学位論文要旨



No 124199
著者(漢字) 池上,将英
著者(英字)
著者(カナ) イケガミ,マサヒデ
標題(和) SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱的特性
標題(洋)
報告番号 124199
報告番号 甲24199
学位授与日 2008.10.16
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6933号
研究科 工学系研究科
専攻 マテリアル工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 香川,豊
 東京大学 教授 幾原,雄一
 東京大学 教授 木村,薫
 東京大学 教授 森田,一樹
 東京大学 教授 光田,好孝
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱的特性に関する知見を得ることを目的としたものである。この目的のために、(1) 高密度SiC粒子分散ZrB2複合材料の作製、(2) SiC粒子分散ZrB2複合材料の赤外域反射率測定、(3) SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱伝導特性測定を行ない、SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱的特性にSiC粒子分散複合化が及ぼす影響について検討した。

第1章

ZrB2は3518 Kの高融点を有する材料であり、超高温セラミックスとして研究が行なわれている。ZrB2は難焼結性であるため、焼結性改善および耐酸化特性改善を目的としてSiCを粒子分散複合化させたSiC粒子分散ZrB2複合材料がホットプレス焼結法や放電プラズマ焼結法などの加圧焼結法により作製されている。

高温での使用を目的とする場合、伝熱における輻射の寄与が大きくなるため、材料の熱伝導特性と同様に熱輻射特性が重要となる。SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱輻射特性については、相対密度54.8 %のZrB2単体の赤外域反射率が報告されているのみであり、相対密度90 %以上のZrB2単体およびSiC粒子分散ZrB2複合材料の熱輻射特性に関する報告例はない。一方、熱伝導特性に関しては、SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱伝導率は、SiC粒子分散により熱伝導率が53.0~83.8 W/(m・K)から62.0~103.8 W/(m・K)へと向上するとされている。また、ZrB2結晶粒径が熱伝導率に影響を及ぼすことが示唆されている。しかし、分散粒子であるSiCの体積率および寸法が及ぼす影響に関する知見はない。

第1章では、これらSiC粒子分散ZrB2複合材料に関する現状を踏まえ、既存の研究を整理し、SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱的特性に関する問題点と本論文の目的について明確にした。

第2章

SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱的特性へSiC分散粒子が及ぼす影響を調べるためには分散粒子であるSiCの結晶粒径および体積率が異なるSiC粒子分散ZrB2複合材料の作製が必要である。第2章では本研究を通じて用いるSiC粒子分散ZrB2複合材料の作製方法について検討した。

平均粒径が異なるSiC粉末を用いて、放電プラズマ焼結法によりSiC粒子分散ZrB2複合材料を作製した。密度測定および微細組織観察により作製した複合材料の空孔率、ZrB2およびSiCの体積率、平均粒径、粒径分布を明らかにした。放電プラズマ焼結法による作製では3 μm以下のZrB2およびSiC結晶粒からなる微細な組織の報告が多いのに対し、本研究では、分散粒子であるSiCの平均粒径が0.4~8.9 μmの範囲で、体積率が0.1~0.3の範囲で異なるSiC粒子分散ZrB2複合材料を作製することができた。また、全てのSiC粒子分散ZrB2複合材料について99.4 %を超える相対密度を有する焼結体を得た。

第3章

第3章では、第2章で作製したSiC粒子分散ZrB2複合材料を用いて熱輻射特性である赤外域の反射率を調べた。ZrB2およびSiC単体の波長範囲1~20 μmにおける垂直反射率の測定を行うとともに、SiC粒子分散ZrB2複合材料の反射率を明らかにした。また、SiCの平均粒径および体積率がSiC粒子分散ZrB2複合材料の赤外域反射率および熱輻射エネルギー反射率に及ぼす影響について検討した。

