学位論文要旨



No 124154
著者(漢字) 太田,勝啓
著者(英字)
著者(カナ) オオタ,カツヒロ
標題(和) 超臨界二酸化炭素による微細空間のナノクリーニング
標題(洋)
報告番号 124154
報告番号 甲24154
学位授与日 2008.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6923号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 堤,敦司
 東京大学 教授 山口,由岐夫
 東京大学 准教授 菊地,隆司
 東京大学 准教授 野田,優
 東京大学 教授 松本,洋一郎
内容要旨 要旨を表示する

半導体集積回路の大容量化,高速化に伴い,デバイスを高性能化するための微細化技術がますます必要とされている。多層配線形成においては,層間の配線を接続するコンタクトホールの微細化による高アスペクト比(深さ/穴径)化が進んでいる。線幅65nm世代以降の次世代半導体の微細構造(深孔)では,形成の際生じるエッチング残りやサイドウォールポリマ等が原因となる不良が発生しやすくなる。したがって,深孔内壁の洗浄が半導体の高信頼度特性を得るために非常に重要である。現行の主流の洗浄方式はウエット洗浄である。しかし,洗浄液の浸透性が問題となり,微細部の洗浄効果が十分に得られていない。特に高アスペクト比のコンタクトホールでは,内部の洗浄が困難になる。このような問題を解決するために,近年,表面張力ゼロと高拡散性であることから,超臨界CO2の深孔への浸入と乾燥が容易なため,有機溶剤を併用した超臨界CO2によるフォトレジストの溶解による除去が報告されている。しかしながら,従来の上記超臨界CO2洗浄では,有機溶剤に不溶なパーティクルの除去は不可能であった。そこで,有機溶剤を併用することなく,深孔等,微細空間内のナノサイズのパーティクル除去が可能な「超臨界二酸化炭素による微細空間のナノクリーニング技術」を開発することを目的として本研究を行った。

第1章緒論

第1章では,半導体製造プロセスにおけるクリーニング技術に関する既往の研究の経緯と背景および半導体の高信頼度特性を得るためのパーティクル除去の重要性について述べた。また,従来のウエット洗浄では,除去対象パーティクル径に限界があり,コンタクトホール等,微細空間内の洗浄に対応することができないことを述べた。

第2章微細空間内の洗浄液挙動

第2章では,現在の最先端デバイス1G DRAMの寸法レベルでの非破壊,可視化構造モデルを新開発し,それを用いて親水面と疎水面の微細空間への液浸入挙動,パーティクル除去等について検討した。

図1に示す可視化構造モデルの微細空間深さ2μm,微細空間の表面が親水面(自然酸化膜付きSi面:接触角28°)の場合,超純水は,図2に示すように微細空間開口径にかかわらず[2-1]式から算出した浸入率は100%であった。一方,例えばドライエッチングで微細空間形成後のポリSi面は,フッ素や塩素系ガスが吸着し,表面のぬれ性が低下している。このような状態を想定した表面(ベアSi面:接触角78°)の場合,開口径にかかわらず,超純水は,全く浸入しないことが分かった。

侵入率=(侵入距離)/(微細空間深さ)×100 [2-1]

従来のアルカリ洗浄液(NH40H,H2O2混合液)の場合,微細空間開口径が小さくなるほど浸入率が低下し,微細空間開口径0.2μmでは約25%となることが分かった。また,微細空間開口径1μm及び1.6μmの構造モデルのアルカリ洗浄液浸入率約75%は,第3章で述べる液浸入モデルに基づいた理論式から算出される値に非常に良く合致していることを明らかにした。次にアルカリ洗浄液の浸入率の低下がパーティクル除去に与える影響についてモデルパーティクルを用いて検討した。

ウエハ上のパーティクルの洗浄評価に関しては,アルカリ洗浄液による洗浄前後のパーティクル数をパーティクル検査装置で計測することで可能である。しかし,微細空間中のパーティクル数を計測することは困難なため,[2-2]式に示す微細空間洗浄率を定義して評価した。

洗浄率(%)=(洗浄後,SEM観察による微細空間中のパーティクル数が0個の微細空間の本数)/(観察した微細空間の本数)×100 [2-2]

モデルパーティクルとして,レジストをアッシングして生成したパーティクルを用いた。粒径分布は,50~100nmである。これを微細空間内に付着させ,パーティクル除去評価用可視化構造モデルとした。ウエハ上のパーティクルは,従来の洗浄条件下のアルカリ洗浄液(液温60℃,洗浄時間15min)による洗浄後に99.9%以上除去されていた。実験から得られたパーティクル密度と微細空間内表面積から微細空間洗浄率に換算しても,99.9%以上であった。しかし,微細空間中のパーティクル除去の場合,微細空間開口径が小さくなるほど微細空間洗浄率が低下することが分かった。

微細空間開口径0.2μmの場合,最も除去率の高い洗浄条件のアルカリ洗浄液(80℃,10min)による洗浄でも微細空間洗浄率は,40%であった。したがって従来条件では微細空間内のパーティクル除去は困難であることが明確になった。

