No | 124168 | |
著者(漢字) | 齋藤,健太郎 | |
著者(英字) | Saito,Kentaro | |
著者(カナ) | サイトウ,ケンタロウ | |
標題(和) | TDMAベース無線メッシュネットワークにおけるフロー間の干渉関係を考慮した経路探索とスロット予約方式 | |
標題(洋) | The route discovery and slot allocation methods in the TDMA-based wireless mesh network with considering the radio interference among the communication flows | |
報告番号 | 124168 | |
報告番号 | 甲24168 | |
学位授与日 | 2008.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(科学) | |
学位記番号 | 博創域第385号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | 基盤情報学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年802.11無線LANやZigbee等の免許不用の小電力無線の普及に伴い、これらの無線基地局どうしを無線で接続しメッシュ型の無線アクセス網を構成する事で、ある程度の広さのエリアに無線アクセス網を構築する事ができる無線メッシュネットワークの技術が普及してきている.このような無線メッシュネットワークの普及に伴い、これらのメッシュネットワークにおいて、データ通信のようなベストエフォート型のトラフィックだけでなく、音声やビデオストリーミング等のようなマルチメディアトラフィックを効率良く収容できる事が求められている.マルチメディアトラフィックのような一定に近いビットレートで長時間継続するトラフィックに対して、アプリケーションのQoSを保障するためには、802.11が従来からRTS/CTSを用いて行っているContention BaseのMAC技術よりも、各APのデータ送受信予定をタイムスロット単位でスケジュールし、通信を開始する際にあらかじめ通信経路に対して必要量の帯域予約を行うTDMAMAC技術が有利である. 本稿では、TDMA Based無線メッシュネットワーク上のQoS Routingにおける経路発見技術とスロットのSpatial Reuseを考慮したスロット割り当て技術に関する検討を行った.経路発見技術に関しては、マルチパス通信環境において、発見された通信経路間の無線干渉の程度を発見経路中のノード同士の隣接関係を考慮して見積もり、最大スロット割り当てを実現するマルチパス経路を設定するMulti Route Discovery with Cumulative Broadcast(MRD-CB)を提案した.コンピュータシミュレーションによりMRD-CBの性能評価を行い、最大で既存のMulti-PathQoS Routing技術の最大で2倍のスロットを予約できるマルチパス通信経路を設 定できる事を示した.スロット割り当て技術に関しては、ネットワーク中に複数のフローが存在している場合に、既存のスロット割り当てでは異なるフローによって割り当てられたスロットのSpatial Reuseが考慮されていない問題を示し、各フローが自身の通信上のボトルネック リンクに関して周辺リンクのスロット状況を調べ、Spatial Reuseを考慮して再割り当てを行う事でボトルネックリンクの利用可能スロットを回復を行う、Spatial Reuse Slot Allocation with Reallocating Neighbor Links(SRSA-RNL)を提案した.コンピュータシミュレーションによりSRSA-RNLの性能評価を行い、MRD-CBと組み合わせた場合に、ネットワークの混雑度が大きい場合においても、スロット再割り当てによって効率を向上する事で、既存のQoS Routing技術よりも10%以上多いスロットの予約が実現できる事を示した. | |
審査要旨 | 本論文は、短期間の無線アクセス環境の構築などで最近注目を浴びている無線メッシュネットワーク技術のうち、TDMAベース通信方式において、各通信フローが利用するスロット情報を交換しあうことで帯域の利用効率を向上させる方策について取りまとめたもので、5章から構成されている。 第1章は「はじめに」であり、本論文の研究背景となる無線メッシュネットワークの利用環境や最近のサービス開発状況について整理している。 第2章「TDMAMAC技術」では、無線LANで広く用いられているIEEE802.11無線LAN DCF MACのContention Based MAC技術では、通信端末の密度が増加するに従って資源割当てに無駄が生じ、制御オーバヘッドに関する問題と無線資源の割当てばらつきに関する問題から、帯域の利用効率を高く保てない課題があることを示しており、無線メッシュネットワークにおいては、TDMA Based MAC技術を用いる方が資源割当ての点から効果的であることが示されている。 第3章以降は、本論文の主題であり、無線メッシュネットワークにおいてTDMAMAC技術を用いて帯域予約を行うQoS Routing技術における2つの研究の取り組みについて説明している。 第3章「QoS Routing技術」では、各通信フローが通信開始時に通信帯域情報を探索するReactive型のDSRベースの経路探索技術において、これまで提案されてきたDynamic Range Resource Reservation(DRRR)や、Multi-Path Qos Routing技術の一つであるPower-Aware Multi-path QoS Routing(PMQR)が抱える課題について言及している。例えば、PMQRでは、中継ノードで複数の経路候補が発見されても各経路候補の無線干渉の有無までは調べられないため、最初に発見された経路情報のみを用いた経路選択手法がとられており、資源割当てに有効な経路候補を見逃しているケースがあった。そこで、本論文では、制御メッセージの中に各ノードの近隣ノードリストを付加することで、受信ノードにおける経路選択時に、より資源割当てに有効な経路候補を選択できるMulti-Route Discovery with Cumulative Broadcast(MRD-CB)手法を提案している。このMRD-CB手法について、5x5のメッシュネットワーク環境における通信端末の密度や通信フロー発生数を変化させたシミュレーションによる性能評価を行った結果、PMQR手法に比べて最大で2倍のスロットを予約できることが示された。また、経路候補の全探索による最適マルチパス通信経路との比較結果から、ネットワークの混雑度が小さい場合は最適経路に近い割当て性能を実現できる事も明らかとなった。 また、第4章「Spatial Reuse Slot Allocation with Reallocating Neighbor Links」では、通信経路のそれぞれのリンクにおけるスロット割当ての高効率化技術に関して述べられている。 既存の手法では、通信経路中の各リンクで割当てられるスロットは、第3章で述べた経路探索時に得られた自フローの空きスロット情報のみを基にして割当てが行われているため、複数の通信フローが一ヶ所に集中するボトルネックリンク付近では、スロットの利用効率が低下してしまうケースが生じる問題を回避できなかった。そこで、本論文では、新たに定義した制御メッセージを用いて、2ホップ先までの近隣リンクに割当てられたスロット情報を収集することで、複数フロー間でスロット割当ての融通を行うSpatial-Reuse Slot Allocation with Reallocating Neighbor Links(SRSA-RNL)方式を提案している。このSRSA-RNL方式は、経路探索の際に、通信フローのボトルネックリンクとなる中継ノードから近隣リンクのスロット情報を収集する制御メッセージを送ることで、他のフローに割当てられたスロットを移動することが可能かどうか判定し、スロットの再割り当てを行うことで全体のスロット利用効率を上げる方法である。第3章と同様に5x5のメッシュネットワーク環境における通信端末の密度や通信フロー発生数を変化させたシミュレーションによる性能評価を行った結果、ネットワークの混雑度が大きい場合、スロット再割り当てによりスロット割当ての効率が既存のQoS Routing方式よりも10%以上多くのスロットを割当てる事ができることが明らかとなった。 第5章「まとめ」では、本論文の成果と今後の課題についてまとめられている。 以上、これを要するに、映像・音声を主体とするマルチメディア通信をTDMAベース無線メッシュネットワーク環境で利用する際のスロット割当ての効率化を示し、今後のネットワーク構築の基礎技術の確立を示した功績は情報学の基盤に貢献するところが少なくない。よって、博士(科学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/34093 |