SiC粒子分散ZrB2複合材料の反射率は、SiC体積率増大および平均粒径増大に伴い、低下する傾向であった。波長10 μmのとき、ZrB2単体で反射率が99.3 %であったのに対し、最も反射率が低下した複合材料で反射率が58.7 %であった。特に波長範囲1~10 μmにおける反射率低下のSiC平均粒径依存性が大きいことが明らかになった。さらに、熱輻射エネルギー反射率も反射率と同様の傾向を示し、SiC体積率増大および平均粒径増大に伴い、熱輻射エネルギー反射率は低下する傾向を示すことが明らかになった。熱源温度が1273 Kの場合の熱輻射エネルギー反射率はZrB2単体では86.2 %であったのに対し、SiC粒子分散ZrB2複合材料では54.6 %まで低下することが明らかになった。以上の結果より、SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱輻射特性を明らかにすると共に、SiC粒子の体積率と平均粒径が影響を及ぼすことを明らかにした。

第4章

第4章では、ZrB2系複合材料の熱暴露試験を行い、熱暴露前後の反射率測定を行なうことにより、熱暴露条件が反射率に及ぼす影響について検討した。

ZrB2系複合材料を大気中1073 Kで熱暴露試験を行なった。熱暴露前後の反射率の測定を行った結果、周期的な反射挙動を示すとともに、反射率が低下した。そこで、熱暴露後のZrB2系複合材料について、組織観察および結晶相同定を行なった結果、熱暴露に伴い、試料最表面に立方晶のZrO2とB2O3からなる1~2 μm程度の均一な酸化膜が生成しており、熱暴露時間の増加と共に酸化膜の膜厚が増大していることが明らかになった。さらに、周期的な反射挙動は酸化膜による干渉効果に起因していることがわかり、反射率の低下は熱暴露による酸化膜生成に起因していることが明らかになった。熱暴露時間の増大に伴い、熱輻射エネルギー反射率は低下する傾向を示し、熱源温度が1273 Kの場合の熱輻射エネルギー反射率は熱暴露前では74.9 %であったのに対し、180分間の熱暴露により20.6 %まで低下することが明らかになった。以上の結果より、熱暴露に伴う酸化膜生成により反射率が低下することを明らかにした。

第5章

第5章では、第2章で作製したSiC粒子分散ZrB2複合材料の熱伝導率を測定することにより、熱伝導率にSiCの平均粒径および体積率が及ぼす影響を調べた。レーザーフラッシュ法により、SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱拡散率、比熱および熱伝導率を求めた。

SiC粒子分散ZrB2複合材料の比熱はSiC体積率およびSiC平均粒径には依存することなく、0.51~0.58 J/(g・K)で一定であった。それに対し、熱拡散率および熱伝導率にはSiC体積率およびSiC平均粒径依存性がみられた。SiC平均粒径が大きくなるに伴い、熱伝導率も大きくなる傾向がみられた。また、SiC平均粒径が8.9 μmの場合では、SiC体積率増大に伴い、複合材料の熱伝導率が113.1 W/(m・K)から138.2 W/(m・K)まで増加したのに対し、SiC平均粒径が1.3 μm以下では、SiC体積率増大に伴い熱伝導率は低下し、SiC平均粒径1.3 μmの場合、94.2 W/(m・K)まで低下することが明らかになった。ZrB2単体の場合、熱伝導率は113.1 W/(m・K)であったのに対し、SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱伝導率は94.2~138.2 W/(m・K)で分布していることが明らかになった。これまでに報告されているSiC粒子分散ZrB2複合材料の熱伝導率の中で最も高い熱伝導率を実現した。

第6章

第6章では、第2章で作製したSiC粒子分散ZrB2複合材料を加熱環境下に曝した際のSiC複合化の違いによる温度の差異を実験的に明らかにした。ついで、第2章から第5章で得られた知見を基に、本研究で得られたSiC粒子分散ZrB2複合材料の熱的特性を整理し、超高温材料の中における特徴を明確にした。

赤外イメージ炉を用い、一定の熱輻射により標準試料とSiC粒子分散ZrB2複合材料を加熱し、定常状態の温度を測定した。標準試料を~873 Kに保持した場合、SiC粒子分散複合化の違いにより、定常状態の複合材料の温度にも違いがみられ、ZrB2単体と比較して最大で~17 K高かった。実験結果より、SiC粒子分散複合化の違いに起因した熱輻射特性および熱伝導特性の違いが、加熱環境下におけるSiC粒子分散ZrB2複合材料の温度に影響を及ぼすことを実験的に示した。

SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱的特性にSiC粒子分散複合化が及ぼす影響として、SiC粒子の体積率増加により、熱輻射エネルギー放射率は高くなる傾向であった。また、SiC平均粒径を大きくすることにより、熱輻射エネルギー放射率は高くなる傾向を示し、熱伝導率も高くなる傾向が明らかになった。また、本研究で得られたSiC粒子分散ZrB2複合材料は、超高温セラミックスの中でも高い熱伝導率を有し、比較的低い熱輻射エネルギー放射率であることが明らかになった。

第7章

本論文の結果を総括し、以下の結論を得た。

(1)分散粒子の平均粒径が0.4~8.9 μmの範囲で、体積率0.1~0.3の範囲で異なる、相対密度99.4 %以上のSiC粒子分散ZrB2複合材料を得た。

(2)SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱輻射特性について明らかにした。SiC粒子分散ZrB2複合材料赤外域の反射率は分散粒子であるSiCの体積率依存性だけでなく、SiCの平均粒径依存性を示すことが明らかになった。

(3)SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱伝導特性について明らかにした。SiC粒子分散複合化の影響についての知見を得るとともに、ZrB2へのSiC粒子分散複合化により、138.2 W/(m・K)の高い熱伝導率を得た。

以上のように、本論文はZrB2へSiC粒子を分散複合化し、熱輻射特性および熱伝導特性についての知見を得ることで、SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱的特性にSiC粒子分散複合化が及ぼす影響について示したものである。

審査要旨 要旨を表示する

SiC粒子分散ZrB2複合材料に代表される超高温セラミックスは近未来の超高温セラミックスとして宇宙用材料の分野では欠くことのできない材料であると考えられ、広範囲な分野での研究が行われている。この中で、熱的特性は他の特性に比較して研究が遅れており、実用化に向けての熱的特性を明らかにし、材料の持つポテンシャルを知ることが必要になっている。本論文はSiC粒子分散ZrB2複合材料でSiC粒子の添加が熱輻射特性及び熱伝導特性に及ぼす影響を実験的に示し、熱的特性に及ぼすSiC粒子の大きさや体積率などの複合材料構成の指針を実験的に示したものであり、全7章からなる。

第1章は序論であり、超高温セラミックスの研究分野でSiC粒子分散ZrB2複合材料の熱的特性を知ることが新たな材料開発には必要であることを、従来の熱輻射特性、熱伝導特性などの研究成果をもとに明らかにしている。その結果から、本論文の目的を明確にするとともに、SiC粒子分散ZrB2複合材料で求められている熱的特性を明らかにすることへの期待を述べている。

第2章では、論文中を通して実験に用いたSiC粒子分散ZrB2複合材料の作製方法について検討した。平均粒径が異なるSiC粉末を用いて、放電プラズマ焼結法によりSiC粒子分散ZrB2複合材料を作製した。複合材料の密度測定及び微細組織観察により作製条件と出発原料による空孔率、SiCのZrB2中での体積率、平均粒径及び粒径分布の差異を明らかにした。分散粒子であるSiCの平均粒径が0.4~8.9 μmの範囲で、体積率が0.1~0.3の範囲で異なるSiC粒子分散ZrB2複合材料を作製する条件を決定した。この条件下で作製した全てのSiC粒子分散ZrB2複合材料について99.4 %を超える相対密度を有する焼結体を得ている。

