No | 124626 | |
著者(漢字) | 西澤,剛 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ニシザワ,タケシ | |
標題(和) | π共役系オリゴマーの合成と有機薄膜太陽電池のナノ構造制御 | |
標題(洋) | Synthesis of π-Conjugated Oligomers for Controlling the Nanostructure in Organic Thin Film Solar Cells | |
報告番号 | 124626 | |
報告番号 | 甲24626 | |
学位授与日 | 2009.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第7060号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 応用化学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1. 緒言 固体薄膜中における分子のナノ構造制御は、ナノ構造と分子間の光誘起のエネルギー/電子移動や電荷輸送との関連を明らかにする上で非常に重要である。そこで、本研究では、π共役系オリゴマーを基にした分子設計により、固体膜中における分子のナノ構造制御、特に、有機薄膜太陽電池における電子ドナーとアクセプターのナノ構造制御を目的として研究を行った。本研究では、図1.1に示した3つのナノ構造の構築が重要であると考えた。 1.ドナーとアクセプターに広い界面の構築(10 nmスケールの相分離構造);2.分子配列が制御された構造;3.分子配向が制御された構造。以上のような10 nmスケールのナノ構造とその太陽電池デバイスの効率を検討することで、ナノ構造と固体薄膜中における光励起電荷分離、輸送の関連を明らかにすることも目的とした。 2. オリゴチオフェン-フラーレンダイアドの設計と合成 ドナー/アクセプターの広い界面を構築するために、ドナーとアクセプターが化学結合で連結したダイアド分子を設計した。ダイアド分子においては、相分離はなく、またドナーとアクセプターが近接しているため効率的な電荷分離が期待される。そこで、新規なダイアド分子を設計、合成し、ダイアド分子の薄膜中でのナノ構造および太陽電池デバイスにおける電荷分離効率の検討を行った。 2.1. 実験 オリゴチオフェン、オリゴチオフェン-フラーレンダイアドを合成した(図2.1)。原子間力顕微鏡(AFM)により薄膜の表面モルフォロジーの観察を行った。太陽電池デバイスを作製し、単色光照射下における外部量子収率(EQE)および擬似太陽光照射下(AM1.5、100 mW/cm2)における変換効率(PCE)により評価を行った。比較のため、オリゴチオフェン2とフラーレン誘導体(PCBM)3(図2.1)をモル比で1:1に混合した薄膜に関しても同様に実験を行った。 2.2 結果と考察 図2.2にAFM高さ像を示す。2と3の混合薄膜(図2.2b)においては、100 nmスケールの大きな相分離構造が観測されたのに対し、1の薄膜(図2.2a)では幅約10 nmの筋状の構造体が観測され、大きな凝集構造の形成が抑制された。1を用いてデバイスを作製し、EQEを算出した結果、31%が得られ、混合物(2+3)のデバイスにおける12%と比較して2倍以上向上した。また、AM1.5照射下においても、1のデバイスにおいて短絡電流(ISC)が、混合物の0.53 mA/cm2から0.93 mA/cm2、へ向上した。以上の結果より、ダイアド分子は、ドナー/アクセプターの広い界面を構築し、効率的な電荷分離を達成する上で有用であることが明らかとなった。 3. ドナー部位結晶性のダイアド太陽電池デバイスの効率への影響 ダイアド1を用いることで電荷分離効率が向上したが、FFが0.23と低く、その結果PCEも0.15%と低い値を示した。低いFFは、薄膜中での電荷輸送効率が低いことを示している。そこで、結晶性のドナー分子またはアクセプター分子をダイアド分子に混合させることにより、ホールまたは電子の輸送経路を構築することで、電荷輸送効率が向上するか検討を行った。 3.1 実験 1と2および3の混合物を用いてデバイスを作製し、単色光照射下において評価を行った。薄膜の表面モルフォロジーをAFMにより観察した。吸収スペクトル、示差走査熱量分析(DSC)を用いて混合物中での分子の分子間相互作用の検討を行った。 3.2. 結果と考察 1と2の混合物デバイスにおいて、2の混合量が増すにつれてFFが0.31(1のみ)から0.37(混合量が重量で50%)へと約20%向上した。AFM測定の結果、2の混合量が増すにつれて平均表面粗さが0.34 nmから1.8 nmに増加することが観測された。また、吸収スペクトルを観測した結果、混合量が増すにつれて、オリゴチオフェン由来の吸収が連続的に短波長シフトしたことから、1のオリゴチオフェン部位と2が強く相互作用し、H-aggregationを形成したことが示唆された。また、DSC測定においても、融点が高温側へ連続的にシフトすることが観測された。以上の結果より、2を混合させることでオリゴチオフェン部位の相互作用が強まり、オリゴチオフェン部位によるホール輸送効率が向上した結果、FFが向上したものと結論付けた。一方、3を1に混合させた場合においては、オリゴチオフェン部位の相互作用が弱まり、FFが低下した。以上の結果より、ダイアド分子を用いたデバイスにおいては、ドナー部位の強い相互作用が、薄膜中における分子配列、すなわち電荷輸送経路の構築に重要であることが明らかとなった。 4. 結晶性ドナー部位導入によるダイアド太陽電池デバイスの効率化 ドナー部位の強い相互作用が電荷輸送経路構築に重要であることが明らかとなった。そこで、ダイアド分子に結晶性のドナーを導入し、電荷輸送効率への影響をさらに検討した。 4.1 実験 ダイアド4-6 およびOPV 7-9を合成した(図4.1)。粉末X線回折法(XRD)により分子の結晶性の検討を行った。デバイスを作製し、AM1.5照射下において評価を行った。 4.2 結果と考察 フラーレン導入前のOPV分子の粉末XRD測定の結果、側鎖を短くした7と8において、π-π相互作用に由来する回折ピークが観測されたことから、側鎖を短くすることで分子間のπ-π相互作用が強まることが明らかとなった。図5.2にダイアド4-6 のデバイスの電流-電圧特性を示す。アルキル鎖が短くなるにつれて、I(SC)とFFが向上し、アルキル鎖が最も短い4において、1.15%という高いPCEを得た。また、150℃で1分間熱処理を行った結果、PCEが最高で1.28%まで向上した。以上の結果より、ISCとFFの向上は、結晶性のドナー部位の強い相互作用により、生成した電荷の効率的な輸送を達成した結果であると結論付けた。よって、本節においてもドナー部位の強い相互作用が電荷輸送経路の構築(分子の配列制御)に有用であることが示された。 5. ドナー分子結晶性のモルフォロジーとデバイスの効率への影響 ドナー分子の結晶性は、アクセプターとの混合薄膜中においても輸送経路を構築する上で重要であると考えられる。そこで、結晶性のOPV(図4.1)とPCBM 3との混合薄膜を作製し、そのモルフォロジーとデバイスの電荷輸送効率の検討を行った。 5.1. 実験 OPV 7-9(図4.1)をPCBM 3とモル比1:1で混合し、太陽電池デバイスを作製し、評価はAM1.5照射下にて行った。薄膜の表面モルフォロジーをAFMにより観察した。 5.2. 結果と考察 図5.2にデバイスの電流-電圧特性を示す。アルキル鎖の最も長い9を用いたデバイスでは、FFが0.47であったが、アルキル鎖の短い8では0.48、最も短い7においては、0.60と大きく向上した。また、7のデバイスにおいては、ISCの向上も観測された。AFMを測定した結果、8(図5.3a)もしくは9の場合、3との混合薄膜において、大きな凝集構造が観測されたのに対し、7(図5.3b)の場合にはそのような大きな凝集構造が観測されなかった。以上の結果より、高い結晶性を持つ7では、3との混合薄膜において結晶性のドナーのネットワークを構築することで3の凝集を抑制すると共に電荷輸送経路を構築した結果、ISCとFFが向上したと結論付けた。よって、ドナー分子の結晶性は、混合薄膜においても電荷輸送経路の構築(分子の配列制御)に有用であることが明らかとなった。 6. 湿式成膜プロセス中におけるオリゴフェニレンビニレン分子の高い一軸配向膜の形成 電荷輸送効率を向上させるためには分子の結晶性の他に、薄膜中における分子配向も重要である。そこで、両親媒性分子(分子7-9(図4.1))を用いて薄膜中での分子の配向制御の検討を行った。 6.1 実験 分子7-9(図4.1)の薄膜を配向膜上にスピンコート法により成膜した。配向膜は、PEDOT:PSSなどのポリマー薄膜をポリエステルの布で一方方向にラビングすることにより得た。直線偏光を用いた吸収スペクトル、および面内XRD測定により分子の一軸異方性の検討を行った。 6.2. 結果と考察 分子8の薄膜にラビング方向と平行な偏光を入射した場合には強い吸収のピークが観測されたが、垂直な光を入射した場合にはほとんど吸収のピークが観測されず、41.0という高い吸収の二色性D(A(//) / A⊥)が観測された(図6.1)。また、面内XRD測定においても、ラビング方向と平行なX線を入射した時にのみ、分子の共役面間に由来する回折ピークが観測された。以上の結果は、分子がその長軸をラビング方向と平行になるように一軸配向していることを示している。またこの分子の一軸配向は、熱処理などを行っていない成膜直後の薄膜中において観測されたことから、分子が成膜中の溶媒蒸発の過程において、配向膜との相互作用および分子間のπ-π相互作用により自発的に形成したものと考えられる。 7. 総括 本研究では、ナノ構造の検討とデバイス評価を通じて、ダイアド分子が、ドナー/アクセプターの広い界面を構築し、電荷分離の効率化に有効であること、また、結晶性のドナー分子による強い分子間相互作用が、電荷輸送経路を構築し、電荷輸送の効率化に重要であることを明らかにした。また、両親媒性分子により薄膜中における分子の配向制御も達成した。ダイアド分子にこの配向制御を組み合わせれば、マクロなスケールで配向したドナーとアクセプターのナノ構造を構築することができ、デバイスの光誘起の電荷分離、輸送に適したナノ構造を調べる上で有用なモデルになると考えられる。さらに、本研究の知見は、デバイスの高効率化に向けた新たな材料設計に指針を与えたと考えられる。 図1.1 目的とするナノ構造 図2.1 分子構造 図2.2 AFM高さ像a)1、およびb)2+3混合物の薄膜 図4.1 分子構造 図4.2 電流-電圧特性 図5.2 電流-電圧特性 図5.3 AFM高さ像a) 8+3、b) 7+3の混合薄膜 図6.1 分子8薄膜の吸収スペクトル | |
