さらに,本手順を複数の製品の設計プロセスに適用し,この考え方が種類の異なる製品に適用可能であることを示した. 4. RDCモデルの設計作業単位シーケンス図によって,実際の製品設計プロセス上での遅れてくる要求や確認からのフィードバックによる外部手戻りを可視化した. 5. 体系的RDCモデルによって抽出した設計要素の確からしさを点数化することによって,設計プロセス全体に渡った設計の相対的な確からしさの可視化が可能であることを示した.また,この手法を実際の製品設計プロセスで適用実験することによって,得られる結果が有用であることを検証した. 6. 設計要因の故障や不具合が,要求認識作業,定義作業,確認作業というRDCモデルの視点によって設計プロセスを捉えたときに,どのようなプロセス上の問題によって引き起こされるのかを分析する方法を示した.この方法によって自動車のリコール情報を分析することによって,本手法によって製品不具合情報の分析の実行が可能であることを検証した. 図1 設計品質情報 図2 既存の設計情報の品質管理手法 図3 本研究が提案する設計プロセスの品質管理による設計情報の品質保証 図4 2段階の手順による品質の把握 図5 RDCモデルによる設計プロセスのモデル化ステップ 図6 体系的RDCモデルの設計要素導出のための論理的枠組み | |
審査要旨 | 本研究は,製造業における製品設計プロセスにおいて,設計情報の生成と記述の方法,及びそれに基づく設計品質管理方法を検討したものである.研究は,設計プロセスの可視化と設計プロセス品質の可視化の2つから構成され,それぞれに対し手法の提案と検証を行った. まず,設計プロセスの可視化に関しては,「要求・定義・確認」の3要素によって設計プロセスを記述するRDCモデルの提案を行い,さらに,より設計上流からの要求も考慮して設計プロセスを分析する体系的RDCモデルを提案した.このモデルでは,従来の設計定義手順のワークフローに加えて,要求と確認の要素を加えたネットワーク構造によってプロセスを記述することにより,設計の根拠と確実性に関してより詳細化されたものとなっている.本モデルの特徴は,ユーザや製造工程,法規など,設計作業において考慮すべき適合対象ごとに設計プロセスを個別に分析することと,設計定義作業とそれに関連する要求認識作業,確認作業ごとに分析対象を記述することにある.モデル化作業におけるこれらの単純化によって設計プロセスを要素ごとに分割し,細密に検討することが可能となっている.これらの要素ごとの分析を行うために,適合項目チャート,設計作業要素表,設計作業単位シーケンス図,定義シーケンス図,定義間関係図などのチャートが考案されている.また,開発された方法論を,自動車部品,金型,情報機器,設備機器、オフィス機器などの実際の設計プロセスに適用し分析を行うことによって,方法論の有効性の検証を行った. 次に,RDCモデルの記述を応用した設計プロセスの分析手法として,設計プロセスの手戻りの可視化,設計プロセスの確からしさの可視化,設計プロセスと故障情報の関連付けの3つに関して,手法の提案と実データに基づく検証を行った. 設計プロセスの手戻りの可視化の研究においては,RDCモデルを実行することによって作成された複数のチャートを評価することによって,設計工数を圧迫する要因となっている設計プロセス内の定義作業間の依存関係,定義作業順序の不一致によって引き起こされる内部手戻り,製品開発工程における他部門からのインプットやフィードバックなどの外部影響によって引き起こされる内部手戻りの可視化を行った.内部手戻りはRDCモデルの分析チャートの一つである定義間関係図によって,外部手戻りは設計作業単位シーケンス図によって可視化される. 設計プロセスの確からしさの可視化の研究においては,体系的RDCモデルによって分析された設計プロセスに対して,設計プロセスを構成する作業の品質を評価するための評価指標を示し,要求,定義,確認のそれぞれについて,それらの不確実性をスコアリングする手法を提案した.この方法により,個々の設計内容がどの程度確実性の高いものなのかを可視化した.また,確認によって設計の確実性がどの程度向上するかをベイズの定理に基づく確率モデルによって示し,設計の確実性を検討する手法も提案した.これらの手法は実際の設計プロセスに適用し,その有効性を検証した. 設計プロセスと故障情報の関連付けの研究では,ソフトウェア開発プロセスの品質管理手法である交差欠陥分類(ODC)とRDCモデルを結びつけることによって,製品の欠陥情報から設計プロセスの問題点を客観的に把握する手段の提案を行っている.具体的には,ODC手法の設計上の不備を同定するカテゴリーであるQualifierカテゴリーにおいて,RDCモデルの視点を反映させ,要求認識作業の不備であるのか,定義作業の不備であるのか,確認作業の不備であるのか,またそれら不備の詳細を推定する方法の提案を行い,自動車のリコール情報を使った実証研究を実施している. これらの研究は,設計プロセスモデリングの分野において有用なものと考えられ,現実の設計プロセスでの適用事例も複数示されている.研究として博士論文として十分な内容を有していると判断される. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |