学位論文要旨



No 124290
著者(漢字) 朴,泰皓
著者(英字) Park,Tae Ho
著者(カナ) ポク,タイホ
標題(和) 朝鮮半島に分布する白亜紀から古第三紀の花崗岩類の年代学的・岩石学的研究
標題(洋) Chronological and Petrological Study of Cretaceous to Paleogene Granitic Rocks,South Korea
報告番号 124290
報告番号 甲24290
学位授与日 2009.03.06
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第5281号
研究科 理学系研究科
専攻 地球惑星科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 烏海,光弘
 東京大学 准教授 中井,俊一
 東京大学 准教授 岩森,光
 東京大学 教授 小澤,一仁
 東京大学 教授 木村,学
内容要旨 要旨を表示する

アジア大陸の東縁に分布する顕生代の花崗岩類は、中国大陸から日本列島まで幅広く分布しており、アジア大陸の成長に大きな役割を果たしたと考えられる。本研究では、朝鮮半島に分布する白亜紀から第三期までの花崗岩類について、Zircon結晶のU-Pb年代測定を行なってその時空分布を検討すると同時に、これらの岩石の全岩化学組成および鉱物化学組成を検討することによって、花崗岩成因の根本的問題点である(1)物質源、(2)溶融プロセス、および熱源について議論を行った。

花崗岩の生成年代は、全体の分布を代表する26岩体をえらび、それぞれの岩石からジルコン結晶50粒以上を分離し、デトリタルな結晶や、包有物(蛍石やアパタイト)を含むものを除外して、- 試料20粒以上についてLA-ICP-MSを用いてU-Pb同位体比測定を行い、年代を決定した。その結果、一部例外はあるものの、およそ北西から南東に向かって、97Maから47Maまで約5千万年かけて系統的に若くなることが分かった。これらの韓国のNW-SEの時間的・空間的な変化より、日本列島の同時代の花崗岩についても考察を行い、韓国と日本の花崗岩の年代と空間分布を比較した結果、韓国の花崗岩は海溝に向かって若くなり、逆に日本は大陸の方に若くなる特徴が見られた。

次に花歯岩をもたらしたのmaterialとheat sourceを検討した。まず、文献からの韓国下のP波速度より、韓国の下の下部地殻はHB-gabbroあるいはAmphibolite組成であることや古い地殻の一部が露出するOgcheon帯にもAmphiboliteが卓越していることから、韓国下には現在に至るまでAmphiboliteが下部地殻に存在することからを示唆される。さらに韓国に分布する白亜紀の玄武岩の年代やその分布から、玄武岩活動は花崗岩活動とほぼ同時に始まって重なったことから、玄武岩の存在は花崗岩のend-memberとしてのmaterial sourceやheat sourceとして重要であることを分かった。

次に、源岩や溶融条件を、全岩化学組成を用いて検討した。天然岩石の部分溶融実験結果(7種類の角閃岩の溶融実験)との比較から、角閃岩の下部地殻条件での溶融が重要であることがわかった。しかし、観測されるバリエーションをすべて角閃岩の溶融または結晶化によって説明することはできなかった。

そこで、同地域に同時代にみられる玄武岩質マグマ組成を出発組成として、MELTSプログラムを用いた結晶化の解析により、トレンドの再現を試みた。圧力を0.5から8kb、水の量を0から4%まで変化させた系統的な検討のいずれにおいても、トレンドを再現することは難しいが、晶出結晶の集積によって観察されるトレンドが形成可能性は否定できなかった。

一方、岩体ごとの組成トレンドおよび構成鉱物の化学組成、特に斜長石結晶コアのAn含有量の頻度分布からは、角閃岩の溶融トレンドからはずれる花崗岩には、比較的Anに富むバルクとは非平衡な結晶部分が存在し、これは同地域に同時代にみられる玄武岩中の斑晶組成と重なることが分かった。また、角閃岩の溶融トレンドに近い花崗岩中からはこのような斜長石は見出されず、前者が、下部地殻における角閃岩の低い部分溶融メルトと、玄武岩マグマの混合によって形成された可能性があることがわかった。

