学位論文要旨



No 124637
著者(漢字) 榊原,顕
著者(英字) Sakakibara,Ken
著者(カナ) サカキバラ,ケン
標題(和) 求核剤の塩基性の考察に基づくヘテロ3員環の求核的開環
標題(洋) Nucleophilic Ring-opening of Three-membered Heterocycles Based on Consideration on Basicity of Nucleophiles
報告番号 124637
報告番号 甲24637
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7071号
研究科 工学系研究科
専攻 化学生命工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 野崎,京子
 東京大学 教授 西郷,和彦
 東京大学 教授 工藤,一秋
 東京大学 准教授 橋本,幸彦
 東京大学 講師 石田,康博
内容要旨 要旨を表示する

ヘテロ三員環であるエポキシド・アジリジンを求核剤の塩基性を考慮しつつ円滑に開環させることに成功した。具体的には以下に述べる二つのテーマに従事した。

一つ目は含フッ素アルキル基と含フッ素アリール基をエポキシドの開環重合反応に従事した。これまで例のなかった多含フッ素エポキシドを適切なルイス酸(トリイソブチルアルミニウム)・溶媒(含フッ素アルキル基を有するエポキシドに関してはヘキサフルオロベンゼン、含フッ素アリール基を有するエポキシドに関してはトルエン)・開始剤(フォスホニウムブロマイド)を用いることで重合させることに成功した。重合末端が塩基として作用することで起きる副反応の抑制に成功した。開発した触媒系は温和な条件下で高活性に成功活性を示し、広い基質適応範囲を示した。重合は頭尾構造を制御しながら進行し、ラセミ体のエポキシドからはアタクチック体が、一方のエナンチオマーのエポキシドからはイソタクチックポリマーが得られた。

二つ目に、アジリジンをリチオ化されたジチアンを用いて開環することテーマに従事した。これまではトシル基を窒素上に有するアジリジンをリチオ化されたジチアンを用いて開環する例しかなかったが、開環生成物のトシルアミドを脱保護するのに過酷な条件を必要とし、有機合成的価値が少なかった。そこで、より脱保護能の高いスルホニル基を窒素上に導入したアジリジンに対しリチオ化されたジチアンで開環させることを検討した。結果、tert-Buthylsulfonyl(Bus)と2-trimethylsilyl-ethylsulfonyl(SES)の二つの保護基を有するアジリジンは、リチオ化されたジチアンによって円滑に開環した。

以上より、ヘテロ三員環であるエポキシド・アジリジンを求核剤の塩基性を考慮しつつ円滑に開環させることに成功した。

審査要旨 要旨を表示する

学位論文研究においては、「求核剤の塩基性の考察に基づくヘテロ3員環の求核的開環」を目的として研究を遂行した。

エポキシド・アジリジンのヘテロ三員環は、求核剤によって開環させることでアルコール・アミンを得られるので、現在に至るまで精力的に研究が行われてきた。しかし、多くの場合、求核剤は塩基として作用することによって、副反応とそれに伴う副生成物を生じる。よって、求核剤の塩基性を考慮しつつ、円滑な求核開環反応を進行させることは重要な課題である。

第二章においては含フッ素アルキル基を有するエポキシドの開環重合反応に従事した。これまで例のなかった多含フッ素エポキシドを適切なルイス酸(トリイソブチルアルミニウム)・溶媒(ヘキサフルオロベンゼン・トルエン)・開始剤(フォスホニウムブロマイド)を用いることで重合させることに成功した。重合末端が塩基として作用することで起きる副反応の抑制に成功した。開発した触媒系は温和な条件下で高活性に成功活性を示し、広い基質適応範囲を示した。重合は頭尾構造を制御しながら進行し、ラセミ体のエポキシドからはアタクチック体が、一方のエナンチオマーのエポキシドからはイソタクチックポリマーが得られた。これまで多含フッ素エポキシドの精密重合の試みは全く例がなかったことから、本章で得られた知見は非常に意義深いものである。

