No | 124793 | |
著者(漢字) | 福井,竜太郎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | フクイ,リュウタロウ | |
標題(和) | Unc93 homolog B1はtoll-like receptor7とtoll-like receptor9の応答バランスを制御する | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 124793 | |
報告番号 | 甲24793 | |
学位授与日 | 2009.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3213号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 病因・病理学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 免疫系は自己と非自己を認識し、非自己を選択的に排除する役割を持った生体機能である。脊椎動物には遺伝子の再構築により受容体の認識パターンを変化させる獲得免疫系と呼ばれるシステムが備わっているため、無限ともいえる種類の非自己を認識することが可能である。一方、ゲノムにコードされた認識パターンから変化を受けないタイプの免疫担当分子も存在し、これらは自然免疫系と呼ばれている。自然免疫系は無脊椎動物からヒトを含む脊椎動物まで保存されている生体防御機構であり、感染防御の最前線を担う生命機能であると同時に、内因性の様々な免疫応答を制御していることが報告されている。 自然免疫系のメカニズムを解明することは生命科学における重要な課題だが、自然免疫はこの10年程度で大きく発達した分野であり、未知の分子や未解明の機構が多く存在する。私は自然免疫系の全体像を描くことを目指し、新規自然免疫担当分子の発見とその機能解析を研究の目的として設定した。 自然免疫系を担当する分子には、特異性の低い認識を行う補体やレクチンなどのグループと、特異性の高いリガンド認識を行う受容体型のグループとがある。Toll-like receptor(以下、TLR)は後者に類される自然免疫担当分子で、細菌やウイルスに特異的な構成成分を認識する。TLRは約10種類からなるファミリーを形成しており、認識するリガンドの種類と局在により、大きく二つに分けることができる。一つは細胞表面で細菌の脂質やタンパク質を認識するグループであり(TLR1、2、4、5、6)、もう一つは細胞内部でウイルスや細胞内寄生菌の核酸を認識するグループである(TLR3、7、8、9)。核酸認識系TLRはウイルスの感染に対して重要な役割を果たしている一方で、自己免疫疾患などに関わっている可能性が指摘されている。したがって、核酸認識系TLRの分子機構を解明することは、感染防御システムの理解につながるのみならず、システム破綻時の病態を探る上でも重要であると考えられる。しかしながら、核酸認識系TLRは他のTLRと比較して研究が遅れており、その機能解明にはほど遠いのが現状である。 一般的に、受容体の性質を解明するにあたっては、受容体によるリガンド認識機構と下流シグナルの伝達機構を解析することが必要である。そこで、各種TLRの中で最も研究が進んでいるTLR4を例に挙げると、そのリガンドであるLPSを認識するためにはLPS binding protein (LBP)、CD14、MD-2といった分子を必要とし、シグナルの伝達にはmyeloid differentiation factor 88 (MyD88)やTIR domain-containing adaptor inducing interferon-β (TRIF)と呼ばれる分子を必要とする。このような分子群がTLR4の応答性に重要な役割を果たしていることからは、核酸認識系TLRの場合も応答性を補完する関連分子の存在が示唆されると同時に、こうした関連分子の解析が核酸認識系TLRの機能解明に重要な知見をもたらす可能性がある。この仮説に基づき、私はcDNAライブラリを用いたfunctional cloningによって核酸認識系TLRの関連分子を検索・同定し、その機能を解析することにした。 Functional cloningでは、検討対象とする機能が欠損している細胞と、機能を備えている細胞を選択することが必要になる。そこで各種細胞のうち、プロB細胞由来の細胞株であるBa/F3細胞をTLR7/TLR9不応答性細胞、マクロファージ由来の細胞株であるRAW264.7細胞をTLR7/TLR9応答性の細胞として選択し、Ba/F3細胞にRAW細胞のcDNAライブラリを導入する形でfunctional cloningを行った。その結果、先行して実験を行っていた松本らによってカテプシンBおよびカテプシンL がTLR9の応答性を補完する分子として同定された。 TLR7はTLR9と同様のシグナル伝達経路を持つため、カテプシンはTLR7の応答性も補完するかと思われたが、Ba/F3細胞にカテプシンを導入した際にもTLR7の応答性は見られなかった。このことから、TLR7の応答にはカテプシン以外にも何らかの分子を必要とすることが予測されたため、私はTLR7の関連分子に対象を絞って新たにfunctional cloningを行った。その結果、TLR7の応答性を補完する分子としてUnc93 homolog B1(以下、Unc93B1)が同定された。Unc93B1はBeutlerらのグループによってTLR3、TLR7、TLR9の応答性を補完する分子として報告されており、Unc93B1に単一アミノ酸変異を持つマウス(3dマウス)はTLR3、TLR7、TLR9のリガンドに対する応答性が欠損している。このようなことから、Unc93B1は核酸認識系TLRの応答に関わる重要な分子であることが伺える。 私も独自にUnc93B1を同定したことから詳細な検討を行ったところ、functional cloningによって同定されたUnc93B1は、N末端側が83アミノ酸欠損した変異体であることがわかった。そこで野生型のUnc93B1を改めてクローニングし、変異体と機能を比較したところ、Ba/F3細胞におけるTLR7の応答性は変異体でのみ補完された。この結果より、欠損した83アミノ酸の中にTLR7の応答性を制御する部位が存在していると考え、各種変異体を作成し詳細な解析を行った。その結果、34番目に位置するアスパラギン酸をアラニンに置換した変異体(D34A)をBa/F細胞に導入した際、TLR7リガンドに対する応答性が補完されたことから、34番目のアスパラギン酸がTLR7の応答性を制御している可能性が示唆された。 この現象をより生体に近いレベルで検討するため、骨髄由来の樹状細胞に野生型および D34A変異型のUnc93B1 を導入して刺激を行ったところ、変異型のUnc93B1を導入した細胞では野生型と比較してTLR7の応答性が著しく増強された。一方、TLR9の応答性は野生型と比較して著しく減弱していたことから、Unc93B1のD34A変異体存在下においては、TLR7とTLR9の応答性が野生型と逆転していることが明らかとなった。 Unc93B1は膜貫通領域依存的に核酸認識系TLRと結合し、刺激に応じて小胞体からendosome/lysosomeへと運搬しているという報告がある。Endosome/lysosomeはTLR7やTLR9のリガンド認識の場であるため、Unc93B1による核酸認識系TLRの応答補完メカニズムはこのような結合・運搬によるものであるとされている。 D34A変異体についてもTLRの結合と細胞内移動を検討したところ、Ba/F細胞にD34A変異体を導入した場合には、刺激に応じてTLR7がlysosomeへと移動する様子が観察された。一方、TLR9はlysosomeへの移動が見られなかったため、D34A変異によるTLR応答性の変化は、TLRの細胞内移動を反映していることが明らかとなった。 こうしたTLRの細胞内移動はUnc93B1とTLRとの結合に基づいていることから、D34A変異体はTLRとの結合状態が野生型と異なっていると考えられる。そこで、野生型Unc93B1およびD34A変異型Unc93B1をそれぞれ樹状細胞に発現させ、Unc93B1 を免疫沈降して共沈したTLRをLC-MS/MSで検出した。樹状細胞には内生的にTLR7とTLR9が発現しており、D34A変異型Unc93B1がどちらのTLRと結合しやすいかを競合条件下で検討することができる。LC-MS/MSによって検出されたTLRを数値化して比較した結果、D34A変異型Unc93B1は野生型Unc93B1よりもTLR7との結合が強く見られる一方、TLR9との結合は野生型よりも弱いことが明らかとなった。これらのことから、野生型のUnc93B1はTLR7よりもTLR9に強く結合することによって、TLR9に傾斜した応答性を保っていることが示唆された。 上記の結果からは、自然免疫系における応答バランスの存在を伺わせる。現在までに、自己免疫疾患のモデルマウスを使用した実験によってTLR7が症状を増悪させる一方、TLR9は症状を緩和するという報告がなされている。ただし、TLR9に関しては過剰反応により自己免疫疾患を惹起するという報告もなされているため、正常な免疫応答にはTLR7とTLR9の応答バランスが適正に保たれている必要があるといえるだろう。Unc93B1は、このようなバランスを保つ因子として考えることができるのではないだろうか。すなわち、Unc93B1は核酸認識系TLRの応答性を補完するために存在するのみならず、TLR9とより強く結合することによってTLR7の応答性が著しく亢進するのを防ぎ、TLRの応答バランスを保つ役割をも果たしている可能性がある。今回使用したD34A変異型のUnc93B1からは、野生型のUnc93B1が持つTLRの応答性を制御する機能を垣間見ることができる。 さらに、このような機能が単一アミノ酸かつ単一塩基に依存していることは、今後の研究を進めて行く上で意義深い。LC-MS/MSなどのプロテオミクスを利用した新規関連分子の検索から、一塩基多型の検索まで幅広い発展性を持つものであり、この現象をより詳細に検討する上で重要な要素となるだろう。今後は詳細なメカニズムを明らかにすると同時に、in vivoでの解析を行っていくことが課題である。 | |
審査要旨 | 本研究は自然免疫担当分子であるtoll-like receptor(以下、TLR)のうち、核酸を認識するTLRの機能解明を目的として、新規関連分子の同定と機能解析を行ったものである。Functional cloningにより関連分子が同定され、未知であった機能が発見されるなど、以下に挙げる成果を得ている。 1. Ba/F3細胞はTLR7不応答性の細胞であり、RAW264.7細胞はTLR7応答性の細胞である。Ba/F細胞にRAW細胞由来のcDNAライブラリを導入し、functional cloningを行った結果、Unc93 homolog B1(以下、Unc93B1)と呼ばれる分子がTLR7の応答性を補完する分子として同定された。 2. Unc93B1はTLR3、TLR7、TLR9の応答性を補完する分子として知られている。同定されたUnc93B1を詳細に検討した結果、N末端側のアミノ酸が83分子欠損した変異体であった。そこで、野生型のUnc93B1を改めてクローニングし、Ba/F細胞に導入したが、TLR7の応答性は補完されなかった。このことから、Unc93B1のN末端側にはTLR7の応答性を制御する部位が存在する可能性が示された。 3. N末端側のアミノ酸を欠損させたUnc93B1の各種変異体を作製し、TLR7の応答性を制御する部位を絞り込んだ。さらに、絞り込んだ部位のアミノ酸をアラニンに置換した変異体を作製して検討した。これらのうち、34番目のアスパラギン酸をアラニンに置換した変異体(D34A)がTLR7の応答性を亢進させたことから、Ba/F細胞におけるTLR7の応答性はUnc93B1のD34依存的であることが示された。 4. Ba/Fで見られた現象をより生体に近いレベルで検討するため、Unc93B1機能欠損マウス(3dマウス)から骨髄細胞を採取し、野生型及びD34A変異型のUnc93B1を導入して樹状細胞に分化させた。この細胞を刺激したところ、D34A変異体を導入した樹状細胞では野生型のUnc93B1を導入した樹状細胞よりもTLR7に対する応答性が著しく亢進していた。一方、TLR9の応答性は野生型を導入した樹状細胞よりも減弱しており、TLR7とTLR9の応答性がUnc93B1のD34によって相反的に制御されていることが示された。 5. Unc93B1によるTLRの応答補完は、膜貫通領域依存的な結合と、それに基づくTLRの細胞内移動によっておこなわれる。TLR7やTLR9はUnc93B1と結合することによって、刺激依存的に反応の場であるendosome/lysosomeへと移行することができる。Unc93B1のD34A変異体を導入したBa/F細胞を刺激した場合、TLR7の細胞内移動が見られるのに対し、TLR9の細胞内移動が見られなかった。このことから、Unc93B1の変異によるTLRの応答性変化には、TLRの細胞内移動が反映されていることが示された。 6. Unc93B1とTLRとの結合を調べるため、野生型およびD34A変異型のUnc93B1を樹状細胞に導入し、Unc93B1を免疫沈降することでどのTLRがより強く結合するかを検討した。樹状細胞はTLR3、TLR7、TLR9などを内生的に発現しているため、競合条件下における検討が可能になる。共沈したタンパク質をLC-MS/MSによって検出・同定し、TLRのデータを抽出して数値化したところ、D34A変異体は野生型と比較してTLR7が多く共沈している一方、TLR9は野生型よりも共沈が少なかった。 以上、本論文はTLR7とTLR9の応答を相反的に制御する因子として、Unc93B1の新機能を提示したものである。さらに、新規関連分子の同定から機能部位の特定まで、連続的に行われている点で完成度が高いといえるだろう。なお、自然免疫系における応答バランスは病態モデルマウスの解析などから存在が示唆されているものの、具体的な制御因子などは全く知られていないのが現状である。このような未開の領域において、本研究は今後の研究発展に重要な意義を持つ可能性があり、学位の授与に値するものであると考えられる。 | |
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