学位論文要旨



No 124610
著者(漢字) 朴,賢緒
著者(英字)
著者(カナ) パク,ヒョンソ
標題(和) 液体ガリウム中に微細強磁性粒子を分散させた金属機能性流体の製造と特性
標題(洋) Preparation and Properties of Metallic Functional Fluid Dispersing Fine Ferromagnetic Particles in Liquid Gallium
報告番号 124610
報告番号 甲24610
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7044号
研究科 工学系研究科
専攻 地球システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤田,豊久
 東京大学 教授 玉木,賢策
 東京大学 准教授 定木,淳
 東京大学 准教授 増田,昌敬
 東京大学 准教授 阿部,英司
内容要旨 要旨を表示する

海洋及び宇宙開発技術の発展に伴い、新素材の開発として機能性流体に関する研究が非常に活発に行われている。機能性流体として知られるER流体(Electro-Rheological Fluid)、MR流体(Magneto-Rheological Fluid)、磁性流体(Magnetic Fluid)は、過去の基礎物性研究の結果から、多様な形態のシステムを構築するためにその応用性が極めて高いことが明らかとなっている。磁界に応答する磁性流体およびMR流体は、外部磁場によってその流体力学的性質を大きく変化させるため、新しい応用分野への研究が長年継続されてきた。しかし、金属流体を用いたMR流体および磁性流体は学問的な体系としては未完成な部分が多く、応用研究においても十分な体系が整っていないのが実情である。本研究では、液体ガリウムにμmおよび10nmオーダーの磁性粒子を分散させて、磁場を印加させることによって、応答する磁性流体及びMR流体といった機能性に関して、分散における材料特性および流動特性に関する研究を行なう。

本研究で開発された磁界に応答する機能性流体は、液体金属を溶媒として用いており、油や水を溶媒とする場合に比べ、電気・熱伝導性に優れソーラーシステム、MHD等のエネルギー変換プロセス分野への応用が期待される。過去に液体金属として水銀を利用した研究例が見られるが、本研究では蒸気圧が低く毒性の少ないガリウムを使用し、ガリウムの蒸気圧は9.31×10-21Pa(302.9K)、融点は302.9K、沸点は2477.OK、熱伝導率が40.6W/(m・K)である。本研究は液体ガリウムベースのMR流体および磁性流体の作成を目的とし、エネルギー変換プロセスに応用する基礎研究を目的としたものである。

一般に,MR流体は、直径がμmオーダーの強磁性体粒子を界面活性剤で被覆し有機溶媒や水などの溶媒中に均一に分散させたもので磁界印加によって粘度が極めて増大するという特徴を持つ。一方、これより小さい10nmオーダーの強磁性体粒子を分散させ、超常磁性となる磁性流体はそれほど粘度が増大せず流動性を保持する。

本研究では液体ガリウム金属中に分散させる粒子としてニッケル、感温フェライト、鉄合金の粒子を用いた。通常、ガリウム中に金属粉の分散は困難であるため、ガリウムとの親和性が高い二酸化ケイ素で粒子を被覆しガリウム中に分散させることを試みた。また微量の二酸化ケイ素のみの最適添加によってガリウムの融点が低下する現象も見られた。まず、二酸化ケイ素で被覆したニッケルを分散させたMR流体を作製した。粒子の密度とガリウム金属の密度がほぼ等しくなり分散が容易となる最適な被覆厚さは22nmのときであり、この粒子を液体ガリウム中に分散させたときの飽和磁化は0.03T、磁界印加による粘度の降伏応力は178.0Paであった。次に10nmの感温フェライトを合成しヘテロ凝集理論に従い二酸化ケイ素の5nm被覆を行い、被覆の最適条件はpH7.5、二酸化ケイ素と感温フェライトの比は0.92、温度323Kで反応時間1時間であった。同様に液体ガリウム中に分散させたときの磁化および磁界印加による粘度を測定したところ飽和磁化0.006T、降伏応力は55.0Paであった。

エネルギー変換システムに用いるためには高い飽和磁化と鋭い感温性(磁化の温度依存性)および10nmオーダーの小さい粒子径が必要とされる。耐酸化性があり、感温性の大きい鉄合金(Fe(84)Nb3V4Bg)粒子をメカニカルアロイングと化学的な合成法で作製した。化学的に合成した鉄合金はメカニカルアロイングで作製した鉄合金粒子約1.5μmよりも粒子径が30-50nmと小さく、優れた感温性を持っていたため、ガリウム中に二酸化ケイ素を被覆して良好に分散させることが試み、その磁化および磁界印加による粘度を測定した。化学的に合成した鉄合金を0.3mass%と3.0mass%とで液体ガリウムに添加したところ、3.0mass%では流動性を失い弾性体となったが、0.3mass%では流動性を保持し、飽和磁化0.005T、降伏応力は24.0Paであった。この鉄合金粒子を0.3mass%ほど添加した液体ガリウムを作製し、常温から363Kの異なる温度で最大約1.0Tの磁場中において流体の温度差による磁化の差異から磁界勾配により移動距離が異なることを確認した。このことから化学的に合成した鉄合金を二酸化ケイ素で被覆し、0.3mass%ほど添加した液体ガリウムを閉じたパイプ中の流動については今後の課題であるが、エネルギー変換システムに応用することが期待される。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「 液体ガリウム中に微細強磁性粒子を分散させた金属機能性流体の製造と特性」と題し、液体ガリウム中に感温特性を持つ磁性微粒子を分散させる場合の材料特性および磁場を印加し応答する磁性流体及びMR流体の流動特性に関する研究を行ったものである。液体ガリウムベース機能性流体を、その温度に依存した磁化変化をもつ感温特性を利用して、流体に磁場を印加すると温度差により流動する新型のエネルギー変換プロセスに適用することが本研究の目的であり、6章から構成される。

