学位論文要旨



No 124522
著者(漢字) 山口,暢俊
著者(英字)
著者(カナ) ヤマグチ,ノブトシ
標題(和) シロイヌナズナ散房花序様変異体corymbosa1を用いた花序形態形成機構の研究
標題(洋) The molecular genetic study of inflorescence development using corymbosal mutants in Arabidopsis thaliana
報告番号 124522
報告番号 甲24522
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第5420号
研究科 理学系研究科
専攻 生物科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 米田,好文
 東京大学 教授 福田,裕穂
 東京大学 准教授 菊池,淑子
 東京大学 准教授 上田,貴志
 東京大学 准教授 澤,進一郎
内容要旨 要旨を表示する

本文: The inflorescence architecture that has puzzled scientists for centuries is a highly ordered branching pattern. Stem development is one of the most important processes for determination of inflorescence architecture. However, the molecular mechanism of this regulation is still largely unknown. By the previous screening in the laboratory to which I belong, two Arabidopsis corymb-like mutants, corymbosa1 (crm1) and crm2 were identified. Despite the importance of characterization of crm1 to understand the stem development, it has not been carried out. Therefore, I decided to utilize this mutant as a means for my study on stem development in Arabidopsis thaliana and took three approaches to elucidate yet to be answered questions regarding the CORYMBOSA1 (CRM1) function. First, I performed the characterization of crm1 mutants and the cloning of responsible genes. I found a role of CRM1/BIG-mediated auxin action for stem development. Second, I investigated the effect of additional auxin or auxin transport inhibitor on auxin transport, auxin gradients and morphology, and characterized the phenotype in auxin-related mutants or transgenic plant. I obtained solid evidence that auxin action is critical for stem development. Third, I identified a suppressor mutant of crm1 inflorescence phenotype. By utilizing a variety of methods, I found a mechanism for regulating the orientation in pedicel and fruit.

The obtained data and new genetic resources through this study will be valuable for future studies on stem development.

審査要旨 要旨を表示する

花茎における花の配列の規則性と花茎全体を指して花序という。申請者は、Lerの様に花序形態が散房花序様に変化した変異体corymbosa1 (crm1)の解析から始めて、シロイヌナズナ花序の形づくりの仕組みをオーキシン作用、LFY遺伝子との相互作用と関連して研究した。

第一章ではCRM1遺伝子による花序形態の制御機構を明らかにする目的で、crm1変異体を解析した。crm1変異体では細胞伸長欠損によって、小花柄と節間の顕著な伸長欠損が起こる。マッピングとアレリズムテストの結果、crm1変異の原因は正常なオーキシンの輸送だけでなく、様々なシグナル伝達に関与するBIG遺伝子変異であることがわかった。プロモーターGUS融合とin situハイブリド法を用いた発現解析の結果、このCRM1/BIG遺伝子は花序分裂組織、花芽分裂組織、および小花柄と節間の維管束で発現していることを明らかにした。さらにcrm1変異体では、小花柄と節間の維管束におけるオーキシン応答性プロモーターDR5の発現が減少することを見いだした。そのため、crm1変異体では小花柄と節間における必要なオーキシン濃度に達しないために、細胞伸長が起こらず花序形態変化に至ったと考えられる。

第二章ではオーキシンの蓄積と茎の発達の関係を明らかにする目的で、オーキシンとオーキシン輸送阻害剤処理をしたときの花序と、オーキシン関連変異体の花序の観察を行った。オーキシン処理をした場合、小花柄と節間でのDR5の発現が増加する。そのとき、花序では細胞伸長欠損による小花柄と節間の伸長欠損が起こることがわかった。一方、オーキシン輸送阻害剤処理をした場合、DR5の発現は減少する。そのとき、花序では細胞伸長欠損による小花柄と節間の伸長欠損が起こることがわかった。そのため、適切な量のオーキシンの蓄積によって小花柄と節間の細胞伸長が促進されると考えられる。さらに、第一章で用いたオーキシン関連変異体であるcrm1変異体では小花柄が下向きに、axr1変異体では上向きに伸長することをそれぞれ見いだした。そのため、オーキシン関連遺伝子が制御するイベントが小花柄と節間の発達、特に伸長方向の決定において多様な役割を持っていることが示唆された。

第三章ではcrm1変異体における花序形態変化の原因を明らかにする目的で、メタンスルホン酸エチルを変異原として散房花序様の形態を抑圧する変異体の単離を試みた。抑圧変異体2A1はcrm1変異体における花茎伸長停止が早くなる表現型を部分的に回復し、散房花序様形態が緩和された。シーケンスと既知のleafy (lfy)変異体を用いた遺伝学的解析によって、2A1の原因遺伝子が花芽分裂組織決定遺伝子LFYであることを明らかにした。crm1-1 lfy-1/+では花がより上向きに伸長した。遺伝子発現解析の結果、crm1変異体では、LFY遺伝子の発現量が発生後期にのみ増加していることがわかった。そこで、LFY活性がカリフラワーモザイクウイルス (CaMV)35Sプロモーターの制御下にあるLFY-GR融合タンパク質によって供給される形質転換植物 (35S::LFY-GR)を用いて、発生後期にデキサメタゾン (DEX)処理によってLFY活性を過剰に獲得させた。すると小花柄と果実がより下向きに伸長した。さらに詳細な組織学的解析によって、LFYを活性化した場合の伸長方向の変化は小花柄の向軸側と背軸側の偏差成長の欠損が起こることを明らかにした。この極性の変化と対応するように、導管の過剰な発達と、向軸側の性質と導管の発達を正に制御するREVOLUTA (REV)遺伝子の小花柄と節間における異所的な発現が観察された。そのため、適切な時期と量のLFY遺伝子の発現が、小花柄と節間の極性と維管束の発達の度合いに影響を与え、花・果実と小花柄の伸長方向を決定することが示唆された。次に、LFYから伸長方向の決定に至る分子カスケードの解明を目指し、LFYに転写活性化される直接標的遺伝子、APETALA1(AP1)に注目した。同様の誘導系を持つap1-1 35S::AP1-GRを発生後期にDEX処理をすると、35S::LFY-GR (Ler)の花序をDEX処理したときと同様に小花柄がより下向きに伸長した。さらにap1-1 35S::LFY-GR (Ler)をDEXで処理をした場合も、小花柄が下向きに伸長し、散房花序様の表現型を示した。そのため、LFYを活性化した場合、AP1遺伝子の機能に依存した経路と、AP1遺伝子に依存しない経路の2つの経路を介して、伸長方向が決定されることが示唆された。

以上のように、シロイヌナズナの花序形成を種々の観点から解析し、オーキシン作用の実態、LFY遺伝子の新たな機能の発見、などの重要な貢献を行った。

なお、本論文第1章は、鈴木光宏、深城英弘、森田美代、田坂昌生、米田好文、との共同研究として発表済みであるが、論文提出者が主体となって解析および検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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