No | 124585 | |
著者(漢字) | アニワット,タンデーシーヌラット | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | アニワット,タンデーシーヌラット | |
標題(和) | 有限差分時間領域法によるフォトニック結晶の設計と高Q値3次元フォトニック結晶ナノ共振器の作製に関する研究 | |
標題(洋) | Design of Photonic Crystals by FDTD Method and Fabrication of High-Q Three-Dimensional Photonic Crystal Nanocavities | |
報告番号 | 124585 | |
報告番号 | 甲24585 | |
学位授与日 | 2009.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第7019号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 電子工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | フォトニック結晶は波長程度の微小領域で光を制御するための基本構造として非常に注目を集めている。フォトニック結晶中に欠陥を導入することで、欠陥領域に非常に強く光を閉じ込めることが可能であり、Q値の高い光共振器が実現できる。本論文は高Q値2次元、及び3次元フォトニック結晶ナノ共振器の設計と作製について論じたものである。共振器の設計には有限差分時間領域法を用いた。本研究では、高度に構造設計をすることでフォトニックバンドギャップがない場合にも、高Q値2次元フォトニック結晶が実現できることを実証するとともにそのメカニズムを解明した。この成果は共振器の設計の自由度を拡張した点と、フォトニックバンドの大きさが制限された系においても高Q値共振器の実現できる可能性を示した点で非常に重要である。さらに3次元フォトニック結晶ナノ共振器の世界最高Q値を実現するとともに、設計においてはモードの選択や構造微調整により高いQ値が実現できることを明らかにした。これらの成果は3次元空間での光の制御が要求される様々な応用に向けて重要な一歩であると確信する。 第2章[Basis for Theoretical Analysis of Photonic Crystal]ではフォトニック結晶に関する基礎原理について概説する。そこではフォトニック結晶中での光の分散関係、及びフォトニックバンドギャップの形成について議論する。特に本論文で取り扱う三角格子、及び正方格子配列2次元フォトニック結晶と3次元ウッドパイル型フォトニック結晶に関する基礎について詳しく議論する。はじめに、フォトニックバンドギャップの形成に対するスラブ厚、円孔半径の影響を議論する。それらの影響を深く理解することは高Q値ナノ共振器の設計の基礎であり、きわめて重要である。続いて、フォトニック結晶中に導入された欠陥の影響について議論する。 第3章[Finite-Difference Time-Domain Method]ではフォトニック結晶の設計に用いられた有限差分時間領域法(FDTD法)の基礎について概説する。FDTD法は境界領域の扱いにより2種類に大別される。無限に広がった系での電界分布の計算、例えばフォトニックバンド構造の計算などにおいては周期境界条件が使われる。それに対して、有限領域上での電界分布の計算、例えばフォトニック結晶中に導入された欠陥周辺における電界分布の計算においては吸収境界条件が使われる。本章においてはFDTD法を利用した、フォトニック結晶ナノ共振器の設計にあたって重要な指標である、共振周波数、電界分布、共振器Q値、及びモード体積の求め方について特に詳しく議論する。 第4章[Increase of Q Factor in Photonic Crystal H1-Defect Nanocavities after Closing of Photonic Bandgap with Optimal Slab Thickness]ではフォトニックバンドギャップが消滅する厚い2次元フォトニック結晶スラブにおいてもH1型ナノ共振器における単極モードのQ値が上昇することを理論、実験両面から示した成果について述べる。高Q値という観点における最適スラブ厚は共振器内に閉じ込められる光の波長と等しいことが示された。最適なスラブ厚からなる共振器において、横方向への強い光の閉じ込めはフォトニックバンドギャップによる影響ではなく、共振器モードと導波モードとの弱い結合を起源としている。これらの知見は、高Q値共振器の設計に対し新たな指針を与えることになるであろう。