第1章の序論では、新素材の開発として活発に研究されている機能性流体すなわちER流体(Electro-Rheological Fluid)、MR流体(Magneto-Rheological Fluid)、磁性流体(Magnetic Fluid)の通常の特性及び製造方法を記述した。一般に、MR流体は、直径がμmオーダーの強磁性体粒子を界面活性剤で被覆し有機溶媒や水などの溶媒中に均一に分散させたもので、磁界印加によって粘度が極めて増大するという特徴を持つ。一方、これよりかなり小さい10 nmオーダーの強磁性体粒子を分散させ、超常磁性となる磁性流体は、それほど粘度が増大せず流動性を保持する。研究の具体的な指標としては、液体ガリウムベースのMR流体および磁性流体の作成を目的とし、エネルギー変換プロセスに 応用することができる新素材の開発について概説した。

第2章は、本研究に用いた材料及び実験方法に関する全般的な内容である。 ニッケル、感温フェライト、合金の粒子の合成方法及び粒子特性に対して 概説した。過去に液体金属として水銀を利用した研究例が見られるが、本研究では蒸気圧が低く毒性の少ないガリウムを使用する。ガリウムの蒸気圧は9.31×10(-21) Pa(302.9 K)、融点は302.9 K、沸点は2477.0 K、熱伝導率が40.6 W/(m・K)である。また、微量のナノサイズの二酸化ケイ素を添加することによってガリウムの融点が低下する現象も見出した。 さらに本研究で合成した磁性粒子及び機能性流体の特性を測定する装置についても概説した。

第3章から 第5章では「 液体ガリウム中に 二酸化ケイ素で被覆した 3種類の微細強磁性粒子を分散させた金属機能性流体の製造と特性 」について述べた。 液体ガリウム金属中に分散させる粒子としてニッケル、感温フェライト、鉄合金の粒子を用いた。通常、ガリウム中に金属粉の分散は困難であるため、ガリウムとの親和性が高い二酸化ケイ素で粒子を被覆しガリウム中に分散させることを試みた。まず、二酸化ケイ素で被覆したニッケルを分散させたMR流体を作製した。粒子の密度とガリウム金属の密度がほぼ等しくなり分散が容易となる最適な被覆厚さは22 nmのときであり、この粒子を液体ガリウム中に分散させたときの飽和磁化は0.03 T、磁界印加による粘度の降伏応力は178.0 Paであった。ついで10 nmの感温フェライトを共沈法で合成し、へテロ凝集理論に従い二酸化ケイ素で5 nmの 被覆を行った。被覆の最適条件はpH 7.5、二酸化ケイ素/感温フェライトのmol比は0.92、温度323 Kで反応時間は1時間であった。同様に液体ガリウム中に分散させたときの磁化および磁界印加による粘度を測定したところ飽和磁化0.006 T、降伏応力は55.0 Paであった。エネルギー変換システムに用いるためには高い飽和磁化と鋭い感温性(磁化の温度依存性)および10 nmオーダーの小さい粒子径が必要とされる。感温性の大きい鉄合金(Fe(84)Nb3V4B9)粒子をメカニカルアロイングと化学的な合成法で作製した。化学的に合成した鉄合金粒径(30-50 nm)はメカニカルアロイングで作製した鉄合金粒子(約1500 nm)よりも小さく、優れた感温性を保有していた。それらに二酸化ケイ素を被覆してガリウム中に良好に分散させることを試み、その磁化および磁界印加による粘度を測定した。 化学的に合成した 鉄合金(Fe(84)Nb3V4B9)粒子は バナジウムを含有する場合は、含有しない場合に比べて耐酸化性が大となった。また、0.3 mass%の磁性粒子をガリウムに添加した流体は流動性を保持しているが、3.0 mass%を添加した場合、流動性を持たなくなった。

第6章では、この二酸化ケイ素を被覆した鉄合金粒子を0.3 mass%ほど液体ガリウム中に添加した流体を作製し、常温から363 Kの異なる温度で最大約1.0 Tの磁場中において流体の温度差による磁化の差異から移動距離が異なることを確認した。

第7章は結論である。

本研究の成果は、ナノサイズの二酸化ケイ素を分散させ常温で流体である液体ガリウムを製造できることを明らかとし、耐酸化性の0.8Tの飽和磁化をもつ鉄合金(FeNbVB)微粒子30-50nmを化学的に合成し、これを二酸化ケイ素で粒子間相互作用を用いて10 nmの 被覆を行い、0.3 mass%ほど液体ガリウム中に添加し、液体ガリウムベースの新しい感温性の機能性流体を製造したことである。温度変化のある磁場中での本流体の流動が観察でき、閉じたパイプ中の流動については今後の課題であるが、液体金属を溶媒として用いており、油や水を溶媒とする場合に比べ、電気・熱伝導性に優れ、ソーラーシステムなどのエネルギー変換プロセス分野への応用が期待される。

よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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