学位論文要旨



No 124853
著者(漢字) 龍野,桂太
著者(英字)
著者(カナ) タツノ,ケイタ
標題(和) Toll様受容体4(TLR4)のアミノ酸変異によるMD-2との結合能、および細胞膜表面発現に与える影響についての研究
標題(洋) Assessment of the impact of toll-like receptor 4(TLR4) mutation on the interaction with MD-2 and cell surface expression
報告番号 124853
報告番号 甲24853
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3273号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 矢冨,裕
 東京大学 教授 矢作,直樹
 東京大学 教授 高橋,孝喜
 東京大学 講師 今井,陽一
 東京大学 講師 森屋,恭爾
内容要旨 要旨を表示する

病原微生物に対して免疫応答する仕組みとして自然免疫系の存在が知られている。自然免疫を司るマクロファージや樹状細胞などでは、病原微生物の種を超えて共通して存在する特異的分子群を認識する受容体が発現しており、病原微生物の侵入を認識し、初期免疫応答を惹起し、更に獲得免疫へと誘導している。この受容体はToll様受容体(TLR)と呼ばれている。これまでに10種類のヒトTLRが発見され、各タイプのTLRが異なった特異分子群を認識しており、今回私が研究対象としたTLR4はグラム陰性細菌の細胞壁構成成分であるLPSを認識する上で中心的な役割を担っている。

TLR4が細胞表面に発現するためには、いくつかの段階を経る必要がある。リボソームRNAで翻訳されたTLR4は、小胞体内でMD-2と会合し、ここにgp96が作用することでMD-2との会合が安定化し、小胞体からゴルジ体への細胞内輸送が進む。ゴルジ体でTLR4はグリコシル化され、成熟型TLR4となって初めて細胞膜表面に発現できるようになるが、この段階にはPRAT4Aが必要であると考えられている。MD-2、gp96、PRAT4A、いずれかの作用が欠損すると、TLR4の細胞表面への発現は低下する。TLR4がLPSを認識するためには細胞膜表面に発現していることが必要であるため、LPSに対する反応も低下する。

この様にして細胞膜表面に発現したTLR4/MD-2複合体がLPSを認識し、TIRドメインにMyD88などのアダプター蛋白が結合し、細胞内情報伝達から最終的には炎症系サイトカインの転写因子であるNF-κBが核内に移動することで、炎症系サイトカインが産生されるが、実はLPSに最初に会合する受容体はTLR4/MD2ではない。LPSに親和性のある可溶性蛋白であるLPS binding protein(LBP)が結合し、LPS/LBP複合体の状態で膜蛋白であるCD14によって細胞表面にアンカーされる事が、第一段階とされている。現在一般的に広く受け入れられているTLR4のLPS認識モデルでは、TLR4/MD-2複合体がCD14からLPS/LBPを受け取り、TLR4の多量化が進むことで細胞内のTIRドメインに複数種類のアダプター蛋白が結合し、炎症系サイトカイン産生に至るシグナル伝達が開始すると考えられ、少なくともCD14とMD-2の存在が必要であるとされている。

しかし、一方でこれに反するモデルを提唱するものもある。TLR4を発現しているマクロファージや、HEK293細胞などの腫瘍細胞に遺伝子導入した場合と異なり、腸管上皮由来の腫瘍細胞の場合、TLR4は細胞内小器官の一つであるGolgi体に存在し、LPSを内在化してGolgi体でこれを認識しているとするものである。

この様にTLR4がLPSを認識するためには、適切な細胞内局在が不可欠であるが、それにもかかわらず細胞系によってその局在やLPSの認識機構が異なり、未だに議論が分かれているのが現状である。そこで、本研究ではまず、TLR4の細胞内ドメインに存在する、TLR4の細胞内分布およびLPS刺激に対する反応に関与するアミノ酸配列を探索するため、トランケーション変異体を作成した。この研究は前任者である柳元伸太郎氏と共同で行った。N末から数えて766番目、788番目、802番目、815番目、826番目のアミノ酸以降を切断し、その後に蛍光蛋白を結合した。作成した変異体にLPS刺激によるNF-κB転写活性を測定したところ、変異体の中で反応したのはTLR4-826trのみであった。また、細胞内での局在を共焦点顕微鏡で確認したところ、TLR4-826trを除いた変異体では細胞外周は不明瞭で、明らかな細胞膜での発現が認められなかった。以上の結果から、815番目から826番目のアミノ酸の間に、TLR4の細胞膜への発現とLPS刺激に対する反応性に関与するアミノ酸が存在すると考えられた。

私は今回、TLR4の815番目と816番目のアミノ酸が共にロイシンであり、sorting signal motifのなかでもdi-leucineモチーフに配列が似ている事に注目し、816番目のロイシンをアラニンに点変異させたTLR4(L816A-TLR4)を作成し、L816A-TLR4の細胞内分布およびLPSに対する感受性について、また、細胞膜表面への発現を抑制する分子機序について解析を行った。

まず、HEK293T細胞に野生型あるいは変異ヒトTLR4-GFP融合タンパクと、ヒトMD-2およびCD14が安定発現したHEK293T細胞(WT-TLR4およびL816A-TLR4)を樹立した。WT-TLR4は、免疫蛍光染色で主として細胞膜上と核周囲に局在して観察されたが、L816A-TLR4は細胞質全体に分布し、細胞膜表面上にはほとんど観察されなかった。次に抗ヒトTLR4抗体であるHTA125で免疫沈降し、GFP抗体でウェスタンブロットを行うと、WT、L816Aいずれも約130kDaと150kDa の2つの大きさの異なるバンドとして検出された。このうち、L816A-TLR4では150kDaのバンドの強度は130kDaよりも相対的に弱く観察された。また、細胞表面蛋白を細胞膜不透過性のビオチンで標識し、細胞膜表面に発現する蛋白を検出する方法で検出した場合、150kDaのバンドのみが検出され、特にL816A-TLR4の発現量はごく少量であった。以上より、細胞膜表面に発現するTLR4は150kDaのTLR4-GFPのみであり、L816A-TLR4の細胞表面の発現量は、野生型に比べきわめて減少していると考えられた。

さらに、TLR4-GFPが局在している細胞内小器官がどこであるかについて解析する目的で免疫蛍光染色を行った。cis-Golgi体、trans-Golgi体、小胞体について、各々のマーカーであるGM130、p230、ERトラッカーを用いてそれぞれ細胞内小器官を染色し、TLR4の細胞内分布と比較検討した。その結果、WT-TLR4 は、細胞表面と核周囲に偏在して観察されたが、後者はGM130とp230に局在が一致していた。一方、L816-TLR4は細胞表面にはほとんど認められず、細胞質内ではび慢性に分布しており、後者の分布はGM130とp230に加えて、ERトラッカーとも一部局在が一致していた。これらの結果より、L816A-TLR4は特定の細胞内小器官に限局せず、ERや Golgi体などを含む細胞質内にび慢性に分布していると考えられた。

L816A-TLR4は細胞膜表面への発現量が少ないため、LPSに対する反応性が乏しいものと推測された。これを検証するため、LPS刺激に対する反応をNF-κBルシフェラーゼレポーターアッセイで評価した。結果は予想に反し、WT-TLR4でもL816A-TLR4でもほぼ同様に、LPS刺激でNF-κB転写活性は無刺激に比べ約2倍程度に亢進した。この結果は、HEK293T細胞がLPSを細胞内に取り込み、細胞内でLPSを認識して情報伝達が開始される可能性が考えられた。これを検証するため、細胞内取り込みを阻害しながら刺激する実験を行った。第一に、LPSをHEK293T細胞では貪食できない大きさのビーズに吸着させ、ビーズで刺激しNF-κB転写活性を検証した。この方法でもWT-TLR4とL816A-TLR4はほぼ同様に、NF-κBルシフェラーゼ活性が約2倍程度に亢進した。第二に、細胞内に取り込む際に必要なアクチン重合を、cytochalasin Bで化学的に阻害してから刺激を行い、NF-κB転写活性を検証した。この実験でもほぼ同様に、LPS刺激でNF-κB転写活性は亢進し、反応性に変化は見られなかった。これらの結果より、L816A-TLR4は細胞膜表面への発現量は少量であっても、細胞膜表面に発現しているTLR4によりLPSを認識し、WT-TLR4と同様に細胞膜表面から細胞内情報伝達が起きるものと考えられた。

L816A-TLR4が細胞膜表面の発現量が少ないのは、細胞膜表面に発現するための分子との相互作用が欠落しているためではないかと推測される。第一の候補としてMD-2があげられる。MD-2とTLR4の会合を検証するため、FlagタグをつけたヒトMD-2とWT-TLR4あるいはL816A-TLR4をHEK293T細胞に一過性に発現させ、HTA125抗体で免疫沈降を行い、Flag抗体を用いたウェスタンブロットを行った。その結果、MD-2はWT-TLR4でもL816A-TLR4でもHTA125抗体によって共役的に免疫沈降したが、その量はL816A-TLR4において相対的に少量であった。第二の候補としてgp96との会合を同様の方法を用いて検証したが、MD-2の場合と異なりWT-TLR4でもL816A-TLR4でも同量のgp96が結合していた。

本研究において、TLR4/MD-2複合体の形成が抑制されることにより、細胞表面への発現が低下することが示された。さらに、TLR-4とMD-2との複合体の形成には、816番目のロイシンが重要であることを証明した。この結果、L816A-TLR4は細胞膜表面への発現が低下し、細胞内小器官のGolgi体や小胞体など広く細胞質内に分布していたものと考えられる。また、細胞膜表面への発現量が低かったものの、LPSに対する反応性はWT-TLR4とほぼ同様であり、細胞膜表面に発現するTLR4が少量であっても、LPSを十分認識することが可能であると考えられた。

MD-2との相互作用異常とそれに続くTLR4の細胞内局在の変化は、敗血症という過剰な炎症反応によって引き起こされる病態の理解に貢献し、新しい治療法としてその反応を特異的に制御する候補になり得るものと考えられる。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は自然免疫がリポ多糖類(LPS)を認識する過程で重要な役割を演じているToll様受容体4(TLR4)の、免疫担当細胞における細胞内局在を決定するアミノ酸配列を同定し、その部位に作用する蛋白質との関係性を研究したものであり、下記の結果を得ている

1. TLR4をC末側から順次縮小していったトランケーション変異体を、HEK293T細胞に遺伝子導入し共焦点顕微鏡で観察すると、N末から数えて815番目より短い変異体では細胞表面発現が消失したが、826番目より長い変異体では細胞表面発現に変化は認められなかった。815番目から826番目の間にあるアミノ酸の中で、TLR4の細胞表面発現に関連のある配列が存在していることが示された。

2. 815番目と816番目のアミノ酸が共にロイシンであり、sorting signal motifの一つであるdi-leucineモチーフに配列が似ていることに着目し、816番目のロイシンをアラニンに点変異させたL816A-TLR4を作成した。このL816A-TLR4をHEK293T細胞に遺伝子導入し、共焦点顕微鏡で観察すると、細胞質全体にび慢性に存在していた。各種細胞内小器官を免疫染色して確認したところ、L816A-TLR4は野生型と異なり、ゴルジ体だけではなく小胞体にも多量に局在していた。

3. 共焦点顕微鏡で観察する限り、L816A-TLR4の細胞表面発現は消失して見えたが、細胞表面タンパクをビオチン化して検出する実験では、わずかながら細胞表面発現が確認された。L816A-TLR4は野生型と比較して、細胞膜表面蛋白に相当する150kDaの成熟型TLR4が少量であり、細胞内蛋白に相当する130kDaの未成熟型TLR4の量が多めであった。L816A-TLR4はゴルジ体でグリコシル化を受け成熟化する過程に、何らかの障害があることが示された。

4. L816A-TLR4のLPSに対する反応性をNF-κBルシフェラーゼレポーターアッセイで検討したところ、野生型とほぼ同様の反応性が確認された。細胞内にLPSを取り込み、細胞内にあるTLR4からシグナル伝達が開始されている可能性も考慮し、LPSをビーズに吸着させてから、あるいは、cytochalasinBでHEK293T細胞の貪食を抑制してからLPS刺激実験を行ったが、結果は同様であった。細胞表面に少量発現しているL816A-TLR4が、細胞表面でLPSを認識することでシグナル伝達が開始され、その程度としては野生型と同様のものであることが示された。

5. TLR4が成熟化する過程に関与するgp-96とMD-2について、TLR4との結合能を評価するため、抗TLR4抗体で免疫沈降し、gp-96ないしMD-2抗体でブロットする実験が行われた。L816A-TLR4のgp-96との結合能は野生型と変わりなかったが、MD-2との結合能は低下していた。MD-2との結合能が弱まった結果、L816A-TLR4の成熟化が抑制され、細胞表面発現が低下し、未成熟なTLR4が主にゴルジ体と小胞体に広く細胞内分布していたことが示された。

以上、本論文はTLR4においてN末から数えて816番目のロイシンが、MD-2との相互作用を介してTLR4の細胞内局在を決定する際に、重要な役割を果たしていることを明らかにした。本研究は、敗血症という過剰な炎症反応によって引き起こされる病態の理解に貢献し、新しい治療法としてその反応を特異的に制御する候補になり得るものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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