特にフォトニックバンドギャップの発現が難しい低屈折率材料やサブバンド間発光デバイスのためのフォトニック結晶微小共振器の設計に対して、非常に有用であると考えられる。スラブ厚の最適化によるQ値の向上という概念は、スラブ厚は分子線エピタキシャル成長法(MBE)や有機金属化学気相成長法(MOCVD)を利用して非常に高精度に制御できるという点から作製上、非常に優位な特徴を有している。 第5章[High-Q Doubly-Degenerated Modes by Modulating Air Hole Radii in Square Lattice Photonic Crystal Nanocavity]では第4章で議論されたモード間の結合強度に関する概念を、面内方向のみではなく、面垂直方向へも拡張させ、正方格子フォトニック結晶を用いた2重縮退モードを有する半径変調型フォトニック結晶ナノ共振器について議論する。運動量空間でのモード解析により、設計した共振器構造における共振器モードは導波モード、及び放射モードとの結合が著しく抑制されていることが分かった。その結果、量子もつれ光子対発生源の実現に対し要求される、モード体積Vが小さく非常に高いQ値を有するフォトニック結晶ナノ共振器を設計することに成功した。得られた性能指数(Q/V)は現在までに報告された値より2倍程度大きい。また、この概念をフォトニックバンドギャップ形成が難しい低屈折材料に適用できることも示した。コロイド状発光体を含む低屈折率材料を用いて、設計したフォトニック結晶ナノ共振器を作製し、光励起によりフォトニック結晶欠陥に起因する発光増強の観測に成功した。ここでは700という高いQ値が得られた。これら低屈折率系フォトニック結晶ナノ共振器で最大である。 第6章[Designs of High-Q Nanocavities in Three-Dimensional Photonic Crystal with Finite Structural Size]では、ここまで2次元結晶に関して議論してきた事柄を3次元結晶に拡張し、高Q値3次元ウッドパイル型フォトニック結晶ナノ共振器の設計について論ずる。電磁界解析により、3次元フォトニック結晶中に導入された長方形型点欠陥に起因する高次の局在モードは、低次のそれに対し非常に大きなQ値を持つことを示した。また、面垂直方向に対し、たかだか17周期からなる結晶においてさえQ値は104を超えることを明らかにした。さらに、欠陥付近の誘電体柱の位置をほんのわずかに変化させるだけで、1桁以上のQ値の上昇が見込めることを発見した。これらの成果は、作製の難しい3次元フォトニック結晶で、少ない積層数においても高いQ値が得られる可能性を示すものであり、今後の実験的発展に与える影響は大きい。 第7章[Fabrication of Characterization of High-Q Three-Dimensional Photonic Crystal Nanocavities]は、マイクロマニュピュレーション技術を用いた量子ドットを埋め込んだ3次元フォトニック結晶の作製と評価について論じている。欠陥構造を有する21層積層結晶において8,600という非常に高いQ値が得られた。これは現在に報告されている3次元フォトニック結晶に関するQ値としては最高値である。 第8章[Concluding Remarks]は、各章の主要な研究成果をまとめて総括し、本論文の結論及び将来展望について述べている。 本論文では高Q値フォトニック結晶ナノ共振器の設計と作製に関する多くの科学的知見を得ることができた。これらの成果はフォトニック結晶を用いた光の完全制御にむけて非常に有用であると確信する。 | |
審査要旨 | フォトニック結晶は波長程度の微小領域で光を制御するための基本構造として非常に注目を集めており、フォトニック結晶中に欠陥を導入することにより、欠陥領域に非常に強く光を閉じ込めてQ値の高い光共振器を実現できる。本論文は「Design of Photonic Crystals by FDTD Method and Fabrication of High-Q Three-Dimensional Photonic Crystal Nanocavities (有限差分時間領域法によるフォトニック結晶の設計と高Q値3次元フォトニック結晶ナノ共振器の作製に関する研究)と題して、高Q値2次元、及び3次元フォトニック結晶ナノ共振器の設計と作製について論じており、8章から成り、英文で書かれている。 第1章では、「Introduction(序論)」と題して、フォトニック結晶の研究分野の発展とを論じた後、本研究の意義と目的を示している。 第2章では、「Basis for Theoretical Analysis of Photonic Crystal」と題して、フォトニック結晶に関する基礎原理について概説している。