学位論文要旨



No 124827
著者(漢字) 木暮,宏史
著者(英字)
著者(カナ) コグレ,ヒロフミ
標題(和) 肝門部悪性胆道閉塞に対する胆道ドレナージに関する検討
標題(洋)
報告番号 124827
報告番号 甲24827
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3247号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 國土,典宏
 東京大学 准教授 福嶋,敬宜
 東京大学 准教授 池田,均
 東京大学 特任准教授 小川,誠司
 東京大学 准教授 上原,誉志夫
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1. 緒言

悪性胆道閉塞の原因は原発の胆道系悪性腫瘍の他、膵癌、原発・転移性肝腫瘍、胆管周囲リンパ節転移などが知られている。これらの疾患では、原疾患の病態とともに、いわゆる閉塞性黄疸の病態にも注意して診療を行う必要がある。切除、非切除にかかわらず、ほとんどの例で必須である胆道ドレナージは、悪性胆道閉塞症例にとって非常に重要な技術であり、確実性とQOLの向上を求めて検討が積み重ねられてきた。

肝外悪性胆管閉塞に対するドレナージに関しては、外科的バイパス手術と非手術的ドレナージ術の無作為化比較試験で、非手術的ドレナージ術で入院期間が短く、特に経皮的ドレナージ術(percutaneous transhepatic biliary drainage; PTBD)と比べ内視鏡的ドレナージ術では術関連死が少ない、という報告がされ、内視鏡的ドレナージ術が第一選択として行われることが多い。

しかし、肝門部胆管閉塞では、内視鏡的ドレナージは非ドレナージ領域の胆管炎を惹起する可能性が高いため、禁忌に近い扱いを受けていた。しかし、画像診断の進歩や、処置具の開発により、胆管炎のリスクは回避し得る可能性も出てきた。一方、PTBDでは、選択的な胆管ドレナージを行うことは可能ではあるが、門脈血栓などの偶発症によっては切除不能となることもあり、その他tube逸脱などの偶発症、胆汁漏出に伴う瘻孔再発・播種、患者QOLへの影響も大きな問題である。

初回ドレナージ後、切除可能例は外科的根治切除を目指すが、多くの非切除例は、恒久的なステンティングの対象となる。肝外胆管閉塞ではplastic stentと比較しmetallic stentが有意に開存期間を延ばすことが示され、現在ではmetallic stentを留置するケースがほとんどである。さらに、covered metallic stentが開発され、従来のmetallic stentよりも長期の開存が得られることが報告された。

しかし、肝門部閉塞では胆管側枝を閉塞するため、covered metallic stentは使用不能であり、長期の開存を得るために、高度に分断された胆管枝のどの胆管にどのようなステントをどのように留置すればよいか、コンセンサスは得られていない。

このように、Strategyが整理されている肝外胆管閉塞と異なり、肝門部胆管閉塞では、初回ドレナージ、恒久的ドレナージの双方で、アプローチルート(内視鏡か経皮か)、ドレナージ領域(両葉ドレナージか片葉ドレナージか)、に関してのエビデンスは得られていない。

本研究では、肝門部胆管閉塞症例の胆道ドレナージを、初回ドレナージと恒久的ドレナージに分けて解析し、内視鏡的ドレナージと経皮的ドレナージの成績の比較を中心に、安全性と有効性について検討した。

2. 初回ドレナージの成績

初回ドレナージの手技的成功率は内視鏡群46例中41例(89.1%)、経皮群46例中44例(95.7%)であり、統計学的有意差は認めなかった。最終的に内視鏡的ドレナージは41例、経皮的ドレナージは50例に施行され、減黄成功率は内視鏡的ドレナージ41例中35例(85.4%)、経皮的ドレナージ50例中39例(78.0%)であり、統計学的有意差を認めなかった。減黄成功に関与する因子の検討では、肝硬変、ドレナージ前総ビリルビン値のみが統計学的に有意な因子であり、アプローチルートやドレナージ領域は減黄成功に影響を及ぼさなかった。

初回ドレナージに関連した偶発症は内視鏡的ドレナージで8例(19.5%)、経皮的ドレナージで7例(14.0%)に認めたが、統計学的有意差は認めなかった。胆管炎は内視鏡的ドレナージで4例(9.8%)、経皮的ドレナージで3例(6.0%)に認めた。Bismuth分類別にみると、偶発症はBismuth I,II症例では内視鏡的ドレナージで2例(11.1%)に認めたが、経皮的ドレナージでは認めず、Bismuth III,IV症例では内視鏡的ドレナージで6例 (26.1%)、経皮的ドレナージで7例 (18.4%)に認めたが、統計学的有意差は認めなかった。胆管炎はBismuth I,II症例では内視鏡的ドレナージ、経皮的ドレナージともに認めず、Bismuth III,IV症例では内視鏡的ドレナージで4例(17.4%)、経皮的ドレナージで3例(7.9%)に認めたが、統計学的有意差は認めなかった。初回ドレナージ後の胆管炎に関与する因子の検討では、ドレナージ前総ビリルビン値のみが統計学的に有意な因子であり、アプローチルートやドレナージ領域は影響しなかった。

3. 恒久的ステンティングの成績

内視鏡的metallic stent(MS)40例と経皮的metallic stent(MS)29例の比較では、 50%ステント開存期間は内視鏡的MS群358日、経皮的MS群486日、平均ステント開存期間は内視鏡的MS群149日、経皮的MS群235日、50%生存期間は内視鏡的MS群238日、経皮的MS群232日であり、いずれも統計学的有意差を認めなかった。

ステント閉塞は内視鏡的MS群で13例(32.5%)、経皮的MS群で9例(31.0%)に生じ、閉塞までの期間はそれぞれ110.9日、183.7日であった。閉塞原因は内視鏡的MS群では胆泥2例、tumor ingrowth 8例、ステント拡張不良2例、腫瘍出血1例、経皮的MS群では胆泥2例、tumor ingrowth 4例、tumor overgrowth 2例、ステント拡張不良1例であり、ステント閉塞率や閉塞原因に統計学的有意差を認めなかった。ステント閉塞以外の偶発症は内視鏡的MS群で14例(35.0%)、経皮的MS群で9例(31.0%)に認め、内視鏡的MS群で胆管炎8例、胆嚢炎3例、肝膿瘍3例、経皮的MS群で胆管炎3例、胆嚢炎3例、肝膿瘍3例であったが、統計学的有意差を認めなかった。

片葉MS 44例と両葉MS 25例の比較では、ステント累積開存率に統計学的有意差は認めず、平均ステント開存期間は片葉MS群163.0日、両葉MS群223.4日、50%生存期間は片葉MS群260日、両葉MS群220日であり、いずれも統計学的有意差を認めなかった。

ステント閉塞は片葉MS群で16例(36.4%)、両葉MS群で6例(24.0%)に生じ、閉塞までの期間はそれぞれ164.8日、76.5日であった。閉塞原因は片葉MS群では胆泥4例、tumor ingrowth 9例、tumor overgrowth 1例、ステント拡張不良2例、両葉MS群ではtumor ingrowth 3例、tumor overgrowth 1例、ステント拡張不良1例、腫瘍出血1例であり、ステント閉塞率や閉塞原因に統計学的有意差を認めなかった。

ステント閉塞以外の偶発症は片葉MS群で12例(27.3%)、両葉MS群で11例(44.0%)に認め、片葉MS群で胆管炎6例、胆嚢炎2例、肝膿瘍4例、両葉MS群で胆管炎5例、胆嚢炎4例、肝膿瘍2例であり、統計学的有意差を認めなかった。

metallic stentの開存期間に関与する因子の検討では、年齢(70歳以上)のみが統計学的に有意な因子であり、アプローチルートやドレナージ領域は開存期間に影響を及ぼさなかった。生存期間に関与する因子の検討では、原疾患、ドレナージ後総ビリルビン値が統計学的に有意な因子であり、アプローチルートやドレナージ領域は生存期間に影響を及ぼさなかった。

4. まとめ

肝門部悪性胆道閉塞に対する初回胆道ドレナージにおいて、内視鏡的ドレナージと経皮的ドレナージで、手技的成功率、減黄成功率、偶発症発症率に差を認めず、内視鏡的ドレナージの安全性と有効性が確認された。

非切除例に対するmetallic stentを用いた恒久的ステンティングにおいては、アプローチルート(内視鏡/経皮)、ドレナージ領域(片葉/両葉)で生存期間、ステント開存期間、偶発症発症率に差を認めず、metallic stentを複数本留置する際の手技の煩雑さ、ステント閉塞時の再ドレナージの際の手技の容易さを考慮すると、内視鏡的な片葉metallic stent留置が第一選択となりうる。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、肝門部悪性胆道閉塞に対する安全で有効な胆道ドレナージ法を明らかにするため、初回ドレナージと恒久的ドレナージの両面から、内視鏡的ドレナージと経皮的ドレナージの成績を比較検討したものであり、下記の結果を得ている。

1. 初回ドレナージの手技的成功率は内視鏡群89.1%、経皮群95.7%、減黄成功率は内視鏡的ドレナージ85.4%、経皮的ドレナージ78.0%であり、いずれも統計学的有意差を認めなかった。減黄成功に関与する因子の検討では、肝硬変、ドレナージ前総ビリルビン値のみが統計学的に有意な因子であり、アプローチルートやドレナージ領域は減黄成功に影響を及ぼさなかった。

2. 初回ドレナージに関連した偶発症は内視鏡的ドレナージで19.5%、経皮的ドレナージで14.0%に認め、統計学的有意差は認めなかった。胆管炎は内視鏡的ドレナージで9.8%、経皮的ドレナージで6.0%に認めた。初回ドレナージ後の胆管炎に関与する因子の検討では、ドレナージ前総ビリルビン値のみが統計学的に有意な因子であり、アプローチルートやドレナージ領域は影響しなかった。

3. 恒久的ドレナージにおける内視鏡的metallic stent(MS)と経皮的metallic stent(MS)の比較では、 50%ステント開存期間は内視鏡的MS群358日、経皮的MS群486日、50%生存期間は内視鏡的MS群238日、経皮的MS群232日であり、いずれも統計学的有意差を認めなかった。ステント閉塞は内視鏡的MS群で32.5%、経皮的MS群で31.0%に生じ、ステント閉塞率や閉塞原因に差を認めなかった。ステント閉塞以外の偶発症は内視鏡的MS群で35.0%、経皮的MS群で31.0%に認めたが、統計学的有意差は認めなかった。

4. 片葉MS と両葉MS の比較では、ステント累積開存率に差を認めず、50%生存期間は片葉MS群260日、両葉MS群220日であり、統計学的有意差を認めなかった。ステント閉塞は片葉MS群で36.4%、両葉MS群で24.0%に生じ、ステント閉塞率や閉塞原因に差を認めなかった。ステント閉塞以外の偶発症は片葉MS群で27.3%、両葉MS群で44.0%に認めたが、統計学的有意差を認めなかった。

5. metallic stentの開存期間に関与する因子の検討では、年齢のみが統計学的に有意な因子であり、アプローチルートやドレナージ領域は開存期間に影響を及ぼさなかった。生存期間に関与する因子の検討では、原疾患、ドレナージ後総ビリルビン値が統計学的に有意な因子であり、アプローチルートやドレナージ領域は生存期間に影響を及ぼさなかった。

以上、本論文は肝門部悪性胆道閉塞に対する初回胆道ドレナージにおいて、内視鏡的ドレナージの安全性と有効性を明らかにした。非切除例に対するmetallic stentを用いた恒久的ステンティングにおいては、内視鏡的な片葉metallic stent留置の有用性を明らかにした。本研究は今後の肝門部悪性胆道閉塞に対する治療法の向上に貢献すると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/24388