No | 124780 | |
著者(漢字) | 王,志超 | |
著者(英字) | Wang,Zhi Chao | |
著者(カナ) | オウ,シチョウ | |
標題(和) | 細胞質内DNA受容体分子群による自然免疫系調節機構の解析 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 124780 | |
報告番号 | 甲24780 | |
学位授与日 | 2009.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3200号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 病因・病理学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | ウイルスや細菌など外来のDNAや適切に処理されなかった死細胞などの自己由来DNAは、生体のDNA認識受容体によって認識され、I型インターフェロン (IFN-α/β) の誘導に代表される免疫応答を惹起する。最近、我々はこのDNA認識受容体としてDAI (DNA dependent activator of IFN regulatory factors) を同定した。DAIはZα、Zβの2つのDNA結合ドメインを有するタンパク質である。今までの研究から、DAIの過剰発現、ノックダウンによってDNA刺激時のIFN誘導はそれぞれ亢進、減弱することや、DAIやI型IFN誘導に必要な転写因子IRF3 (Interferon regulatory factor 3) 及びIRF3をリン酸化によって活性化するTBK1 (TANK binding kinase 1) キナーゼと結合することが知られている。しかしながらDAIが如何にDNAと結合するか、またDNA認識後にDAIが下流のシグナル伝達経路を活性化する詳細な機構は不明であった。また、DAI以外のDNA認識分子が存在するのか、それらが如何なる機能を担うのか、といった課題は残されたままであった。本研究ではまず、DAIタンパク質を精製し、DAIがDNAと直接結合することを明らかにした。DAIはpoly (rI:rC) のような二本鎖RNAとは結合せず、DNA特異的に結合し、この結合には、Zα、Zβの2つのDNA結合ドメインに加え、D3領域と名付けた新たなDNA結合領域が必須であることが判明した。実際、これらDNA結合ドメインのどれかを欠失させたDAI変異体では、DAI過剰発現によるIFN誘導の亢進が減弱しており、DAIとIRF3及びTBK1との会合にも減弱が認められた。次に、DAIはこれら3つの領域でDNAと結合すると、会合して二量体(多量体)を形成することを見いだした。そこでDAIとFK506結合タンパク質のFvドメインとの融合タンパク質をL929細胞に発現させ、二量体形成試薬の処理によって人工的にDAI二量体を形成させると、DNA刺激非依存的にIFNを誘導できることが判明した。すなわちDAIはDNAを認識し、二量体あるいは多量体を形成することで下流のシグナル伝達経路を活性化していると考えられた。さらに本研究における一連の解析を進めていく中で、DAI以外にも自然免疫系を制御するDNA認識受容体が存在することを明らかにした。マウス胎児線維芽細胞 (mouse embryonic fibroblast ; MEF) において、DNA刺激によるIFNの誘導はDAIノックダウンによって抑制されるものの、その影響はL929細胞のそれと比較し僅かであったことから、DAIの免疫系活性化への貢献が細胞種によって異なること、DAI以外にも細胞質内DNA認識による自然免疫系活性化を担うメカニズムが存在することが示された。そして、RNA編集に関わることが知られているADAR1 (adenosine deaminase acting on RNA 1) には、DAIのZα、Zβと相同性を示すDNA結合ドメインがあり、このADAR1をMEFに発現させるとDNA刺激でのIFN誘導は減弱し、一方でAdar1遺伝子欠損MEFではその誘導が亢進していた。これらの結果から、ADAR1はDAIをはじめとするDNA認識分子群による自然免疫系活性化を負に制御していることが示された。更に、DNA型ウイルスであるワクシニアウイルスのE3Lタンパク質はウイルスの増殖に必須であることが知られており、DAIのZαドメインに相同性を持つ部位を有しているが、このE3Lはウイルス由来の DNA認識分子であり、DNA認識分子群による自然免疫系活性化を抑制することを見いだした。 本研究における一連の解析から、DNA認識受容体であるDAIの活性化機構のより詳細なメカニズムを明らかにすることができるとともに、DAIをはじめとする細胞質内DNA認識分子群による過剰な自然免疫系活性化を制御するメカニズムを担う分子が存在することも明らかとなった。 | |
