学位論文要旨



No 124629
著者(漢字) 荻巣,清徳
著者(英字) Ogisu,Kiyonori
著者(カナ) オギス,キヨノリ
標題(和) 可視光応答型光触媒(オキシ)サルファイドを用いた水分解反応
標題(洋) Some (Oxy) sulfide Materials as Visible Light Driven Photocatalysts for Water Splitting Reaction
報告番号 124629
報告番号 甲24629
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7063号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 堂免,一成
 東京大学 教授 大久保,達也
 東京大学 准教授 菊地,隆司
 東京大学 准教授 牛山,浩
 東京大学 講師 入江,寛
内容要旨 要旨を表示する

本論文は,光触媒を用いた水の分解反応を目的とした新規可視光応答型(オキシ)サルファイド系光触媒の調製とその光触媒性能の評価について述べられている.本論文は英文で書かれ,全5章で構成されている.

第1章には,研究の背景と目的および論文の構成が述べられている.

第2章には,可視光応答型新規光触媒としてd(10)型電子配置を有する金属イオン(Cu+, Zn(2+), Ga(3+), In(3+), Ge(4+), Sn(4+))を含むオキシサルファイドの調製法及びその光触媒性能が述べられている.ここでは特に,光触媒性能の高かったGaを含むオキシサルファイド系材料について検討が行われている.このGa系化合物において,LaGaS2OやLa3GaS5Oといったオキシサルファイドが酸化物であるLaGaO3に比べ,組成中における硫黄の割合が大きくなるほどバンドギャップが小さくなり,可視光領域に吸収を有することが見出されている.この原因として,DFT計算によりバンド構造を推定した結果,価電子帯における硫黄の寄与が大きくなることにより,価電子帯上端の位置が押し上げられたためであると結論されている.さらに540nmまでの可視光領域に吸収を有するLa3GaS5Oに関して,詳細なキャラクタリゼーションと光触媒性能の評価について述べている.光電気化学測定の結果からは,La3GaS5O/FTO電極が可視光照射下でNa2S-Na2SO3犠牲剤存在下,n型半導体としての性質を示し,フラットバンドポテンシャルの位置からバンド位置を求めた結果,La3GaS5Oは,水の酸化・還元電位をバンドギャップ内に含んでいることから,原理的に水の分解が可能であることを示している.一方,実際に犠牲剤存在下で光触媒反応を行った結果,可視光照射下で水素および酸素生成反応が進行することがわかり,水素生成反応ではRuやPtが,酸素生成反応ではIrO2が反応を促進する有効な助触媒であることが示されている.更に水素・酸素生成速度および光電流密度の波長依存性の測定結果から,バンド間遷移により生成した電子とホールによって反応が進行していることが結論されている. 本研究では,水の完全分解反応は達成されていないが,InやGaといったd(10)金属イオンを含むオキシサルファイドが可視光照射下での水分解反応のポテンシャルをもつ光触媒材料群であることを初めて見出したと述べている.

第3章には,もう一つの可視光応答型新規光触媒材料としてd0型電子配置を有するTi(4+), Nb(5+), Ta(5+)の金属イオンを含むオキシサルファイドの調製結果とその光触媒性能が述べられている.特にこれらの材料の中でも酸素生成活性の高かったSm2Ti2S2O5に関して,水の完全分解反応に特化した助触媒を用いる表面修飾について検討した結果が示されている.初めに,水の完全分解反応用助触媒として用いられているNiOx,RuO2,Rh/Cr2O3(コア・シェル型)を担持して水分解反応が検討されているが,水素のみがわずかに生成し,水の分解反応が進行しないという結果が得られている.そこで,水素及び酸素生成を促進する助触媒を別々に導入することを考え,水素生成用助触媒としてRh/Cr2O3(コア・シェル型),酸素生成用助触媒としてIrO2,MnO2,Co3O4をそれぞれ担持することにより,水の完全分解反応を検討している.2種類の助触媒を同時に担持しても犠牲剤水溶液からの反応では,水素および酸素生成活性を維持できたが,水の完全分解反応は進行しないという結果を得ている.この理由として助触媒の配置が適当でないことが考えられ,活性な触媒を開発するためには,有効な助触媒を探索するだけでなく,より選択的な助触媒の導入方法に関しても検討する必要があると結論されている.

第4章には,保護配位子をもつ均一な粒径を有するCdSナノ粒子の光触媒への応用が述べられている.用いられているCdSナノ粒子は量子サイズ効果が発現する粒径であり,ヘキサン溶媒中に保護配位子によって均一な粒径を維持したコロイドである.まず光触媒として利用するために,CdSナノ粒子をTiO2上に固定化した後,加熱処理やアルカリ処理により保護配位子を除去することが検討されている.その結果,粒径を維持した状態で固定化することに成功している.調製したCdS/TiO2は粒径の違いによって吸収できる波長やNa2S-Na2SO3水溶液からの水素生成速度が異なっており,量子サイズ効果によるバンドギャップや酸化還元力の変化等のCdSナノ粒子特有の光化学的性質が得られることが示されている.420 nm以上の可視光照射下,1.6,2.9, 3.4, 4.1, 12.5 nm の粒径を有するCdSナノ粒子を固定化したCdS/TiO2を比較したおり,粒径が3.4 nm(吸収極大=449 nm)のとき最も高い活性であると述べられている.また, CdS/TiO2を塗布した光電極を用いた光電気化学測定からは,犠牲剤存在下で高いアノード光電流が観測されており,n型半導体として高い性能を有することが見出されている.この原因はCdSナノ粒子固有の量子サイズ効果による酸化還元力の増加だけでなく,TiO2との間のバンド位置の違いにより電荷分離が促進したためと結論づけられている.以上のことから,ナノ粒子本来の光学特性が反映した光触媒性能を発現できたと結論されている。

第5章では,1~4章の総括が述べられている.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は,光触媒を用いた水の分解反応を目的とした新規可視光応答型(オキシ)サルファイド系光触媒の調製とその光触媒性能の評価について述べられている.本論文は英文で書かれ,全5章で構成されている.

第1章では,研究の背景と目的および論文の構成が述べられている.

第2章では,可視光応答型新規光触媒としてd10型電子配置を有する金属イオン(Cu+, Zn(2+), Ga(3+), In(3+), Ge(4+), Sn(4+))を含むオキシサルファイドの調製法及びその光触媒性能が述べられている.特に,光触媒性能の高かったGaを含むオキシサルファイド系材料について詳細な検討が行われている.このGa系化合物において,LaGaS2OやLa3GaS5Oといったオキシサルファイドが酸化物であるLaGaO3に比べ,組成中における硫黄の割合が大きくなるほどバンドギャップが小さくなり,可視光領域に吸収を有することが見出されている.さらに,La3GaS5Oに関して,光電気化学的なキャラクタリゼーションと光触媒性能の評価結果について述べている.光電気化学測定の結果からは,La3GaS5O/FTO電極が可視光照射下でNa2S-Na2SO3犠牲剤を用いて,n型半導体としての性質を示した。更にフラットバンドポテンシャルの位置からバンド位置を求めた結果,La3GaS5Oは,水の酸化・還元電位をバンドギャップ内に含んでおり,原理的に水の分解が可能であることが示されている.一方,実際に犠牲剤存在下で光触媒反応を行った結果,可視光照射下で水素および酸素生成反応が進行することが示されている.本研究では,水の完全分解反応は達成されていないが,InやGaといったd10金属イオンを含むオキシサルファイドが可視光照射下での水分解反応のポテンシャルをもつ光触媒材料群であることを初めて明らかにしている.

第3章では, d0型電子配置を有するTi(4+), Nb(5+), Ta(5+)の金属イオンを含むオキシサルファイドの調製結果とその光触媒性能が述べられている.特にこれらの材料の中でも酸素生成活性の高かったSm2Ti2S2O5に関して,水の完全分解反応を目的とした助触媒を用いる表面修飾について検討した結果が示されている.ここでは,水素及び酸素生成を促進する助触媒を別々に導入することを考え,水素生成用助触媒としてコア・シェル型構造をもつRh/Cr2O3,酸素生成用助触媒としてIrO2,MnO2,Co3O4をそれぞれ共担持することにより,水の完全分解反応を検討している.2種類の助触媒を同時に担持しても犠牲剤水溶液からの反応では,水素および酸素生成活性を維持できたが,水の完全分解反応は進行しないという結果が示されている.この理由として助触媒の配置が適当でないという考察を行い,活性な触媒を開発するためには,有効な助触媒を探索するだけでなく,より選択的な助触媒の導入方法に関しても検討する必要があると結論されている.

第4章では,保護配位子をもつ均一な粒径を有するCdSナノ粒子の光触媒への応用について述べられている.まず光触媒として利用するために,CdSナノ粒子をTiO2上に固定化した後,加熱処理やアルカリ処理により保護配位子を除去することが検討されている.その結果,粒径を維持した状態で固定化することに成功している.調製したCdS/TiO2は粒径の違いによって吸収できる波長やNa2S-Na2SO3水溶液からの水素生成速度が異なっており,量子サイズ効果によるバンドギャップや酸化還元力の変化等のCdSナノ粒子特有の光化学的性質が得られることが示されている.また,CdS/TiO2を塗布した光電極を用いた光電気化学測定からは,犠牲剤存在下で高いアノード光電流が観測されており,n型半導体として高い性能を有することが見出されている.この原因はCdSナノ粒子固有の量子サイズ効果による酸化還元力の増加だけでなく,TiO2との間のバンド位置の違いにより電荷分離が促進したためと結論づけられている.以上のことから,ナノ粒子本来の光学特性が反映した光触媒性能を発現できたと結論されている。

第5章では,第1~4章の総括が述べられている.

以上のように本論文は,水分解反応のポテンシャルを有する新規可視光応答型オキシサルファイド光触媒の開発,水の完全分解反応を指向した水素および酸素生成用助触媒の共担持,およびCdSナノ粒子の光触媒への応用を行った成果について述べている.新規なオキシサルファイド光触媒としてTi以外にNb, Ta, Ga, Inをベースにしたオキシサルファイドを合成し,さらに表面修飾について検討した結果,この材料群が水分解光触媒として高いポテンシャルを持つことを示している.また,ナノ粒子を光触媒として有効に応用することにも成功している.したがって,本論文に述べられている研究成果は,エネルギー変換型光触媒化学の領域において重要であるばかりでなく,材料化学,化学システム工学への貢献も大きいものと認定される.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/23898