No | 124545 | |
著者(漢字) | 伍,止超 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ゴ,シチョウ | |
標題(和) | 木質系プレハブ住宅現場生産システムの組織化に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 124545 | |
報告番号 | 甲24545 | |
学位授与日 | 2009.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6979号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 建築学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 工業化住宅、いわゆるプレハブ住宅は、住宅生産過程の合理化を追求し、工場生産化率を高めることで現場工期を短縮し、現場にかかるコストを低く抑えるとともに、様々な新技術・新部品を開発、グローバルな資材調達による資材コストの低減など、総合的な住宅コストの低減に努めている。各プレハブ住宅メーカーは、住宅の質的な要求を満たし、コストを低下し、工期を短縮するため、プレハブ住宅の工業化を研究し続けている。特に、大ロット生産や工場生産のロボット化などの技術を日々進化させて、工場生産を徐々に標準化、合理化した。しかしながら、現場の生産は工場生産に比べ、品質や生産性の管理が徹底できず,プレハブ住宅においても品質や生産性のばらつきが存在すると指摘されている。 本研究では、現場作業に着目し、現場作業に関わる職人と建築部材の流れの両側面から現場生産システムの組織化を図ることを目的とする。具体的には、有効な組織化を図る上で重要と考えられる以下の2種の事柄を明らかにすることを目的とする。 I.職人に関する作業研究:本研究は現場での作業内容・作業量から、現場生産のバラツキを明確にした上で、バラツキを定量的に把握し、また、バラツキが発生する原因および現場作業工数に影響する要因を明らかにする。 II.建築部材に物流研究:本研究は、部材の搬入回数、時期と、現場での停滞期間の関係、また現場内での部材の流動経路と現場での停滞場所の関係を明らかにする。 本研究では木質パネル工法を対象とし、研究目的に従って日本建築学会の「作業能率測定指針」に基づき4つの建設施工現場の作業研究と物流研究を実施した。調査対象工事は、組立工事から竣工前のクリーニングまでの現場作業である。 (1)作業研究のための作業調査は、作業工数に着目し、現場調査を前に作業調査シートを作成し、各工事をまとまり作業に分け、さらに、それを単位作業に分解し、それぞれにコードを付し、15分単位あるいは5分単位で記録した。また、作業員の作業や動作をデジタルカメラ、ビデオカメラを用いて記録した。 (2)物流研究は、物流に着目し、現場への建築部材の搬入時期および現場内での建築部材の流れを記録し、部材毎の特徴を明らかにする。特に現場内において建築部材が、どこに、どのくらいの期間、滞留(保管)し、どのように使用されているか、そのプロセスを明らかにする。また、建築部品の現場での状態はデジタルカメラを用いて記録した。 本論文は、序論と結論を含めた6章により構成されている。本研究の目的、既往研究及び方法と構成については、序論においてまとめた。 第2章は、木質パネル工法を用いた木質系プレハブ住宅の位置づけを明らかにすることを目的とする。この章では構法、工場生産、施工体制の3つの側面から木質系プレハブ住宅の特徴を明らかにした。木質系プレハブ住宅の特徴より、構造躯体及び外壁の建て方以外、一般の木造住宅と比べ、構法上の特殊点がないことを明らかにした。また、今回対象としたプレハブ住宅メーカーM社は一括・分離混合方式の施工組織構造を採用している。このような施工組織構造は、一般的木造住宅を供給する工務店や地域ビルダーにも広く見られる。職種の観点から見ると、プレハブ住宅の生産は一般の木造住宅の生産と基本的な差異はない、両者ともに共通の職人をプロジェクト毎に組織していることも示した。 第3章は、本研究の現場調査の対象とした4つの建設現場について説明している。各プロジェクトの特徴を比較する上で、第4章と第5章における研究の比較の視点を明らかにすることを目的とする。この章は、敷地条件、納品形態、設計プラン、計画工期、施工組織の5つの側面から、調査対象とした住宅の特徴を比較した。