学位論文要旨



No 124389
著者(漢字) 堀内,俊作
著者(英字)
著者(カナ) ホリウチ,シュンサク
標題(和) ニュートリノで探る重力崩壊型超新星の内部構造
標題(洋) Neutrino Probes of Core-collapse Supernova Interiors
報告番号 124389
報告番号 甲24389
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第5287号
研究科 理学系研究科
専攻 物理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 川崎,雅裕
 東京大学 教授 中畑,雅行
 東京大学 教授 蓑輪,真
 東京大学 講師 中沢,知洋
 東京大学 教授 梶田,隆章
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、第一に最新の観測データに基づいた「超新星ニュートリノ」の観測見込について理論的に考察し、第二に超新星の内部構造を探るニュートリノを用いた新しいプローブの可能性を論じている。そもそもニュートリノは、その強い透過力と無電荷のゆえに、宇宙物理研究において重要な研究対象となってきた。たとえば、重力崩壊型超新星爆発(超新星、以下同様)は、ニュートリノ源として知られており、超新星ニュートリノの検出から得られる物理学的知見は、素粒子の標準理論を超えたニュートリノの性質や、極めて高温・高密度状態の核反応や、光子では覗くことのできない星の表面下の構造など、大きな成果が期待できるものなのである。

第一に、まず一般に超新星において解放される全エネルギーのうち、大半はメガエレクトロンボルト(MeV)程度のエネルギーを持つ熱的ニュートリノとして解放される。そのためこの熱的ニュートリノは超新星の理解に欠かせないものであるが、観測例は1987年の超新星SN1987Aの一例しかなく、1987年以降も、地球上のニュートリノ検出器で熱的ニュートリノが検出できるほどこの地球近くで超新星は起きていない。ところが、「超新星背景ニュートリノ放射」(DSNB、以下同様)は、遠方に起きた過去のすべての超新星から放射された熱的ニュートリノの集計であり、その観測は近傍の超新星の発生を待つ必要がない。DSNBを理論的に予言するには、個別の超新星からの熱的ニュートリノ放射の情報だけでなく、過去の超新星発生レートの情報が必要となる。

この超新星発生レートを定量的に導くため、我々は、超新星と関連のある以下の物理量をクロスチェックした。まず、星の誕生の情報を記録する星形成率、次に星の一生の情報を記録する銀河外背景光子放射や星の質量密度、そして最後に星の末期の情報を記録する超新星発生レートを同時に評価した。その結果、大質量星の誕生から末期までの一貫した描写が得られ、充分な超新星レートがあることと、これまでより小さい超新星発生レートの不確定性を示すことができたのである。近い将来に、DSNBが超新星の内部やニュートリノの物理のプローブになりうることが結論付けられたのである。

第二に、相対論的陽子の核反応より生成され、超新星の中間的時間帯(つまり、熱的ニュートリノ放出の後、可視光の放出の前)に放射されうるギガエレクトロンボルト(GeV)からテラエレクトロンボルト(TeV)程度の非熱的ニュートリノの放出可能性を理論的かつ多面的に示した。

まず星の表面下の磁場のプローブとなるニュートリノに着目した。近年、非常に強い磁場が一部の大質量星や中性子星に観測されており、その磁場起源について議論が続いている。強磁場を保持した大質量星が超新星爆発すれば、星の磁場を利用した粒子加速と非熱的ニュートリノ放射が可能であり、超新星が銀河内で起こった場合、現在のニュートリノ検出器で検出可能であることを示した。星の表面下の磁場のプローブとなりうるだけでなく、磁場起源への示唆も得られる。

さらに非熱的ニュートリノを用いた超新星ジェットのプローブを論じている。近年、超新星とガンマ線バースト(GRB、以下同様)が関連していることが観測的に確認され、100程度のローレンツ因子のジェットが超新星を伴っていることが強く示唆された(左図)。このことは、GRBに対する理解を大きく深めると同時に、新たな疑問を現在も投げかけている。すなわち「全ての超新星はGRBにみられるような相対論的ジェットを伴っているのか?」という疑問である。この疑問に対する答えは光による観測からだけではえることができず、光では見えないジェット(右図)もプローブできる、透過力の強いニュートリノが疑問を解く重要な鍵となるのである。

この光では見えない星の中に隠されてしまうジェットからのニュートリノは、超新星が地球からおよそ5メガパーセック(約10(23)メートル)の距離以内であれば、地上で検出可能となる。これは年間に一個程度の超新星が期待される距離である。ニュートリノの検出は、超新星とGRBの新たな関連を裏付けるとともに、ジェットの発生率や性質のプローブとなり、超新星やジェット生成メカニズムの理解にも寄与しうるのである。

本論文の研究結果を踏まえると、超新星のトータルな理解におけるニュートリノの重要性が再確認できるだけでなく、その役割がさらに高まっていくと思われるのである。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、7章からなり、第1章は序章として超新星の問題と本論文の目的および構成が簡潔に述べられている。超新星爆発は大きな質量を持つ星の進化の最終段階として起こる現象で、星のコアが重力により中心に向かって崩壊し、星が持っていた重力エネルギーが解放される。その際、解放されたエネルギーのほとんどがニュートリノとして放出されると考えられている。超新星爆発についてはそのメカニズムについて理論的に解明されていない点が多くあり、それを解明するために、爆発の大部分のエネルギーを担っているニュートリノを用いて超新星の内部構造を探ることが重要で、それが本論文の目的となっていることが述べられている。

第2章は重力崩壊型超新星の標準的シナリオとニュートリノ放出がレビューされている。まず、大質量星の鉄のコアにおいて重力崩壊が起こり、それによる衝撃波が生じるが、この衝撃波は爆発を起こすには不十分でいったん弱まるがニュートリノによる加熱で復活し最終的に爆発が起こり、その過程で熱的なニュートリノが放出さるという標準的なシナリオが紹介されている。また、放出されるニュートリノの平均エネルギーやスペクトルについて、これまで行われたシミュレーションを基に解説されている。さらに、近年の観測からガンマ線バーストと超新星が関連していることが確認され、ガンマ線バーストを起こす相対論的ジェットにおいて比熱的ニュートリノが生成されることが解説されている。

第3章以降が論文提出者による研究に基づいてかかれている。第3章では超新星背景ニュートリノについて述べられている。超新星背景ニュートリノは遠方で起きた過去のすべての超新星から放出された熱的ニュートリノの集計で、その観測は偶然に起こる近傍の超新星の発生を必要としないという利点がある。超新星背景ニュートリノを理論的に予言するためには超新星発生率の情報が重要となる。論文提出者は過去の超新星発生率を定量的に導くために、星形成率、銀河外背景光子、星の質量密度、超新星発生率の観測のクロスチェックを行い、従来よりも不定性の少ない超新星発生率を得ることに成功し、近い将来、超新星背景ニュートリノが観測され超新星内部やニュートリノ物理の探査に役立つことを示した。

第4章と5章は超新星に伴う非熱的なニュートリノ放出が議論されている。まず4章ではニュートリノが星の磁場のプローブになる可能性が述べられている。近年、非常に強い磁場を持った大質量性や中性子星が観測されており、強磁場を持った大質量星が超新星爆発を起こせばそれによる粒子加速と比熱的ニュートリノ生成が可能になる。論文提出者はこの現象に着目し、超新星が我々の銀河内で起これば非熱的ニュートリノが観測可能で、星の磁場のプローブになることを初めて示した。続く第5章では超新星とガンマ線バーストとの関連に着目し、もし、光では見えない隠れたジェットが超新星内部に存在した場合の非熱的ニュートリノ放出を定量的に評価し、5メガパーセク以内で超新星が起これば観測可能であることを示した。

最後に、6章は本論文のまとめ7章には謝辞が書かれている。

このように本論文は熱的・非熱的ニュートリノを用いて光では探査することのできない超新星の内部構造を調べる可能性を理論的に論じたもので、超新星背景ニュートリノについては様々な観測量をクロスチェックして超新星発生率を評価した点が従来の研究ではない新しい点で、これにより信頼度の高い結果を得ており、物理的意義が大きい。さらに、星の磁場による非熱的ニュートリノ生成や隠れたジェットからのニュートリノ放出はこれまで議論されていない新しい現象で、論文提出者が初めて定量的な解析を行ったもので高く評価できる。なお、本論文3章の内容はBeacom氏とDwek氏、4章は佐藤氏、高見氏、安藤氏、諏訪氏との、5章は安藤氏との共同研究であるが、論文提出者が主体となって解析を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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