特に本論文で取り扱う三角格子、及び正方格子配列2次元フォトニック結晶と3次元ウッドパイル型フォトニック結晶に関する基礎について詳しく議論している。 第3章では、「Finite-Difference Time-Domain Method」と題して、フォトニック結晶の設計に用いられた有限差分時間領域法(FDTD法)の基礎について概説している。本章においてはFDTD法を利用したときにフォトニック結晶ナノ共振器の設計において重要な指標である、共振周波数、電界分布、共振器Q値、及びモード体積の求め方について特に詳しく議論している。 第4章では、「Increase of Q Factor in Photonic Crystal H1-Defect Nanocavities after Closing of Photonic Bandgap with Optimal Slab Thickness」と題して、フォトニックバンドギャップが消滅する厚い2次元フォトニック結晶スラブにおいてもH1型ナノ共振器における単極モードのQ値が上昇することを理論、実験両面から明らかにしている。高Q値という観点における最適スラブ厚は共振器内に閉じ込められる光の波長と等しいことを示すとともに、最適なスラブ厚からなる共振器において、横方向への強い光の閉じ込めはフォトニックバンドギャップによる影響ではなく、共振器モードと導波モードとの弱い結合を起源としていることを論じた。スラブ厚の最適化によるQ値の向上という概念は、スラブ厚は分子線エピタキシャル成長法(MBE)や有機金属化学気相成長法(MOCVD)を利用して非常に高精度に制御できるという点から作製上、非常に優位な特徴を有している。 第5章では、「High-Q Doubly-Degenerated Modes by Modulating Air Hole Radii in Square Lattice Photonic Crystal Nanocavity」と題して、第4章で議論されたモード間の結合強度に関する概念を、面内方向のみではなく、面垂直方向にも拡張させ、正方格子フォトニック結晶を用いた2重縮退モードを有する半径変調型フォトニック結晶ナノ共振器について議論している。運動量空間でのモード解析により、設計した共振器構造における共振器モードは導波モード、及び放射モードとの結合が著しく抑制されていることを明らかにし、モード体積Vが小さく非常に高いQ値を有するフォトニック結晶ナノ共振器を設計することに成功した。また、この概念をフォトニックバンドギャップ形成が難しい低屈折材料に適用できることも示し、コロイド状発光体を含む低屈折率材料を用いたフォトニック結晶ナノ共振器を作製し、光励起によりフォトニック結晶欠陥に起因する発光増強の観測に成功した。 第6章では、「Designs of High-Q Nanocavities in Three-Dimensional Photonic Crystal with Finite Structural Size」と題して、高Q値3次元ウッドパイル型フォトニック結晶ナノ共振器の設計について論じ、電磁界解析により、3次元フォトニック結晶中に導入された長方形型点欠陥に起因する高次の局在モードは、低次のそれに対し非常に大きなQ値を持つことを示した。さらに、欠陥付近の誘電体柱の位置をほんのわずかに変化させるだけで、1桁以上のQ値の上昇が見込めることを発見した。 第7章では、「Fabrication of Characterization of High-Q Three-Dimensional Photonic Crystal Nanocavities」と題して、マイクロマニュピュレーション技術を用いた量子ドットを埋め込んだ3次元フォトニック結晶の作製と評価について論じている。欠陥構造を有する21層積層結晶において8,600という非常に高いQ値が得られた。これは現在に報告されている3次元フォトニック結晶に関するQ値としては最高値である。 第8章は「Concluding Remarks」であり、各章の主要な研究成果をまとめて総括し、本論文の結論及び将来展望について述べている。 以上これを要するに、本論文は、フォトニック結晶の設計について論じ、バンドギャップがない場合でも高いQ値を有する微小共振器を実現できることを明らかにするとともに、マイクロマニュピュレーション技術を用いて量子ドットを埋め込んだ3次元フォトニック結晶を作製し、3次元フォトニック結晶ナノ共振器としては世界最高Q値を実現したものであり、電子工学に貢献するところが少なくない。 よって、本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |