学位論文要旨



No 124622
著者(漢字) 小野,公輔
著者(英字)
著者(カナ) オノ,コウスケ
標題(和) 自己組織化空間における金属錯体の精密集積
標題(洋) Discrete Stacking of Metal Complexes within Organic-Pillared Coordination Cages
報告番号 124622
報告番号 甲24622
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7056号
研究科 工学系研究科
専攻 応用化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤田,誠
 東京大学 教授 橋本,和仁
 東京大学 教授 加藤,隆史
 城西大学 教授 加藤,立久
 東京工業大学 准教授 吉沢,道人
内容要旨 要旨を表示する

平面状金属錯体は直線状に集積することで、単独では見られない金属問相互作用に起因する物性を発現する。その研究の多くは、固体中で無限に発散した集積構造に限られていた。一方、近年になり、集積する金属の"種類"や"数"を厳密に制御した、有限金属集積体がナノサイズの機能性素子としての期待から注目を集め、盛んに研究されている。しかしながら通常、金属錯体間を連結するために、多段階合成を要する補助配位子が必要である。また、従来の金属集積法では金属の種類に強く依存し、簡便に数や種類を制御した金属集積体を構築するのは極めて困難であった。そこで本研究では、"平面状金属錯体を簡便かつ精密に集積する新規合成法の開発"と"集積体に由来する特異な金属間相互作用の誘起"を目的とした。

本研究の戦略として、3次元孤立空間に平面状金属錯体を集積し、金属間相互作用を誘起することを考案した。孤立空間として、パネル状三座配位子とピラー状二座配位子とシス位を保護したパラジウム錯体から自己集合で形成される自己組織化空間に着目した。その内部空間は、上下をパネル状配位子に囲まれた箱型の疎水性空間であるため、平面状有機分子を疎水性相互作用やπ-π相互作用を駆動力として効率よく集積できる。集積分子数もピラー状配位子の拡張により容易に行える。

本論文は以下の8章から構成されている。

第1章では、本研究の背景、目的および概論を論じた。

第2章では、本研究のコンセプトである「自己組織化空間を用いた金属錯体の集積化」の手法を確立し、「金属間相互作用の誘起」に有用であることを証明した。溶液、固体中において、金属間相互作用を示さない白金錯体をかご状錯体の水溶液に懸濁させることで、定量的に2分子包接錯体が得られることを各種NMRやCSI-MSスペクトル測定より示した。さらに、X線結晶構造解析により、かご状錯体内部で2つの白金間が3.32Aと金属間相互作用発現に十分な距離にまで特異的に近接していることを明らかにした。固体状態のUV-visスペクトルでは、白金間相互作用に由来する吸収帯を確認した。

第3章では、かご状錯体内部で集積距離の異なる2種類の銅ポルフィン2重集積体の構築に成功した。ESRスペクトル測定から、2分子が近接した包接錯体では、スピン間相互作用を観測した。一方、パネル状配位子を介した2重集積体では二重項に由来するシグナルのみが観測された。すなわち集積様式に依存したスピン間相互作用の制御を達成した。

第4章では、アザポルフィン、ポルフィン錯体を用いることで、銅3重集積体、さらに銅-コバルト-銅および銅-パラジウム-銅の配列選択的な異種金属3重集積体の構築に成功した。そして集積体に依存した特異的なスピン間相互作用を観測した。特に銅3重集積体のESRスペクトル測定において、四重項のシグナル、さらに禁制遷移であるΔms=2,3シグナルを半磁場、1/3磁場領域にそれぞれ観測した。Δms=3シグナルは、無機化合物で初の観測例である。この結果は、スペクトルシミュレーションによって理論的に再現できた。

第5章では、かご状錯体内部が芳香環に囲まれた特異な空間であることに着目し、"金属錯体-芳香環集積による特異物性の誘起"へと研究を展開した。そして、ニッケルおよびコバルト錯体の包接によるスピンクロスオーバーを達成した。かご状錯体内部に赤色反磁性である平面四配位のニッケル錯体を1分子包接すると、濃緑色を示した。磁化率測定から、包接錯体は常磁性であることが明らかになった。さらに、X線結晶構造解析によりニッケル錯体は平面四配位のジオメトリーを保ったままであることがわかった。すなわち配位環境に因らず、包接という外部刺激によるスピンクロスオーバーを初めて達成した。続いてかご状錯体内でアザポルフィンコバルト錯体をコロネンで挟むことにより、スピン状態を変化できることも証明した。

第6章では、かご状錯体に包接することによる新たな物性発現をめざした。その結果、ニッケルサレン錯体がかご状錯体に包接されることで初めてクロミズム現象を発現させることを見いだした。

第7章では、アザポルフィンが重原子を多く含むかご状錯体に包接された後も強い赤色発光を示すことを見いだし、その特異な発光挙動を明らかにした。さらに、消光剤であるトリエチルアミンと硝酸を組み合わせて用いることで、蛍光のON/OFFスイッチングを実現した。

