学位論文要旨



No 124540
著者(漢字) 金,景玟
著者(英字)
著者(カナ) キム,キョンミン
標題(和) アンボンド・プレキャスト・プレストレストコンクリート圧着接合架構の耐震性能に関する研究
標題(洋)
報告番号 124540
報告番号 甲24540
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6974号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 塩原,等
 東京大学 教授 久保,哲夫
 東京大学 教授 壁谷澤,寿海
 東京大学 教授 中埜,良昭
 東京大学 教授 川口,健一
内容要旨 要旨を表示する

アンボンド・プレキャスト・プレストレストコンクリート圧着接合架構は損傷が生じる場所が限られているので損傷の予測が可能であり,PC鋼材の高い復元性から残留変形も小さいことから損傷制御設計が可能な架構である。圧着接合面でのせん断力の伝達はPC鋼材のみに期待していることから,PC鋼材の降伏を許容しないなど損傷を抑制するか,エネルギーディバイスを取り付けることにより架構は弾性範囲で止まるようにするという意味での損傷制御架構としてアンボンド・プレキャスト・プレストレストコンクリート圧着接合架構が用いられる場合は多いが,架構自体の損傷を許容してその損傷を補修することを考慮した研究は少ない。しかし,アンボンド・プレキャスト・プレストレストコンクリート圧着接合架構の場合,プレキャストコンクリート部材をアンボンドPC鋼材で圧着接合させているため,プレキャストコンクリート部材やPC鋼材の取替えなども可能であり,鉄筋コンクリート造建物に比べると補修の選択肢が多く,損傷制御だけではなく補修の意味でも修復性能の優れた架構である。

地震を経験した架構の補修性能を把握するためには,建物の力学的な状態や損傷状況を明らかにする必要がある。そのためには,PC鋼材の降伏以降の架構の挙動も含めた復元力特性を明らかにすることや損傷状態の推定が可能であることが大事である。

本論文では,アンボンド・プレキャスト・プレストレスト圧着架構の耐震性能を明らかにするために,まず, 1/3スケールの柱梁十字型試験体を対象とした静的正負繰返し載荷実験を行い,アンボンド・プレキャスト・プレストレストコンクリート圧着接合架構の耐震性能を把握することを試みた。それから耐震性能評価に必要な復元力特性モデルとひび割れ量とかぶりコンクリート剥落両を推定するモデルを提案して,設定した性能を満足するように設計したモデル建物に対して動的解析を行い,アンボンド・プレキャスト・プレストレストコンクリート圧着接合架構の耐震性能について検討を行った。アンボンド・プレキャスト・プレストレストコンクリート圧着接合架構の耐震性能を調べるために以下のような内容で2章~6章を中心に研究を行った。

第2章では,アンボンド・プレキャスト・プレストレストコンクリート圧着接合架構の耐震性能に対して既往の実験的研究を中心に簡単に説明した。ボンド・プレキャスト・プレストレストコンクリート圧着接合架構に比べてアンボンド・プレキャスト・プレストレストコンクリート圧着接合架構は復元性に優れて残留変形が小さく,部材端部の曲げ圧縮破壊によって破壊に至る可能性が高いことについて説明した。さらに,アンボンド・プレキャスト・プレストレストコンクリート圧着接合架構の高い復元性を生かしながらエネルギー吸収性能を高めるためにアンボンド・プレキャスト・プレストレストコンクリート圧着接合架構にエネルギー吸収ディバイスを接合部内と外部に取り付けたものにわけて説明した。また,アンボンドPC鋼材に変わって圧着接合面での長期せん断力を負担し,さらに,PC鋼材のフェイルセーフとしての機能を持つせん断キーなどを圧着接合面に装着したアンボンド・プレキャスト・プレストレストコンクリート圧着接合架構に対して簡単に紹介した。

第3章では,アンボンド・プレキャスト・プレストレストコンクリート圧着接合架構の耐震性能を把握するために圧着長さ・場所打ちスラブの有無を実験変数としたアンボンド・プレキャスト・プレストレスト十字型柱梁接合部部分架構の静的正負繰返し実験の計画,方法および結果について説明した。試験体は内蔵型鋼製ブラケットを組み込んだ約1/3スケールの3体を作製した。全試験体は層間変形角4%まで高い復元性を示し,圧着接合面に損傷と変形が集中して発生した。圧着長さが短いほど小さい変形角で降伏し,場所打ちコンクリートでスラブと梁を一体化する場合,圧着接合面の回転変形により圧着接合面付近のスラブに損傷が集中する発生した。

