No | 124200 | |
著者(漢字) | 前島,崇司 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | マエジマ,タカシ | |
標題(和) | Statinによる血管内皮の転写調節活性に関わるKLF2およびKLF4の重要性に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 124200 | |
報告番号 | 甲24200 | |
学位授与日 | 2008.10.16 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6934号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 先端学際工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 動脈硬化は脳卒中や心筋梗塞の発症に深く関与しており、この動脈硬化の発症、進展には酸化変性をうけた低比重リポタンパク(酸化LDL)とともに血管内皮機能の低下が関わっているということが報告されている。HMG-CoA Reductaseを阻害するスタチンは血中LDL-C低下薬として広く世界に用いられている薬剤であるが、スタチンには血中LDL-Cを低下させる以外にも抗動脈効果作用いわゆるPleiotropic effectを有していると報告がなされている。しかし、スタチンのPleiotropic effectに関する作用機序の全体像を解析した研究はなされていないのが実情である。そこで、本研究の目的は、スタチンの血管内皮細胞におけるグローバルな転写制御のメカニズムの解明、特に、抗動脈硬化作用を有する遺伝子の活性化の機構を明らかにすることを目的に研究を行った。 HMG-CoA Reductase阻害剤であるピタバスタチン(1μM)を血管内皮細胞であるHUVECに4時間処理をしてcDNA Microarray解析を行った。その結果、ThrombomodulinやeNOSといった血管機能改善効果を有する遺伝子を含めて25種の遺伝子がピタバスタチンによる有意に発現増強されることが明らかとなった。ピタバスタチンにより発現増強される25種遺伝子の中で転写調節因子であるKrUppel Like Factor 4(KLF4)ならびにKruppel Like Factor 2(KLF2)が上位遺伝子であった。そこで、ピタバスタチンによるKLF2ならびにKLF4にっいて解析を行った。ピタバスタチン(1μM)によりHUVECにおいてKLF2、KLF4は時間依存的に発現上昇することが明らかとなった。KLF2およびKLF4は2時間より発現増強することが明らかとなった。また、マウス大動脈弓部においてもピタバスタチンはKLF2 mRNAの発現を増強させることが明らかとなった。次にピタバスタチンの転写制御におけるKLF2ならびにKLF4の役割について解析をすると、ピタバスタチンにより発現増強されたThrombomodulinやeNOSをはじめとした23種の遺伝子の多くはKLF2もしくはKLF4 siRNA処理により発現増強作用が減弱することが明らかとなった。さらにKLF4siRNA処理によりピタバスタチンにより誘導されるKLF2発現増強作用が減弱されることも同時に明らかとなった。 次にスタチンによるKLF2発現増強機序の解析を行った。KLF2レポータープロモーター解析を行った結果、ピタバスタチンによるKLF2発現増強作用にはKLF2 Promotor領域にMEF2タンパクが結合することが重要であることが確認された。また、HUVECにはMEF2A,C,Dが発現していることを免疫プロッティングにより確認したので、MEF2A,C,DsiRNA実験を行った。その結果、MEF2A,C,D3種類のMEF2タンパクがピタバスタチンによるKLF2発現増強作用に重要であることが明らかとなった。次に、MEF2タンパクの転写調節能を活性化させる経路の解析を行った。その結果、ピタバスタチンはERK5(EXTRACELLULAR SIGNAL-REGULATED KINASE5)のリン酸化を2時間より誘導し活性化させることが明らかとなった。(活性型ERK5はMEF2タンパクの転写調節能を活性化させると報告されている。)また、ERK5 siRNA処理によりピタバスタチンによるKLF2の発現増強作用が減弱することが明らかとなった。さらに、ERK5の上流にあると考えられているMEK5 DNを強制発現させMEK5の機能を抑制させると、ピタバスタチンによるKLF2発現増強作用が減弱することが明らかとなった。以上のことからピタバスタチンによりKLF2はMEK5-ERK5-MEF2A,C,D経路により発現増強されることが明らかとなった。さらに、このMEK5-ERK5-MEF2A,C,D経路はKLF2だけでなくピタバスタチンにより発現が増強されるKLF4および23遺伝子の発現増強機序に重要であることがsiRNA実験より明らかとなった。 以上の結果から、HUVECにおいてピタバスタチンによりKLF2ならびにKLF4をMEK5-ERK5-MEF2経路により発現を増強させ、KLF2ならびにKLF4が血管内皮機能改善効果作用に寄与していることが明らかとなった。ピタバスタチンによるKLF2およびKLF4の発現増強作用はピタバスタチンの血管内皮細胞におけるPleiotropic effectの一端を担っていると考えられた。 | |
審査要旨 | 動脈硬化は脳卒中や心筋梗塞の発症に深く関与して7おり、この動脈硬化の発症、進展には血管内皮機能の変化が関わっているということが報告されている。HMG-CoA Reductaseを阻害するスタチンは血中LDL-C低下薬として広く世界に用いられている薬剤であるが、スタチンには血中LDL-Cを低下させる以外にも抗動脈硬化作用いわゆるpleiotropic effectを有していると報告がなされている。しかし、スタチンのpleiotropic effectに関わる転写変化の全体像には不明な点が多いのが実情である。そこで、本研究の目的は、スタチンの血管内皮細胞におけるグローバルな転写制御のメカニズムの解明、特に、抗動脈硬化作用を有する遺伝子の活性化の機構を明らかにすることを目的に研究を行った。 HMG-CoA Reductase阻害剤であるピタバスタチン(1μM)を血管内皮細胞であるHUVECに4時間処理をしてDNA microarray解析を行った。その結果、ThrombomodulinやeNOSといった血管機能改善効果を有する遺伝子を含めて25種の遺伝子がピタバスタチンによる有意に発現増強されることが明らかとなった。ピタバスタチンにより発現増強される25種遺伝子の中で転写調節因子であるKruppel Like Factor 4(KLF4)ならびにKruppel Like Factor 2(KLF2)が上位遺伝子であった。そこで、ピタバスタチンによるKLF2ならびにKLF4について解析を行った。ピタバスタチン(1μM)によりHUVECにおいてKLF2、KLF4は時間依存的に発現上昇することが明らかとなった。KLF2およびKLF4は2時間より発現増強することが明らかとなった。また、マウス大動脈弓部においてもピタバスタチンはKLF2 mRNAの発現を増強させることが明らかとなった。次にピタバスタチンの転写制御におけるKLF2ならびにKLF4の役割について解析をすると、ピタバスタチンにより発現増強されたThrombomodulinやeNOSをはじめとした23種の遺伝子の多くはKLF2もしくはKLF4 siRNA処理により発現増強作用が減弱することが明らかとなった。さらにKLF4 siRNA処理によりピタバスタチンにより誘導されるKLF2発現増強作用が減弱されることも同時に明らかとなった。 最後にスタチンによるKLF2発現増強機序の解析を行った。KLF2プロモーター解析を行った結果、ピタバスタチンによるKLF2発現増強作用にはKLF2 Promotor領域にMEF2タンパクが結合することが重要であることが確認された。また、HUVECにはMEF2A,C,Dが発現していることを免疫ブロッティングにより確認したので、MEF2A,C,D siRNA実験を行った。その結果、MEF2A,C,D 3種類のMEF2タンパクがピタバスタチンによるKLF2発現増強作用において冗長的に作用していることが明らかとなった。次に、MEF2タンパクの転写調節能を活性化させる経路の解析を行った。その結果、ピタバスタチンはERK5(EXTRACELLULAR SIGNAL-REGULATED KINASE 5)のリン酸化を2時間より誘導し活性化させることが明らかとなった。(活性型ERK5はMEF2タンパクの転写調節能を活性化させると報告されている。)また、ERK5 siRNA処理によりピタバスタチンによるKLF2の発現増強作用が減弱することが明らかとなった。さらに、ERK5の上流にあると考えられているMEK5 DNを強制発現させMEK5の機能を抑制させると、ピタバスタチンによるKLF2発現増強作用が減弱することが明らかとなった。以上のことからピタバスタチンによりKLF2はMEK5-ERK5-MEF2A,C,D経路により発現増強されることが明らかとなった。さらに、このMEK5-ERK5-MEF2A,C,D経路はKLF2だけでなくピタバスタチンにより発現が増強されるKLF4および23遺伝子の発現増強機序に重要であることがsiRNA実験より明らかとなった。 以上の結果から、HUVECにおいてピタバスタチンによりKLF2ならびにKLF4をMEK5-ERK5-MEF2経路により発現を増強させ、KLF2ならびにKLF4が血管内皮機能改善効果作用に寄与していることが明らかとなった。ピタバスタチンによるKLF2およびKLF4の発現増強作用はピタバスタチンの血管内皮細胞におけるpleiotropic effectの一端を担っていると考えられた。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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