また、まとめに第4章の作業研究と第5章の物流研究における比較の視点を整理した。これからの作業研究と物流研究における分析は、納品形態タイプの比較分析を行うという視点、さらにそれぞれのタイプの中でも差異があるのかという視点をそれぞれ明らかにした。 第4章は、作業調査に基づいて作業研究を行った。この章は、作業工数を中心にし、各プロジェクトの作業工数のばらつきを定量的に把握し、また、ばらつきを存在した上で、ばらつきが発生する原因を明らかにすることを目的とする。この章は、はじめに作業調査シート、作業コードの概要を説明から作業調査の方法を説明している。分析では、まず出面を分析している。全職種の出面、大工の出面、大工以外の出面の区分で,各プロジェクトの出面状況を比較分析した。各プロジェクトの出面はばらつきが見られるが、いずれも単枚納品のプロジェクトの出面は仕上げ済み納品のプロジェクトより多いことが挙げられた。 次に、作業工数に関する分析を行った。全体の工数の比較分析を始めとし、各工事、各職種の工数及び工数の割合を比較した。各プロジェクトの各工事、各職種の工数及び割合が異なることを明らかにした。納品形態による工数の差異があったことを明らかにし、同じ納品形態としても工数の差異があることも明らかにした。また、各職種の工数分析において、工程進捗と工数の関係を分析した。更に、大工に着目し、各プロジェクトの全工期における大工の出面と累積工数を併せて分析した。以上の職種別の工数分析により、各職種の工程進捗は異なることを明らかにした。また、大工作業は大きな役割を果たしており、他の職種の作業に大きく影響にすることも確認した。次に、まとまり作業、単位作業の工数を比較分析した。各プロジェクトの作業がばらつきを生じた場合は原因までも明らかにした。差異があった原因については、納品形態が原因になっている場合に限らず、他の原因も作業工数に影響することを明らかにした。 各プロジェクトの稼働率を明らかした。各プロジェクトの稼働率が約70%であることが確認した。また、定時刻休憩以外には臨時休憩、図面確認、打合せ、材料の探索、材料の移動などの作業的余裕時間があったことも明らかにした。更に、これらの作業的余裕時間の割合も明らかにした。 各プロジェクトの工程計画について、実際の工程進捗との比較分析も行った。実際の各工事の開始日と完了日が明確ではない状況があったことを明らかにした。また、実際の工程工期は計画通りにならないことを挙げた。更に、組立・造作工事は他の工事に大きな影響を与えることを確認した。 最後に,契約書類によるマクロなデータの信頼性を検証した。契約書類によるマクロなデータは半日を単位として、作業員が自身で記録している作業工数を集計している。ここでは、契約書類によるマクロなデータと現場調査による詳細な調査データを比較した。契約書類によるマクロデータの信頼性が高くないことを明らかにした。 第5章は、物流研究である。この章は、部材を搬入する回数、タイミングと現場での停滞期間の関係、また、現場内部材の流動経路と現場での停滞場所の関係を明らかにすることを目的としている。本研究では建築部材を現場へ搬入するまでの物流を「納品物流」、現場内での物流を「現場物流」と区分した。この章は、まず物流調査の方法を説明した。分析のために、2次、3次部材の中から1 0品目を選択し、分析を行った。 現場物流の分析では、まず各プロジェクトの現場物流の状況を明らかにした。また、納品回数、タイミングと現場での停滞期間による分析を行った。この分析によって、3回納品の場合は現場での部材の停滞期間が長く、多回納品の場合は現場での部材の停滞期間が短いことを明らかにした。更に、現場での部材の経路と現場での停滞場所に関する分析を行った。調査結果をもとに、部材の一時保管場所と加工スペースによって、現場物流を(1)直接搬入パターン、(2)屋外ストックパターン、(3)屋内ストック+加工パターン、(4)標準パターンの4つにパターン化した。10品目を例とし、現場での流動経路を分析し、この4つのパターンの特徴を明らかにした。以上から、現場内部材の経路と現場での停滞場所の関係を明らかにした。 最後に、3回納品の品目及びタイミングを整理した。プレハブ住宅メーカーM社はこれまで3回納品を主に用いている。しかしながら,敷地条件によって部材置場がない場合は、必要な部材は日々大工工務店の倉庫、或いは中継基地から現場へ搬入する多回納品が採用されていることを明らかにした。そして3回納品と多回納品の特徴を明らかにした。 第6章の結論では、本論文の全体の総括を行った。本論文の成果として、第1章において設定した目的に対して、第2章から第5章までに得た成果をまとめた。そして木質系プレハブ住宅の現場生産性の向上する手法を考察し、示した。最後に、今後の研究課題についてまとめ、本論文の結びとした。 | |