審査要旨 | 本論文において、学位請求者(西澤 剛)は、π共役系オリゴマー分子を基にした分子設計によって、有機薄膜太陽電池のナノ構造制御の検討、および、ナノ構造と有機薄膜太陽電池の効率との相関を明らかにする事を目的とした研究発表を行った。本論文は以下の7章から構成されている。 第1章では、研究の背景、目的、及び概要が論じられており、近年までの関連論文の成果や問題点などが明確にされ、本論文の研究の意義づけが明確にされた。 第2章では、ドナー分子とアクセプター分子が連結した、新規なオリゴチオフェン-フラーレンダイアドを設計、合成し、ドナーとアクセプターの広い界面の構築が検討された。原子間力顕微鏡による薄膜表面のナノ構造の検討を行った結果、ダイアドを用いた場合には、従来のドナーとアクセプターの混合膜に見られたような、相分離による大きな凝集構造が抑制されることが明らかとされた。また、蛍光消光の測定により、ダイアドにおいてドナー部位からアクセプター部位へと効率的に電子移動が起こることも明らかとされた。その結果、ダイアド分子を用いて太陽電池デバイスを作製した場合には、相分離による電荷分離界面の減少を抑制し、電荷分離の効率化が達成されることが明らかとされた。 第3章では、分子間相互作用による、ダイアド分子の分子配列制御が検討された。ドナー部位、アクセプター部位の相互作用を強めるために、オリゴチオフェン(ドナー)およびフラーレン誘導体(アクセプター)をダイアド分子に混合され、混合物の物性が、原子間力顕微鏡観察、薄膜の吸収スペクトル測定、および示差走査熱量分析により検討された。その結果、ドナー分子をダイアド分子に混合させた場合においては、ダイアド分子のドナー部位の相互作用が強まることが明らかとされた。また、太陽電池デバイスを作製したところ、ドナー分子との混合物において、電荷輸送効率が向上することが明らかとされた。一方、アクセプター分子を混合された場合おいては、ドナー部位の相互作用が弱まり、電荷輸送効率が低下することが明らかとされた。以上の結果、ダイアドを用いたデバイスにおいては、電荷輸送を効率化するためにはドナー部位の相互作用を強めることが重要であることが、本研究により初めて明らかにされた。 第4章では、結晶性のオリゴフェニレンビニレン(OPV)を導入した、OPV-フラーレンダイアドを設計、合成し、更なる電荷輸送の効率化が検討された。アルキル側鎖の長さの異なるOPV分子のバルクでの結晶性を粉末XRD測定により検討した結果、アルキル鎖を短くするにつれて分子のπ-π相互作用が強まることが明らかとされた。この強いπ-π相互作用を持つOPV分子にフラーレンを導入したダイアド分子を合成し、デバイスを作製した結果、分子のアルキル鎖が短くなるにつれ、電荷輸送効率が向上することが明らかとされた。以上の結果、分子の強いπ-π相互作用が、電荷輸送の効率化に重要であることが明らかとされた。また、本論文においては、ダイアド分子を用いた太陽電池デバイスにおける最高効率も達成されている。 第5章では、第4章で合成された結晶性のOPVドナー分子を用いて、フラーレン誘導体(アクセプター分子)との混合薄膜中における電荷輸送の効率化が検討された。その結果、ダイアド分子の場合と同様に、分子のアルキル側鎖が短くなるにつれ、電荷輸送効率が向上することが明らかとされた。また、アルキル側鎖の最も短い分子においては、混合したフラーレン誘導体の凝集を抑制する効果があることも明らかとされた。 第6章では、ラビング法を用いて、分子の配向制御が検討された。直線偏光を用いた吸収スペクトル測定、面内XRD測定により分子の配向性を検討した結果、両親媒性のOPV分子が、スピンコート法による成膜過程において、自発的に高い一軸配向を示すことが明らかとされた。このような湿式成膜過程中における簡便な分子配向は、現在までに報告例がなく、新規な配向制御だと言える。また、本論文においては、太陽電池デバイスへの応用も検討され、本配向制御のデバイスへの応用性が確認された。さらに本配向制御は、導電性、絶縁性などの様々な膜上に応用可能であることから、太陽電池デバイスのみならず、電界効果トランジスタ(FET)や有機ELなどの他の有機デバイスへの応用も期待される。 第7章では、本研究の総括、及び、今後の展望を論じられた。 本論文における、分子設計や配向制御は、今後の有機デバイス高効率化に向けた新規材料の設計やナノ構造制御手法に指針を与える、素晴らしい成果であるといえる。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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