学位論文要旨



No 124631
著者(漢字) 澤井,理
著者(英字) Sawai,Osamu
著者(カナ) サワイ,オサム
標題(和) 超臨界水を利用した微粒子担持技術とその応用
標題(洋)
報告番号 124631
報告番号 甲24631
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7065号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大島,義人
 東京大学 教授 山口,由岐夫
 東京大学 教授 堂免,一成
 東京大学 教授 大久保,達也
 東京大学 准教授 杉山,正和
内容要旨 要旨を表示する

第1章では, 研究の背景や目的について述べた. 超臨界水含浸法は, 超臨界水の高拡散性と高溶解性を利用して材料へ微粒子を均一に担持する新しい技術として期待されている. その一方で, 担持メカニズムやパラメータなど詳細な部分が必ずしも十分に解明されていない. 本研究では, 超臨界水含浸法の基礎的知見の取得により超臨界水を利用した表面処理技術の方法論を確立するとともに, 種技術としての工学的応用を目指した.

第2章では, 本研究に用いた実験装置の構成と操作法, 分析手法などの実験方法について述べた. 本研究で対象とした反応系についての検討過程や, 用いた分析手法ならびに条件などについて詳細に記述した.

第3章では, 酢酸銀水溶液とα-Al2O3担体を用いて超臨界水含浸法による試料調製とその分析について記した. 金属塩(水溶液)として酢酸銀を用いた結果, 反応時間1 minで平均粒子径20 nm程度の銀の粒子が担体表面へ均一に担持できることが確認された. その後に, 超臨界水含浸法を方法論として確立する上で重要となる操作パラメータが担持粒子に及ぼす影響について重点的に整理した. その結果, パラメータを操作することで担持粒子のサイズを制御できる可能性が示された.

第4章では, 細孔を有していないα-Al2O3担体を用いて担体表面における粒子生成メカニズムについて詳細に検討した. (a)バルク中で生成した粒子が担体表面上に吸着する, (b)担体表面上で核生成した後に粒子成長するという2つのスキームを仮定し, バルク中で生成した粒子が担体表面上に吸着されるか検討を行うことで, スキーム(A)の妥当性を検証した. 予め調製しておいた銀微粒子とα-Al2O3を反応させた結果, 担体表面上に粒子が確認できなかった. このことから担体表面における粒子生成メカニズムは, 担体表面上で核生成した後に粒子成長するスキーム(b)であることが示唆された. また, 銀の生成機構については, 水熱反応のアナロジーとして酸化物の生成を経由したメカニズムが推測されたが, 熱分解温度以下でも銀粒子が担持できたことから, 水熱合成反応ではないことが示唆された.

第5章では, 金属塩種が及ぼす粒子の担持性への影響ついて実験により検討を行った. その結果, 金属種やその対イオン種により生成する金属酸化物(微粒子)の溶解度が大きく異なることが考察された. そこで, 超臨界水熱合成で一般化されている溶解度計算により粒子の生成や担持性の予測を試みた. 計算結果をもとに描画した溶解度曲線から, 担体表面における担持性について明確な関係性は得られなかったが, バルク中の粒子生成については溶解度計算により予測できる可能性が示された. このことから, 超臨界水含浸法では, 超臨界水熱合成の一般則によって必ずしも考察できないことが明らかになった.

第6章では, 超臨界水含浸法により多孔質材料である活性炭NORIT SXIIへの微粒子担持を試みた. α-Al2O3の場合と同様に反応時間1 minで酢酸銀水溶液から活性炭表面へ銀粒子が担持できることが確認された. 担体の内部表面に担持する粒子は, EDS分析を応用してその担持場所を判別した. その結果, 内部表面へ担持している粒子の多くは, より長い反応時間で調製した試料中に多く観察された.

活性炭の細孔内拡散過程については化学工学的な評価を行った. 便宜的にマクロ孔拡散が拡散速度を支配すると見積もり, 有効拡散係数を推算した. 有効拡散係数より求めたThiele数は, 細孔径0.5 nm以上では反応律速であることを示した. よって, 活性炭NORIT SXIIのメソ孔領域まで酢酸銀が一様に行き届いていることが化学工学的に示された.

反応時間が担持粒子径に及ぼす影響についても考察した. 活性炭を用いた場合には, 反応時間が長いほど担持粒子の平均粒子径が小さい傾向にあり, α-Al2O3担体でみられた反応時間と担持粒子径の関係とは逆の傾向を示した. そこで, 非多孔性の同炭素材料であるグラファイトを用い, 活性炭表面の粒子の凝集が抑制された要因を検討した. その結果, グラファイト表面でもα-Al2O3担体と同様の凝集現象が確認され, 活性炭表面で抑制された粒子の凝集は炭素の疎水性ではなく, 担体の多孔性に由来する物理的要因に依ることが示唆された. また, 本研究で用いた3つの担体種について, 担持銀粒子の定量的な比較も検討した. その結果, 担持粒子の総数は3つの担体で顕著な差は見られなかった. このことから, 本手法が, 表面が疎水性である材料に対しても粒子の担持が可能であることを明らかにした.

塩化物塩から活性炭表面への粒子担持を検討した系では, 顕著な溶出イオン(反応器由来)の減少が見られた. このことから, 活性炭を用いることで付加価値として反応器の腐食を抑制する効果も期待できる.