引き続いて第三章においては、含フッ素アリール基と対応する水素化物を有するエポキシドをモノマーに用いた。重合は頭尾構造を制御しながら進行し、ラセミ体のエポキシドからはアタクチック体が、一方のエナンチオマーのエポキシドからはイソタクチックポリマーが得られた。得られた光学活性なイソタクチックポリマーは、特殊な二次構造を有する可能性がある。そこで、ガラス転移点・CD・XRDによって構造解析を試みた結果、ジグザグ構造を有することが明らかになった。含フッ素アリール基を有するポリマーに関しては、やや乱れた構造のジグザグ構造であるのに対し、対応する水素化物を有するポリマーに関しては完全なジグザグ構造を有することが明らかになった。含フッ素アリール基を有するポリマーは室温で有機溶媒に溶解するのに対し、含フッ素アリール基を有するポリマーは室温ではほとんどの有機溶媒に溶解しないという物性によって裏付けられる。ポリオキシランにおいて、含フッ素ポリマーと対応する水素化物の構造の比較を試みた例はこれまでなかったので、本章の知見は意義深いと考えられる。

第四章において、アジリジンをリチオ化されたジチアンを用いて開環することテーマに従事した。これまではトシル基を窒素上に有するアジリジンをリチオ化されたジチアンを用いて開環する例しかなかったが、開環生成物のトシルアミドを脱保護するのに過酷な条件を必要とし、有機合成的価値が少なかった。そこで、より脱保護能の高いスルホニル基を窒素上に導入したアジリジンに対しリチオ化されたジチアンで開環させることを検討した。結果、tert-Buthylsulfonyl(Bus)と2-trimethylsilyl-ethylsulfonyl(SES)の二つの保護基を有するアジリジンは、リチオ化されたジチアンによって円滑に開環した。Busを有するアジリジンに関してはオレフィン・アルキル・フェニル・エーテルといった様々な官能基を有するアジリジンが、官能基修飾されたリチオジチアンでもって開環した。ただし、フェニル基を有するアジリジンの開環においては、フェニル基を置換基として有するリチオジチアンでは円滑に開環し、開環生成物は二種類の位置異性体より成っていた。一方、無置換のリチオジチアンをフェニルアジリジンに作用させたところ、複雑な混合物が得られた。これは、無置換のリチオジチアンは高い塩基性によってアジリジン環上のメチン炭素のプロトンの脱プロトン化を進行させる一方、フェニル基を有するリチオジチアンは低い塩基性によって脱プロトン化を起こしにくく、結果として円滑に開環反応を進行させる。SESを窒素上に有するベンジルアジリジンに関しては、フェニル基とカルボキシラートを有するリチオジチアンを作用させたところ、円滑に開環反応が進行した。一方、無置換のリチオジチアンとTMSを有するリチオジチアンを基質に用いたところ、複雑な混合物が得られた。これも以下のようにリチオジチアンの塩基性に着目することで考察できる。無置換のリチオジチアンとTMSリチオジチアンは高い塩基性によってSESのスルホニル基のαプロトンの脱プロトン化を起こしてしまい、これが複雑な混合物を与える原因となる。一方、フェニル基とカルボキシラートを有するリチオジチアンは塩基性が低いためにαプロトンの脱プロトン化を起こさずに円滑に開環反応を進行させる。既報の化合物の酸性度のデータと照合することで、この仮説は成立する。以上より、アジリジンに関してはBus・SESを持つアジリジンをリチオジチアンでもって開環した。様々なβ-アミノカルボニル・γ-ラクタム・1,5-amino-alcoholが得られた。基質の適応範囲はpKaで説明ができる。開環生成物の脱保護にも成功した。第四章で得られた知見は、リチオジチアンによる脱保護しやすいスルホニル基を有するアジリジンの開環反応を達成した初めて例のみならず、ジチアンの酸性度によって基質適応範囲を合理的に説明できた初めての例である。よって意義深いものと考えられる。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/23894