No | 124145 | |
著者(漢字) | 久代,紀之 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | クシロ,ノリユキ | |
標題(和) | プロダクトライン開発を実現する進化型要求獲得手法 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 124145 | |
報告番号 | 甲24145 | |
学位授与日 | 2008.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6914号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | システム量子工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本研究では、システム開発における要求獲得・要求分析手法に関し取り組む。 要求に基づいて、システム設計を行うことの重要性は言うまでもない。 しかし、いざ要求を獲得しようとすると簡単には獲得できないことに気づく。 要求が獲得できたとしても、要求とそれを具現化する設計の間には、複雑なプロセスがある。 獲得された要求を満足する手段を提供するのが設計であるが、結果として選択された手段は、要求とは直接的には関係なく思える目的から選択されていると感じられることも多い。 一方、メーカにとって、価値の高いシステムを実現するためのキーテクノロジの重要性は、今後も変わらない。しかし、キーテクノロジ一辺倒の技術戦略は、要求が多様化し、変化の激しい現在においては、大きなリスクを伴う。 ユーザ要求の多様化に柔軟に対応し、設計資産を活用し多様なシステム群を短期間に実現する開発プロセスの確立が技術戦略上重要性を増している。 これらを背景に、本研究では、提示された曖昧な要求の背後にある真の要求の獲得手法と、獲得した多様な要求を満足するシステムを短期間に実現する開発プロセスの確立を目指した。 研究目標として下記を定めた。 1.曖昧な要求の背後にあるステークホルダの真の要求を引き出すコミュニケーション手法と獲得プロセスの提案 2.獲得された多様な要求の重み付けを行い、コンセプトを決定する重要な要因への気づきを促すコミュニケーション手法とコンセプト形成プロセスの提案 3.獲得した要求・コンセプトに基づく要求分析・設計手法の提案 4.設計資産を活用した再利用開発により多様な要求に対応したシステム群を短期間に実現するプロダクトライン開発体制の構築 前提として、 1.要求獲得時には、システムの境界を一意に設定することはできない。要求は、互に影響しながら、具体化の過程の中で自律的に成長する。 2.要求獲得による情報は、暗黙的な前提や矛盾を含む不完全情報である。不完全情報情報に基づき、要求分析者が、分析的に要求仕様を決定することは、分析者により要求が変質する可能性高い。 3.要求獲得プロセスは、分析的なエンジニアリングのプロセスではない。分析者と専門家・ユーザ・開発者が協調して行う発見作業と捉える。 をおき、 本研究を通じ、 1.要求獲得、要求分析、意思決定という要求の具体化の工程に、ステークホルダが主体的に参画し、自己・相互発見を通じて要求を進化・成長させていく要求獲得手法およびプロセス(進化型要求獲得手法)の提案 2.進化型要求獲得手法により獲得した要求に基づき、多様なシステム製品群を専門家の協調のもと、設計資産を活用して短期に実現するプロダクトライン開発の試行 を行った。 具体的には、 要求獲得法として、二次元ヒアリングと呼ぶコミュニケーション手法を用い、要求とその要求を主張する目的、要求を達成するための手段、さらに目的を主張する前提と手段検討時に考慮した制約で構成される独立性の高い小さな要求シナリオ(要求プリミティブと呼ぶ)をステークホルダから獲得する手法を提案した。さらに、種々の視点を持つステークホルダによるディスカッションを通じ、この要求プリミティブを核に自己・相互発見的にこれを進化・成長させ、要求シナリオを獲得する方法を提案した。 コンセプト形成手法として、展開・比較と主題的統合プロセスの交番を制御するコミュニケーション手法を用い、ステークホルダのディスカッションを通じ、要求シナリオを洗練し、要求間の重み付けや手段選択のための評価尺度を設定するコンセプトを形成する手法を提案した。 上記の要求獲得手法・コンセプト形成手法を用い獲得した要求から、要求仕様を決定するための手法として、要求分析時の分析者の恣意的な解釈による要求の変質を回避するために、ステークホルダが主体的に要求仕様に関わることができるゴール指向要求設計手法を提案した。 提案した要求獲得・分析手法(進化型要求獲得手法と呼ぶ)を、省エネルギーを目的として設置が活発化するビル・ホーム用各種設備管理システム用コントローラを対象とする設計資産開発に適用し、左記設計資産として組込み型GUI(Graphical User Interface)コントローラプラットホームを実現した。さらに、進化型要求獲得手法と上記プラットホームを用いた数種のシステム開発を実践し、要求獲得手法と設計再利用資産の適用性・有用性を確認した。 上記実務への適用の中で、専門の異なる技術者間のコミュニケーションギャップと、文字を中心とする要求仕様から、絵を中心とするGUI画面設計・実装間の変換ギャップが、開発効率に影響することが判明した。 言語をベースとする共通場と呼ぶ知識フレームワークと各技術者の知識を共通場上にマッピングする開発支援ツールで構成された技術者間協調のためのシステムの導入により、これらを解決を試みた。 以上 | |
審査要旨 | ユーザをはじめとするステークホルダーの要求に基づいてシステムをデザインすることは重要であるが、いざ要求の獲得(要求を理解してシステムデザインに生かすこと)を試みると簡単には獲得できない。要求が獲得できたとしても、要求とそれを具現化するデザインの間には、複雑なプロセスがある。獲得された要求を満足する手段を提供するのがここでいうデザインの仕事であるともいえるが、結果として選択された手段は、要求とは直接的には関係なく見える目的から選択されていると感じられることも多い。 また、システムをデザインするメーカ側にとって、価値の高いシステムを実現するためのキーテクノロジの重要性は今後も変わらない。しかし、キーテクノロジ一辺倒の技術戦略は、要求が多様化し、変化の激しい現在においては、大きなリスクを伴う。 このような意味で、ユーザ要求の多様化に柔軟に対応し、キーテクノロジーとして注目されがちな技術だけではなく企業の無形財である各種知識を含む設計資産を活用し、多様なシステム群を短期間に実現する開発プロセスの確立が、技術戦略上重要性を増している。これらを背景に、本研究では、下記の4本の柱によって、提示された曖昧な要求の背後にある真の要求の獲得手法と、獲得した多様な要求を満足するシステムを短期間に実現する開発プロセスの確立を目指した。 1. 曖昧な要求の背後にあるステークホルダの真の要求を引き出すコミュニケーション手法と獲得プロセスの実現 2. 獲得された多様な要求の重み付けを行い、コンセプトを決定する重要な要因への気づきを促すコミュニケーション手法とコンセプト形成プロセスの実現 3. 獲得した要求・コンセプトに基づくシステムデザイン(要求分析+設計)手法の実現 4. 設計資産を活用した再利用開発により多様な要求に対応したシステム群を短期間に実現するプロダクトライン開発体制の構築 要求は、互に影響しながら、具体化の過程の中で自律的に成長する。要求獲得プロセスの中で得られる情報は、暗黙的な前提や矛盾を含む不完全情報である。このため、分析的なエンジニアリングのプロセスだけでは正しい要求を捉えることは難しく、分析者と専門家・ユーザ・開発者が協調して行う発見作業と捉える必要がある。それゆえ、本研究では、要求獲得、要求分析、意思決定という要求の具体化の工程に、システムのステークホルダらが主体的に参画し、自己・相互発見を通じて要求を進化・成長させていく要求獲得手法およびプロセス(進化型要求獲得手法)の提案を行った。 具体的には、 要求獲得法として、二次元ヒアリングと呼ぶコミュニケーション手法を用い、要求とその要求を主張する目的、要求を達成するための手段、さらに目的を主張する前提と手段検討時に考慮した制約で構成される独立性の高い小さな要求シナリオ(要求プリミティブと呼ぶ)をステークホルダから獲得する手法を提案した。 さらに、種々の視点を持つステークホルダによるディスカッションを通じ、この要求プリミティブを核に自己・相互発見的にこれを進化・成長させ、要求シナリオを獲得する方法を提案した。コンセプト形成手法として、展開・比較と主題的統合プロセスの交番を制御するコミュニケーション手法を用い、ステークホルダのディスカッションを通じ、要求シナリオを洗練し、要求間の重み付けや手段選択のための評価尺度を設定するコンセプトを形成する手法を実現した。 そして、上記の要求獲得手法・コンセプト形成手法を用い獲得した要求から、要求仕様を決定するための手法として、要求分析時の分析者の恣意的な解釈による要求の変質を回避するために、ステークホルダが主体的に要求仕様に関わることができるゴール指向要求デザイン手法を編み出した。 以上のように提案した要求獲得・分析手法を、進化型要求獲得手法と呼ぶ。この手法を、省エネルギーを目的として設置が活発化するビル・ホーム用各種設備管理システム用コントローラを対象とする設計資産開発に適用し、左記設計資産として組込み型GUI(Graphical User Interface)コントローラプラットホームを実現した。さらに、進化型要求獲得手法と上記プラットホームを用いた数種のシステム開発を実践し、要求獲得手法と設計資産再利用を統合するシステムデザイン技法の適用性・有用性を確認した。これらは、要求工学における学術性および実用性を兼ねた高度な成果である。 よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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