審査要旨 | 提出された学位請求論文「木質系プレハブ住宅現場生産システムの組織化に関する研究」は、工場生産段階では各種合理化が進展しているのに対して現場施工の合理化が進展していないとされるプレハブ住宅の現場作業に着目し、現場作業に関わる職人と建築部材の流れの両側面から現場生産システムの実態を詳細に把握し、その上でその組織化の方法を明らかにした論文であり、全6章からなっている。 第1章「序論」では、研究の背景、目的、既往の関連研究の成果を明らかにしている。具体的には、先端工学技術の適用によって工場生産の合理化を押し進め、世界の中でも特に優れた先進性を有すると言われる日本のプレハブ住宅が、現場施工においては品質や生産性の管理が必ずしも十分とは言えず、それらのばらつきが存在することを指摘している。そして、プレハブ住宅の施工現場での作業内容・作業量におけるバラツキに実態とその原因およびそれが生産性に及ぼす影響を明らかにすることと、施工現場への部材の搬入、現場内での停滞や移動の実態と問題点を明らかにすることの二つを研究の目的としている。 第2章「木質系プレハブ住宅の構法・生産システム上の特徴」では、本研究の対象として選定したパネル工法を用いた木質系プレハブ住宅の位置付けを、構法、工場生産、施工体制の3つの側面から明らかにしている。具体的には、対象とする木質系プレハブ住宅が、構造躯体及び外壁の建て方を除けば、一般の木造住宅と大きな差異がないこと、対象としたプレハブ住宅の施工組織構造が、一般的な木造住宅を供給する工務店や地域ビルダーにも広く見られるものであること、更に施工に従事する職種という観点からも一般の木造住宅と大きな差異がないことを明らかにし、本研究の成果の他構法、他生産方式への適用可能性に言及している。 第3章「調査対象住宅の選定及びその特徴の比較」では、現場調査の対象とした4つの建設現場について施工作業の内容や生産性に関係する特徴を比較し、その差異を明らかにしている。具体的には、敷地条件、納品形態、設計プラン、計画工期、施工組織の5つの側面から、それぞれの現場の特徴と相互の差異を詳細に整理している。 第4章「木質系プレハブ住宅における作業研究」では、丹念な実測調査により各プロジェクトの作業工数のバラツキを定量的に把握し、その原因を明らかにしている。具体的には、作業調査の方法を説明した後、作業工数に関する分析を行い、各プロジェクトの各工事、各職種の工数及び割合が異なることを明らかにしている。特に、納品形態による工数の差異、各職種の工程進捗と工数の関係、大工作業に着目しその役割と他の職種の作業への影響の大きさ等を明らかにしている。また同時に、各プロジェクトの稼働率、作業余裕時間の割合、工程計画と実績との差異とその原因、契約書類のおいて根拠としている作業工数の想定と実態の乖離の程度を明らかにしている。 第5章「木質系プレハブ住宅における物流研究」では、4章と同じ4つの施工現場に関する詳細調査に基づき、部材を搬入する回数、タイミングと現場での停滞期間の関係、また、現場内部材の流動経路と現場での停滞場所の関係を明らかにしている。具体的には、建築部材を現場へ搬入するまでの物流を「納品物流」、現場内での物流を「現場物流」と区分した上で、2次、3次部材の中から10品目を選択し、分析を行っている。この分析によって、3回納品の場合は現場での部材の停滞期間が長く、多回納品の場合は現場での部材の停滞期間が短いこと、更に、部材の一時保管場所と加工スペースとの関係に4つの類型が存在すること等を明らかにしている。 第6章「結論」では、これまでの成果を整理し結論としている。 以上、本論文は、極めて詳細な施工現場調査とその分析を通じて、プレハブ住宅の施工現場の生産性のバラツキの実態とその原因を明らかにし、より合理的な組織化の可能性を具体的かつ詳細に明らかにした論文であり、建築学の発展に寄与するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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