学位論文要旨



No 124636
著者(漢字) 太田,淳
著者(英字)
著者(カナ) オオタ,アツシ
標題(和) メッセンジャーRNAを鋳型にした非天然主鎖骨格をもつ生理活性ペプチドのプログラム合成
標題(洋) Messenger RNA-Programmed Synthesis of Bioactive Peptides Containing Nonnatural Backbones
報告番号 124636
報告番号 甲24636
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7070号
研究科 工学系研究科
専攻 化学生命工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 菅,裕明
 東京大学 教授 小宮山,真
 東京大学 教授 渡辺,正
 東京大学 教授 工藤,一秋
 東京大学 教授 鈴木,勉
内容要旨 要旨を表示する

微生物が生産するペプチド性の二次代謝産物は、長い間生理活性物質の貴重な資源として使われていた。これらのペプチドには、リボソームで合成されるペプチドとは異なり、大環状骨格やN-メチルペプチド結合という非天然主鎖構造がしばしば見受けられる。またこれらの構造は、化合物の剛直性や膜透過性、さらにはペプチダーゼ耐性の向上に寄与する事でペプチド全体の生理活性を向上させると考えられている。その一方で、このようなペプチドのライブラリ構築技術には、化学合成や天然物の採取を利用する方法しかなく、ライブラリの多様性や構築の煩雑性といった点に問題があった。そこで私は、翻訳系を用いるという新しいアプローチにより、非天然主鎖骨格含有ペプチドのライブラリ化技術、及びスクリーニング技術の開発を目指した。

第1章では、生理活性ペプチドにおける非天然主鎖骨格の重要性、及び既存のライブラリ化技術を紹介すると共に、翻訳系のエンジニアリング技術の現状について概説している。

第2章では、遺伝暗号改変という概念とそれを利用したポリエステル骨格含有ペプチドの翻訳合成について述べている。申請者は、この研究を通して、汎用的な非天然主鎖ペプチドのプログラム合成法、さらにはポリエステルのライブラリ化技術の確立に成功した。

第3章では、第2章で開発した技術をもとにした主鎖環化ペプチドの翻訳合成法を報告している。この研究を通じて、実際に微生物が生産するペプチド性の代謝物の翻訳合成に成功し、翻訳系を使った天然物模倣ペプチドのライブラリ化の可能性を示唆した。

第4章では、遺伝暗号の改変とmRNAディスプレイを組み合わせる事で、10(13)を超える環化ペプチドのライブラリを構築し、そこからC型肝炎治療薬の標的分子として知られているNS3プロテアーゼドメインに対するアプタマーの取得に成功した。

第5章では、翻訳系を用いた新規スクリーニング法の開発に関して言及している。そのデモンストレーションとして、第3章で開発された主鎖環化ペプチド合成と組み合せ、1000を超える化合物ライブラリからトリプシン阻害活性をもつペプチドを単離した。

第6章では、研究全体のまとめと、関連分野における当研究の将来展望に関して述べている。

以上本研究により、いくつかの基盤となるライブラリ化技術、及びスクリーニング技術が開発され、今まで天然物の抽出に頼っていた生理活性を持つ非天然主鎖含有ペプチドの探索を、翻訳系を用いて迅速に行う事ができる可能性が示唆された。

審査要旨 要旨を表示する

大環状骨格やN-メチルペプチド結合に代表されるペプチドの非天然主鎖構造は、膜透過性やペプチダーゼ耐性の向上などに寄与する事でペプチド全体の生理活性を向上させる事が知られている。その一方で、これらのライブラリ構築技術には、化学合成や天然物の採取を利用する方法しかなく、ライブラリの多様性や構築の煩雑性といった点に問題があった。申請者である太田淳君は博士課程の研究において、翻訳系を用いるという新しいアプローチにより非天然主鎖骨格含有ペプチドのライブラリ化技術、及びスクリーニング技術の開発を行った。

第1章では、非天然主鎖骨格の重要性及びライブラリ化における現状の技術を紹介している。

第2章では、遺伝暗号改変という概念とそれを利用したポリエステル骨格含有ペプチドの翻訳合成について述べている。申請者は、この研究を通して、非天然主鎖骨格ペプチドの翻訳システムを確立し、実際にmRNAの配列情報に従ってポリエステルの合成を行う事に成功した。

第3章では、第2章で開発した技術をもとにした主鎖環化ペプチドの翻訳合成法を報告している。この研究を通じて、実際に微生物が生産するペプチド性の代謝物の翻訳合成に成功し、翻訳系を使った天然物模倣ペプチドのライブラリ化の可能性を示唆した。

第4章では、C型肝炎治療の重要な標的分子であるNS3プロテアーゼに対する環化ペプチドアプタマーの開発について言及している。この研究において申請者は、実際に翻訳系を使ったライブラリからのスクリーニングを行い、新規化合物として環化ペプチドアプタマーの開発に成功した。

第5章では、翻訳系を用いた新規スクリーニング法の開発に関して言及している。そのデモンストレーションとして、第3章で開発された主鎖環化ペプチド合成と組み合せ、1000を超える化合物ライブラリからトリプシン阻害活性をもつペプチドを単離した。

第6章では、研究全体のまとめと将来展望に関して述べている。

このように、本論文では合成技術の確立という上流部分からライブラリのスクリーニングという応用面まで一連の研究を行う事で、翻訳系の持つペプチド合成の応用性の拡大を実証している。これらの研究は萌芽的な当該研究分野における重要な基礎技術を提供すると共に、今後の生理活性物質の探索研究に多大に寄与するものと考えられる。以上より、本論文は口頭審査の結果と併せ、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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