以上より,微細空間開口径が小さくなるほどアルカリ洗浄液の微細空間への浸入率が低下することから,微細空間洗浄率がアルカリ洗浄液の浸入挙動と関係があることが明らかになった。

第3章 微細空間への洗浄液浸入機構

第3章では,微細空間への洗浄液浸入機構について検討した。微細空間内への液体の浸入機構は明確にはされておらず,少なくとも,表面のぬれ性(接触角),表面張力の影響および液体に対する気体の溶解効果を考慮する必要があると考えられる。そこで,微細空間開口部の気液界面に作用する表面張力,液圧,微細空間内の内圧と外圧のフォースバランスを基に微細空間内への液浸入モデルを立て,理論式を導出した。以下では次世代以降の半導体の寸法レベルである開口径0.1μm以下の微細空間への液体の浸入シミュレーションにより,液体の浸入挙動について検討した。

微細空間内の表面が親水面の場合,常に作用力が正(浸入方向と同じ)なため,微細空間開口径に関わらず液浸入する。理論式から求めた液浸入距離は,第2章の実験結果と合致した。また,微細空間内の表面が疎水面の場合,作用力が負(浸入方向と逆向き)のため,液体は全く浸入しない。また,表面張力を低減したり,ぬれ性を良くすることでは,液体の浸入を促進することはできないことを明らかにした。しかし,浸漬後に加圧して浸漬前後の圧力差を大きくすると液浸入の促進が可能であるという結果が得られた。しかしながら,次々世代半導体以降の微小な微細空間に対しては,15MPa以上の圧力差が必要となり,従来洗浄技術では対応できないことを明らかにした。

第4章 超臨界CO2によるナノクリーニング

第4章では,超臨界二酸化炭素による微細空間のナノクリーニングを検討した。

本研究で開発した「超臨界CO2パルス半導体クリーニング技術」は,図3に示す圧力操作を繰り返すことにより生じる超臨界と亜臨界間の急激な密度変化に着目したクリーニング技術である。この密度変化に伴う膨張力により,有機溶剤を併用することなく,微細空間内のナノサイズのパーティクルを除去することを基本概念とする。

本パルスクリーニングを検討する際,圧力変化により,CO2の密度が急激に変化する条件下(温度40度,圧力5MPa~20MPa)で実験を進めた。装置の概要を園4に示す。検討結果,図5に示すように,パルス回数の増加と伴に洗浄率が増加することを明確にした。パルス回数10回で,従来洗浄液では浸入に限界がある微細空間の洗浄が可能であることを明らかにした。加圧時の圧力が,臨界圧力よりも低い7MPaでは,洗浄率は0%であった。しかし,臨界圧力を超えると洗浄率が上昇し,10MPaのとき,従来洗浄液の洗浄率以上となることが分かつた。この結果は,密度変化からも傾向が致し,超臨界CO2クリーニングの概念を裏付ける結果である。また,洗浄率は,パルス幅が短いほど洗浄率が高い傾向があることを見出した。これは,単位時間当たりの体積膨張力が大きいからと考えられる。従来洗浄の洗浄率以上を得るには,30s以内のパルス幅が必要であることを明らかにした。最も高い洗浄率は,3s~10s付近にあると考えられる。また,さらに洗浄率を向上させるためには,超臨界CO2の供給-排気時に生じるパーティクルの再付着を防止することが重要であることを見出した。図6に示すように超臨界CO2の供給-排気方式の高効率化により洗浄率を65%から75%に増加させることができることを明らかにした。

第5章総括

ギガビットの超高密度メモリや超高速度ロジックLSIの量産をめざし,ますます微細加工技術の要求が高まっている。このような高集積化された半導体素子では,その微細化にともない微細空間に代表されるコンタクトホールの穴径は小さく,深くなってきている。また,微細薄膜キャパシタをメモリーセルとする1G DRAM以降では蓄積容量の確保から高誘電体を用いたとしても,アスペクト比13以上の円筒セル構造が必要との提案がある。高段差,高アスペクト比の微細構造では,その中のエッチング残りやサイドウォールポリマ等が原因となる加工不良が発生しやすい。したがって,微細空間内壁の洗浄が高品質のメモリーセルや半導体の高信頼度特性を得るために重要である。

本論文は以上の背景のもとに1G DRAM以降の微細空間の洗浄技術開発を目標に研究を行った。そして,非破壊可視化構造モデルによる実験とシミュレーションによる微細空間内への洗浄液の浸入機構について検討した。その結果,微細空間の開口径が小さくなるにしたがい,従来の洗浄液では表面のぬれ性改善や雰囲気の圧力操作では,微細空間内への浸入が困難になるため,従来洗浄には限界があることを明らかにした。

