学位論文要旨



No 124875
著者(漢字) 長谷川,亜希子
著者(英字)
著者(カナ) ハセガワ,アキコ
標題(和) Tunicamycinは子宮内膜症間質細胞におけるTRAIL誘導性アポトーシスを特異的に増強する
標題(洋)
報告番号 124875
報告番号 甲24875
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3295号
研究科 医学系研究科
専攻 生殖・発達・加齢医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 門脇,孝
 東京大学 講師 久具,宏司
 東京大学 講師 滝田,順子
 東京大学 講師 玉井,久義
 東京大学 講師 吉村,浩太郎
内容要旨 要旨を表示する

【目的】子宮内膜症細胞においてTumor necrosis factor(TNF)-related apoptosis inducing ligand(TRAIL)抵抗性にアポトーシスが減少することが子宮内膜症の一因と考えられている。近年、Tunicamycin(TM) がTRAILに対する感受性を増強することにより抗腫瘍効果を持つことが報告された。本研究ではTMが子宮内膜症間質細胞(ESC)特異的にTRAIL感受性を増強させるか否かを検討した。

【方法】倫理委員会の承認を得、文書同意のもと手術で得られた子宮内膜症組織と正所性子宮内膜よりESCと正所性子宮内膜間質細胞(EmSC)を分離培養して実験に供した。ESCおよびEmSCにTM(2ug/ml)を添加し、TRAIL受容体であるDR5 mRNAの経時的発現を定量的PCRにて測定した。ESCおよびEmSCにTM(2ug/ml)を16時間添加した後、TRAIL(200ng/ml)を24時間添加し、アポトーシスをflow cytometryにて定量した。またESCにTRAIL添加の1時間前にz-VAD-fmk(caspase阻害剤、30uM)を添加して同様の実験を施行した。さらに、ESCにDR5 siRNA(50nM)を24時間導入の後、同様の実験を施行した。

【成績】TMはESCにおけるDR5 mRNAの発現を12時間で対照の3.7倍に、EmSCにおいては12時間で対象の5.0倍に有意に増加させた。TMの前処置によりESCにおけるTRAIL誘導性アポトーシス(74.6%)は対照(4.7%)に比し著明に増加した。しかし、EmSCではこのような増加は認めなかった。ESCで認められた増加はz-VAD-fmk添加により26.1%まで抑制され、caspase依存性と考えられた。また、DR5 siRNA導入によりTMによるDR5 mRNA発現の増加が抑制されるとともにTRAIL誘導性アポトーシスも33.5%まで有意に抑制された。

【結論】TMはESC特異的にDR5の発現を誘導してTRAIL誘導性アポトーシスを増強し、子宮内膜症治療に有用となる可能性が示された。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は子宮内膜症の進展機序に関連していることが知られる、子宮内膜症細胞のアポトーシス抵抗性を改善させ、子宮内膜症の新たな治療法を示すことを目的として、tunicamycinおよびTRAIL添加による子宮内膜症細胞のアポトーシス誘導を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1. 子宮内膜症組織においては正所性子宮内膜組織に比べTRAIL受容体であるDR5の発現が低下していることを示した。 子宮内膜症患者の腹腔内貯留液中にOPGが増加し、TRAIL/OPG比が減弱しているという以前の報告と合わせ、子宮内膜症患者においては子宮内膜症間質細胞におけるTRAIL誘導性アポトーシスがligandおよびreceptorの両面から減弱していることが明らかとなった。

2. 子宮内膜症間質細胞にツニカマイシンを添加すると、DR5 mRNAの発現が有意に増加した。そこで、ツニカマイシン前処置の後にTRAILを添加するとアポトーシスの有意な増加がみられた。2剤併用によるアポトーシス増加はDR5 siRNA導入により有意に抑制されたことよりDR5の発現誘導を介したものであることが示された。また、pan caspase inhibitor投与により同様にアポトーシス増加が有意に抑制されたことより、このapoptosisにcaspase経路が関与していることが示された。

3. 正所性子宮内膜間質細胞ではツニカマイシン添加によるDR5 mRNAの発現誘導は認めたがtunicamycinおよびTRAILの2剤併用によるアポトーシス増加はみられなかった。よってツニカマイシンによるTRAIL誘導性アポトーシスの増加は子宮内膜症間質細胞に特異的であることが示された。

4.子宮内膜症間質細胞での2剤併用によるアポトーシス増加に小胞体ストレス経路の一つであるIRE1-sXBP1系の関与を認めるか検討した。子宮内膜症間質細胞ではツニカマイシン添加によるsXBP1 mRNAの発現誘導を認め、IRE1-sXBP1系の活性化を認めた。次にIRE1 siRNAを導入した子宮内膜症間質細胞にツニカマイシン添加を施行したところ、sXBP1 mRNAの抑制を認めたがDR5 mRNAの抑制は認めなかった。以上より、2剤併用による子宮内膜症間質細胞におけるアポトーシス誘導にIRE1-sXBP1系の関与は低い可能性が示された。

5. ツニカマイシンとTRAILの2剤併用はホルモンに影響なく子宮内膜症のアポトーシスを誘導するものであり、子宮内膜症治療に有効である可能性が示された。今後ツニカマイシンの安全性につき生体モデルでの検討が必要と考えられた。

以上、本論文は子宮内膜症間質細胞において、tunicamycinおよびTRAILの2剤併用による新たなアポトーシス誘導の可能性を示した。本研究は子宮内膜症の新たな治療法開発に貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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