学位論文要旨



No 124406
著者(漢字) 佐々木,真
著者(英字)
著者(カナ) ササキ,マコト
標題(和) プラズマ乱流場における振動径電場の構造とそのダイナミクス
標題(洋) Structure and Dynamics of Oscillatory Radial Electric Field in Plasma Turbulence
報告番号 124406
報告番号 甲24406
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第5304号
研究科 理学系研究科
専攻 物理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 佐野,雅己
 東京大学 教授 福山,淳
 東京大学 准教授 半場,藤弘
 東京大学 准教授 古川,勝
 東京大学 教授 小形,正男
内容要旨 要旨を表示する

プラズマ輸送は分岐や遷移現象を伴う非線形現象であり、高温プラズマ閉じ込め研究における中心的課題である。閉じ込めプラズマは密度、温度などに勾配を持つため、乱流状態になっている。径方向シアを持つ径電場はE×Bフローを通じて径方向シアを持つポロイダル流を生成し、径方向への輸送を抑制する働きを持つ事が近年研究の焦点となっている。特に乱流間非線形結合により励起されるメゾスケール径電場(プラズマ全体の大きさとイオンラーマー半径の中間スケール)は乱流輸送に大きな影響を与えるため、この径電場の特性を理解することが必要不可欠である。トカマクにおいて、乱流に励起される径電場によるポロイダル流は2種類存在する。一つは周波数がゼロで有限径方向波数を持つ静的ゾーナルフロー(静的ZF)、もう一つは有限周波数、径方向波数を持つ測地線音波(geodesic acoustic modes, GAMs)である。GAMに関する実験観測は最近多く報告されるようになった。しかし基本的性質であるところのGAMのポロイダル構造の理解は端論についたばかりであり、周波数の離散性、径方向波数のパラメタ依存性、GAM同士の非線形結合(GAM高次高調波)などは理論的基礎付けが行われていない。本研究ではGAMに関するこれらの基本的特性を理論的に明らかにし、実験結果への基礎的理解を与えることを目的とする。

本論文においてGAMの基本的特性とは、時空間構造(周波数、減衰率、ポロイダル固有関数、径方向固有関数)とその非線形ダイナミクスをさす。ポロイダル固有モードはプラズマのポロイダル周期性から生じ、イオンラーマー半径が波長より短い極限では各磁気面で局所的に決まる。現実には有限(イオン)ラーマー半径効果によりポロイダル方向に非一様な空間構造を生成し、周波数、減衰率も影響を受ける。さらに有限ラーマー半径効果は異なる磁気面間でポロイダル固有モードの干渉を引き起こし、径方向へ固有モードを形成する。本研究ではまず、有限ラーマー半径効果に注目し、ポロイダル固有モードを明らかにする。得られた有限ラーマー半径効果を用い、径方向構造の解析を行う。さらに実際のプラズマは不純物を含む。この効果を評価するため、多イオン系でのポロイダル固有モードも解析する。この一連の研究により、GAMの線形応答としての時空間構造を明らかにする。さらに以上の研究を踏まえ、GAM同士の非線形結合に注目し、非線形飽和振幅やGAM高調波のダイナミクスについても考察する。

GAMの分散関係、ポロイダル構造への有限ラーマー半径効果を明らかにするために、ジャイロ運動論的方程式と電荷の準中性条件を基礎方程式として解析した。非線形項を無視し、静電ポテンシャル揺動に対するイオン速度分布関数の線形応答を解析し、GAMのポロイダル固有モードの研究を行った。GAMの静電ポテンシャル揺動、密度揺動のポロイダル構造を以下の二通りの方法で明らかにした。一つは高次の有限ラーマー半径効果を摂動的に導入し、有限のポロイダルモードで打ち切る方法、もう一つは安全係数(トロイダル磁場とポロイダル磁場との比に関係する係数)の高い極限をとり、全ての高次の有限ラーマー半径効果を取り込む方法である。両者の結果は、有限ラーマー半径効果が小さく、安全係数が大きいときに一致する。磁場曲率によるイオン軌道のずれ効果と静電ポテンシャル揺動が結合することにより、GAMは有限ラーマー半径効果の次数に応じ、異なるパリティーのモード(ポロイダル断面の上下で対称な成分と反対称な成分)が交互に出てくることがわかった。静電ポテンシャル揺動のポロイダル構造を図1に示す。また、高安全係数極限において実周波数への有限ラーマー半径効果も解析的に明らかになった。有限ラーマー半径効果はGAMの径方向波数を含んだ形になっており、周波数に対して、波数の偶数乗の項のみが現れることがわかった。さらにこの分散関係から、群速度、位相速度の比は有限ラーマー半径効果の高次のオーダーであり、GAMは強い分散を示すことがわかった。

次に得られたGAMの有限ラーマー半径効果(径方向波数)を含んだ分散関係を用いて、GAM径方向固有モードを解析した。分散関係における径方向波数を径方向微分へ置き換えることで径方向固有方程式を導き、プラズマ境界を考慮し解析した。GAMは径方向へ波打ち(有限の波数を持ち)、特徴的波長のパラメタ依存性も明らかになった。周波数、減衰率は連続には存在できず、離散的になることがわかった。さらに離散的周波数、減衰率に応じ、径方向構造も一つ対応する。径方向構造に対応する減衰率が明らかになり、これは径方向構造の選択則への基礎を与える結果である。静電ポテンシャルの径方向構造を図2に、離散的周波数、減衰率を図3に示す。これらの結果はトカマク型実験装置であるJFT-2Mでの静電ポテンシャル、周波数の径方向構造やTEXTORでの離散的周波数の観測と定性的に矛盾しない結果を与えるものである。

次に実際の実験条件でのGAMを再現するために多イオン系でのGAMのポロイダル固有モード解析を行い、GAM周波数、減衰率への不純物効果を解析的に明らかにした。GAM周波数は不純物の増加と共に減少し、減衰率は増加することがわかった。GAM周波数はイオン質量の1/2乗に逆比例するが、不純物が増えることで実効的質量が増加するため周波数が減少すると理解できる。この結果は実験条件を再現するだけでなく、核融合反応観測方法であるGAM spectroscopy(径方向GAM固有モードを観測することで多種類存在するイオンの存在比を観測する方法)への基礎を与える結果である。

以上の結果を踏まえ、GAMの非線形ダイナミクスについて考察した。基礎方程式には流体方程式を用い、非線形項であるレイノルズ応力には理論研究において広く用いられている乱流振幅によるモデル化を採用した。GAMが径方向への進行波成分を持つ場合、GAM同士が非線形結合することにより、高次高調波が準モードとして強制的に励起される。非線形項は摂動的に扱い、3次非線形性まで考慮し、レイノルズ応力以外の非線形項は線形固有関数などを用い評価した。レイノルズ応力の1次ではGAMを励起する項、3次ではGAMを安定化させる項が現れる。GAM成分の非線形飽和振幅、2倍高調波を解析的に導く成果を得た。その理論的結果をJFT-2Mでの実験結果と比較した。両者はオーダー(実験の誤差範囲)で一致する。図4に比較結果を示す。この研究はGAMの非線形過程に対してレイノルズ応力モデル妥当性を検証した最初の例である。さらに詳細な実験観測が行われれば、より厳密に妥当性を議論することが出来ると期待される。

GAM非線形ダイナミクスの研究をGAMが定在波成分を持つ場合(磁気面を横切って内側へ進む波と外側へ進む波を持つ場合)においても考察した。内側へ進む波と外側へ進む波が結合することで、ゼロ周波数で有限径方向波数を持つ波(静的ZF)が高次高調波に加え励起される。内側、外側へ進む波は非線形的に競合し、その競合過程中に過渡的に静的ZFが励起され、GAMが一方向へ進む波として非線形飽和すると静的ZFの励起項がなくなり線形的に減衰する。内側、外側へ進む波(P、M)と静的ZF(Z)の結合方程式を導き、静的ZF振幅のダイナミクスを調べた。P、M、Zの時間発展の様子を図5に示す。このように、乱流からのエネルギーがGAMのみに流れ込むような場合でも、静的ZFが励起されうる。このGAMから静的ZFへのエネルギーの流れは従来解析されなかった新しい機構である。

本論文では、GAMの基本的特性を理論的に明らかにし、実験結果の解釈の基礎となる表式を得、そのうちいくつかについては実験結果と定量的な比較を行い、検証した。また、実験で未確認の現象を予言した。プラズマ乱流により、励起される径電場の理解に確かな進展を与えたと言える。

図1. 静電ポテンシャルのポロイダル構造qr:GAM径方向波数、ρT:ラーマー半径

図2. 静電ポテンシャルの径方向構造の例 y:規格化された半径

図3. (a)離散的GAM周波数、(b)離散的減衰率

Ω:固有周波数、ωG:局所的に決まる周波数、Γ:固有減衰率、n:モード番号

図4. 非線形飽和振幅、2倍高調波直線:理論、点:JFT-2M実験

図5. GAM、静的ZFの時間発展P、M:GAM進行波、Z:静的ZF

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、トカマクプラズマにおいて乱流に駆動された径方向振動電場の現象.(測地線音波)の理論的研究をまとめたもので、全10章127頁からなる。第1章はイントロダクションであり、プラズマの特徴である非線形非平衡性、核融合プラズマやトカマク装置について述べた後、本論文の研究対象であるトカマク装置の径方向の励起について述べている。その中で特に径方向シアを持つ径電場がE×Bフローにより径方向シアを持つポロイダル流を生成し、径方向への輸送を抑制する働きを持つことからその特性を理解することの重要性について述べている。トカマクにおいては、乱流に励起された径電場によるポロイダル流は、ゼロ周波数で有限径方向波数を持つ静的ゾーナルフロー(静的ZF)と、有限周波数、径方向波数を持つ測地線音波(geodesic acoustic modes,GAMs)の2種が存在するが、GAMに関するこれまでの実験観測事実について概観したのち、理論的に未解決であることを指摘し、GAM周波数の離散性、径方向波数のパラメタ依存性、GAMの非線形結合(GAM高次高調波)などの理論の必要性について述べている。

第2章では、基礎となるジャイロ運動方程式の解説を行っている。

第3章および第4章では、GAMの分散関係、ポロイダル構造への有限ラーマー半径効果を明らかにするために、ジャイロ運動論的方程式と電荷の準中性条件を基礎方程式として解析を行っている。静電ポテンシャル揺動に対するイオン速度分布関数の線形応答からGAMのポロイダル固有モードの解析を行い、GAMの静電ポテンシャル揺動、密度揺動のポロイダル構造、有限ラーマー半径効果を取り入れた結果、磁場曲率によるイオン軌道のずれ効果と静電ポテンシャル揺動が結合することにより、GAMは有限ラーマー半径効果の次数に応じ、異なるパリティーのモード(ポロイダル断面の上下で対称な成分と反対称な成分)が交互に出てくることを明らかにしている。

第5章では、GAMの有限ラーヤー半径効果(径方向波数)を含んだ分散関係を用いて、GAM径方向固有モードを解析している。分散関係における径方向波数を径方向微分へ置き換えることで径方向固有方程式を導き、プラズマ境界を考慮することにより、GAMは径方向へ波打ち(有限の波数を持ち)、特徴的波長のパラメタ依存性を明らかにした。これにより、周波数、減衰率の離散性や径方向構造に対応する減衰率が得られ、径方向構造の選択則への基礎を与えている。これらの結果はトカマク型実験装置であるJFT-2Mでの静電ポテンシャル、周波数の径方向構造やTEXTORでの離散的周波数の観測と定性的に矛盾しない結果となっている。

第6章では、実際の実験条件でのGAMを再現するために多イオン系でのGAMのポロイダル固有モード解析を行い、GAM周波数、減衰率への不純物効果を解析的に明らかにしている。GAM周波数は不純物の増加と共に減少し、減衰率は増加することを示している。この結果は実験条件を再現するだけでなく、核融合反応観測方法であるGAM spectroscopyへの基礎を与える結果である。

第7章では、MHD流体方程式の導入を行っている。

第8章では、GAMの非線形ダイナミクスについて考察するため電磁流体方程式を用い、非線形項であるレイノルズ応力に乱流振幅によるモデル化を採用し解析を行っている。GAMが径方向への進行波成分を持つ場合、GAM同士が非線形結合することにより、高次高調波が準モードとして強制的に励起され、3次非線形性まで考慮すると、レイノルズ応力の1次ではGAMを励起する項、3次ではGAMを安定化させる項が現れ、GAM成分の非線形飽和振幅、2倍高調波を解析的に導く成果を得た。その理論的結果をJFT2Mでの実験結果と比較し、両者は実験の誤差範囲で一致することを示した。この研究はGAMの非線形過程に対してレイノルズ応力モデル妥当性を検証した最初の例であり、高く評価される。

第9章では、GAM非線形ダイナミクスの研究をGAMが定在波成分を持つ場合においても考察している。磁気面を横切って内側へ進む波と外側へ進む波が結合することで、ゼロ周波数で有限径方向波数を持つ波(静的ZF)が高次高調波に加え励起されことを明らかにした。このGAMから静的ZFへのエネルギー流は従来解析されていない新しい機構である。

第10章は、まとめと今後の展望である。

以上、本論文は高温プラズマの乱流駆動された径方向振動電場の理論的解析を行ったものでメソスケールの構造形成や非線形効果など、従来の知見を超える成果を与えている。本論文の結果の一部はすでに論文として出版されており、指導教官の高瀬雄一氏、伊藤公孝氏等との共著であるが、論文提出者が主導してモデルを考案し解析を行ったものであり、論文提出者の寄与が十分であると判断する。したがって博士(理学)の学位を授与できると認める。

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