No | 124789 | |
著者(漢字) | 崔,明權 | |
著者(英字) | Choi,Myoung Kwon | |
著者(カナ) | チェー,ミョンギォン | |
標題(和) | 新規DNA受容体DAIの同定 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 124789 | |
報告番号 | 甲24789 | |
学位授与日 | 2009.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3209号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 病因・病理学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 生体は病原体を認識し、免疫系を活性化してこれを排除する。生体における病原体認識は病原体固有のパターンを認識するパターン認識受容体 (pattern recognition receptors) によって担われている。最近の研究から、DNA、RNAなど核酸もこれら受容体によって認識され、免疫系を賦活化することが明らかとなってきた。RNAの認識受容体としてTLR (Toll-like receptor) 3、TLR7のToll様受容体に加え、RIG-I (retinoic acid inducible gene I) やMDA5 (melanoma differentiation antigen 5) といった細胞質内RNA認識受容体の存在が明らかにされている。一方、DNAについてはこれまでTLR9のみが同定されていたが、TLR9非依存的に、細胞質内に暴露されたDNAによって免疫系が活性化される報告が相次ぎ、TLR9以外にもDNA認識受容体が存在することが示唆されていた。 本研究において、このDNA認識受容体としてDAI (DNA-dependent activator of IFN regulatory factors) を同定した。DAIはN末端領域にZα、Zβの二つのDNA結合ドメインを有し、Z型DNAに結合することは知られていたものの、その生物学的機能については未知のままであった。私は、DAI がI型IFN (interferon) によって発現誘導されることに着眼し、この分子が細胞質のDNA認識を通してI型IFN遺伝子を活性化し、誘導されたIFNのシグナルによって更にDAI発現が亢進することによって自然免疫系の増幅的活性化が起きるのではないかと考えた。そこでまず、DAIを高発現させた細胞を樹立し、その細胞ではDNA刺激時のIFN誘導が亢進することを見いだした。一方で、RNAiによるノックダウンシステムによりDAIの発現量を低下させると、DNA刺激時のIFN誘導が顕著に減弱することを見いだした。一連の現象は二本鎖RNAであるpoly (rI:rC) の刺激では認められなかったことから、DAIはDNA特異的な応答に関与していると考えられた。DNA刺激によるIFN誘導にはTBK1キナーゼ及びIRF3が重要であることが知られているが、ノックダウンシステムによってDAIの発現量を低下させると、B-DNA刺激によるIRF3の活性化が減弱していた。またDNA刺激によってIFN以外にもinterleukin-6やCxcl10などのサイトカイン、ケモカインが誘導されるが、DAIノックダウンによって、これらの誘導は減弱し、さらに様々なサイトカイン、ケモカイン誘導に関与していると考えられるNF-κB転写因子の活性化も抑制されていた。一連の結果はDAIがDNAを認識し、自然免疫系の活性化シグナルを伝達することを示唆していた。そこで、DAIとB-DNAとの結合について検討したところ、YFP-DAI発現細胞においてローダミンラベルされたB-DNAとの間に蛍光共鳴エネルギー移動 (fluorescence resonance energy transfer ; FRET) が観測された。更にpull-down assayの実験からDAIとB-DNAが結合することも明らかとなった。さらにDAIとB-DNAとの結合について、DAIの様々な欠失変異体を作製し検討したところ、DAIとB-DNAとの結合には、従来から知られていたZα、ZβのDNA結合ドメインではなく、それらのC末端側に存在する新たな領域でB-DNAと結合していることが明らかとなった。この領域を欠失した変異体を過剰発現してもB-DNA刺激によるIFN誘導の増強効果が認められなかった。また、DAIとIRF3及びTBK1との相互作用について免疫沈降実験によって検討したところ、B-DNA刺激依存的にDAIとIRF3及びTBK1が結合することが判明した。この結合はDAIのC末端領域を介しており、この領域を欠失させたDAI変異体はIRF3及びTBK1と結合せず、DAI高発現によるB-DNA刺激時のIFN誘導の増強効果は認められなかった。すなわち、DAIは、本研究によって見出された新しいDNA結合領域によってB-DNAと結合し、C末端領域を介してIRF3及びIRF3の活性化に必要なTBK1キナーゼと結合し、B-DNA刺激によるIFN産生に至るシグナルを伝達していることが示された。DAIによるDNA認識機構の重要性をウイルス感染において検討したところ、DAIノックダウン細胞において、DNAウイルスである単純ヘルペスウイルスの複製が亢進し、一方でRNAウイルスであるニューキャッスル病ウイルスでは、ウイルス複製に影響を与えなかった。これらの結果から、DAIはDNAウイルス感染防御に重要な役割を担う分子であることが明らかとなった。 以上、本研究から、DAIがDNA認識受容体として機能する証拠が挙げられたことによって、これまで不明であった、細胞質内DNA刺激によるIFN及びサイトカイン誘導に象徴される自然免疫系の活性化機構の一端を解明できたものと考えられる。 | |
審査要旨 | 本研究は新規DNA認識受容体の同定をするため、細胞質内DNA受容体のもつ性質として、IFN-α/β誘導性であり、TBK1、IRF3を活性化出来、かつDNAに結合できる蛋白質の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1. マウス胎児繊維芽細胞 (mouse embryonic fibroblast ; MEF) をIFN-βで処理し、total RNAに対してマイクロアレイ解析を行った結果 、N末端領域にZα及びZβの2つのDNA結合ドメインを持つDLM-1/ZBP1 (Z-DNA binding protein 1) 分子が誘導されていることを見出した。 I型IFNシグナルに応答しないIfnar1-/- MEFにおいて著明に減弱していたことから、DLM-1/ZBP1はDNA刺激時にI型IFNによって誘導される分子であることが示された。 2. DLM-1/ZBP1をL929細胞にレトロウイルスベクターを用いて発現させ、DNA刺激時のI型IFN誘導について検討したところ、コントロール細胞と比較してDLM-1/ZBP1を高発現させた細胞において有意に高いIFNの誘導が認められた。 一方で二本鎖RNAであるpoly (rI:rC) 刺激によるIFN mRNAの誘導にはDLM-1/ZBP1の発現は影響を与えなかった。これらの結果から、DLM-1/ZBP1はDNAによる刺激応答に関与している分子であることが示された。以上の結果に基づき、この分子をDAI (DNA-dependent activator of IFN regulatory factor) と呼ぶこととした。 3. B-DNA刺激によるI 型IFN産生へのIRF3、IRF5及びIRF7の関与を調べたところ、IFN-βmRNAの誘導はIRF3に大きく依存しており、IRF5及びIRF7の関与は認められなかった。 IFN-α4 mRNAの誘導にはIRF3のみならず、IRF7も関与していることが明らかとなった。 4. siRNA ベクターを使用したノックダウンシステムを用いて、DNA刺激におけるDAIの役割について検討を加えたところ、 DNA刺激による IFN-βmRNA誘導は、DAIノックダウン細胞において顕著に減弱していた。またpoly (rI:rC) 刺激によるIFN-βmRNAの誘導にはDAIのノックダウンは影響を与えなかった。これらの結果からも、DAIはDNA刺激でのサイトカイン誘導に関与していることが示された。 5. B-DNA刺激によるIRF3の活性化をIRF3のホモ二量体形成能を指標にNative PAGE (polyacrylamide gel electrophoresis) にて検討したところ、DAIノックダウン細胞ではコントロール細胞と比較して、IRF3の二量体形成が3分の1程度に減少していた。さらにNF-κBの活性化をゲルシフトアッセイによって検討した結果、B-DNA刺激によるNF-κBの活性化もDAIノックダウン細胞においてコントロール細胞と比較して2倍程度の減弱が認められた。一方で、この減弱はpoly (rI:rC) 刺激では観測されなかった。これらの結果から、DAIは、DNA刺激時のサイトカイン誘導において、IRF3やNF-κBの活性化を制御する上流に位置しているものであることが示された。 6. DAIとDNAとの結合について FRET解析によって検討したところ、 DAIとB-DNAとのFRETが観測されたが、細胞質内RNA認識受容体であるRIG-IとB-DNAとではFRETが観察されなかった。 FRETは分子同士が数nm程度の近傍に存在しないと観察されないことから、DAIとB-DNAが近い距離に存在していることが示された。 B-DNAによるDAIのpull-downアッセイによってB-DNAとDAIの結合を検討したところ、DAIはB-DNAでpull-downされた。 pull-downする際、過剰量のB-DNAをcompetitorとして加えておいたところ、pull-downされるDAIが過剰量のB-DNAによって競合阻害されていたが、 この阻害は二本鎖RNAであるpoly (rI:rC) では観測されなかった。これらの結果からDAIはB-DNA特異的に結合することが示唆され、DNA認識受容体として機能していると考えられた。 7. DAI欠失変異体を作製し、DAIとDNAとの結合ドメインを 検討したところ、Zα及びZβの二つのDNA結合ドメインを欠失したDAIはB-DNAと結合していた。このことはZα、Zβ以外に DNAとの結合できる領域がDAIに存在することが示唆された。 8. DAIのシグナル伝達機構を調べるだめに免疫沈降によってDAIとTBK1またはIRF3との会合を検討したところ、DAIとTBK1及びIRF3との共沈が認められ、DAIとTBK1、IRF3がDNA刺激依存的に会合することが示唆された。この会合がDAIのどの領域で起きているかを、DAI欠失変異体を用いて検討した結果、 C末端領域約100アミノ酸残基を欠失したDAI-ΔC1変異体ではTBK1及びIRF3共に、DAIとの会合が著しく減弱していた。これらの結果からDAIはC末端領域でIFN産生に重要な転写因子IRF3と結合し、且つIRF3の活性化に重要なキナーゼTBK1とも結合することが示唆された。 9. DNA応答におけるDAIの生物学的役割の解析するだめに、 DAIノックダウンL929細胞においてウイルス感染でのDAIの役割を検討したところ、 DAIノックダウン細胞においてはコントロール細胞と比較して、 DNAウイルスであるHSV-1ウイルスの増殖量が上昇した。一方でRNAウイルスであるNDVの増殖には変化は認められなかった。これらの結果から、 DAIはDNAウイルスであるHSV-1の抑制に必要であることが示され、感染防御において重要な役割を果たしていることが明らかとなった。 以上、本論文はDAIが種々のDNAを認識し、IRF3及びNF-κBの活性化に関わる細胞質内DNA認識受容体として機能することが明らかになった。本研究は、DAIがDNA認識受容体として機能することを示したことによって、これまで不明であった、細胞質内DNA刺激によるIFN及びサイトカイン誘導に代表される自然免疫系の活性化機構の解明に貢献したものであり、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |