No | 124525 | |
著者(漢字) | 鈴木,直彦 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | スズキ,ナオヒコ | |
標題(和) | 人物センシング情報を利用した屋内サービスシステムに関する研究 | |
標題(洋) | A Study on Analysis and Control Methods for Building Service Systems with Human Sensing Data | |
報告番号 | 124525 | |
報告番号 | 甲24525 | |
学位授与日 | 2009.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6959号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年,安全・安心への社会の関心の高まり・各種技術の進展により,様々な場所において多くのセンシングデバイスの設置が進み,膨大なセンシングデータが蓄積されている.一方,蓄積されたカメラ映像データの用途は事後での確認が主であるように,取得したセンシングデータが有効活用されていない現状がある.得られたデータを有効活用するために,センシングデータに基づいた対象空間の状況理解・現在および過去のセンシングデータに基づいた将来状況の予測・将来状況の予測に基づいた機器および空間の制御に関する手法が必要となっている.各ステージにおいて提供サービスに応じた手法を確立することにより,センシング情報に基づいた新たなサービスが期待できる.そこで,本研究では,カメラ・RFIDなどから得られる人物センシング情報を利用した屋内サービスシステムに関する新たな手法を提案した.カメラなどから得られる人物動線データを利用したセキュリティ・マーケティング向けサービス,およびRFIDなどから得られる人物センシング情報に基づいたエレベーター群管理システムを対象としている.以下に,本研究の各章要旨を述べる. 第1章では,センシングデータを利用したサービスシステムにおける必要機能の整理および課題抽出を行い,センシングデータの有効利用のための新たな手法の開発の重要性について述べている.センシングデータ活用の観点において,状況理解・予測・制御の3つのフェーズに応じた手法の確立,時間方向・空間方向への拡張性,空間機能の多重化をセンシングデータ利用時の課題として抽出した.人物センシング情報を用いたセキュリティ・マーケティングサービスおよびエレベーター群管理サービスを対象とし,これらのサービスにおいて前述した課題を解決するための新たな手法の提案を本研究の目的としている. 第2章では,カメラ等のセンサから得られる人物動線データを用いたセキュリティ・マーケティングサービス向け分析手法について提案した.本章の提案手法では,統計的時系列モデルであるHMM (Hidden Markov Model)を用いて人物動線データをモデリングし,低次元空間上で分析することにより,移動・回遊・滞留などの多様な特徴を有する人物動線データ分析を可能としている.複数カメラ視野などの比較的広域エリアを移動する人物動線データにも本手法は適用可能である.また,低次元空間に射影することによりHMMクラスタリングにおける従来課題を解決している.実際の店舗で得られた人物動線データ群を用いて本論文の提案手法の有効性の検証を行い,逸脱行動人物検出機能(セキュリティ)およびパターン分類機能(マーケティング)において,提案手法の有効性を確認した.さらに,人物動線データ数が増加した際の演算量を削減するため,行列補完を用いた演算高速化手法も合わせて提案した.提案した高速化手法により分析精度をほとんど落とすことなく,演算時間を25~40%削減可能であることが分かった. 第3章では,RFIDなどから得られる人物センシング情報を用いたエレベーター群管理システム向け運行管理手法を提案した.人物センシング情報を用いたエレベーター群管理手法における乗客群の振り分けにおける課題を明らかにし,人物行動予測情報を用いた新たなエレベーター群管理手法のスキームについて提案している.マルチエージェントを用いたエレベーター群管理シミュレーションを用いて評価実験を行い,従来手法と比較して運行効率を大きく改善できることが分かった.提案手法では,戸開待機予定時間・乗車予定時刻間隔・待時間評価指標等の指標に基づき,乗客発生状況に応じた適切な単位で乗客群をまとめて輸送することにより,運行性能を向上させている.また,提案手法は,人物センシング位置・乗客歩行速度分布に対してもロバストな手法となっている.加えて,リスク乗場呼びを考慮したかご協調エレベーター群管理手法も合わせて提案し,この手法により長く待つ乗客の割合を削減できることが分かった. 第4章では,結論として,本研究で得られた成果のまとめ及びセンシング情報を用いた研究の今後の展望について述べている. | |
審査要旨 | 近年センシングデバイスおよび情報通信技術の進展が目覚ましく、ユビキタス社会への期待が高まりつつあるが、一方センシングデータを収集したものの有効活用されていないケースも多く見られる。本論文は、既存のセンサシステムを用いた新たなサービスシステムとして、屋内を移動する人物のセンシング情報を利用したセキュリティ・マーケティング向け人物動線データ分析システム、およびエレベーター群管理システムにおける新たな分析・制御手法について提案し、実際の人物センシングデータを用いた評価実験・シミュレーション実験を通じて提案手法の有用性を確認した結果を述べている。 まず、第一章では、本論文が対象としているセンシングデータ利用に関する多くの分野の研究・事例について引用し、センシングデータの有効活用のための課題を抽出するとともに当該分野の研究の方向性について述べている。 第二章では、多数のカメラ視野内を移動する人物の動線データ群の分析手法およびその実験結果について記している。本章では、統計的時系列データ分析手法の一つであるHidden Markov Modelを用いてモデリングした人物動線データを、距離行列に基づいて人物動線データを低次元空間に射影することにより、既知のクラスタリング手法の適用を可能とした人物動線データ分析手法について記している。多次元の特徴量を有する人物動線データへの統計的モデルの適用と低次元空間への射影による主成分の抽出により、人物動線データの教師無し学習を可能とした点が提案手法の主要な特徴となっている。 続いて実際の店舗で取得した人物動線データ群を用いて行った評価実験について述べている。数百人規模の人物動線データ群を用いた評価実験では、一般的な行動と異なる人物動線データを検出する逸脱行動人物検出および人物動線パターン分類において有効な結果が得られたことが確認できた。前者の逸脱行動人物検出では、周回方向・滞留位置・立ち寄り場所などの人物動線データの違いを自動的に抽出し、実データに対して定性的な結果が得られているとともに、検出においてFAR・FRRの両基準ともに10%強の誤差率という定量的な評価結果も合わせて得られている。これは不審者の完全な自動検出には難しい面があるものの、蓄積した映像データからの要注目シーン検索などの用途に十分利用できる水準にあると思われる。また、本章では人物動線データ数が増加した際の演算量を削減するために行列補完を用いた未演算部推定手法の提案も行っている。この演算量削減手法により、パターン分類精度0.9~0.95の条件下で25~40%の演算量削減を可能としている。 第三章では、人物センシング情報を利用したエレベーター群管理手法の提案およびシミュレーション実験による評価について記している。従来のエレベーター群管理手法における研究では示されることがなかった事前にセンシングした乗客情報利用における課題として、乗客群の適切な単位への分割と輸送能力における関係を本論文では明らかにしている。そして事前センシングした乗客群の適切な単位への分割におけるこの課題を解決するためのエレベーター群管理アルゴリズムについて本論文は提案している。提案した群管理アルゴリズムは、戸開待機予定時間および乗車予定時刻間隔の二つの指標を用いた割当候補かご選択部、および停止数制限値・新たな評価指標を用いた割当かご決定部から構成されている。この提案手法により、乗客群の各かごへの適切な振り分けおよび輸送能力向上が可能となっている。 本論文ではマルチエージェントシミュレータを用いた評価実験により提案手法と従来手法の比較評価を行っている。従来手法より平均待時間指標は悪化しているものの、総旅行時間を示すサービス完了時間指標では5~20%の改善に成功している。提案手法は、事前にセンシングした乗客情報を有効利用できていると言える。また、本論文の手法では、交通流種類・人物センシング位置・乗客歩行速度分布などのセンシング対象による外乱要因に対してもロバストな手法となっており、十分実用性がある手法と思われる。さらに乗客待時間の分散を削減するための手法を合わせて提案し、長待ち発生率も大きく改善できたことが示されている。 第四章では、本論文のまとめおよび今後の展望について述べている。 本論文は,既存のセンサシステムを活用とした屋内サービスシステムを提案することにより、新たなセンシング情報の有効活用方法について述べている。従来は困難であった複数のカメラ群の視野を移動する人物の動線データ分析を可能とした点、および事前にセンシングした乗客情報を用いたエレベーター群管理における未知の課題を明らかにした点は、今後のセンシングデータ利用に関する研究に大きな貢献があると考えられる。逸脱行動人物検出における精度向上、更なる乗客情報を用いたエレベーター運行管理など今後詰めるべき課題も多々残しているが、工学上多大な知見を提示していると判断される。よって、博士(工学)の学位請求論文として合格を認める。 | |
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