第7章では, 超臨界水含浸法により調製した試料を触媒としてクロロベンゼンの水素化脱塩素化(HDC)反応に用い, 触媒調製法としての適用可能性を検討した. 本手法により調製したPd/ACに加え, 市販のPd/C及びPd/Al2O3を触媒として試験した. その結果, 市販の触媒に比べて, 超臨界水含浸法により調製したPd/ACが高い活性を示した. 本調製試料は市販の触媒と比べて, 担持パラジウムの平均粒子径こそ大きかったものの, 反応に有効とされる分散性や結晶性は良好であったことが高活性の要因として考察された.

第8章では, 超臨界水含浸法の連続式反応装置への展開を検討した. 連続式反応装置が抱える装置工学的な課題の解消に努め, 原料の安定供給や試料回収部の最適化を実現した. 特に, 粒子制御に大きく関わる混合部は, 独自に製作した結果, 試料による閉塞は解消され, 30 min程度の連続運転が可能になった. さらに, 調製試料の担持粒子の物性は, 回分式反応器によって調製した試料と同等の粒度分布や結晶性を有していた. 以上のことから, 連続式反応器を用いても回分式反応器と同等の試料調製が十分に可能であることが示された.

第9章では, 以上の結果を総括するとともに, 連続式反応装置を用いることによる工学的メリットやメッキを始めとする他の表面修飾への応用可能性を含め, 今後の展望について述べた.

本論文は超臨界水含浸法の基礎的知見として, 粒子の生成・担持メカニズムや担持粒子の物性と操作パラメータの関係性を明らかにした. また, 複雑な構造を有する表面を修飾する種技術としての可能性を示した. 以上の検討は, 工学的に高い価値を有しており, 超臨界流体工学及び化学システム工学の発展に大きく寄与するものと考えられる.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「超臨界水を利用した微粒子担持技術とその応用」と題し、新しい微粒子の担持手法として期待される超臨界水含浸法の基礎的知見の取得により超臨界水を利用した表面処理技術の方法論を確立するとともに、種技術としての工学的応用を目指した研究であり、全9章から成る。

第1章は緒言であり、研究の背景や目的が述べられている。まず、超臨界水含浸法が超臨界水の高拡散性と高溶解性を利用して材料へ微粒子を均一に担持する新しい技術として期待されていること、また、その一方で担持メカニズムやパラメータなど詳細な部分が必ずしも十分に解明されていないことを述べている。次に、本研究に関連した既往の報告をまとめた上で、本研究の新規性や目的について論じている。

第2章では、本研究に用いた実験装置の構成と操作法、分析手法などの実験方法について述べている。本研究で対象とした反応系についての検討過程や、用いた分析手法ならびに条件などについて詳細に記述している。

第3章では、酢酸銀水溶液と非多孔性材料であるα-アルミナを用いた試料調製とその分析結果を記している。また、超臨界水含浸法を方法論として確立する上で欠かすことのできない操作パラメータが担持粒子に及ぼす影響についても整理している。超臨界水含浸法によって、反応時間1分で平均径20 nmの銀微粒子が担持できること、ならびにパラメータを操作することで担持粒子の物性が制御できることを明らかにしている。

第4章では、細孔を持たないα-アルミナの特徴を利用して、その表面における粒子生成メカニズムについて記している。2つのスキームを仮定し、その妥当性を実験的に検証することで、粒子生成メカニズムはα-アルミナ表面で核形成した後に粒子成長するスキームが支配的であることを明らかにしている。また、銀の生成メカニズムについては、水熱反応のアナロジーとして推測される酸化物の生成を経由したスキームではないと結論している。

第5章では、異なる金属塩を用いた場合の表面担持の可否を実験的に調べるとともに、その条件依存性について、超臨界水熱合成法による微粒子生成において一般化されている溶解度計算を適用して考察している。金属種や対イオン種が、粒子生成の可否及び生成粒子の酸化状態などに影響を及ぼしていることが実験により明らかにされたが、溶解度曲線ではその依存性を十分に説明できないことから、含浸法の場合、表面粒子は超臨界水熱合成によるバルク相での粒子生成とは異なる機構で担持されると結論している。

第6章では、多孔性材料を用いた超臨界水含浸法による試料調製について整理している。活性炭を用い、その表面に反応時間1分で銀微粒子を担持できることが示されている。活性炭の細孔内に担持された微粒子の存在は、元素分析法を用いて確認されており、その超臨界水の高拡散性がメソ孔以上の細孔領域で十分に発揮されていることを化学工学的に示している。また、本手法において活性炭を用いることの付加価値として、金属塩による反応器の腐食が抑制できることも記している。

第7章では、本手法の触媒調製法としての適用可能性を検討しており、調製試料を触媒としてクロロベンゼンの水素化脱塩素化反応に試用している。市販の触媒に比べて、本手法により調製したパラジウム/カーボン触媒が高活性であることを示している。その要因として反応活性に有効とされる担持粒子の分散性や結晶性が良好であったためと考察している。

第8章では、本手法の連続式反応装置への展開を検討している。装置工学的な課題の解消に努め、原料の安定供給や試料回収部の最適化を実現したことを記している。特に、独自に製作した混合部は、これまで課題とされてきた試料による閉塞を解消し、30分程度の連続運転が可能になったことを述べている。

第9章では、以上の結果を総括するとともに、連続式反応装置を用いることによる工学的メリットや、メッキをはじめとする他の表面修飾への応用可能性を含め、今後の展望について述べている。

以上要するに、本論文は超臨界水含浸法の基礎的知見として、粒子の生成・担持メカニズムや担持粒子の物性と操作パラメータの関係性を明らかにするとともに、複雑な構造を有する表面を修飾する種技術としての可能性を示した点で工学的に高い価値を有し、超臨界流体工学及び化学システム工学の発展に大きく寄与するものと考えられる。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/23922