第8章では、本研究の総括と今後の展望を論じた。

以上、本論文では、箱型の自己組織化空間を用いた簡便かつ精密な新規金属精密集積法の開発に成功した。最大3分子までの平面状金属錯体を距離や種類を厳密に制御して集積できることを示し、特異な金属間相互作用をUV-vis、ESRスペクトル測定、また磁化率測定やX線結晶構造解析により明らかにした。さらには包接による金属錯体のスピン状態の制御を達成し、自己組織化空間が包接金属錯体に電子的摂動を与えうることを示した。今後、より高次な金属集積体や種々の平面状分子と組み合わせることで新規機能性素子の創製につながると考えられる。

審査要旨 要旨を表示する

平面状金属錯体は直線状に集積することで、単独では見られない金属間相互作用に起因する物性を発現する。その研究の多くは、固体中で無限に発散した集積構造に限られていた。一方、近年になり、集積する金属の"種類"や"数"を厳密に制御した、有限金属集積体がナノサイズの機能性素子としての期待から注目を集め、盛んに研究されている。しかしながら通常、金属錯体間を連結するために、多段階合成を要する補助配位子が必要である。また、従来の金属集積法では金属の種類に強く依存し、簡便に数や種類を制御した金属集積体を構築するのは極めて困難であった。

本研究では、3次元孤立空間に平面状金属錯体を集積し、金属間相互作用を誘起することを考案した。孤立空間として、パネル状三座配位子とピラー状二座配位子とシス位を保護したパラジウム錯体から自己組織化で形成される有機ピラー型かご状錯体に着目した。その上下をパネル状配位子に囲まれた特異な箱型の疎水性空間を用い"平面状金属錯体を簡便かつ精密に集積する新規合成法の開発"と"集積体に由来する特異な金属間相互作用の誘起"を達成した。

本論文は以下の8章から構成されている。

第1章では、本研究の背景、目的および概論を論じた。

第2章では、本研究のコンセプトである「自己組織化空間を用いた金属錯体の集積化」の手法を確立し、「金属間相互作用の誘起」に有用であることを証明した。溶液、固体中において、金属間相互作用を示さない白金錯体をかご状錯体の水溶液に懸濁させることで、定量的に2分子包接錯体が得られることを各種NMRやCSI-MSスペクトル測定より示した。さらに、X線結晶構造解析により、かご状錯体内部で2つの白金間が3.32Aと金属間相互作用発現に十分な距離にまで特異的に近接していることを明らかにした。固体状態のUV-visスペクトルでは、白金間相互作用に由来する吸収帯を確認した。

第3章では、かご状錯体内部で集積距離の異なる2種類の銅ポルフィン2重集積体の構築に成功した。ESRスペクトル測定から、2分子が近接した包接錯体では、スピン間相互作用を観測した。一方、パネル状配位子を介した2重集積体では二重項に由来するシグナルのみが観測された。すなわち集積様式に依存したスピン間相互作用の制御を達成した。

第4章では、アザポルフィン、ポルフィン錯体を用いることで、銅3重集積体、さらに銅-コバルト-銅および銅-パラジウム-銅の配列選択的な異種金属3重集積体の構築に成功した。そして集積体に依存した特異的なスピン間相互作用を観測した。特に銅3重集積体のESRスペクトル測定において、四重項のシグナル、さらに禁制遷移であるΔms=2,3シグナルを半磁場、1/3磁場領域にそれぞれ観測した。Δms=3シグナルは、無機化合物で初の観測例である。この結果は、スペクトルシミュレーションによって理論的に再現できた。

第5章では、かご状錯体内部が芳香環に囲まれた特異な空間であることに着目し、"金属錯体-芳香環集積による特異物性の誘起"へと研究を展開した。そして、ニッケルおよびコバルト錯体の包接によるスピンクロスオーバーを達成した。かご状錯体内部に赤色反磁性である平面四配位のニッケル錯体を1分子包接すると、濃緑色を示した。磁化率測定から、包接錯体は常磁性であることが明らかになった。さらに、X線結晶構造解析によりニッケル錯体は平面四配位のジオメトリーを保ったままであることがわかった。すなわち配位環境に因らず、包接という外部刺激によるスピンクロスオーバーを初めて達成した。続いてかご状錯体内でアザポルフィンコバルト錯体をコロネンで挟むことにより、スピン状態を変化できることも証明した。

第6章では、かご状錯体に包接することによる新たな物性発現をめざした。その結果、ニッケルサレン錯体がかご状錯体に包接されることで初めてクロミズム現象を発現させることを見いだした。

第7章では、アザポルフィンが重原子を多く含むかご状錯体に包接された後も強い赤色発光を示すことを見いだし、その特異な発光挙動を明らかにした。さらに、消光剤であるトリエチルアミンと硝酸を組み合わせて用いることで、蛍光のON/OFFスイッチングを実現した。

第8章では、本研究の総括と今後の展望を論じた。

以上、本論文では、箱型の自己組織化空間を用いた簡便かつ精密な新規金属精密集積法の開発に成功した。最大3分子までの平面状金属錯体を距離や種類を厳密に制御して集積できることを示し、特異な金属間相互作用をUV-vis、ESRスペクトル測定、また磁化率測定やX線結晶構造解析により明らかにした。さらには包接による金属錯体のスピン状態の制御を達成し、自己組織化空間が包接金属錯体に電子的摂動を与えうることを示した。今後、より高次な金属集積体や種々の平面状分子と組み合わせることで新規機能性素子の創製につながると考えられる。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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