両者の混合の可能性を検証するために、韓国に分布する角閃岩を出発物質として、部分溶融液の微量元素組成をbatch/non-modal meltingによって評価し、この液と韓国白亜紀玄武岩との混合によって、実際の花崗岩微量元素組成が再現されるかどうかを検討した。その結果、混合が示唆される試料は、両者の混合によって、また混合していないと考えられる試料は、概ね角閃岩の部分溶融によって説明されることが分かった。この可能性は、文献値からコンパイルされたSiO2とSr同位体比からも支持される。花崗岩の同位対比0.7042から0.7062まで表し、白亜紀玄武岩と成因的に密接な関連があることが考えられる。Amphiboliteの場合、ばらつきが大変大きいが、amphiboliteの部分溶融で出来た花崗岩マグマが玄武岩マグマとのミキシングで出来た可能性と矛盾はしないことが分かった。

さらに、mixingの顕著な証拠がない高いSr同位体値の試料は、基盤岩であるgneissやmetasedimentとのAFCプロセスによって説明が可能であることが分かった。これらの観察から、韓国の白亜紀一古第三紀の火成活動には、マントル由来の玄武岩質マグマの生成と、下部地殻の溶融が同時に起こること、またそれが約5千万年かけて数百キロメートルをmigrationすることが必要であることがわかった。これらの花崗岩の時間・空間分布と全岩化学組成を説明するモデルとして、大陸の下のdelaminationと、大規模流によりdelaminationが海溝側への移動するモデルが提案される。同時に始まった海溝側からの活動は、白亜紀に起こったと考えられている海嶺沈み込みによる熱とその影響の大陸側への伝播よって引き起こされたと考えられるが、今後、熱・ダイナミクスを含めた検討が必要である。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は7章からなる。第一章はイントロダクションであり、中国大陸から日本にいたるアジア大陸東縁に分布する白亜紀から第三紀の花崗岩体は従来から大陸形成過程を探る上で重要な研究対象であり、海嶺沈み込みなどのモデルが立てられていたことなどが紹介され、その上で、年代と化学組成の系統的な研究が必須であることが述べられた。第2章では朝鮮半島南部に広く分布する花崗岩体の地質構造について詳細に記載している。第3章では、これら花崗岩体の岩石学的な記載を個別的におこない、あわせて鉱物学的な記載を詳細に述べている。第4章では朝鮮半島南部に分布する花崗岩の全岩化学組成を示し、その化学組成が一連の組成変化トレンドを示すことを明らかにした。その特徴から角閃岩の部分融解がその要因のひとつであるが、それ以外の要因が必要であると指摘した。また、各花崗岩に含まれている斜長石、角閃石、そして輝石の化学組成を多敷分析し、それが特徴的に二つのピークを持つ混合型であることを示した。第5章では朝鮮半島南部の花崗岩体から26岩体を選び、それぞれ20個以上のジルコン年代を測定したこと、その結果北西から南東にかけて97Maから47Maへと次第に形成年代が若くなることをはじめて示した。一方日本列島では逆に南部から北部へと古くなること、したがって最も若い花崗岩体は両者にまたがった領域にあることを世界で始めて実証した、重要な貢献である。玄武岩マグマに水を加えたシステムで分化させて化学組成のトレンドでは合理的説明が可能ではないことを明らかにした。

第6章では、朝鮮半島の花崗岩の成因を角閃岩の部分融解や玄武岩マグマの分化モデルおよびマグマ混合モデルを詳細に検討し、岩体ごとの化学組成変化と構成鉱物の組成変化同位体組成変化などから朝鮮半島の花崗岩マグマが玄武岩マグマと角閃岩が部分融解したマグマとの混合過程が重要であることをはじめて示した。これは重要な貢献である。第7章では、以上の結論をもちいて、沈み込みプレート境界において、海嶺沈み込みに伴う特徴的な海溝へと前進する下部地殻のデラミネーションと海嶺沈み込みのセットが朝鮮半島、および日本列島の白亜紀から第三紀の広大な花崗岩体形成の主要なテクトニクスであるとの結論を導いた。このテクトニクスモデルは花崗岩成因にはじめて地殻の境界へ移動するデラミネーションをここで提出された多くのデータを合理的に適用したモデルであり、重要な貢献である。

以上のように本論文はデータ取得からモデルの提案までいずれも論文提出者が独自に行ったオリジナルな内容であり、重要な貢献をしたと判断できるものである。

したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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