本論文では,微細空間内への浸入が容易な超臨界に着目し,超臨界と亜臨界間で圧力操作を繰り返すことにより生じる急激なCO2の密度変化に伴う体積膨張力によりパーティクルを除去する技術の可能性について実験的および理論的の検討を行った。その結果,従来の洗浄技術では対応することができなかつた微細空間内のナノサイズのパーティクル除去を可能とする新規な洗浄技術として「超臨界CO2パルス半導体クリーニング技術」を開発した。

図1液浸入評価用可視化構造モデル

図2 洗浄液の浸入率

図3 超臨界CO2パルスクリーニング

図4 実験装置の概略

図5 超臨界CO2パルスクリーニング結果

図6 超臨界CO2パルスクリーニングの改良後

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「超臨界二酸化炭素による微細空間のナノクリーニング」と題し、半導体クリーニングにおいて従来技術では困難であった微細空間内壁からのナノサイズのパーティクル除去を可能とする新規な洗浄技術として、微細空間内への浸入が容易な超臨界CO2を用いて超臨界と亜臨界状態間で圧力操作を繰り返すことにより体積膨張力によってパーティクルを除去する超臨界CO2パルス半導体クリーニング技術を提案し、その基礎的研究を行うことによってその有効性を検討したものである。本論文の構成は5章から成っている。

第1章は序論であり、半導体製造において半導体の高信頼度特性を得るためにパーティクル除去が重要であることが述べられている。また、ギガビットの超高密度メモリや超高速度ロジックLSIの量産化を目指して開発が進められているが、従来のウエット洗浄では,除去対象パーティクル径に限界があり,コンタクトホール等,微細空間内の洗浄に対応することができないことが述べられている。

第2章では,まず現在の最先端デバイス1G DRAMの寸法レベルでの微細空間を非破壊で観察することができる可視化構造モデルを新たに開発し,それを用いて一般のウエット洗浄法における親水面と疎水面の微細空間への液浸入挙動,パーティクル除去等について検討している。微細空間の表面が親水面の場合,超純水は微細空間開口径にかかわらず浸入率は100%であるが、従来のアルカリ洗浄液では微細空間開口径が小さくなるほど浸入率が低下し,微細空間開口径0.2μmでは約25%となることを明らかにした。一方,例えばドライエッチングで微細空間形成後の多結晶シリコン表面は,フッ素や塩素系ガスが吸着し,表面のぬれ性が低下している場合,開口径にかかわらず,超純水は,全く浸入しないことを見いだしている。このように、従来のウエット洗浄技術では,微細空間内にアルカリ洗浄液そのものが浸入することができず,このため,パーティクル除去が不可能であることを実験的に示した。

第3章では,微細空間への洗浄液浸入機構について検討している。微細空間開口部の気液界面に作用する表面張力,液圧,微細空間内の内圧と外圧のフォースバランスを基に微細空間内への液浸入モデルを立て,理論式を導出した。

微細空間内の表面が親水面の場合,常に作用力が浸入方向と同じであるため,微細空間開口径に関わらず液浸入するが、微細空間内の表面が疎水面の場合,作用力が浸入方向と逆向きであるため,液体は全く浸入しないことを示した。また,表面張力を低減したり,ぬれ性を改善することでは,液体の浸入を促進することはできないこと述べている。また、浸漬後に加圧して浸漬前後の圧力差を大きくすると液浸入の促進が可能であると予測されたが,次々世代半導体以降の微小な微細空間に対しては,15MPa以上の圧力差が必要となり,従来洗浄技術では対応することが困難であると述べている。

第4章では、従来技術では不可能であった微細空間からナノパーティクルの除去を可能とする新しい「超臨界CO2パルス半導体クリーニング技術」を検討している。表面張力がゼロでまた高い拡散性を有するため微細空間への浸入が容易な超臨界CO2に着目し,CO2圧力操作による超臨界状態と亜臨界状態との間の大きな体積膨張差を利用して、有機溶剤を併用することなく体積膨張力により微細空間からナノサイズのパーティクルを除去できると考え、可視化構造モデルにより微細空間内のパーティクルを直接観察することにより、超臨界CO2パルス半導体クリーニング技術に関して基礎的研究を行い、圧力や圧力変動のパルス回数、パルス幅などの洗浄率への影響を調べた。そして、超臨界CO2パルスクリーニングのパルス回数増加と共に洗浄率が増加するが、パルス回数を10回以上にすることで従来洗浄液では浸入に限界がある微細空間のパーティクルの除去が可能であることを明らかにしている。さらに、超臨界CO2の供給-排気時に生じるパーティクルの再付着を防止することで洗浄率を向上させることができることを見いだしている。

第5章はい総括の章であり、提案された超臨界CO2パルス半導体クリーニング技術の可能性と今後の課題について総括されている。

以上に示すように、本論文はい従来の半導体洗浄技術では困難であった微細空間内のナノサイズのパーティクル除去を可能とする超臨界CO2パルス半導体クリーニング技術を開発し、その有効性を明らかにしたものである。ここで得られた知見は、ナノクリーニング技術、次世代半導体製造技術の開発に資するものであり、化学システム工学に大きな貢献をするものである。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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