第4章では,PC鋼材の降伏により骨格曲線が更新されるアンボンド・プレキャスト・プレストレストコンクリート圧着接合架構の復元力特性モデルを提案して実験結果と比較することによりモデルの妥当性について検討を行った。骨格曲線は,「圧着接合面開き開始点・かぶりコンクリート圧壊点・PC鋼材降伏点」からなる3つの特性点を持つ4折れ線にモデル化し,圧着接合面が圧着接合面の中立軸を中心に剛体変形することから曲げ理論による断面解析を行って求められた各特性点は実験結果と良い対応を示した。また,PC鋼材の降伏後に生じる残留ひずみと応力の関係から骨格曲線を更新させるという特徴を持つ履歴特性モデルを提案して,試験体を対象に静的非線形解析を行った結果,解析による実験値の方か原点指向性が強く,実験結果得られた履歴ループより細い履歴ループを描いたが,解析結果は概ね実験結果を追跡できることを示した。

第5章では,ひび割れ長さ・幅とかぶりコンクリートの剥落面積を対象損傷量として地震応答値から損傷量を推定するモデルを提案して実験結果と比較しその妥当性について検討した。部材端部の曲げモーメントからひび割れ長さと幅を推定するモデルによって推定されたひび割れは実験結果発生したひび割れより多かったが,概ねのひび割れ発生・進展過程を追跡できた。また,部材断部の局所応力集中によるかぶりコンクリートの剥落形状を圧着接合断面での中立軸長さで表せるとして部材変形からかぶりコンクリートの剥落面積を推定するモデルは実験結果と良い対応を示すことを示した。

第6章では,プレキャストコンクリート梁部材をアンボンドPCで柱部材に圧着接合したアンボンド・プレキャスト・プレストレストコンクリート圧着接合架構を設計して,4章で提案した復元力特性モデルを用いて,静的非線形解析・地震応答解析を行いその耐震性能について検討を行った。アンボンド・プレキャスト・プレストコンクリート圧着接合架構を構成する部材の限界状態とそれに応じた損傷状態を設定して,それを満足するように設計したモデル建物に対して静的非線形解析を行い,限界状態での層間変形角を求めた。限界変形時の層間変形角を生じさせるように決めた限界地震動を入力地震動として,構造形式,PC鋼材の長さ,地震動を変えて動的応答解析を行った。その結果,鉄筋コンクリート造建物に比べて,応答が大きくなることと,PC鋼材が短いほど小さい変形角で降伏するので層せん断力が大きくなることが分かった。

審査要旨 要旨を表示する

第6章では,プレキャストコンクリート梁部材をアンボンドPCで柱部材に圧着接合したアンボンド・プレキャスト・プレストレストコンクリート圧着接合架構を設計して,4章で提案した復元力特性モデルを用いて,静的非線形解析・地震応答解析を行いその耐震性能について検討を行った。アンボンド・プレキャスト・プレストコンクリート圧着接合架構を構成する部材の限界状態とそれに応じた損傷状態を設定して,それを満足するように設計したモデル建物に対して静的非線形解析を行い,限界状態での層間変形角を求めた。限界変形時の層間変形角を生じさせるように決めた限界地震動を入力地震動として,構造形式,PC鋼材の長さ,地震動を変えて動的応答解析を行った。その結果,鉄筋コンクリート造建物に比べて,応答が大きくなることと,PC鋼材が短いほど小さい変形角で降伏するので層せん断力が大きくなることが分かった。

本論文は,アンボンドPC圧着接合架構の耐震性能を明らかにするために,3体の柱梁十字型接合部試験体の静的正負繰返し載荷実験を行い,骨組の地震応答解析に用いる復元力特性モデルと耐震性能評価に用いる損傷量の推定モデルを新しく構築して提案し,それらのモデルを用いて例題として設定した建物の地震動的解析を行って,実用化にむけての課題の検討を行ったものであり,以下の第1章より第7章により構成される。

