学位論文要旨



No 124847
著者(漢字) 島根,謙一
著者(英字)
著者(カナ) シマネ,ケンイチ
標題(和) 関節リウマチと全身性エリテマトーデス共通の感受性遺伝子IRF5の解析
標題(洋)
報告番号 124847
報告番号 甲24847
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3267号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 門脇,孝
 東京大学 教授 徳永,勝士
 東京大学 教授 岩本,愛吉
 東京大学 准教授 田中,栄
 東京大学 講師 山口,正雄
内容要旨 要旨を表示する

背 景

代表的な全身性自己免疫疾患である関節リウマチ(RA)と全身性エリテマトーデス(SLE)では、家系解析・双生児解析から遺伝要因が罹患の危険因子であることが想定されてきた。また、SLEの同胞ではRA罹患の相対危険率が3~5倍高いことから、これらの2疾患の間には共通の遺伝要因が存在することが示唆されている。実際に、これまでの疾患感受性遺伝子の探索により、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子に加えて、PTPN22 (protein tyrosine phosphatase non-receptor type 22)やSTAT4 (signal transducer and activator of transcription 4)などのRAとSLEに共通した疾患感受性遺伝子が存在することが明らかになってきた。我々はRAとSLEに共通の感受性遺伝子を探索する目的とし、その候補遺伝子としてSLEの有力な感受性遺伝子として報告されているIRF5(interferon regulatory factor 5)に注目した。IRF5はIRFファミリーに属する転写因子であり、B細胞、マクロファージや樹状細胞で構成的に発現している。Toll-like receptorのアダプター分子であるMyD88との相互作用により活性化して核内に移行し、細胞内でのシグナル伝達に関与する。IRF5 は、SLEで重要なタイプIインターフェロンのみならず、RAで大きな役割を果たすIL-6やTNFαといった炎症性サイトカインの誘導にも関与していることから、RAにおいてもその病態に関与していることが考えられる。IRF5がSLEの感受性遺伝子であることは多くの報告から支持されているが、RAについてはまだ十分な評価がなされていない。ここで我々はIRF5のRA感受性との関連を評価するため、日本人のRA患者検体を用い、ケース・コントロール関連解析を行った。

また、IRF5の遺伝子多型の機能解析の結果から、IRF5のmRNAのスプライシングにかかわる一塩基多型(SNP)やmRNA発現量に影響を及ぼすいくつかの多型が、そのSLE感受性に影響していることが示唆されている(表1)。そこで、これらの多型がIRF5のmRNAの発現やスプライシングにどのような影響を与えているかを評価するため、日本人由来の細胞株を用いて多型の遺伝子型とIRF5発現量についその相関を評価した。

さらに、患者の遺伝的背景や病態の違いにおいて,IRF5遺伝子多型が果たす役割を評価するため,RAの最大の遺伝要因であるHLA-DRB1多型、および関節破壊の重症化との関連が示唆されている自己抗体である抗CCP抗体(抗環状シトルリン化ペプチド抗体)の有無によって、患者を層別化し、解析を行った。

対象と方法

対象

RAについて2セットのケース・コントロール関連解析を行った。RA患者1,942人(第1群 830人、第2群 1,112人)、対照コントロール1,598人(第1群 658人、第2群 940人)の検体を用いた。

ジェノタイピングを行う多型の選択

IRF5遺伝子領域から、国際HapMap計画によって公表されているSNP情報のうち日本人と中国人のジェノタイピングデータを利用して、網羅的にSNPの抽出を行った。これらのうち連鎖不平衡状態にあるSNPをグループ化し(r2≧0.8)、そのグループを代表するSNPをタグSNPとして選択した。これにSLEと関連が強いと報告された多型も含め、あわせて14のSNPsとCGGGGの繰り返し配列の多型(繰り返し数は3または4)についてジェノタイピングした(図1)。

ジェノタイピング

SNPについてはTaqMan法でジェノタイピングした。CGGGGの繰り返し配列についてはフラグメント解析を実施した。

HLADR-B1のジェノタイピング

第1群RA患者を対象にHLA-DRB1のジェノタイピングを行った。まずSSP-PCR法(sequence-specific primer polymerase chain reaction)によりDRB1, DRB2, DRB4, DRB5の低解像度のタイピングを行った後、DRB1の増幅産物をダイレクト・シークエンシングにより高解像度のジェノタイピングを行った。DRB1アレルは、Shared epitope仮説に基づき、第70-74残基の共通アミノ酸配列(shared epitope;SE)の有無によって分類し、HLA-DRB1*0101, *0401, *0404, *0405, *0410, *1001, *1402, *1406を、RA感受性アレル(SEアレル)とした。