審査要旨 | 本研究は自然免疫における細胞内に侵入したウィルスやバクテリアに有来するDNAを感知するセンサー分子DAIの活性化機構を明らかにするために、L929細胞やマウス胎児繊維芽細胞にレトロウィルスベクターによるDAI遺伝子の過剰発現およびsiRNAを用いたDAI遺伝子ノックダウンの系にて細胞内DNAが誘導するI型IFN誘導の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1. 大腸菌を用いて組み替えDAIタンパクを作製し、DNAビーズと混ぜ、pull-down実験を行った結果、DAIは直接DNAと結合することが判明した。 また、B-DNAビーズとDAIタンパク質を混合する際、種々のDNA及び二本鎖RNAを競合物として加えて検討したところ、DAIとDNAビーズとの結合阻害はDNAを競合物として加えたときにのみ生じ、RNAでは観測されなかった。これらのことから、DAIはDNA に選択的に結合するが、B-DNAのみならず、様々なDNAに特異的に結合することが判明した。 2. 様々な長さのDNAを用意し、L929細胞に、これらのDNAをトランスフェクションすることによって刺激を加え、IFN-βmRNAの誘導をRT-PCRにて検討した。その結果、DNAの鎖長依存的にIFN-βmRNA誘導に増強が認められた。この時のIFN-β誘導は、DAIの発現量をノックダウンシステムによって低下させることで強く抑制された。これらの結果からDAIによる応答はDNAの鎖長に依存していることが示された。 3. DAIはDNA結合領域Zα、Zβ、D3を個別に欠失させたDAI、さらに全ての結合領域を欠失させたDAI発現ベクターを作製し、B-DNAとの結合をpull-down にて解析を行った。その結果、D3領域を持たない変異体の場合においてはB-DNAとの結合が野生型や他の変異体と比較し、顕著に減弱していることが判明した。従って、新しく発見したD3領域が、DAIのB-DNA結合に最も重要であると考えられた。 次に、これら変異体のB-DNA刺激によるIfnb遺伝子の誘導に与える影響を調べた。L929細胞にこれらDAI変異体を発現させ、B-DNA刺激によるIFN-βmRNA誘導について検討を行った。野生型DAIを発現した細胞においては、コントロールの細胞と比較し、 IFN-βmRNA誘導に約3倍程度の増強が認められた。一方、Zα, ZβまたはD3領域をそれぞれ欠失させた変異体では、どの結合領域を欠いてもIFN-βmRNA誘導の増強能が低下していることが判明した。一連の結果から、DAIとB-DNAとの結合にはD3領域が必須でありZα, Zβの欠失は影響を与えないが、DAIによるIfnb遺伝子の誘導には全てのDNA結合領域が関与していることが判明した。 4. DNA結合領域を欠失させた変異体をL929細胞に発現させ、B-DNA刺激によるDAIとIRF3との会合を検討することにした。野生型DAI発現細胞では、B-DNA刺激によりIRF3とDAIとの結合したに対し、各DNA結合領域欠失変異体を発現させた場合においては、B-DNA刺激後のDAIとIRF3との結合に全ての変異体で減弱が認められた。これらの結果から、変異型DAIはIfnb遺伝子の誘導に重要なIRF3転写因子との会合に影響があるためであることが示唆された。 5. B-DNA刺激によってDAIが 二量体(多量体)を形成するかどうかを検討した。L929細胞にFLAGタグ付きDAI及びHAタグ付きDAIを発現させ、B-DNA刺激でのDAIの 二量体(多量体)形成を免疫沈降にて検討した。その結果、B-DNA刺激によって2時間をピークに、DNA依存的に一過性なDAIの相互作用(二量体あるいは多量体の形成)が確認された。FK506結合タンパク質の一部をDAIに結合させた融合タンパク質 (Fv-DAI) をL929細胞に発現させた。二量体形成薬剤を作用させ、IFN mRNAの誘導をRT-PCRにて検討した。その結果、Fv-DAIを発現させ二量体形成薬剤を加えた時に、 IFN mRNAが誘導されることが明らかとなった。DAIがDNAを足場として二量体あるいは多量体を形成することがシグナル伝達に重要であることが示唆された。 オニンキナーゼと結合することが明らかとなっている。DAIがTBK1によってリン酸化されるか否か検討した。TBK1をDAIと共にHEK293T細胞に発現させPAGEによってタンパクを分離後、ウェスタンブロット解析を行うとDAIのバンドが上方にシフトすることが観測された。一方、このlysateを予め脱リン酸化酵素であるCIAP (calf intestine alkaline phosphatase) を作用させると上方にシフトシフトしたバンドは検出されなかった。この結果から、DAIはTBK1の高発現によってリン酸化を受けることが示唆された。次に、DAIのどのアミノ酸がTBK1によってリン酸化されるか検討することにした。DAIのSer352及びSer353の二つの隣接したセリン残基をアラニンに点変異したDAI変異体 (DAI-A1及びDAI-A2) を作成し、L929細胞に発現させ、B-DNA刺激時のIFN-β誘導に与える影響について検討した。その結果、野生型DAIにおいて観測されるIFN-βmRNA誘導の増強効果はこれら変異体で著明に減弱することが明らかとなり、これらセリン残基はDAIを介したIFN-βRNA誘導に重要であることが示された。さらに、これら変異体を用いて、TBK1及びIRF3との会合について検討を加えた。その結果、これらの変異体とTBK1及びIRF3との会合は野生型に比べ顕著に減弱していることが判明した。 7. マウス胎児繊維芽細胞 (mouse embryonic fibroblast ; MEFs) においてDAIノックダウンを行い、この細胞においてもB-DNAによって誘導されるDAIは効率よくノックダウンされていた。しかし、この細胞におけるB-DNA及びISD刺激時のIFN-βmRNAの誘導をRT-PCRにて検討した結果、若干の低下が認められるもののL929細胞でみられたような著明な減弱は観測されなかった。これらの結果から、DNA認識受容体としてDAIの役割においては、細胞種特異的に活性化への寄与の度合いが異なっており、DAI以外にも更にDNA認識受容体が存在することが示唆された。 8. DAIと相同性を持つ内在性分子としてADAR1のDNA刺激による応答への関与を調べるため、MEFにレトロウイルスを用いてADAR1を過剰発現させ、B-DNA刺激し、IFN-βmRNA の誘導をRT-PCRにて検討した。その結果、B-DNA刺激によるIFN-βmRNA 誘導は、ADAR1発現細胞において、コントロール細胞と比較して抑制されていた。さらに、Adar1遺伝子欠損MEFを用いて検討を行った。DNAやDNAウイルスであるI型単純ヘルペスウイルス (HSV-1) を感染させ、IFN-βの誘導をRT-PCRにて検討した。その結果、Adar1遺伝子欠損MEFでは、ADAR1の過剰発現とは逆に、刺激によるIFN-βmRNAの誘導に顕著な増強が認められた。ADAR1はB-DNA刺激及びDNAウイルス感染によるIfnb遺伝子の誘導に対して、負の調節に寄与するDNA認識分子であることが示唆された。 9. DNA認識受容体DAIに相同性を示すワクシニアウイルス由来のE3Lタンパク質をMEFにレトロウイルスを用いて発現させ、B-DNA刺激後のIFN-βmRNAの誘導をRT-PCRにて検討した。その結果、E3Lの過剰発現によって、コントロール細胞と比較し、IFN-β mRNA誘導が著明に抑制されることが判明した。このことから、E3Lタンパク質には、恐らくDAIと相同性を有するZαドメインを介してDNAに結合し、DAIや他のDNA認識受容体と拮抗することによって、細胞質内DNA刺激による免疫応答を抑制することが示唆された。 以上 本研究によって、DNA認識受容体DAIがどのようにDNAを認識し、シグナル伝達を活性化していくか、その一端を明らかにすることが出来た。また、細胞質内DNAの認識による自然免疫系の活性化システムは、DAI以外にもDNA認識受容体が機能する、多様かつ複雑なシステムであることが明らかとなった。これらの結果は生体防御にきわめて重要な自然免疫システムの解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |