No | 124800 | |
著者(漢字) | 伊藤,治彦 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イトウ,ハルヒコ | |
標題(和) | 肺結節のコンピューター支援診断(CAD:computer-aided diagnosis)に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 124800 | |
報告番号 | 甲24800 | |
学位授与日 | 2009.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3220号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 生体物理医学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文は6章からなる。 第1章は、研究の背景、目的についての記述である。東京大学医学部附属病院22世紀医療センター コンピュータ画像診断学/予防医学講座では、ハイメディック社より委託された検診(以下当検診と略)を行っており、胸部CTもその中に含まれている。 当検診では、2人の読影医が同時に独立して読影し,合議により結果を統合している。読影者間の不一致がしばしばみられており、原因として、読影者間の見解の違いのほか、見落としの可能性も考えられている。 また、近年ではCTの進歩に伴い、薄いスライスの大量のデータが出力され、読影枚数は飛躍的に増加しており、読影医の負担は増大している。 このため、コンピューター支援検出(CAD:computer-aided detection/diagnosis)ソフトウェアによる診断の補助などが考えられている。 肺結節検出のCADはさまざまなものが開発されており、製品化されているものもある。市販のCADソフトウェアでは感度は60~75%程度であるが、まだ医師の要求する性能に達しているものはない。また、検出アルゴリズムも非公開であり、当検診用に改良するのも難しい。 臨床応用に関しては国立がんセンター中央病院などでの肺がんCTスクリーニングで1997年よりCADソフトウェアが導入されている。感度は89%と高いものの、1症例あたり平均11個の結節候補を出力している。当検診では時間の制約もあり、結節候補を絞る必要がある。 このため、当検診用に新たにCADソフトウェアの開発をすることとし、放射線科画像情報処理・解析研究室と共同でCADソフトウェアを開発した。アルゴリズムは、3次元ボリュームデータにShape indexを適応して、結節を検出する手法を用いた。 本論文では、まず、当検診のうち、胸部CTに焦点をあて、二重読影の結果の検討を行った。そして、見落としの可能性の高い肺結節についてCADソフトウェアを開発した。さらに、開発したCADを用いた読影実験により、その有用性を検討した。 第2章では当検診での胸部CTの二重読影結果に関して、2007年1年間での検診結果より、現状および問題点の把握を行う。 2007年1年間での当検診受診者延べ1079人のうち、重複などを除き1035検査を今回の調査の対象とした。 当検診では画像を中心とする総合的な検診を施行しており、重篤性の把握が容易にできるように、項目を細分化したうえで、それぞれの項目について診断コードをつける方式とした。 胸部CTでは「肺結節、腫瘤」、「肺炎症性変化」、「肺気腫、ブラ」、「間質性肺炎」、「胸水、胸膜」、「胸部大動脈」、「冠動脈」、「縦隔、肺門」、「胸部その他」の9項目に分類して評価を行った。 診断コードは1~5の5段階であり、無所見(正常)をコード1、良性(経過観察不要、放置可)をコード2、要経過観察(約1年後の次回検診にて経過観察)をコード3、要紹介(精査加療すべき病変が疑われる)をコード4、要治療(精査加療すべき病変が確実にある)をコード5とした。 統合後の診断結果のうち、コード3以上を有意所見と定義し、有意所見のある症例のうち、読影医の一方がコード1(正常)をつけている症例は重要不一致として抽出した。この中には見落としによるものも含まれている。 結果、「肺結節、腫瘤」、「間質性肺炎」、「胸水、胸膜」、「縦隔、肺門」、「胸部その他」の項目で重要不一致が多かった。 「間質性肺炎」ならびに、「胸水、胸膜」で重要不一致が多いのは、有意所見のある症例数が少ないことが影響していると考えられる。 「縦隔、肺門」、「胸部その他」でも重要不一致が多い。「縦隔、肺門」ではリンパ節のほか、心臓、食道など複数の項目が含まれているため、読影者間の不一致が多いと思われる。また、「胸部その他」については肩、肋骨、皮膚など雑多な項目であるため、読影者間の不一致が増えたものと思われる。 「肺結節、腫瘤」は有意所見率が高い項目であるが、重要不一致も高く、また、文献的にも肺結節は見落としが多く、不一致も多いことが知られている。 以上のことから、CADソフトウェアの併用など、見落としを減らすための対策が必要と考えられる。 第3章では、当科で開発中のCADソフトウェアを検診データに対して適用することを試みる。 CADソフトウェアはshape indexを用いた閾値処理ならびに領域拡張により結節候補領域の抽出を行う。 使用データセットは2007年1月~2008年6月に検診を受けた症例を対象とし、統合後の判定コードが3以上の症例を使用した。 統合後診断コード3以上の症例は94例あった。これらの症例をCADのパラメータ設定に用いる学習用データと性能評価のみに用いる評価用データの2種類に分けた。学習用データは上記データのうち、2007年1月~2007年12月に撮影された67症例である。一方、CADの性能評価用データは上記データのうち2008年1月~6月に撮影された27例である。 結果、感度70%における1症例あたりの平均偽陽性数が、学習データの場合で5.8個、評価用データの場合で20.0個であり、検出性能は意外と低かった。この原因としては、データセットの結節にGGO(ground-glass opacity;すりガラス結節)、および胸膜付着結節が多かったため思われる。