第1章「序論」では,研究の背景ならびに目的について述べ,本論文の構成を説明している。

第2章「既往の研究」では,アンボンドPC圧着架構の耐震性能に関する既往の実験的研究について述べ,通常のPC圧着接合架構に比べてアンボンドPC圧着架構は,残留変形が小さく復元性に優れているが,部材端部の曲げ圧縮破壊によって破壊に至る可能性が高く,地震時のエネルギー吸収に乏しいため,エネルギー吸収ディバイスを併用することが必要である考えられているとしてる。

第3章「実験計画」では,アンボンドPC圧着架構の耐震実験について述べている。実験は,(1)圧着用PC鋼棒の長さ(2)場所打ちスラブの有無を実験変数とした3体の1/3スケールのアンボンドPC圧着接合十字型柱梁接合部についての静的正負繰返し載荷である。すべての試験体は,層間変形角4%まで外力を除くと残留変形がほとんど残らない高い復元性を示し,圧着接合面に変形と損傷が集中して発生し,圧着長さが短いほど小さい変形角でPC鋼棒が早く降伏すること,場所打ちコンクリートでスラブと梁を一体化すると圧着接合面の回転変形により圧着接合面付近のスラブに損傷が集中することが示されている。

第4章「復元力特性のモデル化」では,アンボンドPC圧着接合架構特有のPC鋼材の降伏により骨格曲線が更新される復元力特性モデルを提案し,第3章で得られている実験結果と比較して,その妥当性について検討している。骨格曲線を,「圧着接合面開き開始点・かぶりコンクリート圧壊点・PC鋼材降伏点」からなる3つの特性点を持つものとして定義し,さらに,断面の曲げ理論による断面解析を行って求められた強度等を用いて定められる各特性点の強度と変形の推定値は実験結果と良い対応が得られることを示している。さらに,履歴特性は,PC鋼材の降伏後に生じる残留ひずみと応力により骨格曲線を更新させる方法を新たに提案している。第3章の実験による試験体を対象に静的非線形解析を行って,解析による実験値の方がより原点指向性が強いが,第3章で得られている実験結果は解析結果と概ね対応していることを示している。

第5章「構成部材のひび割れ量とかぶりコンクリート剥落面積の評価」では,ひび割れ長さ・ひび割れ幅およびかぶりコンクリートの剥落面積を対象として部材の応答変位値から損傷量を推定するモデルを構築し新しく提案している。さらに推定値を実験結果と比較しその妥当性を検討して,概ねひび割れ発生・進展過程を追跡できるとしている。また,部材端部の応力集中によるかぶりコンクリートの剥落形状を圧着接合断面での中立軸長さで表せるものと仮定するモデルは実験結果と良い対応を示したとしている。

第6章「モデル建物の耐震性能評価」では,プレキャストコンクリート梁部材をアンボンドPCで柱部材に圧着接合したアンボンドPC圧着接合架構による骨組の試設計をして,4章で提案した復元力特性モデルを用いて,骨組の静的非線形解析および骨組の地震応答解析を行いその耐震性能について検討を行っている。構造形式,PC鋼材の長さ,地震動を変動因子として,動的応答解析を行い,鉄筋コンクリート造建物に比べて,応答が大きくなることと,PC鋼材が短いほど小さい変形角で降伏するので層せん断力が大きくなることを示している。

第7章「結論」では,本論文で得られた成果を要約し,論文全体の結論を述べ,今後の課題と展望について述べている。

このように,本論文は,アンボンドPC圧着接合架構特有の復元力特性を新たに提案し実験に基づいて適用性を検証し,さらにそのモデルを用いてアンボンドPC圧着接合架構の耐震性についての多角的な検討を行い,アンボンドPC圧着接合架構特有の設計因子の地震応答に及ぼす影響を明らかにしている。これらの解析モデルの開発と,架構性能に及ぼす多角的でパラメトリックな検討は,アンボンドPC圧着接合架構の実用化のために不可欠な耐震設計法の確立に欠かせないものであり,耐震工学の進歩に大きく貢献している。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク