学位論文要旨



No 124176
著者(漢字) ライン,ケイ トエ
著者(英字) Hlaing,Kay Thwe
著者(カナ) ライン,ケイ トエ
標題(和) ミャンマー・バゴ川流域における近年の人間活動が地形環境にあたえた影響について
標題(洋) GEOMORPHOLOGICAL ASSESSMENTS OF THE HUMAN IMPACT ON THE CURRENT ENVIRONMENTAL CONDITIONS OF THE BAGO DRAINAGE BASIN, LOWER MYANMAR
報告番号 124176
報告番号 甲24176
学位授与日 2008.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(環境学)
学位記番号 博創域第393号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 自然環境学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 春山,成子
 東京大学 教授 須貝,俊彦
 東京大学 教授 山本,博一
 東京大学 准教授 ザール,キクヴッツウエ
 東京大学 教授 高橋,昭雄
内容要旨 要旨を表示する

ミャンマーにおいて,流域管理計画のために有効な管理手法の構築が必要である.バゴ川の洪水は主要な問題であり,特に沖積平野に住む人々にとっては,大きな問題である.洪水のピーク時には,人的・経済的被害が甚大となる.近年,洪水の頻度・規模が増大する傾向にあるが,森林減少・湿地の灌瀧・河川堤防沿いの市街地の拡大・都市域のインフラストラクチャーの拡大が原因と考えられる.本研究の目的は,バゴ川流域の森林減少が洪水の増加,土壌浸食に与える影響を明らかにすることである.また,形態的特性・土地被覆・降水臆・表面流出の影響を受ける傾斜・土壌浸食の解析を行う.これまでに,洪水予測や洪水警報のための統計的手法による洪水解析は行われているが,バゴ川流域での土地利用・土地被槻の変化が,表面流出や土壌浸食に与える影響を詳細に調べた研究はない.それゆえ,水文学的洪水調節モデルの開発や土壌浸食率・表面流出の推定をGISやリモートセンシング技術を用いて行い,バゴ川流域管理に適用していく必要がある.本論文は10章に分かれており,関係のある地図・写真・図表が付記されている.

形態学的特性はStrahler(1975)やMcCaullagh(1979)などによって提唱された手法を用い,地形図から導きだした.Strahlerの河川網流次理論によれば,バゴ川流域は最大で8次となる.26の小流域すべてにおいて,1~7次の流路をStrahler(1964)の手法で集計・計測した.形態学的解析はGISソフト・ArcGIS9.1(ESRI)を用いて行った.解析手法に基礎をおく形態特性要素は,(a)直線的特性,(b)面的特性,(c)起伏特性,の3つに分類できる.変数から,ピアソンの積率相関法を用いて,ペアワイズ相関を導いたが,これは5次流域に存在する.ζのため,水流次数の概念は河川網,集水域の両方に適用ができる.河道数および水流次数は正比例であるのに対して,これらは等比級数により反比例関係にある.また,河道数と河道面積は,等比級数により正比例であるのに対し,河道面積と水流次数は正比例であった.流路延長に関しては,26小流域のすべての流路を対数に変換し,曲線回帰を行った.その結果,これらの小流域は統計的に関係があるが,Hortonの流路延長基準では証明できなかった.最終的に,相関行列によって得られた,最も重要な変数を用いて,変動解析・t検定を行い,それらが地形によってどのように変わるのかを検討した.その結果,河川次数の概念は河川網,集水域の両方に適用ができる.

次にリモートセンシング手法(衛星画像,画像処理,画像解析,地上検証,基準点の計測,土地利用項目,土地利用変化マトリックス)による土地被覆変化について説明する.1990年及び2000年の衛星画像を目視により,対象地域を6つの土地利用/土地被覆に分類し,比較を行った.その結果,空間的構造,植生分布の双方に顕著な違いが見られた.特に北部において変化が顕著であり,閉鎖林が疎林や草地,水塊に変化していた.南部では,農地の拡大が顕著であった.最も重要な違いは,閉鎖林の減少と,疎林・市街地・水塊の増加である.

表面流出はU.S.Soil Conservation Service Technical Release 55 Modelを用いてシミュレーションを行った.このモデルは,土地利用に関連するcurve number,土壌タイプ,水文地質から流出計算を行い,地域的洪水式I・IIを改良した.バゴ川流域の形態額的解析に影響する要素である地域的洪水曲線,地域的洪水方程式を開発した.バゴ川流域のケーススタディとして,水文学的洪水制御方程式が開発されるだろう.水文情報・土壌状態・土地被覆・降水量・傾斜算出のためのDEMがバゴ川の水文学的洪水制御方程式には必要である.さらに,リモートセンシングやGISは土地被覆の変化を抽出するのに有効である.修正した洪水方程式IIを使って,ArcMap9.2に内装されている水文モデルで洪水エリアをまとめた.

本研究において,バゴ川流域管理に適用可能な水文学的洪水制御モデルを提示した.修正地域的洪水方程式1は最大月降水量を用いて改良を行った.バゴ川の流域特性はDEMを用いて抽出した.最大月降水量は等雨量法によって算出した.土地利用・土地被覆はLandsat・7の衛星画像から作成した.1990年,2000年の修正地域的洪水方程式は,降水量・土地被覆・流域特性・月最大流量の平均から開発した.

バゴ川流域の土壌浸食は,E30モデルを用いて算出した.水文モデルは,DEM・傾斜図・降水量分布図・修正地域的洪水方程式1・II(1990年,2000年)により導き出した.流域地図・降水量分布図・傾斜図・閉鎖林図・積算流量図・下位のプログラムによって書かれた1990年と2000年の修正地域的洪水方程式をArcGIS9.2の地表面モデリング機能を用いて,コンパイルし,バゴ川流域永文モデルを開発した.さらに,この水文モデルを用いて,洪水エリアをシミュレートした.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は10章で構成され、1章は序章として研究目的並びに使用データ、研究手法、2章ではバゴ川流域の自然環境要因と洪水との関係について述べた。3章ではバゴ川流域を26亜流域に区分して線的な地形特性、面的な地形特性、起伏からみた地形特性をGISを用いて地形計測をした結果を示した。4.章はバゴ川流域の最も顕著な土地被覆変化時期を1990年から2000年としてとらえてリモートセンシングによる土地被覆分析を行った。5章では洪水との関係を考えモンスーンアジアで信頼度のおけるE(30)モデルを用いたバゴ川流域の土壌浸食量の推定を行った。6章では地形計測結果、土地被覆変化、土壌浸食などの要因を考慮したSCSTR-55モデルを用いてバゴ川流域で表面流出の解析を行った。7章はで水文観測地点の観測データを用いて降水量分布、流出分布を求め、6章までで構築した地表面変化要因に水文データを複合させてバゴ川流域の洪水方程式1を提案した。8章では最大降雨に合わせて洪水方程式IIを修正した。9章では洪水方程式を用いて行ったバゴ川流域の洪水シュミレーションを示した。10章は結論である。

本論にあたる3章ではGISを用いてバゴ川流域の地形計測・解析を進め、水路次数、分岐比率、水路長などの線的特性,水流頻度、水系密度、水系組織、水系網、水系型などの面的特性,比高、起伏、勾配などの起伏特性を3分類してピアソン積率相関法で分析を行い、流路数と流路次数の逆比例関係、流路数と流路延長の正比例関係があることを示した。

4章ではバゴ川流域の土地被覆変化が顕著であった1990年、2000年に着目してランドサットTM画像をから教師付最尤分類法と差分抽出法を用いて土地被覆を6分類した。その結果、1990年の閉鎖林は35.6%、疎林148%、灌木.草地23%、農地33.2%、市街地0.9%、水域1.6%であったが、2000年に閉鎖林7.7%、疎林30.6%、灌木・草地15.8%、農地399%、市街地1.1%、水域生9%に変化し、北部地域で閉鎖林の疎林、灌木・草地、水域への変化、南部で農地拡大を明らかにした。土地被覆変化が顕著な上記10年間で、閉鎖林は21.7%が残存したものの、56.7%は疎林に変化し、19,9%が灌木・草地に、疎林の21%が灌木・草地に変化し、51.7%の灌木・草地は農地に変容しているとを示すことができた。

5章では正規化植生指数(NDVI)を用いて1990年と2000年におけるNDVI値-1~+1をE(30)土壌浸食モデルを用いて計算した。その結果、10年間でr-NDVI最大値が下流部に出現し、最小値が上流部に認められた。r-NDVI減少地域は森林劣化に起因していることを明らかにした。r-NDVI値を用いた10年間の推定侵食量は272mm/yrから5.07mm/yr二変し、丘陵地域部での急傾斜と森林劣化で土壌浸食が増大しており、閉鎖林や北西部の農地では侵食量が少ないことを示した。

6章では土地利用,土壌タイプ,降雨,水文地質と関連したCurve Number(USDA SCS)を持つU.S. Soil Conservation Service Technical Release 55 Model をバゴ川流域の表面流出をシミュレーションした。土壌組成はヤンマーで土地利用事務局の水文地質分類をUSDA SCSに転換して再分類し、26流域の代表的50地点で表層土壌を採取して粒度分析を行い、亜流域の計算基礎とする浸透率を決定した。1990年から2000年の6~8月の洪水で総表面流出量は1990年は78.41×105m3(年間総表面流出量の63.28%),2000年は516.25×1045m3(年間総表面流出量の69,9%)となり、月間総表面流出量,年間総表面流出量ともに増加傾向を示すことができた。

7章ではバゴ川流域の保全計画・管理にむけた水文洪水方程式を開発した。水文データ,土壌水文,土地被覆状況,降水量,流域地形計測データを用いてGISにStatistical Package for the Social Science(SPSS)プログラムを取り込み、Bago川流域の洪水方程式I・IIを提案した。

8章ではバゴ川流域の観測地点で求められた最大月降水量をグリッド毎の等雨量線を推定し、Ladnsat-7の土地被覆分類を用いて提案した洪水方程式1を用いて,1990年と2000年のバゴ川26亜流域の洪水流量を求めた。

9章では1990年と2000年のグリッド毎降水量・土地被覆・流域特性・平均最大流出量を用いて洪水方程式IIを提案し、ARCMap9.2を用いバゴ川流域の洪水氾濫を計算し、流域・グリッド毎降水量図・傾斜図・閉鎖林分布図・流量積算値図から洪水式IIを修正し、次式を提案した。Avg.Q=0.095A(0.295)R(1.095)Sb(0.012)Lcf(-0.044)Facc(0.001) 1990-2000年の10年間での洪水流出量の増大が明らかにでき、Paingkyun Chaung亜流域とLagonpyin亜流域、Lower Bago亜流域での氾濫面積の増大を指摘できた。

以上のように、本研究ではミヤンマーではヤンゴンを含む最も重要な河川であるバゴ川流域の洞川特性を明らかにし、近年の土地被覆変化とその要因を明らかにすることができた。また、地形計測・土地被覆・水文データからバゴ川での洪水方程式を提案できた。これらの研究成果は、自然環境学的にみて学問的に有用であるとともに、ミヤンマーでの将来にむけた河川管理・地域計画への一助となる。したがって、博士(環境学)の学位を授与できると認める。

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