学位論文要旨



No 124804
著者(漢字) ハシナ,ヤスミン
著者(英字) Hasina,Yasmin
著者(カナ) ハシナ,ヤスミン
標題(和) 大脳白質路の拡散テンソル画像 : MRパルスシーケンス・デザイン、白質路定量 解析、及び正常データ構築
標題(洋) Diffusion Tensor Imaging of White Matter Tracts : MR Pulse-Sequence Design, Method of Tract-Specific Analysis and Normal Data
報告番号 124804
報告番号 甲24804
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3224号
研究科 医学系研究科
専攻 生体物理医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 安藤,譲二
 東京大学 教授 小山,博史
 東京大学 講師 磯山,隆
 東京大学 講師 赤羽,正章
 東京大学 講師 鎌田,恭輔
内容要旨 要旨を表示する

Background and Purpose:

近年、拡散テンソルトラクトグラフィーは、神経疾患において特定の神経線維の異常を評価するのに有用な臨床的手技となってきているが、白質(WM)の線維については通常の拡散テンソル画像の撮像法で得られた非常に粗末なデータでしか評価できないのが現状であり、また基準データがなかったため、拡散テンソルの臨床応用は限られたものであった。今までは特定の神経線維だけに関心領域を置いた評価は困難であり、このようなtract-specific analysis (TSA)では体動による部分容積効果を減少させる方法がなかった。再構成された線維のトラクトフィーは常に偶発的なアーチファクト様の線を伴っていた。拡散強調画像の撮像法は本来、患者の動きに敏感な撮像法であるため、我々の拡散テンソル画像の元画像においては帯状のアーチファクトを14%程度に認め、これらは患者の体動が原因ではないかと考えた。

この研究の目的は、皮質脊髄路(CST)、鉤状束(UF)、後部帯状束(PC)、脳弓といった白質線維の正常な拡散テンソルのデータの確立であり、白質線維の中心部のみを取り出すことでvoxelized tract shape processingを用いたトラクトグラフィー(DTT)で健常成人に対してTSAを行った。我々はさらに、この健常群において年齢や左右差の及ぼす影響も調べた。また元画像のアーチファクトをなくすために新しいMRパルスシーケンスをデザインすることを試みた。

しかるに、この研究は1)体動に強固なMRパルスシーケンスデザイン、2)臨床データ検証のための新しいTSAの方法、3)健常者データ、の3つの部分から構成されている。

Materials and Methods:

MRパルスシーケンスデザインについては、2回のファントム撮影と1回の人体撮影を行った。1回目のファントム撮影では、水ファントムの拡散テンソル画像を3種類のテーブル移動強度(1mm、2mm、3mm)で撮影した。得られた画像はhomodyne and zero-fill再構成で再構成した。overscanningも行った。2回目のファントム撮影では、標準的な方法と提案された方法の両方の方法でファントムのmean diffusivity (MD)とfractional anisotropy (FA)を測定した。アーチファクトの線を数えることで画像の目視による比較も行った。統計解析にはウイルコクソンの符号付き検定を用いた。

TSAの方法については、拡散テンソル画像を撮像した19人のアルツハイマー病(AD)患者と年齢層の一致する19人の健常者について調べた。鉤状束のトラクトグラフィーを描出し、voxelized tract-shape processingを用いて線維の中心部のMD、FAを測定した。得られた結果の群間比較にはスチューデントのt検定を用いた。検者内の相関も検討した。

健常者データの確立については、健常者165人について白質線維のトラクトグラフィーを描出し、MDとFAを測定した。年齢との相関をピアソンの相関係数を用いて検討した。半球間の非対称については分散分析を用いて検討した。検者間の相関も検討した。

Results:

わずかなテーブル移動(1mmおよび2mm)によるartifactはzerofillingで16ky over-scanに減少した。ファントムのMDとFAを3回繰り返して測定したところ、数値は標準的な方法と提案された方法とでほとんど同じであった。ウイルコクソンの符号付き検定を用いた比較では有意差を認めた。(p=0.005)

アルツハイマー病患者では健常者に比べて鉤状束のFAが有意に低かった(p < 0.0001)。鉤状束のMDには有意差はなかった。1回目と2回目の測定における検者内の信頼性(級内相関係数)は、FAではr > 0.93、MDではr > 0.92であった。

健常者における4つの主要な白質線維の拡散テンソルのパラメータは以下の表のとおりである(Table 1 及び Table 2)。両側の鉤状束、後部帯状束、脳弓、皮質脊髄路については年齢とMDの間に正の相関を認め、右の鉤状束と両側の脳弓については年齢とFAの間に負の相関を認めた。半球間の非対称性の検討では、4つの白質線維すべてにおいて両側半球のMD、FAに明らかな左右差を認めなかった。

Conclusion:

提案されたMRパルスシーケンスでは、わずかな移動によるアーチファクトを減少させることができた。提案された方法は患者の動きによる拡散テンソル画像のアーチファクトがある状況下で拡散テンソルの解析を正確に行うのに効果的であることが我々の結果から示された。この方法は、3T装置での拡散テンソル画像の臨床ルーチン撮影で特に有用であると考えられる。

Voxelized tract shape processingを用いて線維の中心を測定する拡散テンソル画像のTSAは、白質変化を評価するのに非常に繊細で実用的な方法できると考えられる。

我々の結果によって、4つの白質線維の拡散テンソルのパラメータの健常者データが示された。これは疾患によって影響を受ける特定の神経線維の変化を認識し、特徴づけ、確立することが出来る。また、健常者のデータと様々な病勢の患者のデータを比較するTSAにおいては、患者の年齢も考慮するべきであることも、我々の結果によって示された。

Table 1 Average value (Av) and standard deviation (SD) for FA of UF, PC, fornix and CST in 4 age groups (10-year intervals)

Table 2 Average value (Av) and standard deviation (SD) for MD of UF, PC, fornix and CST in 4 age groups (10-year intervals)

審査要旨 要旨を表示する

本研究は皮質脊髄路(CST)、鉤状束(UF)、後部帯状束(PC)、脳弓といった白質線維の正常な拡散テンソルのデータの確立を主な目的とし、白質線維の中心部のみを取り出すことでvoxelized tract shape processingを用いたトラクトグラフィー(DTT)で健常成人に対してTSAを行い、さらに、この健常群において年齢や左右差の及ぼす影響も調べ、またも元画像のアーチファクトをなくすために新しいMRパルスシーケンスをデザインすることを試みたものであり、下記の結果を得ている。

(1)わずかなテーブル移動(1mmおよび2mm)によるartifactはzerofillingで16 ky over-scanに減少した。ファントムのMDとFAを3回繰り返して測定したところ、数値は標準的な方法と提案された方法とでほとんど同じであった。ウイルコクソンの符号付き検定を用いた比較では有意差を認めた。(p=0.005)

(2)アルツハイマー病患者では健常者に比べて鉤状束のFAが有意に低かった(p < 0.0001)。鉤状束のMDには有意差はなかった。1回目と2回目の測定における検者内の信頼性(級内相関係数)は、FAではr > 0.93、MDではr > 0.92であった。

(3)健常者における4つの主要な白質線維の拡散テンソルのパラメータについて、両側の鉤状束、後部帯状束、脳弓、皮質脊髄路については年齢とMDの間に正の相関を認め、右の鉤状束と両側の脳弓については年齢とFAの間に負の相関を認めた。半球間の非対称性の検討では、4つの白質線維すべてにおいて両側半球のMD、FAに明らかな左右差を認めなかった。

本論文は提案されたMRパルスシーケンスでは、わずかな移動によるアーチファクトを減少させることができた。提案された方法は患者の動きによる拡散テンソル画像のアーチファクトがある状況下で拡散テンソルの解析を正確に行うのに効果的であることが結果で示された。この方法は、3T装置での拡散テンソル画像の臨床ルーチン撮影で特に有用であると考えられる。

また、本論文では、Voxelized tract shape processingを用いて線維の中心を測定する拡散テンソル画像のTSAは、白質変化を評価するのに非常に繊細で実用的な方法であることも明らかになった。そして、4つの白質線維の拡散テンソルのパラメータの健常者データが示され、これは疾患によって影響を受ける特定の神経線維の変化を認識し、特徴づけ、確立することが出来るとあきらかになった。また、健常者のデータと様々な病勢の患者のデータを比較するTSAにおいては、患者の年齢も考慮するべきであることも、本論分の結果によって示された。

これらの結果が皮質脊髄路(CST)、鉤状束(UF)、後部帯状束(PC)、脳弓といった白質線維の正常な拡散テンソルのデータの確立に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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