学位論文要旨



No 124836
著者(漢字) 岡本,好司
著者(英字)
著者(カナ) オカモト,コウジ
標題(和) 関連解析の絞り込みで得られた2型糖尿病の新規感受性遺伝子と機能解析~遺伝子治療
標題(洋) A novel key molecule for the glucose homeostasis, GENE X as a potential target for a treatment to type 2 diabetes mellitus
報告番号 124836
報告番号 甲24836
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3256号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 門脇,孝
 東京大学 講師 福本,誠二
 東京大学 講師 関,常司
 東京大学 准教授 馬淵,昭彦
 東京大学 講師 榎本,裕
内容要旨 要旨を表示する

本文:

東京女子医科大学のグループから日本人2型糖尿病患者に対するゲノムワイド連鎖解析で21番染色体に未発見の疾患感受性遺伝子の存在を示唆する報告がなされた (Iwasaki, N. et al.Diabetes, 2003)。同サンプルの一部を利用した関連解析でrs7432xxが候補単(Ok?)遺伝子多型(SNP)である事が明らかになった (Nishimura, C. Master's thesis, 2006)。そこで私はこの候補SNPをもとに疾患感受性遺伝子と疾患感受性SNPを絞りこみ、その機能を明らかにし新規治療ターゲットとしての可能性を明らかにするための研究を行った。

rs7432xxの周辺の連鎖ブロック構造から疾患感受性遺伝子がGENE Xである事を想定し、同遺伝子のプロモーター領域と全エクソンをダイレクトシークエンス法によって変異スクリーニングを行った。健常人のサンプルにおいて3%以上のminor allele frequencyを持つSNPを5ヵ所に認めた。最初のrs7432xxを含めた全6か所のSNPに対して、前出の関連解析で使用した2型糖尿病パネルを利用し関連解析を行った。その結果rs7432xxとrs37468xxに有意な関連を認め、body mass index (BMI)が低値な個体ほど、より強い関連を示していた。再現性を確認するため独立のケースサンプルとコントロールサンプルを用意し、同2か所のSNPに対し関連解析を行ったところrs37468xxのみが有意であった。イントロンのスクリーニングのため3つのSNPをtag SNPとしてhaplotype解析を行ったが有意なhaplotype頻度の変化は認めなかった。以上よりrs37468xxを疾患感受性SNPとし、所属遺伝子GENE Xを疾患感受性遺伝子とした。rs37468xxはsynonymous SNPであったため、遺伝子発現に影響を与えている可能性を想定し健常人の末梢血におけるmRNA発現量を比較したところ、リスクアリルでは高発現である事がわかった。次に、各アリルを持つopen reading frame をクローニングしin vitro実験系で検討し、mRNA安定性を介してリスクアリルではGENE Xの翻訳産物が高発現である事を明らかにした。ケースサンプルの臨床データとの比較検討では、rs37468xxは低BMIおよび、早期インスリン導入比率と有意に関連が認められた。この事からGene Xはインスリン分泌に影響を与えていると考えられ、膵β細胞におけるインスリン分泌機能への関与が疑われた。実際、培養インスリノーマ細胞株(INS-1)におけるGene Xの発現を確認したところ発現が認められ、加えて高グルコース状態においてGene Xの発現が亢進している事が明らかとなった。次に、INS-1においてRNA干渉(RNAi)によるknock down実験とCMVプロモーターを利用した強制発現実験を行った。Gene Xのknock downによりインスリンの追加分泌が増加し、強制発現により分泌量が減少した。そこでin vivo RNAi導入技術を利用して、インスリン分泌低下型糖尿病モデルマウスであるAkita miceにknock down実験を行った。GENE Xのknock downにより糖負荷後血糖が有意に低下し、効果は2週間以上持続した。糖負荷前後のインスリン分泌量も有意に改善した。非糖尿病マウスであるC57/BL6 miceに対して同様の実験を行ったが、効果はほとんど認められなかった。

私は、2型糖尿病における疾患感受性遺伝子と疾患感受性単遺伝子多型を明らかにした。また同多型のリスクアリルは、遺伝子発現において促進的に働いており、同遺伝子はリスク遺伝子である事を明らかにした。in vitro 及びin vivoの両実験において、インスリン分泌能への影響を明らかにし、目的遺伝子のknocking downによりインスリン分泌能が改善した事から新規治療ターゲットとしての創薬の可能性を示した。これまでインスリン分泌におけるβ細胞の自己刺激・細胞間情報交換による統括された分泌のメカニズムの詳細は明らかになってはなかったが、この遺伝子産物がそのブラックボックスを担っている可能性があり今後の研究が待たれる。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は2型糖尿病における21番染色体の候補領域にある疾患感受性遺伝子を特定し、機能解析を試みたものであり下記の結果を得ている。

1, 21番染色体の該当領域をプール検体で65個の単遺伝子多型(SNP)をタイピングし、さらに個別タイピングでrs7432xxが候補SNPである事を明らかにした。周辺の連鎖ブロック構造から候補遺伝子GENE Xに絞り込み、プロモーターと全エクソンをシークエンスによって変異検索を行い、変異に対して関連解析を行った。その結果rs7432xxとrs37468xxに有意な関連を認めた。再現性を確認するため独立したケースサンプルとコントロールサンプルを用意し、同2か所のSNPに対し関連解析を行ったところrs37468xxのみが有意であった。

2, rs37468xxはsynonymous SNPであったため、遺伝子発現に影響を与えている可能性を想定し健常人の末梢血におけるmRNA発現量を比較したところ、リスクアリルでは高発現である事がわかった。両アリルをクローニングし、HEK293において強制発現させ、蛋白レベルとmRNA stability assayを行った結果、リスクアリルではmRNA安定性を介し高発現となっている事がわかった。

3, 臨床データと遺伝子型の比較検討では、rs37468xxは低BMIおよび、早期インスリン導入比率と有意に関連が認められた。この事からGENE Xは膵β細胞におけるインスリン分泌機能への関与が疑われた。そこで培養インスリノーマ細胞株(INS-1)において検討を行った。Gene Xをknock downさせると高グルコース時におけるインスリン分泌量が増加し、強制発現によりインスリン分泌量が減少した。

4, in vivoで検討するため、in vivo siRNA導入技術を利用して、インスリン分泌低下型糖尿病モデルマウスであるAkita miceにknock down実験を行った。Gene Xのknock downにより糖負荷後血糖が有意に低下し、効果は2週間以上持続した。糖負荷前後のインスリン分泌量も有意に改善した。非糖尿病マウスであるC57/BL6 miceに対して同様の実験を行ったが、効果はほとんど認められなかった。

以上、本論文は2型糖尿病ヒト検体を使って21番染色体の候補領域から新規疾患感受性遺伝子GENE Xを発見報告したものである。また臨床検体情報からインスリン分泌能に関連がある事を予測し、ラット培養インスリン分泌細胞と糖尿病マウスを使い、インスリン分泌機能への関与を明らかにした。またRNA干渉を使って治療への可能性を示した。本研究は糖尿病における新規疾患感受性遺伝子の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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