IRF5発現量と遺伝子型との相関

日本人一般集団由来41検体のヒト不死化B細胞(Epstein-Barr virus感染により樹立)より、RNA抽出、逆転写反応によるcDNAの合成を行った。TaqMan法で定量的PCRを行い、IRF5の主要なスプライシング・バリアントを検出するプローブとexon 1Bをもつバリアントのみを検出プローブを用いて発現量を測定した。定量はΔΔCt法で行った。多型の遺伝子型を独立変数、遺伝子発現量を説明変数として単回帰分析を行った。

抗CCP抗体の測定

第2群RA患者を対象にELISA法により抗CCP抗体価の測定を行った。4.5U/ml以上を陽性とした。

統計学的解析

SNPのアレル頻度および遺伝子型頻度のケース・コントロール関連解析は、2×2表におけるχ2検定を用いて行った。オッズ比(以下OR)の95%信頼区間(以下95%CI)の算出にはWoolfの方法を用いた。2つの関連解析の結果の統合(メタアナリシス)にはMantel-Haenszel法を用い、その結果に対してBonferroni法により多重検定の補正を行った。

結 果

IRF5遺伝子多型とRAとの関連解析

ジェノタイピングした15の遺伝子多型のうち、プロモーター領域に存在するrs729302のみが第1群と第2群の両方のケース・コントロール関連解析でRA感受性と有意に関連することが確認された(第1群, OR 1.21 [95%CI 1.03-1.43], P=0.021; 第2群, OR 1.22 [95%CI 1.06-1.40], P=0.0051)(図2, 表2)。そのメタアナリシスの結果では、多重検定の補正後でも有意な関連を認めた(OR 1.22 [95%CI 1.09-1.35], 補正後P=0.0045)。

IRF5発現量と遺伝子型との相関

IRF5総発現量はIRF5のイントロン 1のrs3807306でジェノタイプにより有意に回帰され、最も強い相関を認めた(r=0.389, P=0.012)。exon 1Bをもつバリアントの定量的PCRでは、スプライシングに関与するrs2004640で最も強い相関を認めた(r=0.878, P=5.9×10(-14))。IRF5総発現量はRA感受性と最も強い関連を示したrs729302では有意な相関が認められなかった (r=0.074, P=0.65)。

Shared Epitope (SE) による層別化解析

第1群RA患者をHLA-DRB1のSEアレルの有無で層別化したところ、SE陽性患者に比べSE陰性患者でrs729302はRA発症に強く寄与することがわかった(SE陰性RA患者, OR 1.50 [95%CI 1.17-1.92], P=0.0013; SE陽性RA患者, OR 1.11, [95%CI 0.93-1.33], P=0.24)(表3)。さらに、SE陽性患者とSE陰性患者の2群間でアレル頻度比較を行った結果、有意差を認めた(P=0.022)。

抗CCP抗体による層別化解析

第2群RA患者について抗CCP抗体の有無で層別化解析をした結果、抗CCP抗体陽性RA患者に比べ抗CCP抗体陰性RA患者で、rs729302はRA発症に強く寄与することがわかった(抗CCP抗体陰性RA患者, OR 1.35 [95%CI 1.04-1.75], P=0.024; 抗CCP抗体陽性RA患者, OR 1.20, [95%CI 1.04-1.38], P=0.015)(表4)。しかしながら、抗CCP抗体陽性患者と抗CCP抗体陰性患者との間でのアレル頻度比較では、有意差は認めなかった。

考 察

我々はIRF5のプロモーター領域にあるSNP (rs729302)で2つの独立したケース・コントロールセットでRA感受性との関連を確認した。他方コーカシアンでは、RA・SLEともにexon 1のスプライシングに関与するrs2004640と強い関連が報告されている。日本人RA検体を用いた本研究での関連解析の結果からはrs2004640とRA感受性との有意な関連は認めなかったが、その背景として、IRF5の疾患感受性には複数の機能性多型が関与していることと、これらの多型間の人種による連鎖不平衡状態の違いが考えられた。

層別化解析により、HLA-DRB1 SEアレルのRA患者群では、陽性の患者群よりIRF5のRA感受性への寄与が大きいことが明らかになった。これまで、SEの有無と抗CCP抗体の産生が強い相関を示すことが報告されていることから,IRF5多型はSE陰性患者で抗CCP抗体産生を介さない形で、炎症性サイトカインの発現に影響を与えることでRAの病態に関与している可能性が考えられた。

今回の研究を通じて、IRF5はSLEとRA共通の感受性遺伝子であるとともに、日本人とコーカシアンの人種差を超えた疾患感受性遺伝子であることが明らかになった。

表1.IRF5のSLEとの関連または機能との関連が報告された遺伝子多型の一覧

* ○は複数の報告で一致して関連が確認されたもの、▲は一部の報告のみでしか関連が確認されていないもの、-は(単独では)有意な関連なし、空欄は未評価.

図1. IRF5遺伝子とジェノタイピングした多型の位置

黒色はエクソン、灰色は非翻訳エクソン、白は非翻訳領域 .

この図では各多型やエクソン間の距離について、縮尺は正確ではない.

図2. IRF5領域の遺伝子多型とRA感受性との関連解析結果

横軸は染色体7番上での位置、縦軸はジェノタイピングした多型におけるメタアナリシスの 結果(P値)を-log(10)Pの値で表した. IRF5遺伝子もスケールに合わせて並置した. 遺伝子の図で、灰色は非翻訳領域、黒色はエクソン.

表2.rs729302とRA感受性との関連

n = 検体数; OR=オッズ比; 95% CI = 95% 信頼区間

* Mantel-Haenszel法により結果を統合した

表3.Shared Epitope (SE) による層別化解析

表4.抗CCP抗体による層別化解析

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、代表的な全身性自己免疫疾患である関節リウマチ(RA)と全身性エリテマトーデス(SLE)に共通する疾患感受性遺伝子の探索を目的とし、コーカシアンで有力なSLE感受性遺伝子として同定されたIRF5 (interferon regulatory factor 5)遺伝子について日本人RAのケース・コントロール関連解析を行ったものである。これより、下記の結果を得ている。

1. 日本人RAについて2セット(第1群と第2群)のケース・コントロール関連解析を行った。IRF5遺伝子領域から、14のSNPsとCGGGGの繰り返し配列の多型(繰り返し数は3または4)についてジェノタイピングした。その結果、プロモーター領域に存在するrs729302のみが第1群と第2群の両方のケース・コントロール関連解析でRA感受性と有意に関連することが確認された(第1群, OR 1.21 [95%CI 1.03-1.43], P=0.021; 第2群, OR 1.22 [95%CI 1.06-1.40], P=0.0051)。そのメタアナリシスの結果では、多重検定の補正後でも有意な関連を認めた(OR 1.22 [95%CI 1.09-1.35], 補正後P=0.0045)。

2. RA患者の遺伝的背景や病態の違いにおいて,IRF5遺伝子多型が果たす役割を評価するため、RAの最大の遺伝要因であるHLA-DRB1多型であるshared epitope (SE)アレル、および関節破壊の重症化との関連が示唆されている自己抗体である抗CCP抗体(抗環状シトルリン化ペプチド抗体)の有無によって患者を層別化し、解析を行った。その結果、SE陽性患者に比べSE陰性患者でrs729302はRA発症に強く寄与することがわかった(SE陰性RA患者, OR 1.50 [95%CI 1.17-1.92], P=0.0013; SE陽性RA患者, OR 1.11, [95%CI 0.93-1.33], P=0.24)。また、SE陽性患者とSE陰性患者の2群間でアレル頻度比較を行った結果、有意差を認めた(P=0.022)。さらに、RA患者について抗CCP抗体の有無で層別化解析を行った結果、SEでの層別化ほど明らかではないものの、同様の傾向を認めた。(抗CCP抗体陰性RA患者, OR 1.35 [95%CI 1.04-1.75], P=0.024; 抗CCP抗体陽性RA患者, OR 1.20, [95%CI 1.04-1.38], P=0.015)。

3. IRF5の発現量や選択的スプライシング(exon1)に関係する機能性多型を明らかにし、これらの多型のIRF5のRA感受性への影響を検討するため、日本人由来不死化B細胞41株を用いて、定量的PCRとジェノタイピング結果の間の相関を評価した。その結果、IRF5による日本人でのRA感受性は、IRF5発現量や選択的スプライシングに関与する機能性多型のみで説明することは困難であり、未知の機能性多型がRA感受性に寄与している可能性が考えられた。

以上、本論文はIRF5プロモーター領域にあるSNP (rs729302)で2つの独立したケース・コントロールセットでRA感受性との関連を確認した。本研究を通じて、STAT4と同様に、IRF5は人種を超えたSLEとRA共通の感受性遺伝子であると考えられるようになったことから、本研究は自己免疫疾患の疾患感受性遺伝子研究に重要な知見をもたらすと考えられ、学位の授与に値すると考えられる。

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