第3章では、SiC粒子分散ZrB2複合材料を用いて赤外域の反射率を調べ、熱輻射特性を実験的に求めた。まず、複合材料を構成しているZrB2及びSiC単体の垂直反射率を1~20 μmの波長範囲で測定した。SiC粒子分散ZrB2複合材料の反射率は、SiC体積率の増加及び平均粒径が大きくなると低下する傾向にあることを明らかにした。また、特に1~10 μmの波長領域における反射率低下はSiC平均粒径依存性が大きいことを明らかにした。さらに、熱輻射エネルギー反射率も反射率と同様の傾向を示し、SiC体積率及び平均粒径が大きくなるにつれて、熱輻射エネルギー反射率は低下する傾向を示すことを示した。これらの結果を整理して、SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱輻射特性を明らかにすると共に、SiC粒子の体積率と平均粒径が熱輻射特性に影響を及ぼすことを明らかにしている。

第4章では、SiC粒子分散ZrB2複合材料を大気中1073 Kで熱暴露試験を行い、熱暴露前後の反射率測定を行なうことにより、熱暴露条件が反射率に及ぼす影響を調べた。熱暴露後には表面に生成する立方晶のZrO2とB2O3からなる1~2 μm程度の酸化膜と光の干渉の効果により反射率が波長に対して周期的な反射挙動を示すとともに反射率が低下することを示した。また、この原因は、試料最表面に酸化膜が生成していることであり、熱暴露時間が長くなるにつれて酸化膜の膜厚が厚くなり反射率も低下することを実験的に示した。この結果から、SiC粒子分散ZrB2複合材料では表面に酸化膜が生成する条件では熱輻射反射特性は低下することを明らかにしている。

第5章では、SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱伝導率を測定することにより、熱伝導率にSiCの平均粒径及び体積率が及ぼす影響を調べた。レーザーフラッシュ法により、SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱拡散率、比熱及び熱伝導率を求めた。SiC粒子分散ZrB2複合材料の比熱はSiC体積率及びSiC平均粒径には依存することなく、0.51~0.58 J/(g・K)で一定であった。一方、熱拡散率及び熱伝導率にはSiC体積率及びSiC平均粒径依存性が存在することを実験的に証明した。SiC平均粒径が大きくなるに伴い、熱伝導率も大きくなる傾向がみられた。また、SiC平均粒径が8.9 μmの場合では、SiC体積率増大に伴い、複合材料の熱伝導率が113 W/(m・K)から138 W/(m・K)まで増加したのに対し、SiC平均粒径が1.3 μm以下では、SiC体積率増大に伴い熱伝導率は低下し、SiC平均粒径が1.3 μmの場合には94 W/(m・K)まで低下した。ZrB2単体の場合の熱伝導率は113 W/(m・K)であり、SiC粒子の添加により最大138 W/(m・K)まで高めることが可能であることを実験的に示した。この値は、これまでに報告されている同種の複合材料の熱伝導率の中で最も高い値である。

第6章では、SiC粒子分散ZrB2複合材料を赤外イメージ炉中で、一定の熱輻射により加熱し、定常状態の温度を測定した。標準材料として用いた材料の温度をおよそ873 Kの一定の温度に保持した場合、SiC粒子分散複合化の違いにより、定常状態の複合材料の温度にも違いがみられ、ZrB2単体と比較して最大で温度がおよそ17 K高い結果を得た。この結果は、SiC粒子分散複合化による複合材料の熱輻射特性及び熱伝導特性の違いによるものであることと結論付けている。

ついで、第2章から第5章で得られた知見を基に、本研究で得られたSiC粒子分散ZrB2複合材料の熱的特性、熱的特性に及ぼすSiC粒子添加の効果及び超高温セラミックス材料としての特徴を整理した。SiC粒子の体積率増加及びSiC粒子径を大きくすることが熱輻射エネルギー放射率を高めることに効果があると結論している。これらの結果から、本研究で作製した相対密度の高いSiC粒子分散ZrB2複合材料は、超高温セラミックスの中でも高い熱伝導率を有し、比較的低い熱輻射エネルギー放射率を持つ材料であると結論している。

第7章は総括であり、本論文の結果をまとめている。

以上を要するに、本論文は、SiC粒子分散ZrB2複合材料の熱輻射エネルギー放射率や熱伝導率などの未知の特性値を詳細に測定し新たな知見を得たものであり、超高温セラミックスの分野の研究開発に役立つ知見を提供しているところが大きい。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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