一般的に、CADにおいて周辺組織とのコントラストが低いGGOはsolid noduleと比べ検出性能が落ちる。また、胸膜付着結節も検出が難しい。 実際にはCADソフトウェアを単独で使用することはほとんどなく、読影との併用で用いられる。そのため、読影時におけるCADソフトウェア併用の効果を検討する必要がある。 第4章では実地臨床における有用性評価のため、読影実験を行う。 読影者は2名の放射線科専門医(reader1,2)である。読影の手順は、まず、CADソフトウェアの結果を参照せずに読影端末上でpaging法にて読影し、コード3以上と判断した結節の位置および症例全体でのコードを記録した(以下、CADなしとする)。次に、CADソフトウェアが提示する肺結節候補を読影端末上で確認し、肺結節候補ごとに診断コードを記載し、さらに症例全体での診断コードを再判定した(以下、CAD結果参照とする)。 実際の検診では、結節が複数存在していても肺癌が疑われるような臨床的重要度の高い結節があると、肉芽腫などの重要度の低い結節は無視している。このことを考え、今回の読影実験でも同様に症例単位で診断コードをつける方式とした。 最終的な正解は読影実験後に、過去の検診時の診断結果および今回の読影実験結果を総合し、読影者2名の合議により作成した。 CADソフトウェアの検出結果は別モニタにて表示し、表示する結節の数は最も結節らしいと判断されたもの上位5個とした。 データセットは2007年1月~2008年6月までに当検診で施行された胸部CT検査のうち、統合後コード3以上のついた94例を対象とした。また、統合後コード1,2の症例232例を混和した。以上、実験で読影する症例は、合計326例である。 データ解析は診断コード3以上を有意所見と定義し、有意所見の有無による症例ベースでの感度、特異度を計算した。なお、CADソフトウェアの症例ベースの感度については、CADソフトウェアが提示する5個の結節のうち、最終統合後の診断コードが3以上の結節が1つでも含まれていれば検出できたと判断した。 結果、reader1がCAD結果参照により変更した症例は103例あり、reader2がCAD結果参照により変更した症例は109例あった。大部分は診断コード1から2への変更であり、これはCADソフトウェアにより微小な結節が検出されたためであった。診断コードの1から3以上の変更は見落としと考えられ、reader1で7症例、reader2で9症例あった。なお、変更前後のデータの一致性に関して、2群化したデータでマクネマー検定を行い、有意差が認められた(reader1: p = 0.00150、reader2: p = 0.00087)。このように、今回の実験ではreader1,2ともCADなしの読影では重要結節の存在する症例に関してもコード1をつけている症例が複数認められているが、CADソフトウェアの併用により、これらの見落としが減らせることが示せた。 診断コード3以上を有意所見としたときの、症例ベースでの感度および特異度は、CADなしで読影をした場合、reader1では感度は75.2%、特異度は98.5%、reader2では感度61.6%、特異度は99.5%であった。そして、CADを併用することにより、reader1では感度は84.8%(+9.6%)、reader2では感度72.0%(+10.4%)と上昇した。なお、CADソフトウェア単独での感度は72.8%であった。 第5,6章は、本論文の総括および今後の課題と展望についての記述である。 本論文では、まず、1年間の当検診結果をまとめ、肺結節は見落としやすいもののひとつであることが示され、肺結節検出支援の必要性が考えられた。 次に、当検診で実用可能な肺結節検出用のCADソフトウェアの開発および検討を行った。感度はそれほど高くなく、偽陽性も多い事が分かった。 しかし、読影実験にてCADソフトウェアを併用する事により、肺結節検出の感度向上が得られ、また、見落としが減らせることを示した。 今後は開発したCADソフトウェアの実地検診での運用を行っていく。また、CADソフトウェアへの新たな機能の追加も将来的展望として挙げられる。 | |
審査要旨 | 本研究は、検診における胸部CTにて読影者間不一致の多い肺結節に関し、コンピューター支援検出(CAD:computer-aided detection/diagnosis)ソフトウェアの適用に関する研究である。 本研究では、まず検診における所見の見落としの検討として胸部CTに焦点をあて、二重読影の読影者間の不一致に関する検討を行っている。次に、胸部CTで見落としの多い肺結節を検出するCADソフトウェアを開発し、その性能評価を行っている。さらに、開発した肺結節検出CADソフトウェアを用いた読影実験により、CADソフトウェア利用読影の有効性を検討している。 これらの過程を通して、以下の結論を得ている。 1)読影者間の不一致がしばしばみられており、重要な所見に関しても不一致がある。肺結節には重要不一致が多い。 2)shape indexを用いた閾値処理ならびに領域拡張により結節候補領域の抽出を行うCADソフトウェアを開発した。市販ソフトウェアで発表されている感度、偽陽性数と比べ、数値的にはやや劣るものである。 3)CADソフトウェアの併用によって肺結節の検出率向上が認められ、重要肺結節に関しても見落としの減少が認められた。ただし、読影時間は約2倍になっている。 以上より、自家開発の性能のやや劣るCADでも、読影時の利用方法によっては見落としを減らすことができることが示されている。CADは医師と比べて不十分な検出能力であることを理由として、その臨床応用がなかなか進められていない現状が存在するが、それに対してこの研究は医師と比べて不十分な検出能力のCADでも利用する価値があることを示唆している。 以上、本論文は、胸部CTにおける肺結節検出に関するCADの開発とその臨床応用に重要な貢献をなすものであり、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |